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バケモノ女子s  作者: 一乗寺らびり
33/34

第33話:シェードの町

「本当に行ってしまうのだな。残念だが、仕方あるまい」

 ディオゲネス帝都の駅前まで、皇帝が見送りに来てくれていた。フットワークが軽すぎる。人だかりもさほどできていないことから、皇帝が出歩くのはあまり珍しい光景ではないようだ。

「できることなら、我が帝国が誇る飛空艇で送っていきたいところではあるが、飛空艇でアポロニア領内に入るわけにはいかぬからな」

「多分、宣戦布告とみなされて速攻で攻撃されるわね」

 アポロニア王国とディオゲネス帝国は、あまり仲が良くないのだろうか。少しだけ、二国間の将来が不安である。

「ショウタ・ミナヅキよ、もし気が変わったり、目的のシェイドとやらの穴が見つからなかったりしたら、再びここに戻ってくるのだぞ。私はいつでも迎えよう」

「はは……ありがとうございます。お世話になりました、皇帝さん」

「それじゃあね、アルカス。今度来るときは、事前に連絡して、ゆっくりと話したいわね」

 ミラルと皇帝が、強く握手を交わした。そして、俺の方にも手を差し伸ばしてきた。

「さらばだショウタ・ミナヅキよ!我が帝国は、いつでも君を歓迎するからな!」

 伸ばしてきたその手を、強く握り返した。


※※※


「なんか、色々と規格外な人だったなぁ……」

 列車に揺られながら、帝国で過ごした数日間を思い返していた。あの皇帝、自ら建物内を案内したりなど、とても国のトップがやることではないことをしていた。

「ああいった皇帝だからか、国民の支持は良いんだけどもねぇ」

「技術力による監視と抑圧があるからこそできる芸当よ。それがなければあんな人間、即座に命を落としてるわ」

 アヤメさんは、皇帝に対してやけに冷たい気がする。

「さて、今後の旅程を整理するわ。まずはこのまま列車でダウィンに戻り、武具を回収する。その後、馬車でショウタを拾ったという山の麓の町、シェードに向かうわ」

 俺がこの世界に来て始めて立ち寄った町は、シェードという名前らしい。俺たちの目的である七色の生命体の名前がシェイドなので、何かしらの関係はあるのだろう。

「シェードは北東の方にあるわ。途中、アポロニア王都に寄ることもできるけど……」

 ミラルがちらりと、こちらを見る。だが、決心は変わらない。

「王都には寄らないで、まっすぐ行こうよ」

「了解よ!それじゃあ、道中の休憩は別の町にしましょう」

 ミラルが話し終えると同時に、アヤメさんが地図を取り出してきた。地図にはシェードの場所に点が打ってある。

「シェードまでは、ダウィンからだと馬車で一日はかかるわ。長旅になるから、適宜休憩をはさみつつ行きましょう」

「異世界を移動できる生命体かぁ……私、そいつに会ったら捕まえていろいろと研究するんだ!」

 セリナが目を輝かせながら言った。捕まえるとは物騒すぎる。

「セリナ、あんたねぇ……」

「ペースに乗せられてはだめよ、ミラル。放っておきなさい」

 呆れるミラルに、冷静に地図を眺めるアヤメさん。

 こんなやり取りももうすぐ見られなくなるかもしれないと考えると、少し寂しく感じるのであった。


※※※


 ダウィンを出発した俺たちは、馬車に揺られながら休憩をはさみつつほぼ丸一日、北東を目指し走っていた。アポロニアから出るときと同様に、屋根のないタイプの馬車に乗っている。

