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バケモノ女子s  作者: 一乗寺らびり
20/34

第20話:人の毒アヤメ

「クッキークッキー♪エアちゃんのクッキー♪」

 ギルドへ向かう俺の足取りは、とても軽いものだった。買い物帰りに花屋に寄ったのだが、エアちゃんから大量のクッキーをもらったのだ。たくさん焼いたから、ギルドの人たちと食べてください、とのこと。

 可能であれば独り占めしたいところだが、流石にそれはやめておく。幸せをおすそ分けだ。

「こんにちはー!」

 早く食べたいという気持ちを抑えつつ、だが抑えきれずに声に漏れつつも、俺はギルドの扉を開いた。

「どうして駄目なんだ!」

 扉を開くと同時に、男の怒鳴り声が聞こえてきた。声の主は、カウンターの前に立っているスーツ姿の男だ。

「我らヒーローショップの戦士は、ただの無法な傭兵ではありません。お引取りください」

 顔を真っ赤にして怒鳴りつける男に対し、ミリーさんは冷静に対処している。

「このエスタ団の頼みを聞けないっていうのか!?どうしても請け負ってくれないと言うなら、さもないと……」

 男が、スーツの胸の所に手を突っ込んだ。映画とかで見る、マフィアやヤクザが拳銃を取り出すときの動作に似ている。まさか、そういうことなのだろうか。

「さもないと、何でしょうか?」

 しかし、ミリーさんは冷静さを崩さない。それどころか、逆に男を睨み返している。その重厚な雰囲気は、とてもただの受付嬢には見えなかった。

「きょ、今日のところは帰ってやるよ!また来てやるからな!」

 男もミリーさんのオーラに圧倒されたのだろうか、踵を返し、こちらの方へと歩いてきた。そして、そのまま俺の横を通り過ぎ、扉を勢いよく閉めて出ていった。

「はぁ、全く……」

 ミリーさんは、呆れたように大きなため息をついた。その顔には、少しばかり疲れも見える。

「ミリーさん、何かあったんですか?」

「ああ、ショウタですか。ミラルなら任務で出払っていますよ」

 ミリーさんは眼鏡を直すように、右眼の眼帯をクイッと上げた。

「あ、いや、ミラルに用事があって来たわけではなくて。それよりも、さっきの人は何なんですか?」

「あれですか?あれは王都の西にある街を根城にしている、エスタ団とかいうギャングの構成員です。なんでも、同じ街にいる他のギャングとの抗争に、うちの戦士を雇いたい、と」

