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バケモノ女子s  作者: 一乗寺らびり
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第22話:不死身という呪い

「……なんだ、身構えちゃって少し損しちゃったな」

 読んでいる最中の『実録 ホムンクルス事件簿』から目を離し、一つため息をついた。

 昨日買ってもらったこの本、いざ覚悟を決めて読んでみたが、中身はコンビニとかによく置いてある、都市伝説をまとめたようなゴシップ本だった。今二つの事例まで読み終わったが、ある貴族の没落にはホムンクルスが絡んでいるだの、ある国がホムンクルスを秘密裏に製造しているだの、そんな内容であった。アポロニアにもこういう本があるのかと、逆に感心してしまった。

「まあ、読みやすいっちゃ読みやすいし、暇つぶしには丁度いいなぁ」

 ミラルはこの本を読んで自分のことを判断してほしい、と言っていたが、この本にそこまで重要な要素が含まれているように思えなかった。一体何があるというのだろうか。

「とりあえず、最後まではちゃんと読もう。せっかく買ってもらったんだし」

 再び、本の方へ目を落とす。次の事例は『ホムンクルスによる村人虐殺事件、実はホムンクルス同士の内輪もめが原因だった!?』という内容だ。すでに胡散臭い。

「ミラルがホムンクルスっていうのも嘘だったりして」

 そうだったらいいな、と心の中で笑いながら、本を読み進める。

『これは、当事者かつ有名賞金稼ぎであるM・W氏に事実関係を聴取した、紛れもない事実である』

「紛れもない事実、ねぇ。オカルト系の本って、こういうの書きがちだよなぁ」

「ショウタ、いる?」

 ページをめくろうとした瞬間、ミラルがリビングに入ってきた。今日はギルドに行っているはずだが。

「あれ?ミラル、どうしたの?今日はもう終わり?」

「違うの、あんたにも手伝ってほしいことができて、呼びに来たの」

 ミラルは、いつもよりも慌てている様子だ。

「手伝い?護衛の訓練なら付き合うよ」

「違うの、いつもの用事で呼びに来たんじゃないの」

 ミラルの顔は、明らかに深刻そうだ。

「ランが、行方不明なの。もう四日も、任務から帰ってきてないの」


※※※


 夕暮れの中、俺とミラル、そしてセリナの三人は、馬車に揺られて南東の方へと向かっていた。目的地は、ランが立ち寄ったはずの町である。

「今日は町で探して、明日は早朝から近くの山を探すわ。賊退治に、山の方に入ってるはずだから」

 ミラルは変わらず深刻そうな顔をしている。

「ねえミラル、そこまで心配しなくてもいいんじゃないの?だって、ランって不死身でしょ?」

 思わず、考えていることを言ってしまった。しかし、ランの異常な回復力や高い戦闘力は、何度も目の前で見ている。そこまで不安に思うこともないように思えた。

「ショウタの言うとおりよ、ミラル。きっと、数日もしたらピンピンして帰ってくるわよ」

 俺の意見にセリナも賛同してきた。セリナは何やら実験中に呼び出されたようで、少し不機嫌だ。

 しかし、ミラルの心配そうな表情は変わらない。

「あんたらの言いたいことはわかるわよ。あのランが、っていう気持ちもわからなくはない。だから、一つランに関する話を教えてあげるわ」

「ランに関する話?どんなの?」

 セリナが興味津々に身を乗り出す。俺もそれに続く。

「セリナがランと知り合う一年くらい前のことよ。今回と同じように、モンスター退治の任務先から何日も帰還しなかったことがあったのよ」

「え、前にもあったの?」

「そう、今回で二回目なの。それで、その任務先が湖の近くでね、ギルドの人間数人で捜索したのよ。そうしたら」

 まるで怪談を語るように、ミラルがゆっくりと話す。

「湖の底に、沈んでいたのよ。何日も」

「……えぇ……」

「モンスターに引きずり込まれて、そのまま固定されたんだって。当然ランは生きていたけど、水を大量に飲んだ上、呼吸器も水で満たされちゃっててね。そんな状態で何日も沈んでいたわけだし、相当苦しかったと思うわ」

