EP:15☆水遊びで大パニック!
──ギル様が公務で屋敷を空けてから、数日が経った。
今日は太陽がジリジリと照りつけ、お屋敷の中はどこにいても信じられないほどに暑い。
「あ、あつい……。あついよぉ……」
執事服の下のサラシと頭の上にあるカツラのせいでさらに暑い私は、部屋のベッドの上でぐったりとしていた。
今すぐ脱ぎ捨ててしまいたいけれど、お昼は最近レオ様もアル様も私の部屋にやたらと遊びに来る。
夜以外はこの格好で過ごさないといけなくて、暑さで頭がどうにかなりそうなんだけど……。
くたばっている私の部屋に今日も元気な足音が聞こえてくるとレオ様が突撃してきた。
「おーい、リオ。いい場所があるぜっ!」
「レオ様……暑いです……」
「だから、いい場所に連れてってやるって言ってるだろ。近くにすごく綺麗な川があるんだよ。一緒に行かないか?」
「川遊び!?早く言ってくださいよぉ〜!!絶対行きますっっ!!」
現金な私はとても魅力的な話に、屍のようになっていたのが嘘のようにウキウキと飛び起きた。
冷たいお水に飛び込めれば、この暑さも一気に吹き飛ぶはず!!!はぁぁ!楽しみぃ!!!
そうと決まれば……準備よっ!!!
「おや、楽しそうな計画だね。俺も一緒に行くよ」
「……げっ」
いつから話を聞いていたのか、空いた部屋の扉からニコリと笑顔を浮かべたアル様が現れた。
最近よく私の目の前にあらわれるアル様は、「同じ釜の飯を食べれば仲良し作戦」の、すざましい効果で怖い顔もしなくなったし、仲良くなったと思うけれど……
それでも今日はアル様がいたら、水遊びの場は女バレのリスクが高くなるかもしれないから思いっきりは遊べなくなる……。
仕方がない……アル様が来るなら、馬鹿みたいに興奮しないようにしなくちゃね。
そう心に誓った私は、三人で屋敷の近くの川へと向かった。
そして案内された場所は、涼しくて自然パワーが溢れていて、とても美しかった。
木々の隙間から差し込む光が、水面を照らしてキラキラとしていた。
奥の方には綺麗な滝まであって、もう言うことなしってぐらい素敵な場所。
「わぁぁぁ!!凄く綺麗っっ!!」
あっという間にテンションが上がってしまった私は、走り出してしまいそうになる。
おっとっと……あぶないあぶない。
本当は思いっきりザブーン!!と水に浸かって泳ぎたい。
けれど、服が濡れたら胸のサラシが透けて一発で終わってしまう。ここは、慎重に動かなければならない!
「僕は、足だけ入れて遊んでますね〜!」
「じゃあ、俺もーっ!」
私とレオ様はひんやりとした川の中に足だけを入れて、レオ様と一緒にバシャバシャと水を掛け合って大はしゃぎした。
アル様はそんな私たちの姿を、少し離れた岩場に腰掛けると、優しく見守っている。
しばらく遊んでいると、レオ様が「あ」と声を上げた。
「どーしたんですか?」
「ロキに頼んでたおやつを食堂に忘れた。ちょっと待ってろ、すぐ取ってくる!」
「えっ、あ、レオ様!?」
レオ様は、私の返事を聞く前にあっという間に、屋敷の方へと全速力で走っていってしまった。
残されたのは、私と岩場で微笑んでいるアル様の二人だけ。
一緒に遊んでくれるようなタイプではないアル様を横目に、仕方なく一人になった私は、一人で川の中に入っていくと深くない範囲を歩き回る。
ふぁ〜っ!冷たくて最高!!気持ちいい!!!
一人になってあちこちバシャバシャと歩き回っていると、楽しくなってきた私は滝の近くの岩場へとピョンピョンと跳ねながら移動した。
「アル様ー!滝の近く、すっごく涼しいですよー!」
「こらリオ、あんまり調子に乗ってると滑るよ?」
「大丈夫ですよーう!僕、運動神経はいい方ですか…………うぎゃっ!?わわわわ!!はわっ!!!」
もちろん、フラグは見事に回収された。
濡れた岩で足を滑らせ、私の身体はバランスを崩した。
そのまま、滝の真下の滝壺に向かって真っ逆さまに落ちていく。
きゃあーっ!久々の浮遊感最高っ!!!
と呑気なことを考えていたけど、落ちていく中あることを思い出した。
待って!!レオ様にバレたきっかけはカツラ!!アル様の前でカツラが外れたら完全に終わる!!カツラを死守しなきゃっ!!
とにかくカツラだけは、守る!!と意気込むと、私は必死に両手で頭のカツラをぎゅっと抑え込みながら、滝の下へと落ちていった。
「──あのバカっっ!!!!」
上の方から、アル様の今までに聞いたことがないほど焦った声が響いた。
まぁ……そうだよね、普通の人が落ちたらそりゃあ心配するよね……。
まぁ私はどおってことないんだけどね?
アル様の声を聞きながらカツラをしっかり掴んだ私は、怖いもの無し状態で、呑気に落下していった。
そして、アル様は私の後を追いかけるように、迷わず上から飛び込む姿が最後に目に入った。
───ザブーーーーンッッ!!!!!
凄まじい水音と共に、私たちは冷たい川の中へと沈み、すぐに水面に顔を出した。
「ぷはっっ!!ゲホッ、ゲホッ……!」
「リオ!!大丈夫かいっ!?どこも痛くないかいっ!?」
アル様も水面から顔を出すと慌てた様子で近寄ってきて、私の腕を掴むとぐいっと立たせてくれた。
「…はぁ……危ない危ない……水を少し飲んじゃって、びっくりしました……えへへっ…」
頭を両手で押さえたまま、私はヘラヘラと笑みを浮かべた。
ふぅ……カツラは無事だったし完璧っ!
カツラを押さえながら顔をあげると、アル様の顔からは、普段の笑みが消え去っていた。
……どうしたの……かな?
アル様の目は見開きなぜか固まっている。
なぜだか、アル様はすごく驚いた顔をして私の胸元を見ているようだった。
「…………え?」
嫌な予感がして、私は自分の胸元へと視線を落とす。
ひぃっ!?こ、これは……や……やばい…………っ
大量の水を吸って、肌にぴたりと張り付いた真っ白なシャツ。
その下で、水を吸って完全に透けてしまっているサラシ。サラシの下で不自然に膨らんでいるのが丸わかりの私の身体。
「あっ……あの……!!こ、これは……っ!!」
私はやばいやばい!と慌てて、透けた胸元を頭の上にあった両手で隠した。
そして少しでも胸元を隠すように、ざぶんっ!と川の中に勢いよく身体を沈めた。
けれど…………、胸を隠すために頭から両手を離してしまった私は、更に自分に追い討ちを掛けることになった……。
──チャポンッ
水分を含んで重たくなった茶色のカツラが、私の頭からあっけなく川に落ちる音だった。
その瞬間、頭がとても軽くなった……。
ひえぇええぇ!!う、嘘だよね?!?!
嫌な音のする方に視線をうつすと、川の水面にぷかぷかと、哀れに浮かび上がっているカツラ。
カツラの下から現れたのは、水に濡れて輝く、私の自慢のピンクの髪。
はらはらと胸元に落ちてくる髪の毛たち。
ぷかぷかと目の前を流れていくカツラと、ピンクの長い髪を晒した私を見て、アル様は完全に言葉を失って固まっていた。
あぁ……終わった……。




