EP:17☆大雨とギル様の帰還!
リオside
あのあと、アル様とお屋敷に戻ったら、まだ私を必死に探し回ってるレオ様を発見。
「あっ!!レオ様、みーつけたっ!!」
笑ってぶんぶんと手を振ると、怒った顔をしたレオ様が、ずんずんとこっちに向かってきた。
「おい、リオっ!!どこ行ってたんだよっ!どんだけ探したと思ってんの!」
「えへへ……ごめんなさいっ!それよりもっ!ロキさんのお菓子食べましょう!僕もうお腹すいちゃって〜っ!」
ニコッと笑い、お腹のすいてる私はレオ様の手を掴むと、庭園のテーブルに向かって走る。
「おっおま…!人の話、聞けよっ!!!」
「きーてますよぉ!可愛いレオ様は僕のことを探してくれてたんですよね?本当にありがとうございますっ!」
走りながら振り返って笑顔を向けると、レオ様はほんのり耳を赤くして文句を言いつつもちゃんとついてきてくれた。
席につき、バスケットを開けるとロキさんの作ってくれたマフィンが並んでいて、とっても美味しそうな匂いが鼻をかすめる。
なんて美味しそうな匂いなのぉ〜っ!!
「美味しそう!!いただきまぁぁーすっ!!」
「はぁ……なんかお前に怒ってんのバカらしくなってきた……」
遅れて後ろから涼しい顔でついてきたアル様が、レオ様の肩にぽんっと手を置いた。
「リオには何言っても無駄だよ、レオ」
「はぁ……。だな」
アル様は私を見て、いつもより楽しそうに笑っていた。
みんなで楽しくおやつを食べていたら、急に雲行きが怪しくなり、雨がぽつぽつと降ってきた。
「やばい!降ってきた!」
とレオ様の声に、私たちは慌ててお屋敷の中へと避難した。
夜になるとあんなに晴れていたお昼と違って、雨はどんどん激しさを増し土砂降りになっていく。
そんな中、玄関の方から急にバタバタと慌ただしい音が聞こえてきて、気になった私は様子を見に行くと
そこには久しぶりに見るギル様の姿があった。
だけれど、髪の毛や服までびっしょりと濡れているギル様は、仕事のせいかお顔も酷く疲れているようだった。
「わっ…た、大変っ!ギル様!大丈夫ですか!?タオルお持ちします!!」
私は急いでタオルを取りに行くと、再びギル様のもとへ駆け寄った。
「お持ちしましたよ!本当に大丈夫ですか?!」
「……ハァ……悪い」
心配で顔を覗き込むと、目にうつるギル様の顔色はとても酷かった。
すると綺麗な顔が近づいてきたかと思うと、私の肩に頭を預けるギル様。
「あ……あのっ」
慌てる私の耳元で「ハァ…」と色気のある息が耳元にかかりビクッとなる私に、だんだんもたれ掛かかってくるギル様。
ど……どういうこと?!こ、これはどうしたらいいの?!
この状況がよくわからなくて、あたふたしていると次の瞬間……
体の力が抜けたギル様が、ものすごい重さで上から覆いかぶさってきた。
「ちょっ……え?!ギル様?!うげっ……し、しぬぅぅぅ!!」
その瞬間、支えきれない男の人の体の重さに押しつぶされながら、触れた肌が酷く熱を持っていることに気づく。
まって……この人、信じられないぐらい熱い!!