「……」

「今回は水辺の近くではないにせよ、似たように動けない状態になっている可能性は高いわ。そんな苦しい状態のまま、放っておけるわけない」

 あまりの壮絶な内容に、言葉を失った。セリナの方をちらりと見ると、俺と同じように感じていたのだろう、口をポカーンと開けている。

「あの娘、不死身の身体を手に入れてから、敵の攻撃を受ける前提で戦っているのよね。だから、なおさらそういった危機に陥りやすいの」

 ミラルは少し、寂しそうに言った。

「とにかく、なんとしてでも早めに探し出してあげないと。二人共、わかった?」

「は、はい」

 呼吸ができないまま、何日も水の底で過ごすというのはどんな感覚なのだろうか。考えようとして、背筋が寒くなったため、これ以上考えることはやめておいた。


※※※


 翌朝早く、俺達は山を登っていた。

 結局、町でランを見つけることはできなかったのだ。その代わり、宿の主人からランの目撃情報を得た。数日前に宿に荷物を置いて出かけたきり、戻ってこないというのだ。

「やっぱり、どこかで動けなくなってる可能性が高いわ。早く探し出さないと」

 ミラルは険しい山道だというのに、足早に斜面を登っていく。それに続く俺とセリナは、必死に追いつこうとしていた。

「はぁ、はぁ……ま、待ってよミラル!」

「二人共、遅い!普段からちゃんと運動しないからこうなるのよ!」

「そ、そうは言っても……」

 ミラルと俺たちじゃ、体力と身体能力に差がありすぎる。なんとか追いつこうと、二人で一所懸命に足を進めた。

「ん、行き止まりか……」

 しばらく登ると、目の前に切り立つ岩の壁が出現した。

「ひとまず、この辺りを調べるわ。流石にこの上には登ってないと思う」

 そう言うと、ミラルは辺りを見渡し始める。ようやく追いついた俺とセリナは、その場に座り込んでしまった。

「はぁ……流石にこれはきつい……」

「もう、だらしないわよ!セリナも、いい加減ちゃんと運動しなさいよね!」

「だって、運動嫌いなんだもん!」

 ブーブー文句を垂れるセリナを横目に、ミラルは辺りを見渡し続ける。それに習って、俺もなんとか立ち上がり、ミラルが見ていない方へと顔を向けた。

 ランの装備は、赤と白で目立つ色合いだ。それに、ランは女性にしては背が高い。無事でいるならば、すぐ目に入るはずだ。

 そんなことを考えていると、あるものが目に入った。自然の景色にそぐわない、真っ赤な棒状のものだ。そして、それには見覚えがあった。

「ミラル!あれ!」

「あれは……ランの……」

 それは、ランが普段持ち歩いている薙刀の棒部分に見えた。三人で棒の場所まで近寄り、セリナがそれを手に取る。棒はポッキリと折れてしまっているが、間違いなくランの薙刀の一部だ。

「これがここにあるってことは、近くにいるかも!」

「私に任せて!丁度いい魔法を師匠に教わったばかりだわ!」

 そう言うと、セリナは目を閉じ、何やら集中し始めた。棒を握るセリナの手が、わずかに光る。

「『パストヴィズ』っていう、過去視の魔法よ。詳しい説明は省くけど、この薙刀の過去の記録が読めるわ!」

 それだけいうと、セリナは黙り込んでしまった。俺とミラルは二人で息を呑み、セリナの動向を見守る。

「……見えた!あそこの岩!あれの下にいるわ!」

 セリナは少し離れた位置にある、俺の背よりも大きいくらいの岩を指さした。

「岩の下!?」

「崖崩れかわからないけど、岩が降ってきて、ランを潰したの!」

「それだけわかれば問題ないわ!」

 ミラルは指さされた岩の元へと駆け寄り、両手で岩を持った。

「ぅおりゃぁ!」

 そして、岩を持ち上げた。岩は半分ほどが地面に埋まっており、持ち上げられると更に巨大なものであった。

「ミラル!ランは!?」

 俺とセリナも、ミラルの元へと駆け寄ろうとする。

「……来ないで!」

 が、ミラルに止められてしまった。

「見ないほうがいいわ。ただ、これだけは言っておく」

 ミラルはこちらを振り返り、ニッコリと笑った。

「ラン、いたわ。ちゃんと生きてる」


※※※


「……すまない、恥ずかしいところを見せてしまったな」

 ミラルのラン発見からしばらくして、ランは完全復活していた。ただ、服がボロボロになってしまったため、セリナが持ってきていた大きめの布を身にまとっている。

「全く、なんでこんなところにいたのよ」

「賊を倒して首を持ち帰ろうとしていたんだが、急にこの岩が降ってきてな。反応が遅れて潰されてしまったんだ。おかげで戦果も潰れてしまった」

 ランは先程まで自分を潰していた岩を、ポンポンと叩いた。とても、ついさっきまでただの肉塊になっていた人間とは見えないほどのんきにしている。

 その岩を、セリナが過去視の魔法で確認している。落石の原因を探るとのことだ。

「はぁ……いつも回避を疎かにしてるから、こういったことになるのよ。いい加減、避けるということを思い出しなさいよね」

「そうだな……最近はつい攻撃を受けてしまうことも多いし、少し鍛え直さないといけないかもな」

 ランは頭を掻きながら言った。

「普通は攻撃受けた段階でアウトだけどね……」

「こういうことが言えるの、ランだけよ」

 ミラルは呆れたように、大きなため息をつく。

「とにかく、王都に戻って落ち着いたら、回避の訓練するわよ。付き合ってあげるから、ちゃんとやりなさいよね」

「うむ、よろしく頼む」

「ついでにショウタとセリナ、あんたらもよ。もう少し運動力つくよう、訓練に付き合ってもらうからね」

 こっちに飛び火してきた。

「えぇ、俺たちも!?」

「そうよ。流石に基礎的な能力ないと、今回みたいなときに困るわ。しっかり動けるよう指導してあげるから、覚悟しなさいよね」

「そんなぁ……」

 しかし、家事をしているとはいえ、身体を動かさなさすぎるのはまずい。ここは大人しく従っておくのがいいだろう。

 家事に訓練、やることがどんどん増えていく。だが、退屈な毎日を送るよりはマシなのだろうと考えると、それもまたいいことなのだろうと思ってしまうのであった。

「セリナもわかった!?」

「……」

 魔法に集中しているのか聞こえないふりをしているのか、セリナは無言を貫いていた。


※※※


 帰り道、岩に潰されて何日も動けない感覚というのはどういったものなのだろうと考えようとして、背筋が寒くなったため、考えるのをやめた。

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