EP:10☆レオ様と二人の秘密!
レオ様は、見た事がないほどの驚いた顔をして私を指差していた。
風でふんわりと広がる淡いピンクの長い髪の毛。
やばい……っ!どう言い訳をしても男って言い張るには無理があるよね……?!
「えへへ……えっと、えーと……これはですね、レオ様……」
私が引きつった笑顔で言い訳を探していた、その時だった。
「レオ様ー!リオ殿ー!どこにいらっしゃるのですかー!!」
遠くから、先ほど食堂にレオ様を迎えに来た年配の執事様が、使用人たちを引き連れて私たちを探す声が響いてきた。
「うぅ……や、やばいっ!見つかったら終わっちゃう……っ!」
カツラを被っていないこの姿で使用人たちに見つかれば……男装のことバレちゃうっ!やっと掴んだ私の楽園……っ
きっとこのまま私は、ギル様に通報されてモラハラ婚約ルートに逆戻りしちゃうんだ……。
私は見つかったあとのことを考えて頭を抱えて顔を青くしていると……
突然小さな力強い手が私の手首をギュッと掴んだ。
「リオ……こっちだ!ついてこい!」
「えっ、レオ様……っ!?」
驚く私をレオ様は気にせずに、私の手を引いて全力で走り出した。
どこに行くのか分からないけれど、見つかりたくない私は必死にその小さな背中について行った。
そして、走り続けた先はお屋敷の裏手側だった。
小さな物置小屋の中へ入ると、私を引っ張り込んでくれた。
「はぁ、はぁ……っ。ここまで来れば……あいつらには見つからないだろう…はぁ…」
息を切らしながら周囲を警戒するレオ様。
私を助けてくれた目の前にいる小さな王子様に、私は胸の奥から感動と嬉さが一気に込み上げてくると、大爆発した。
「レオ様ぁぁああっ!!助けてくれてありがとうございますー!嬉しいぃぃいいっ!!」
「わっ!?ちょ、お前っ、離せっ、バカっ!!」
嬉しさのあまり理性が消し飛んだ私は、女の姿だと言うことをすっかりと忘れて
昨日と同じようにレオ様に思いっきり、ぎゅうううーーっと抱きついた。
「だ、男!じゃ、なくてっ!!お前、女だろ……っ!!な、なな、何考えてるんだ……っ!!」
レオ様は昨日以上に顔を真っ赤にさせていて、湯気が出ちゃうじゃないかってほど大慌てで私を突き放した。
突き放されてしまったけれど、レオ様が助けてくれた嬉しさで私は満面の笑みを浮かべる。
「助けてくれて、本当に本当にありがとうございますっ!すごく!すごく!嬉しいですっ」
「……べつに……っ
…それより…お前さ……どこかで見たことある気がするんだけど……」
視線を逸らしてたレオ様は、視線を私に向けると私の顔をじっと見つめる。
誤魔化せる気がしない私は視線を泳がせながらえへへ…と気まずく笑う。
「実は……私ギル様の婚約者のリリィです……。
ギル様から逃げたつもりだったんですけど……ちょっとした手違いで……まさかの本陣であるこのお屋敷に自ら突撃してしまいました……えへへ」
私の正体を知ったレオ様は信じられないものを見るような目で、私を見ると驚きで口が開いている。
「あ、兄上の婚約者……!?じゃあ、お前が噂の空から降ってきた侯爵令嬢なのか!?」
……空からってわけではないけれど……そう言われてるんだ……あはは……。
「えと…たぶん…、まぁ、私の事ですかね……あははっ。
……レオ様っ!ギル様には絶対に黙っててくれませんかっ?!バレたら私、捕まっちゃうんです!!お願いしますっ!!」
私は両手を合わせて、瞳を潤ませながら全力でレオ様を見つめてお願いをする。
レオ様は顔を真っ赤にさせると顔を背け、口元を手で覆いながら悶えるように呟く。
「……っ、わ、わかったよっ!!黙ってればいいんだろ、黙ってれば!!」
「わぁぁい!よかったぁ〜っ、ありがとうございますっ!レオ様大好きですっ!」
「だ、大好きとか簡単に言うなっ!!」
こうして、顔を真っ赤にさせながら照れる可愛いレオ様と私の二人だけの秘密ができたのだった。
☆.*˚
レオside
俺の目の前には、兄上の婚約者であるリリィ嬢がいる。
噂では色々と聞いていたけれど、本当にはちゃめちゃな変な女だった。
だけれど、その綺麗な淡いピンクの髪の毛と、空色の瞳で笑う姿は
誰がどう見ても悔しいけれど……可愛いかった……。
リオの癖に……。
「……とりあえず、カツラ被れよ」
俺がぶっきらぼうにそう伝えると、彼女はハッとして自分の頭を触った。
「えへへっ、忘れるところだったー!」
そう言って、俺の目の前で茶色のカツラの中にピンクの長い髪を押し込んでいく。
すると、元のリオの姿に戻った彼女は、またおかしな事でも思いついたのか
くりくりの瞳をさらにキラキラと輝かせた。
「そうだ!レオ様っ!せっかくですから、見つかる前に思いっきり遊びましょうよ!」
「はぁっ!?お前、何言って……」
俺が最後まで言葉を言いかける前に、リオが俺の手をギュッと力強く掴んだ。
そのまま、ぐいぐいと俺を引っ張って走り出す。
まぢで……本当に女なのかよ?!
こいつ、いつも強引すぎっ!!
