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バケモノ女子s  作者: 一乗寺らびり
25/34

第25話:回避訓練

「はい!今日の走り込み終わり!」

「ひぃ……ひぃ……や、やり遂げた……」

 ランの回避訓練開始から一週間ほどが経った。今日が訓練の最終日だ。

 ちなみにセリナはまだ帰ってきていない。完全に逃げ切られたが、おそらく後でミラルに捕まるだろう。

「ショウタはお疲れ様。これで最後だけど、どうだったかしら?」

「な、なんとかやりきった気持ちで一杯だよ……」

 毎朝早く起き、全力で走り込んだ後に洗濯などの家事をする毎日であった。短い間だったとはいえ、達成感と、少しばかりの運動能力の向上は感じられた。

「まさか、最後までは着いてこられるとはな。てっきり、途中で音を上げるかと思っていたよ」

 ランが感心したように言った。ランは最初の方こそはバテていたが、流石に基礎が違うのか、二日も経てばミラルのペースに合わせられていた。

「さて、最後の回避訓練始めるわよ。ショウタは帰っててね」

「ミラル、それなんだけどさ、最後は見学してもいい?」

 疲れはあるが、回避訓練とはどういうことをやっているのか、ずっと気になっていたのだ。せっかくならば、最後くらいは見ておきたいと思っていた。

「あら、いいわよ。見てて面白いものかはわからないけどね」

「はは、なんならショウタもやってみるかい?」

「いや、それはやめておきます」

 即答しておいた。なんとなくだが、命がいくつあっても足りない気がしたからだ。

「うむ、それが懸命だ。それじゃあミラル、始めるとするか」

「オッケーよ!それじゃあ……」

「ショウタさんたちだ!おはようございますー!」

 突如、俺たちに話しかける人が現れた。このかわいらしい声にはとても聞き覚えがある。

「え、エアちゃん!?」

 そう、花屋の娘さん、エア・フローリアちゃんだ。エアちゃんはかわいらしい笑顔を浮かべながら、ペコリとおじぎをした。

「あら、あんたは花屋の娘さんじゃないの」

「お、おはようございます!どうしてこんなところに?」

 突然のことに声が上ずってしまった。いつも花屋に寄るときは、話す内容とかをしっかりと考えた上で覚悟を決めて行っていたので、突然に会ってしまうと挙動不審になってしまう。

「ミラルさんたちが毎朝、ここで特訓していると聞いたから、気になっていた見に来ましたの!ちゃんと会えて良かったわー!」

 キョドる俺とは別に、エアちゃんはずっとニコニコと笑っている。眩しい。

「でも、もう終わってしまったところでしょうか?」

「い、いえいえ全然!むしろこれからが本番ってもんですよ!」

 俺は張り切って立ち上がり、シュッシュッとシャドーボクシングをしてみせた。やったあとで、これはかなり滑稽だったのではと後悔したが。

「ショウタ、先ほどは遠慮すると言っていたが」

「言ってないよ、ラン!俺も回避訓練、しっかりやるよ!」

 つい、思ってもいない事を言ってしまった。だが、これはかっこいいところを見せるチャンスかもしれない。

「はぁ、調子いいやつねぇ。オッケー、ランの後で相手してあげるわ」

 ミラルはそう言うと、持っている木の棒をビシッとランの方へと向ける。

「それじゃあラン!手本を見せてあげなさいね!行くわよ!」

「うむ!さあ来い!」

 ランも身構える。ミラルとランは向かい合い、ジリジリと距離を詰め合う。

「お隣、良いかしら?」

「ど、どうぞ!」

 隣にエアちゃんがやってきて、ちょこんと座った。かわいい。それに続いて、俺も座り込む。

「ミラルさんもランさんも、とっても強いって有名な戦士さんだもの。きっと訓練もすごいものだと思って、楽しみにしてましたの」

「そ、そうだったんだ。そういえば二人とも、有名人だっけね」

 ミラルはずっと一緒にいて、ランも交流が多いためすっかり忘れていたが、二人は賊にも名前が広まっているくらいの有名人である。エアちゃんのような一般の人からしたら、芸能人に会うようなものなのだろうか。

「ショウタさんはすごいですね。そんな人たちと一緒にいるんだもの、将来は戦士を目指しているのですか?」

「俺?俺は、そうだね……」

 もし、俺に授けられた特殊能力というものが、戦い向けのチート的な能力であったなら、そういった将来も考える余地はあったのだろう。

 だが、俺に備わっている能力は、言語を俺が理解できるように勝手に翻訳できる、といったものだ。とても戦いに向いた能力ではない。その上魔法の才能もないのだ。セリナに教えを請う道もない。

「俺は……まだ考えていないや、将来のこと」

「あら、そうでしたの?てっきり、あのお二人と一緒に戦っていくものだと思っていましたわ」

 そうだ、俺は将来というものを考えていなかった。このアポロニアという故郷から遥か遠く離れた地で、俺は何をすればいいのだろうか。

 ミラル専属の家事手伝い?能力を活かした翻訳家?それとも、今から体を鍛えて賞金稼ぎを目指す?

