EP:18☆ギル様の熱と看病!
どれぐらいの時間が経っただろうか……
ペンの音が、やっととまった。
「……はぁ」
やる事が終わったのか、ギル様は静かに立ち上がるとまだ熱のせいでふらふらとしていた。
「ギ、ギル様っ!大丈夫ですかっ?!」
私はふらふらとするギル様に駆け寄ると、腕を掴んで体を支える。
触れる肌は、まだとても熱くて、熱がすごく高いのがわかる。
ギル様はそんな私を力なく見下ろす。
「悪いな…、大丈夫だ。俺は寝るからお前ももう寝ろ、部屋に戻れ」
ギル様は力なく腕を離すと、執務室から寝室のある自室へとふらふらしながら歩みを進める。
その姿が心配で私は、倒れたりしないだろうか?とひやひやしながらギル様の後ろをついて行った。
自室に着くと、いつまでもついてくる私に振り返ったギル様は大きなため息を吐いた。
「はぁ……お前なぁ……」
何を言われても私はついて行くもんねっ!無理をする人とわかった今は、しっかり休むまで怒られてもついていってやる!!
「俺は本当にもう寝るから、部屋に戻れ」
「ちゃんと寝たのを確認したら部屋に戻りますね。僕に戻って欲しかったらさっさと寝てくださいっ!」
私はギル様の言葉を無視して、ベッドの脇の椅子にどかっと座る。
そんな私をじっと見つめるギル様は、頑なな私の態度に諦めたようにため息を吐いた。
「はぁ……わかった。好きにしろ……」
追い払う気力もないのか諦めたギル様は、ベッドにゆっくりと体を沈める。
そして、相当疲れていたのか、熱で苦しそうに呼吸をしながらもあっという間に眠りについた。
「……相当、お疲れだったんですね」
結局心配だった私は、一睡もできずに夜通しギル様の看病を続けた。
気がつくと窓の外は太陽がのぼりはじめていて、朝を迎えていた。
その後も、心配で部屋に戻ることができずにずっと椅子に腰掛けていると
────コンコンッ
扉を叩く音と共に、アル様とお医者様が入ってきた。
私を見たアル様は、目を見開き私に駆け寄ってくる。
「リオ?!まだいたの?……まさか……ちゃんと寝た?!」
徹夜で看病をしていたなんて言ってしまったら、余計な心配をかけてしまう。
「え……えと……今さっき起きてお部屋に来たところですよっ!ちゃんと寝ましたよっ」
心配させないように、にこっと笑う私にアル様の綺麗な指がそっと私の目元を撫でる。
「……そっか」
そして、指を離すと優しく笑うアル様は、特に何も聞いてこなかった。
よかった……バレなかった……
と、私は密かに安堵した。
私たちの横で、お医者様は眠るギル様を丁寧に診察していた。
そして、暫くすると全ての診察が終わったのか私たちに声をかけてくる。
「日頃から多忙なようで、とても疲労が蓄積しておられますね。免疫が落ちてる時に雨に打たれて熱が出たのでしょう。
とても疲れているようだから、滋養にいいものと、一時は安静にさせるようにお願いします」
特に大きな病ではないと聞き、安心した。
お医者様にアル様とお礼を言うと、アル様は私に振り返る。
「じゃあ俺はお医者様を送ってくるね。リオは朝ごはんまだだろ?ちゃんと食べるんだよ」
「はい、ありがとうございますアル様」
お礼を言うとアル様とお医者様は、部屋を出ていった。
───そして、お昼になった頃、レイヴン公爵領の領民が「先日ギル様に助けられた」と、お礼のために屋敷へと挨拶に訪れた。
「ギル様は体調を崩しています」
と伝えると、その噂は領内であっという間に広がっていった。
するとその日から、ギル様を心配する領民の人々が屋敷を訪れては
「これを公爵様にお渡し下さい」
「早く元気になるようこちらを」
「これはとても滋養があるんですよ」
そう言って様々な贈り物が届けられる。
私はそんな光景を唖然と見つめていた。
やっぱり昨日感じたことは正しかった。
モラハラ男と全然違う……前世のあの人は、こんなに人から好かれるような人じゃなかった。
ギル様は、偉そうで口が悪くて意地悪で二重人格だし……いいのは顔だけだと思っていたのに……。
だけれど、こんなにも人々に愛されている。
そんな人が、モラハラ?
ありえないじゃん……。
私は昨日と今日の光景を見て確信した。
何も見ようとせずに、酷い勘違いをしていたことを心の中で謝る。
立ち尽くす私の元へ、バタバタと足音が聞こえてきて振り返ると、今日も元気なレオ様が駆け寄ってきた。
とっても嬉しそうにしていて「どうしたんですか?」と、尋ねると
いつもと違う表情をしたレオ様が、キラキラとした目で屋敷の光景を見つめながら私に自慢げに話しかけてきた。
「俺の兄上はすごいだろ?」
「ふふっ……、そうですね、本当に凄いです」
「だろ?俺も将来は兄上のようになりたいんだっ!困ってる人たちの話をちゃんと聞いて、誰にでも全力で手を差し伸べてあげれるようなそんな兄上みたいに俺もなりたいっ!」
横で笑うレオ様は、とてもいきいきとしていて、いつもよりすごく素敵な表情をしていた。
私はレオ様から、この公爵領に訪れている領民たちの様子に視線を戻し、改めてギル様のすごさを感じながら口を開く。
「……ギル様はみんなから凄く好かれているんですね」
「当たり前だろ?俺の兄上だぞ?」
そう言って自慢げにキラキラと笑うレオ様の笑顔とギル様を慕う領民たちの姿が、脳裏から離れなかった。
ここ数日で私は、いろんな光景を目にして自分の勘違いに酷く反省した。
そして、今までの謝罪の気持ちを込めて拳をぎゅっと握って決意する。
「ギル様っ!待っていてくださいねっ!!僕が絶対に元気にしてみせますっ!!」
そう誓った私は、数日間に渡って眠るギル様の横からひとときも離れることなく、必死に看病を続けたのだった。
元気になってください、ギル様。