どうしよう?!誰かいない?!お、重すぎて……動けないっ
「だれかぁあっ!だれかいませんかっ!!」
私の声を聞きつけたのか、アル様が遠くの方で、キョロキョロと周りを見渡し私と目が合うと目を見開く。
「 リオ!大丈夫かい!?」
ただ事じゃないと気づいたアル様が、廊下の奥からすごい勢いで駆けつけてくれた。
私はギル様の下で、必死にアル様を見上げる。
「アル様!ギル様、すごく体が熱くて!熱があるみたなんですっ!お、重くて……部屋に運んでもらえますか!?」
「わかった、俺が運ぶから」
アル様はそう言うと、私の上に覆いかぶさりぐったりとしたギル様の身体を、軽々と抱え上げた。
流石、騎士様だ……。
感心しながらアル様の後ろをついて行くと、アル様は慣れたように部屋に入り、手際よく着替えをさせて布団をかけた。
そして、私に振り返ると
「明日の朝医者を呼ぶように伝えてくるよ、リオはまだここにいる?」
「…はい…。僕一応専属執事ですし……やっぱり倒れるなんて心配なのでここに残ります」
「ふふっ…ギルが羨ましいなぁ。リオ?無理はしないようにね」
アル様は不思議なことを言うと部屋を去っていった。
ベッドの脇に椅子を持ってきて座ると、静かになった部屋でベッドで眠るギル様の顔をじっと見つめる。
「大丈夫かなぁ……」
いつも偉そうな顔でサラッとなんでもこなして、自信に溢れるギル様しか知らないからなんだか顔色の悪いギル様が心配で胸が締め付けられた…。
苦しそうなギル様のおでこのタオルを何度も変えながら過ごした。
どれぐらいの時間が経ったかはわからないけれど……、ギル様の眉が微かに動くと、ゆっくりと目が開いた。
ギル様の綺麗な青い瞳とぱちっと目が合う。
「…リオ…なんでここにいる?」
えー…、一言目がそれ?と思いながらも私は、まだ顔色の良くないギル様に答える。
「そんなの心配だからに決まってるじゃないですか。ギル様、熱で倒れたんですよ?」
「…そうか…、悪いな迷惑かけた」
ギル様は自分の額に手を当てると、ゆっくりと起き上がる。
「ギル様っ、まだ寝てた方がっ」
慌てる私に視線をうつすととんでもないことを言い出す。
「悪かったな……仕事がまだ残っているから、お前はもう部屋に戻れ」
この人、この状況で仕事?!
「はいっ?!何言ってるんですか!!倒れたって言いましたよね?!」
おかしなことを言ってベッドから立ち上がるギル様を必死に止める。
けれど、私の言うことなんて全然聞いてくれないギル様は、ふらふらしたまま執務室へ向おうとする。
ほんっと!!何考えてんのよこの人っ!!
行かせまいと、両手を広げて必死に通せんぼうをする。
「絶対行っちゃダメです!お願いですからゆっくりしてて下さいっ!!明日の朝お医者様が来ますからっ!!」
「はぁ……、そこをどけ、やらなければならない事がある」
「体調戻してからじゃダメなんですか?!」
そんな私の必死な訴えも通せんぼうも意味なんてなくて、通せんぼうする私の手を優しく掴むと退かす。
彼の手はまだかなり熱を持っていて、熱が高いことがわかる。
けれどギル様は、静かに呟いた。
「何のために数日も視察に出かけてたと思う?俺が止まれば、領内の人間が困るだろう」
そう言ってふらふらしながら部屋を出て行くギル様に何も言えなかった。
私はギル様の言葉が、衝撃すぎて彼の居なくなった部屋で一人立ち尽くした。
……えっ……ギル様……、だよね?
モラハラ男と付き合ってた私は知っている。人のために自分を犠牲にして頑張ることは、そんなに簡単なことじゃないって。
ギル様って本当は……いい人なんじゃ……
ギル様が公爵である理由が、さっきの一言にすべて詰まっているような気がした。
私……なにか……勘違いをしている?
そんな考えが頭の中をよぎった私は、ちゃんとこの目で見ないといけない気がした。
ちゃんと見て確かめたいっ。ギル様って、本当はどんな人なの?
今思えばこの世界で相手のことをちゃんと知ろうと思ったのは、初めてかもしれない。
そして、ギル様を追いかけて私も執務室に向かった。
執務室に入ると、机で汗を拭いながらペンを握るギル様がいた。
その姿を見て思う。
体調の悪い中、人のためにこんなに頑張れる人なかなかいないよ……。
私はギル様に近寄ると、邪魔にならないようにただただ静かに隣に立った。
そんな私を不思議そうに見るギル様。
「どうした?部屋に戻らないのか?」
「えと……心配なので、終わるまでここで待ってますね」
「ふっ……意外に頑固なんだな?」
ギル様は小さく笑うと、私を追い返そうとはしなかった。
静かな部屋でギル様のペンを動かす音だけが響いていた。
この感じ……なんか悪くないかも。
そう思いながら、真剣な顔で書類を見つめるギル様の横顔をじっと見つめる。
忙しい人なのは知ってたけど、なんやかんや仕事をしている姿は、初めて見た。
こんなに綺麗な顔をして見た目だけだと思っていたのに……、ギル様って責任感があってみんなのことを、とても大切に思っている人だったんですね。
静かな空間で私は、そんな風に思った。
その日ゆっくり静かにすぎていく二人きりの夜は、私の価値観が少しだけ変わった日になった。




