EP:14☆アル様とピクニック大作戦!
アルside
ギルが屋敷を数日あける今日、側近騎士として着いて行く予定だったが……「リオを頼む」とわけのわからない理由で俺は今日は屋敷に残る。
あんな子の為に何を考えているんだろうか……ギルもレオも甘すぎないか?
ギル自信剣の腕も一流だから自分の身は自分で守れるだろう……だけれど、何度考えても腑に落ちない。
一人廊下を歩いていると、後方からバタバタと騒がしい足音が聞こえてくる。
すると……予想もしなかったことが起きた。
「アル様、見ーつけたっ!!!」
「……は?」
「いいからいいからっ!ちょっとついてきてください!」
背後から突如降ってきた脳天気な声に、俺は一瞬耳を疑った。
振り返る間もなく、俺の右手を小さな手がぎゅっと掴みぐいぐいと引っ張る。
「は……?ちょ、おい、リオ……っ!?」
あまりの奇想天外な展開に、俺の笑顔が流石にこの時ばかりは素で崩れた。
俺の手を引きながら、目の前で笑うリオを見ながら昨日のことを思い出す。
俺は昨日、リオの部屋の壁に剣を振り下ろし「殺すからね」と釘をさした気がするんだけど……。
あんなに震えて腰を抜かしてた癖に……なんなの?
普通は怯えて近寄らないよね……、なのに今日も明るく満面の笑みを俺に向けて、真正面から突撃してくるなんて……
……この子は一体どんな神経をしているんだろうか?
俺の手を楽しそうに引っ張る姿に、呆れを通り越してしまった俺は完全にこの子の規格外なペースに呑まれた。
そして連れてこられたのは、俺がレオとリオを見つけて説教をした花畑。
手をぐいぐいと引っ張られたレオと俺は近くの芝生に座る。
何が始まるのかと見つめていれば
「さぁっ!アル様、これ僕が作ったんですよ!料理長のロキさんに手伝ってもらって、すっごく美味しくできたんです。温かいうちに食べてください!」
…………意味がわからない。
リオはバスケットを置くと、自信満々にキラキラの笑顔で俺の好きなミートパイを俺に差し出してきた。
俺は目を細め、少し混乱しながら差し出されたそれを疑わしげに見つめる。
「……君が作ったの?毒でも仕込んであるんじゃないだろうね?」
俺はリオを見ると優しい口調のまま、笑顔で警戒をする。
だけれど、その隣で
「アルっ!こいつの言うことは癪だけど、これ本当に美味いぞ」
と、すでに美味しそうにミートパイを頬張っているレオがいた。
……毒は…ないか……。
「はぁ……レオも甘いね本当に……」
俺は差し出された目の前のミートパイに視線をうつす。
あの好き嫌いの多いレオが美味いと言うなら、味は確かなのだろう……。
俺は観念して小さくため息をつくと、大好物であるミートパイをそっと口に運んだ。
パイのサクッとした音が響くと、口の中にはじゅわっとジューシーな肉の旨味が広がっていく。
「…………っ」
俺はハッとして目を見開いた。驚きのあまり、ぽつりと声が漏れる。
「……うまい……」
「わぁぁぁい!やったぁぁ!!大成功っ!!アル様、美味しいですか!?よかったぁ!!」
俺がうまいと言った瞬間、リオは目の前でやったぁ!と飛び跳ねる。
そして、嬉しそうにキラキラとした満面の笑みを溢す。
「……君ねぇ……はぁ……」
昨日あんなに脅したというのに、どうして君はそんなに嬉しそうに笑えるんだい?
呆れ混じりにリオを見つめると、俺の視線は、リオの両手でピタリと止まった。
昨日までは男とは思えぬほど綺麗だったリオの指先には、絆創膏があちこちに何枚も貼られていた。
不思議に思った俺は、小さいその手をよく観察すると小さい切り傷や火傷の痕がある。
……まさかね……?
「……その傷だらけの手は、どうしたんだい?」
俺はいつもの笑顔を消しリオに問いかけた。
「えへへ……慣れないことしちゃったので、ちょっと怪我しちゃいました。でも、アル様に美味しく食べてもらえたので全然平気ですっ!」
目の前でヘラりと能天気に笑うリオ。
「は……?」
俺の予想は的中した。
目の前で笑うリオを見ながら、意味がわからなかった。
俺のためになぜ……?昨日剣を向けられたのを、この子は忘れたの?そんなわけないよね?
回し者だと疑っていたはずの俺の心が……勘違いなんじゃないか?と
目の前のおかしな生き物、リオに流されそうになる。
そんな俺の動揺を知ってか知らずか、リオはさらに追い打ちをかけるように距離を詰めて無邪気な可愛い顔で笑った。
「同じ釜の飯を食べたら、もう仲良しなんですよっ!昔そう教えてもらったんですっ!
だから、僕とアル様はもう仲良しですねっ!」
「……っ……」
目の前で屈折なく満面の笑顔で笑うリオが、一瞬……あまりにも可愛いらしくて女に見えてしまった。
俺に向けて、花が咲くように笑う顔と言葉に、胸の奥がドキンと大きく高鳴った。
……は?女?……いやいや…男…だよね…?
女を知ってるはずの俺が、こんな男の笑顔に本気で毒気を抜かれかけているなんて……こんなことある?
回し者と疑っていたけど、俺の心の中には違う疑念が生まれてしまった。
俺の動揺なんて知らない、目の前の脳天気なリオは
「ほら、レオ様ももっと食べてください!」
と、残りのミートパイを無理やりレオの口に押し付けると、怒ったレオに
「おま……いつも…いつも……!!待てこのクソひょろ男!」
と追いかけ回されていた。
「あはははっ!レオ様こっちですよーっ!!!」
と、楽しそうにレオと走り回ったあと芝生の上にごろんと転がり、レオと楽しそうに冗談を言い合って無邪気に笑っているリオの姿。
女の子がこんな行動をするだろうか……
俺の知ってる女っていうのは慎ましくて大人しく、腹の内が分からない笑顔を上品に浮かべる、そんな女しか知らない。
はぁー……、もっと謎が深まったな……。
俺は無邪気なリオの姿を少し離れた場所からじっと見つめる。
どこまでも真っ直ぐで裏表のない姿。
明るいリオを見ていると自然と心の棘が溶けていくのが分かる。
こんなにも一瞬でみんなを手懐けてしまう君はすごいよ、本当に。
ギルやレオがあの子を気に入る理由がなんか分かった気がするなぁ……。
そして、回し者の線が消えたと思えば、またひとつの疑念……。
俺は、二人の楽しそうな笑い声を聞きながら、ため息をひとつ吐くと綺麗な空を見つめる。
「……はぁ」
君がもし女の子だと言うのなら、一体何のためにここにいるんだい?
何度考えても見つからない答えに
楽しそうに笑うリオの姿を見つめていると、自分でも驚く程、諦めたような笑みがこぼれていた。
……まぁ…リオの正体がどうであれ…この子になら騙されてもいいかな……ってね。
側近騎士らしくない、そんなことを本気で思ってしまっている自分に、俺は静かに苦笑いするのだった。
そして俺は思った。
これからは監視ではなくて、君の事を隣で見守ることにしよう。




