EP:16☆アル様との秘密!
アルside
今俺は、目の前で起きている事が、夢かなにかなんじゃないかと……受け入れるのに時間がかかっている。
滝壺へ真っ逆さまに落ちていったリオの後を慌てて追いかけたまではよかった…。
川から引っ張りあげて立たせたリオの胸元には、有り得ないものがあった……。
えっと……これはどういうこと?
俺はわけがわからないまま、ただただ胸元を見つめて、立ち尽くしていた。
驚く頭の中で俺は先日の花畑で、一緒にミートパイを食べたあの日のことを思い出す。
俺に向けてくれた笑顔が、ドキッとするほど可愛いらしくて女の子に見えた瞬間があった。
あのときから、もしかしたらとは思っていた。
そして今、確信に変わる。
リオの肌にぴたりと張り付いているシャツの下では、完全に透けてしまっているサラシ。
それだけならまだよかった。
だけれど、そのサラシの下には、残念ながら誤魔化しようがない柔らかそうな膨らみがある。
それは、どう見ても女性の身体のあれだ。
そんな俺の視線に気づいたリオは、自分の胸元へと視線を落とすと、顔をみるみる真っ赤にさせた。
「あっ……あの……!!こ、これは……えと……えと……っ!!」
あたふたしながら、リオは頭の上にあった両手を胸元を隠すように移動させる。
胸を隠すために頭から両手を離した瞬間。
次は、リオの頭からなにやら茶色の物体がするっと落ちていった。
俺はさらに目を見開き驚くことになった。
淡く綺麗なピンク色の長い髪が、リオの頭の上から、はらはらと落ちていく。
その綺麗な髪は、いつもの茶色の髪なんかよりずっと彼女に似合っていると思った。
恥ずかしさのせいか、男装してる時には見たことの無い表情を浮かべている彼女は、男を誘うような可愛いらしすぎる姿をしていて、俺の胸がドキドキして仕方がない。
これは……やばくないか?
頬を真っ赤に染めて、空色の瞳はうるうるとしている。
本当にこの子がさっきまでの、あのリオなのだろうか?と思うほどだった。
元々可愛いらしい見た目はしていたけれど、ここまでだとは思わなかった。
見れば見るほど可愛いらしい目の前の彼女は、男でないのは確実だった。
「君は……、女の子だったんだね?」
「……っ」
黙り込む彼女に静かに問いかけたその時
タイミング悪く上の方からおやつを取りにいっていたレオの声が聞こえてきた。
「おーい!アルー!リオー!どこだよー!」
はぁー…、流石に子供のレオには彼女のこの姿を見せるわけにはいかないね。
俺はすぐに彼女の近くによると、耳元に顔を寄せ小さな声で囁く。
「……静かにしててね」
彼女の華奢な身体をぐっと抱き寄せる。
レオから見えないように腕でぎゅっと俺の胸の中へ包み込むと、小さな彼女を隠した。
「おーい!レオー!リオならレオを追いかけて屋敷に戻ったから探してきてくれないかー!」
レオに向かって大声で嘘を叫ぶと、上からは
「はー?リオのやつ本当バカなの?!ほんとどこいきやがった!」
怒ったレオの文句が聞こえると、再び走り去っていく足音が聞こえてほっとした。
レオの気配が消えたのを確かめると、俺は腕の中の彼女をそっと離した。
「とりあえずその格好は、目のやり場に困るね……。それに、レオがまた来たらまずいからこれ着て」
俺は自分が着ていた黒のシャツを脱ぎ捨てた。
俺のシャツも濡れているけれど、その白いシャツよりはマシだろう。
上裸になった俺は、恥ずかしそうにしている彼女に近寄り、頭の上に俺のでかすぎる黒シャツを被せると、すぽっと上から着せてやった。
彼女にはかなり大きくてゆったりしてたお陰で胸元がちゃんと隠れたようで安心した。
「……よし、よさそうだね。とりあえずこっちにおいで」
「えと、あの……ありがとうございます……アル様」
お礼を言う彼女の手を優しく引っ張る。
彼女を気遣うようにエスコートして、川から引き上げると岩場へ誘導した。
シャツと彼女のカツラが乾くように太陽の光が当たる岩場を選び二人並んで腰を下ろす。
チラッと彼女を見ると、少し落ち込んでいるのか、いつものリオの姿からは想像できないほど儚げだ。
彼女をじっと観察していると俺はあることに気がついた。
はぁ……できるならば、気づきたくなかったなぁ。そーゆーことね……、なるほど……。
今までリオを怪しい奴だと思っていたけれど、これは誤解だったみたいだ。
目の前の彼女を見て、すっと謎が解けていく。
リオに感じていた疑いや違和感は、やっと綺麗に吹き飛んだ。
けれど、スッキリする気持ちと裏腹に少しの虚しさが混じりあう。
そんな気持ちを消し去るように、いつも通りの笑みを浮かべると、彼女の綺麗な空色の瞳を覗き込んだ。
「……で……君は、なんでこんなところにいるのかな?ロゼッタ侯爵家のリリィ嬢」
「な……なんで、私の名前を……っ!?」
可愛いらしく目をぱちくりと見開く彼女に、俺はくすくすと笑う。
「ふっ…やっぱり、当たりだね?