「列車も乗り心地がいいけど、俺は馬車のほうが好きかなぁ」

「あら、なんで?」

「なんというか、異世界感がこっちのほうがあるから、かなぁ」

「なにそれ、おかしい!」

 ミラル、セリナと談笑しながら、馬車に揺られ続ける。そんな中、アヤメさんは一人、静かに手帳のようなものを眺めている。

「アヤメさん、それ何読んでるの?」

 気になり、聞いてみる。なんとなく、教えてくれなさそうな気がするが。

「北東の情勢を確認しているの。最近、何かあったような気がして」

 意外にも教えてくれた。

「情勢?何かあったっけ?」

「ミラル、あなたは本だけではなく、新聞とかも読んだほうがいいわよ」

 アヤメさんはため息をつくと、手帳を閉じた。

「記憶違いではなかったわ。最近、北東の方面で巨大な飛翔体の影が目撃されている」

「飛翔体?鳥のモンスターか何かかな?」

「鳥ならまだ、ましだけどね」

 アヤメさんがなにやら不穏なことを呟いた。

「まあ、特に問題ないでしょ。たとえモンスターだとしても、私がぶっ飛ばしてあげるわ!」

 セリナが胸を張る。たしかに、このメンバーと一緒にいれば、何が襲ってきても安心できる。

「そういう油断が一番禁物よ、セリナ。あんたはすぐそうやって調子に乗るんだから」

「ミラルの言うとおりよ、セリナ。そういうことは、ニトロ並みの魔法をあつかえるようになってから言うことね」

「あはは……あ、見えたよ!」

 馬車の進行方向の先に、建物の集まりと山が見える。どうやら、シェードの町に着いたようだ。

「ああ、ようやく着いたわね。それじゃ、早速山に……待って、みんな」

 ミラルの表情が、先程までの和やかなものから、険しいものに変わる。

「どうしたの、ミラル?」

「……あの町、滅んでいるわ」

「えっ……?」

 皆の雰囲気が、一瞬にして変わる。再び町の方に目を向けると、見えている建物は崩れており、黒煙が立ち上っていた。


※※※


「うわ……ひどい……」

 シェードの町は、壊滅状態だった。建物は焼け落ちており、あちこちから焼けた匂いが立ち込めている。人影は一つもなく、全員避難したのか、それとも。

 異世界に来て初めて立ち寄った記念すべき町は、姿を悪い方向へと完全に変えてしまっていた。

「これは……人間の仕業じゃないわね」

 辺りを調べているアヤメさんが言った。こんなことができるのが、人間であってたまるかという気持ちはある。

「でしょうね。もしかすると、まだ近くにいるかもしれない」

 ミラルが辺りを警戒するように見回している。

「人間の仕業じゃないって、モンスター……?」

「ええ。それも、かなり強いやつよ」

「破壊の状況から察するに、これの犯人は……!」

 アヤメさんの言葉を遮るかのように、巨大な咆哮が響き渡った。

「うわ!?何!?」

「ちっ!やっぱりまだ近くにいたか!」

 俺たちの真上を、黒い影が覆う。何かが、空から降りてくる。

「危ない!ショウタ!」

 ミラルに引っ張られ、少し離れた場所まで投げ飛ばされた。尻餅をついてから、再度上方に目を向ける。

「え……」

 そこには、巨大で真っ赤なトカゲがいた。だがそのトカゲには、翼が生えている。

 これは、まさか、ドラゴンというやつではないだろうか。

「な、なんでこんなところにこんなやつが!?」

「どっかから流れてきたんでしょうね!セリナ、構えて!」

 ミラルとセリナが武器を構える。

「ミラル!」

「命が惜しいなら、動かないのが懸命よ」

 アヤメさんも武器を構え、だが俺の側に立っている。

「このトカゲめ!これでも喰らえ!」

 セリナが構えている短剣の先から、赤白い光が発射され、ドラゴンに向かって飛んでいく。すると、ドラゴンが大きく息を吸い、炎の球を吐き出した。炎はセリナの放った光にぶつかると、巨大な爆炎となった。

「ちっ!止められたか!」

 ドラゴンは体勢を変えると、ミラルとセリナに向かって突っ込んできた。

「うわぁ!」

「セリナ!危ない!」

 ミラルがセリナを突き飛ばす。その直後、ミラルをドラゴンが踏み潰した。

「み、ミラル!!」

「ちっ……こいつ……!」

 珍しく、アヤメさんが強い感情を表に出した。砂埃と黒煙が舞う中、ドラゴンがこちらを睨みつけてきた。

「……こんの……」

 突如、ドラゴンが体勢を崩した。ミラルを踏み潰したはずの足を、誰かが持ち上げている。

「クソトカゲが!」

 ドラゴンが盛大に倒れる。ドラゴンの足のあった場所、そこには、両手を掲げるミラルの姿があった。

「ミラル!良かった……」

「そんなにやりたいなら、受けて立とうじゃないのよ!」

 ミラルは起き上がろうとするドラゴンに駆け寄ると、その頭を素手で殴りつけた。ドラゴンの巨体が吹っ飛び、瓦礫にぶつかる。

 ミラルはつるはしを拾いあげると、瓦礫に埋まるドラゴンに向かって飛びかかった。

「うおりゃぁ!!」

 そして、つるはしの先端を、ドラゴンの脳天めがけて振り下ろした。鈍い轟音が響き渡り、静寂が訪れる。

「……ミラル?」

 砂埃が舞い、視界を遮る。だが、その舞い散る砂埃の中から、人影が歩いてくる。

「……はぁ、まさかドラゴンを殴り倒すなんてね」

 アヤメさんが呆れたように、同時に安心したように、ため息をついた。

「やったわみんな!ドラゴン、仕留めたわよ!」

 砂埃が収まり、その中の光景がはっきりとみえるようになる。ミラルがつるはしを担ぎながらピースしていた。その背後には、おそらく絶命しているであろう、真っ赤なドラゴンが横たわっていた。

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