第28話:異世界への渡り方
「みんな、来てくれてありがとう。今日集まってもらったのは、みんなに聞きたいことがあるの」
俺が決断を出した翌日、ミラルはさっそくギルドに人を集めていた。
今会議室には、俺とミラル、ラン、セリナ、そしてアヤメさんがいる。
「聞きたいことって何よ。今日の特訓は免除されたから、それはいいんだけどさ」
セリナは大きなあくびをしつつ言った。徹夜明けなのか、目の下には大きな隈ができている。
「あんたの特訓は、また落ち着いたときに再開するから。それで、話なんだけど……ショウタ、あんたから話してくれない?」
「うん、わかったよ。まず、ランとセリナには言ってなかったことを話すね。俺、実は異世界から来たんだ」
「へぇ、そうなんだ。異世界から……異世界!?」
眠そうに聞いていたセリナが、前のめりになってきた。
「なんと、ショウタは異世界からの訪問者だったのか」
ランも驚いたような顔をしている。一方事情を知っているアヤメは、いつもの通りの無表情を貫いていた。
「異世界って、どうやって来たの!?どんなところ!?どんな人がいるの!?」
セリナが大量の質問を投げかけてきた。どうやら、異世界というものに興味があるらしい。
「こらセリナ、ショウタが困っているでしょ?」
「だって、異世界からの訪問者なんて、めったに会えたもんじゃないのよ!?聞きたいこと、調べたいことなんていくらでもあるわよ!」
「確かに、私も噂には聞いたことはあったが、実際にそうだという人間は初めてだ」
以前、アヤメに異世界から人が来ることは稀にあるのだと聞いていたが、どうやらかなり珍しいもののようだ。
「えーと、話を続けてもいい?」
「いいわよショウタ。セリナのことは無視しちゃって」
ムキーと興奮しているセリナを放っておいて、俺はミラルに会うまでのことを、そして元の世界に帰りたいことを話すことにした。
※※※
「それで、元の世界に帰る方法を知りたいんだ」
「……なるほど、そういうことか」
ようやく全てを話すことができた。最初は騒いでいたセリナであったが、俺が自ら命を断ってこの世界に来た件のあたりから、静かに聞いていた。
「そんな、帰っちゃうだなんて……せっかくの実験た……貴重な存在だっていうのに」
「私は賢い選択だと思うわよ、皆月翔太」
これまで黙っていたアヤメさんが、初めて口を開いた。
「賢いって、どういう意味?」
「あなた、裏社会で有名になり始めてるわよ。アルヴァジラ語を話せる、謎の少年がいるって」
「もしかして、道に迷ってる人を道案内した件で?」
「その通り。あなたが案内した男、裏では有名な商人でね。取り扱ってる品は……まあ、ご想像におまかせするわ」
裏で有名、ということは、つまりそういうことなのだろう。
「そんな男に、南東国の言葉で案内した東洋人の少年がいる。そういった話に興味を持つ人間はいくらでも湧いてくるわ」
「そうだったんだ……」
「もしかしたら、すでに動いているところもあるんじゃないかしら?」
「動いているって?」
皆の視線が、アヤメに集まる。
「ショウタを手中に収めようとね。利用価値はあるもの」
「利用価値……」
だが、たしかにそうだ。アルヴァジラ語という言語どころか、どんな言語でも理解できる可能性がある。使い所はいくらでもあるだろう。
「言ったでしょ?あなたの能力を侮らないことって」
「う、うん……そこまでになってるとは思わなかったよ」
「だとすると、まずいことになるかもな。特に、花屋の娘さんは仲が良いだろう?狙われる可能性があるかもな」
ランの言葉に、背筋が寒くなる。
「な、なんでエアちゃんが?」
「あなたを釣る餌として、花屋の娘ほど優秀な人間はいないでしょうね。ミラルは捕えるにはコストがかかりすぎるでしょうし」
そうか、確かに俺と仲の良い人間を利用するとなると、ギルドの関係者以外にはエアちゃんしかいない。
「エアちゃんには護衛を付けたほうが良さそうね。そして、そうなるとあんまりのんきにしてる暇はなさそうかも」
「なんで?帰りたいのはわかるけど、別にずっと先でもいいんじゃないの?」