……そりゃあ、あんだけ大規模な捜索をされてればね。会ったことは無かったけれど、写真で顔を知っていたよ。俺はこう見えて、ギルの側近騎士だからね」
「……うぅ……ですよね…っ」
彼女は涙目でションボリとさらに落ち込んでしまった。
だけどもそんな姿も、可愛いらしくて、ふっと笑ってしまう。
「君は噂通り本当に可愛いらしいんだね?お人形みたいな子だと聞いてたよ」
俺は可愛いらしい彼女の、濡れてしっとりと輝くピンクの長い髪を、すっと指先で掬い取った。
「…うぅ…別に嬉しくないです……」
「ふふっ…やっぱり君は変わってるね?普通の令嬢なら喜ぶんじゃないの?」
「…まぁ…そうですね……」
俺は彼女の綺麗な髪の毛を指先に絡めてくるくると遊びながら話を続ける。
「そうそう……、あともう一つの噂も当たりだ。
はちゃめちゃで規格外なお嬢様だって聞いてたけど、そんな令嬢見たことないから、この目で見るまでは半信半疑だったんだけど本当だったみたいだね……ふふっ。
ギルが惚れるのも、わかるよ」
ギルの名前を出した瞬間、みるみる顔が青くなり慌てる彼女。
「アル様っ!…お…お願いです!ギル様には秘密にしてくれませんか……っ?!
私、ギル様が嫌いとかそういうのじゃなくて……ただ結婚をしたくないんです……っ!」
シャツをぎゅっと握りしめた彼女は、今にも泣きだしてしまいそうな顔で、必死に俺にお願いをしてきた。
「……うーん、そうだねぇ……」
俺はうーんと彼女の髪の毛をいじりながら、少しだけ考える。
改めて考えると、俺の頭に浮かぶのは、やっぱりあの日俺だけに向けてくれた花が咲いたような笑顔で笑うリオだった。
あの日、レオと楽しそうに無邪気に笑う彼女が眩しいほどにキラキラと輝いていたのを思い出す。
あの笑顔を、いつまでも曇らせたくない、守りたいと思った。
そう思ってしまった自分にびっくりする。
個人的にだけど、そうだね……ギルにはバレたくないなぁ。
だってさ、こんなに可愛いらしい彼女を独り占めにするなんてずるいと思わない?
ギルの元から逃げ出してここにいるってことは、それってつまり、俺にもまだチャンスがあるってことだよね?
あの笑顔は、俺のものにしたい。
俺の中に、静かに独占欲が生まれた……。
彼女の綺麗な髪の毛からそっと手を離すと、考えがまとまった俺は彼女の潤んだ瞳を見つめてにっこりと笑う。
「いいよ。黙っててあげる」
「……っ!!よ、よかったぁぁあー!ありがとうございます!!アル様……っ!!」
俺がそう告げた瞬間、明るくぱぁぁっと顔を輝かせる。
そして嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
やっぱり彼女にはこの笑顔が似合う。
緊張感がなくなった彼女は、元気よく立ち上がると後ろで手を組み俺の方を振り返る。
そして、大きな黒シャツと淡いピンクの長い髪の毛をふんわりと揺らしながら、いつも通りの明るくキラキラとした顔で笑う。
「なんだか、安心したらお腹すいちゃいましたねっ!早くお屋敷に戻りましょうっ!
ロキさんの作るおやつ、絶対おいしいと思いませんか!?」
ついさっきまで儚げに落ち込んでた彼女のこの切り替えの早さにくすっと笑える。
でも俺は彼女のそんな所が、人として好きだなって思うよ。
どこまでも脳天気で、その笑顔は相変わらずまっすぐでキラキラとしていて、俺の目はまた彼女から離せなくなるんだ。
本当に信じられないほど可愛いらしい女の子だよね、勘弁して欲しいぐらいだよ。
向けられたその笑顔の破壊力に、俺の胸は今までで一番大きな音をたてる。
女の子なんてみんな同じで、つまらない物だと思っていたのに、彼女の笑顔や行動で簡単に揺さぶられるなんてね。
本当、騎士としてだめだなぁ…やばいよね。
ギルはずるいよ。俺が、先に出会って君を見つけれたらよかったのにね。
ギルの婚約者がこんなにも可愛いなんて聞いてないよ。一人の女に熱を上げておかしくなったのかと思ってたけれど、そりゃあこんだけ魅力的な子なら分かるなぁ。
こんなに面白くて可愛いらしい子、俺は見たことないよ。それは、ギルも同じなんだろうけど……。
そして、太陽おかげで、地面に干してた茶色のカツラと彼女のシャツは、あっという間に乾いてくれた。
「ほら、髪をまとめるよ。レオが戻ってくる前にやっちゃうよ」
「はーーい!お願いします!」
すっかり元気な顔で笑う彼女は、純粋な笑顔で俺の前にこてんっと座ると、頭を預けて鼻歌なんか歌ってしまっている。
なんていうか……警戒心も何も無くて危ない子だなぁ。俺男なんだけどな?
なんて思いながら、信用されているようで嬉しい気持ちになりつつ、綺麗な長い髪を綺麗に整えてあげると、茶色のカツラの中に押し込んでやった。
いつも通りの男装執事リオの出来上がりだ。
リオから返ってきたシャツを俺も着ると、二人で屋敷に向かって歩みを進める。
「それじゃあ、レオを探しに行こうか」
「レオ様怒ってそうですよねぇ、また怒られちゃうなぁ〜」
いつもの様に満面の笑みを浮かべるリオと、二人屋敷への道を帰るのだった。