 考えれば考えるほど、自分の将来が不安になってくる。

「おりゃぁ!」

「あ、ショウタさん!始まりましたわよ!」

 俺の中で渦巻く考えは、ミラルの雄叫びとエアちゃんの言葉で吹き飛んだ。

 我に返り思わずミラルたちの方へと目を向けると、回避訓練が始まっていた。

 ミラルが手に持った木の棒を、ランに向かって縦に振り下ろす。その速さは、俺には反応できなさそうな、とんでもなく速いものだ。ランはそれを、横に身体をずらして間一髪で避ける。

「せい!せやぁ!」

 間髪入れず、ミラルが棒を縦に、横にと振っていく。ランはそれを横にステップを踏んだり、屈んだりしながら避けていく。

「す、すごい……」

「あぁ、これが本物の戦士さんの……」

 少しずつ、速さに目が慣れてくる。ミラルはデタラメに棒を振っているわけではなく、頭や首など、確実に急所を狙っている。それに対しランは、攻撃をかすりもしないよう、着実に回避している。

「ちゃんとやれるじゃないの!ラン!」

「そっちこそな。ただ、最後くらいもっと攻めてきてもいいんだぞ?」

 二人は軽口を言える程度には余裕があるようだ。ランの挑発に乗るかのように、ミラルのスピードが更に増す。

 気づけば、周りに少しばかりギャラリーが増えていた。エアちゃんも含め皆、感心しているかのようにミラルとランの攻防に目を奪われている。

「さすがミラルだ、だが本気は……!?」

 突如、ランの体勢が崩れた。何が起きたかわからないが、ランに大きなスキができる。

「スキあり!」

 そんなランに向かってミラルが力いっぱい棒を横に振る。棒はランの首元へと向かっていく。

 そんな中、ある光景がフラッシュバックした。ランと初めて会ったとき、その首が飛び刎ねた光景を。

「見ちゃだめ!」

「きゃっ!」

 反射的に、エアちゃんの目を腕で覆い被せた。あのような光景を、エアちゃんに見せるわけにはいかない。

 だが、事の結果は俺の想定していたこととは異なるものとなっていた。ミラルが手に持つ棒の先は、ランの首に当たる直前でピッタリと静止していた。

「はい、おしまい。戦闘中も足元に気をつけなきゃだめよ?」

「ふふ、やってしまったよ。まさか、回避に夢中になって小石に躓くとは」

 ランの足元には、たしかに少し大きめの石が転がっていた。

 なにはともあれ、ミラルが動きを止めてくれたおかげで、またあのショッキングな光景を見ることはなかった。

「……コホン。ショウタ、イチャつくなら他所行ってくれないかしら?」

「ショウタさん、あの、ちょっと……」

「え……!」

 気づけば、俺はエアちゃんの頭に抱きついているような形になっていた。

「ご、ごめん!」

 慌てて腕をエアちゃんから退ける。エアちゃんは少し頬を赤らめていた。

「びっくりしましたわ……急に抱きついてきたのですもの」

「いや、ちょっと見せたくない光景が出てくるかもと思って」

 お互い少し頬を赤らめつつ、気まずそうな雰囲気になってしまった。

「全く、青春しちゃってまぁ」

「はは、いいことじゃないか、仲が良くて」

 ミラルとランにからかわれて、更に顔が赤くなる。ちらりとエアちゃんの方を見ると、エアちゃんも同じような赤さになっていた。

「さて、二人の仲についてはさておき、ショウタ」

「な、なんだよミラル」

「やるの?回避訓練」

 ミラルはビシッと、木の棒をこちらに向けてきた。

「……ごめんなさい、遠慮しておきます」


※※※


「今日もいい汗かいたわね、ショウタ」

「うん、俺はある意味冷や汗もかいたけどね……」

 訓練からの帰り道、俺とミラルは買ったジュースを飲みながらダラダラと歩いていた。

「……ねえミラル、ちょっと相談したいことがあるんだけどさ」

「ん?何よ、改まっちゃって。恋の悩みなら相談乗れないわよ?」

「そんなんじゃないよ!あのさ、俺……」

 将来、俺はどうすべきなのか。ミラルに聞けば解決できるのだろうか。それとも。

「俺さ、将来」

「げっ!ミラル!」

 俺の言葉を遮るかのように、見知った顔が目の前に現れた。大荷物を背負ったセリナだ。遠征から帰ってきたのだろう。

「お、お久しぶりだねミラル!いやぁ、急に遠征入っちゃってさ!そ、それじゃ!」

 慌てて立ち去ろうとするセリナだったが、ミラルに背負っているリュックを掴まれた。

「おかえり、セリナ。それじゃ、行こうか。ショウタは先に帰っててね」

 ミラルはニッコリ笑うと、そのままセリナを引きずっていく。

「いーやーだー!たーすーけーてー!」

 引きずられるセリナを見送りながら、相談はまた今度、ミラルが落ち着いているときにしよう、そう考えるのであった。

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