「ショウタがアポロニアにいればいるほど、ショウタに関する調べが進んで、花屋の娘さんに危険が迫る可能性が高くなるからだ」
俺の親切心が、とんでもないことに発展していた。だが確かに、俺とエアちゃんが知り合いだという情報が知られるほど、エアちゃんが危険な目に遭う可能性は高まるだろう。
「そんな……俺のせいで……」
「ショウタ、あんたは悪くないわ。ただ、親切心が必ずも良い結果のみを招くわけではないってことは、今後覚えておくことね」
ミラルがポンと、頭に手を乗せてきた。
「本題に戻るわ。誰か、異世界に移動する方法を知らないかしら。ショウタのため、ショウタの家族のため、そしてエアちゃんのために、早く知らないといけないわ」
俺はみんなの顔を見渡した。しかし、誰一人として、答える者はいない。
「異世界だなんて、知っていたら、とっくに行って研究してるわ」
「私は異世界からの訪問者の話を聞いたことがあるくらいで、行く方法までは知らないな」
「ランに同じく」
そりゃそうだ。そんな方法が一般的に知られていたら、異世界転移なんて頻繁に起きる珍しくもないものになってしまう。
「そっか……そうなると、なんとかしてでも調べないと」
「私は知らないけど、一つ宛はあるわ」
アヤメが言った。
「アヤメ、本当!?」
アヤメは立ち上がると、一枚の紙を机の上に開いた。それは、見たことのない地形の地図であった。
「ディオゲネス帝国よ。かつて古代技術でこのエルトリア地方を制圧し、今でも最先端の技術を有しているあの国なら、異世界との移動手段を知っていてもおかしくないわ」
アヤメは、地図上の一点を指差す。そこには『ディオゲネス』と記載がある。
「ディオゲネスか!確かにあそこならなにかあるかも!」
セリナが再び前のめりになってきた。
「あの国なら、ミラルは要人にコネがあるから調べやすいでしょう?」
アヤメがミラルの方に目を向ける。ミラルは、少しだけ複雑そうな顔をしている。
「……そうね、あの国なら動きやすいわ。そうと決まれば、旅程を立てないと」
「私も!私も着いてく!異世界への行き方、私も知りたい!」
セリナが勢いよく手を挙げてきた。
「私も着いて行くわ。ミラルが苦手な交渉周り、やってあげる」
アヤメが地図を仕舞いながら言った。
「ありがとう、二人とも。ランはどうする?」
「私はアポロニアに残って、花屋の守りに従事するよ。いつ何があるかわからないからな」
そう言うと、ランも立ち上がり、立てかけてあった薙刀を手に取る。
「そうしてくれると助かるわ。それじゃあ、ディオゲネスに向けて出発するわ。準備もあるし、発つのは今日の夕方よ」
「ゆ、夕方!?急いでいるのはわかるけど、急すぎない!?」
「こういうのは急ぐに限るわ。そうと決まれば、早速帰って準備よ」
ミラルも立ち上がる。ミラルはフットワークが軽いが、これはあまりにも軽すぎる。
「ごめんミラル……せめて一日、猶予をくれない?」
「なんで?緊急事態なのはわかっているでしょ?」
「わかっているよ!でも、……」
もしかしたら、もうアポロニアには戻ってこられないかもしれない。そんな予感がしていたのだ。
「……最後に少しだけ、この街を周りたいんだ」
わがままなのはわかっている。だが、それでも、短い間でもすごしたこの街を、記憶にしっかりと残しておきたかった。
「はぁ……わかったわ。でも、あげられるのは今日一日だけよ。明日の朝には発つわ」
「ありがとう!それだけあれば十分だよ!」
「それと、私も着いて歩くわ。この状況、すでに何が起こっても不思議じゃないからね」
「うん。ごめんね、ミラル……」
再びミラルが、呆れたようにため息をついた。
「迷惑かけられるのは今に始まったことじゃないし、謝らなくてもいいわ。それじゃあみんな、こうしましょう」
皆の視線が、ミラルに集まる。
「ランは『フローリアの花束』へ、セリナとアヤメは準備して、明日明け方に南門に集合よ」
「ああ、任された」
「オッケー!いろいろと持っていかなきゃ!」
「承知したわ」
こうして、思いもしなかった早さで、俺のアポロニア最後の一日が始まるのであった。