心の中で悪態をついていると、リオが連れてきてくれたのは
「公爵邸に初めて訪れた時に見かけたのっ!来てみたかったんだっ」
そう言って笑うリオの後ろには、すごく綺麗な花畑が広がっていた。
あたり一面に、色とりどりの花が咲き誇っていて、ここは屋敷の中でもあまり知ってる人間が少なそうな場所だった。
「わぁぁあ!!見てくださいレオ様!すっごく綺麗じゃないですかっ?」
「あ、あぁ……綺麗だな」
二人でその景色を見つめながら、本当に綺麗で素直に言葉にする。
だけれど、リオの暴走はこれだけでは終わらなかった。
リオは花畑の近くにあった綺麗な芝生まで再び俺の手を取り引っ張っていくと、躊躇なくその場に仰向けに寝転がった。
「レオ様っ!!ここで寝っ転がると最高に気持ちいですよぉーっ!」
服が汚れることなんてまったく気にしていないその姿に、俺は呆れを通り越して、やれやれとため息をこぼしながらリオの隣に腰を下ろした。
「……お前、本当に侯爵令嬢かよ……」
年下の俺に呆れられているというのに、リオは芝生の上で楽しそうに笑っている。
「レオ様はまだ十歳なんですから、そんなにお行儀よくしていたら疲れないですか?楽しまないと損ですよ!」
「子供扱いするなっ。俺は別に疲れてなんて……」
「ほらぁっ!」
そう言った瞬間、隣で寝転がってたリオは起き上がると俺に向かって両手を広げて勢いよくダイブしてきた。
細くて華奢な腕が俺の身体をぎゅっと抱きしめると、押し負けた俺の身体は芝生の上にドサッとリオと共に倒れ込む。
この状況に驚き、目を見開く俺は
「お、お前!!なにすんだよっ!!か、仮にも女だろっ!」
心臓が飛び出そうなほど驚いて怒ると、倒れた俺を見下ろすリオの綺麗な瞳と目が合った。
……ドキンっ
そして、俺の上で綺麗な瞳がふにゃりと形を変えると、してやったりと言わんばかりの悪戯っぽい満面の笑みを浮かべていた。
……ドキンっ……なんだこれ……
リオから目が離せなくなった俺の様子なんて気にもしてないリオは、隣に再びごろんと転がる。
「レオ様っ!空を見てくださいよ!凄く気持ちいいんですから〜っ!ほらぁっ!」
そう言って、リオは隣でキラキラとした笑顔を浮かべながら青空に向かって両手を大きく広げた。
「っ……」
その横顔を見た瞬間、俺の胸は最大限にドキリと大きく音を立てた。
顔が一気に熱くなり耳まで真っ赤になっていくのが自分でも分かった。
……なんだこれ……俺の胸はおかしいし、なんなんだよこいつ!
と思ったけれど、隣でヘラヘラと笑うリオに力が抜けた俺は同じように空を見上げてみた。
……なんだこれ……
………初めて芝生の上に寝転がって二人で並んで見る空は、驚くほど青くて、バカみたいに綺麗だった。
大好きな兄上に少しでも追いつきたくて、貴族の子息として必死に頑張ってきたけれど。
……こんな日があっても……いいな。
心の底から、そう思った。
今日の俺はやっぱり変で、隣でバカみたいに笑うリオが、なぜだかもの凄く可愛く見えて胸の中のドキドキは止まらなくて……
やっぱり胸が……変な感じだ。
今まで感じたことのない自分の気持ちの変化と胸の鼓動に、これは一体なんなんだろう?と戸惑っていると。
「───おや。こんなところで仲良くお昼寝かい?」
頭上から、優しい口調の割に恐ろしい雰囲気を纏った声が降ってきた。
ハッとして飛び起きると、そこにはアルが立っていた。
サラサラの前髪の隙間から覗く綺麗な瞳は、いつも通りの笑みを浮かべながらも、その顔は冷ややかに俺たちを見下ろしている。
アルは、昔から怒ると怖いからなぁ……とガックリする。
結局、俺たちは予想はしてたけれど、アルに二人揃って仲良くお説教をされることになった。
「レオも勉強をサボっちゃダメだよね?
リオも好きにしていいとは言ったけど……レオを連れ回すなんて良い度胸だね?
……昨日の俺の言葉をもう忘れたのかな?」
昨日の言葉……?なんかあったのか?
チラリとリオを見ると、なぜだか顔を青くしていた。
そして余所見をする俺にアルは、ちゃんと聞いてる?と優しい口調とは裏腹に威圧するアルに詰め寄られ、すぐに視線をアルに戻す。
そして散々説教された俺たちは並んで
「「ごめんなさい……」」
と頭を下げるしかなかった。
屋敷に戻る途中、隣を歩くリオにぷいっと顔を背けて悪態をついた。
「……お前のせいだからなっ」
「えーっ!でも、楽しかったでしょ?また一緒に行きましょうねっ!レオ様っ!」
悪びれる様子もなく、むしろ嬉しそうにキラキラとした笑顔で笑いかけてくるリオに俺の胸は再びドキドキと音を立てる。
今日の俺は、なんだか変だ……特に胸が変な音を立てる……なんだこれ……。
「……お前が暇なら……付き合ってやっても、いいけど……っ」
俺の隣で呑気な顔して、キラキラと笑うリオをチラリと見る。
こんなに頭のおかしい女なのに、リオといるのは、楽しい気がする……。
嫌じゃ……ない。
───その様子を、少し後ろを歩くアルが鋭い視線でじっと見つめていた。
そして誰にも聞こえない小さな声でボソッと呟く。
「あのレオまで懐いてる……
……君はいったい、何者だい?リオ」
アルのリオを見る冷たい瞳は、さらに疑いの色に染めるのを俺たちはまだ知る由もなかった。