 ミリーさんは再び、大きなため息をついた。

「我がギルドは、罪人や害獣を駆除するために結成されたものです。しかし、たまにいるのですよ。ああやって、ただの傭兵のように扱おうとする者たちが」

「ギャングは罪人には入らないんですか?」

「色々と、細かい事情があるのです。表立った不法行為を行っていないから、懸賞金をかけられない、等」

「ふーん、大変なんですね……」

 確か、ミラルが言っていた気がする。ヒーローショップの名前は、『全ての人に英雄を』という志を掲げている、と。

「でも、あの様子だとあの人、また来そうですよね……」

「そうなのです。全く、どうにかしたいところではありますが」

「私が対処しようか?」

 不意に、後方から声が聞こえた。振り返ると、いつの間にかアヤメが真後ろに立っていた。

「アヤメ……いつからそこに?」

「いつからだっていいでしょ、私もここに属してるわけだし。で、どうしようか?」

 問いかけるアヤメに対し、ミリーさんは困ったような顔をしている。ミリーさんのこのような顔は初めて見た。

「表立って、何かをしてほしいとは言えません。ただ、まぁ、何かあれば助かるかもしれない、とだけ言っておきましょうか」

 すごく、言葉を選んでいるかのような様子だ。何か、アヤメに頼みづらいことでもあるのだろうか。

「了解、そこまで聞ければ十分よ。七日ほどかかるけど、いいかしら?」

「……ご勝手に」

 ミリーさんの諦めたかのような言葉を聞くと、アヤメは振り返り、出口の方へと歩いていった。

「えーと、どういうこと?」

「……ショウタ、あなたには関係のないことです。これ以上の介入は受け付けません」

 いつの間にか、ミリーさんはいつものキリッとした表情に戻っていた。きっと、大人の事情とか言うやつなのだろう。

「私は仕事に戻ります。ショウタも、大した用事がないのなら、あまりむやみにここには来ないように」

「あ、はい……」

 何故か叱られた。少しの理不尽を感じながらも、本来の目的であるクッキーの入った袋をカウンターに置く。

「今日来た理由なんですけど、これ、『フローリアの花束』の人からのいただきものです。皆さんで食べてくださいとのことで」

「ありがとう、いただきます。後で私の方で、今日ギルドにいる者に配っておきます」

「で、では、俺はこれで失礼しますね」

 なんとなく居辛さを感じて、さっさと退散することにした。ミリーさん、なんとなく苦手に感じる。

「また何か用があれば、ミラル経由で連絡します。では、帰り道に気をつけて」

 ミリーさんの言葉を受けつつ、俺はギルドの外に出た。扉を閉め、ふうと一つため息をつく。

「アヤメ、何するんだろうなぁ」

 ミリーさんとアヤメのやり取りが、何か気になった。七日ほどかかるみたいなことを言っていたが、一体何をするつもりなのだろうか。

「まぁ、俺には多分関係ないし、さっさと忘れようかな……あっ」

 アヤメのことを忘れようとした代わりに、別のことを思い出した。

 エアちゃんにもらったクッキー、自分が食べる分を取り分けるのを忘れていた。


※※※


「えーと、次は干し肉買いに行こうかな」

 クッキー食べ逃し事件から六日後、俺は再び買い物に出ていた。市場で一人で買い物するのにもすっかり慣れ、軽い足取りで人混みの隙間を縫っていく。

「卵は最後に回して、その前に……」

「なあ、聞いたか?西の街のエスタ団とウェスティ団の話」

 ふと、聞き覚えのある単語が耳に入った。エスタ団とは、六日前にギルドにいたスーツの男が属しているというギャングの名前だ。

「ああ、聞いた聞いた。なんでも、どっちも同時に崩壊したっていうじゃないか」

 声の方を見てみると、男が二人、立ち話をしている。話の内容が気になり、そっと近寄り、休憩しているふりをして聞き耳を立てた。

「しかも、両方とも内部抗争で潰れたって聞いたぞ。互いにぶつかり合う寸前だったというのにだ」

「どっちの話だったかは忘れたが、団員同士が殺し合って全滅、現場はそれはもう悲惨な状況だったとか。悪い奴らには関わるもんじゃねえなぁ」

「俺たちは真っ当に生きていこうな。西の街といえば、街外れのバーって行ったことあるか?そこにいるねーちゃんがえらく……」

 これ以上は聞きたい話はないと考え、そっとその場を離れた。エスタ団といえば、アヤメがなにか対処をすると言っていたが、それが関係あるのだろうか。

「まさか、一人で全員を……」

「そんなことできないわよ。ミラルやランじゃあるまいし」

 独り言に対して急に話しかけられ、心臓が止まるかと思うくらい驚いた。ビクつきながら振り向くと、いつの間にかアヤメが真後ろに立っていた。

「あ、アヤメ、さん……」

「何よ、そんな幽霊でも見たように怯えて」

 アヤメはニコニコと笑っている。アヤメには数回しか会ったことがないが、このような顔は初めて見た。機嫌が良いように見える。

「いや、急に話しかけられて、その……」

「せっかくこんなところで会ったんだもの、少しお茶でも飲んでいかない?」


***


 俺とアヤメさんは、市場から少し外れた路地にある、小さな喫茶店に座っていた。俺にはフルーツのジュース、アヤメさんにはコーヒーが出されている。

「素敵なところでしょ?ここ、私のお気に入りなのよ」

 コーヒーを啜りながら、アヤメさんは相変わらず笑顔で話しかけてくる。

「そ、そうですね。いい場所ですね……」

 そんなアヤメさんが、怖い。笑顔のはずなのに、ミラルとは違った気味の悪さを感じていた。

「そうでしょ。それでさっき、聞いてたでしょ?」

「え!?な、何を!?」

「男二人から、エスタ団とウェスティ団の話」

 アヤメさんは、俺が盗み聞きしていたことを知っていた。アヤメさんの笑顔が、更に強いものとなっていく。

「あの男が話していたのは、ウェスティ団の話。ボスの意見に対して、団内の認識が三つ四つに別れちゃってね。それぞれが自己の正しさを証明しようと、互いに粛清し合ったの」

「へ、へぇ……」

「じゃあエスタ団はどうなのかというと、ギルドに来た男がいたじゃない?あいつのボスに対する疑念がどんどんと強くなっていってね、最後にはボスや団員たちを一人で粛清、その後自害したのよ」

 アヤメさんは、まるでその目で見てきたかのように、嬉しそうに話した。まるで、子供が親に、遊んだ内容を報告するかのように。

「人間の絆って、脆いものよね。いくらファミリーとか口で言っても、紙切れ一枚の情報で簡単に崩れ去ってしまうんだもの」

 アヤメさんの表情が、笑顔なのだが、嬉しさとは少し違うものに変わってきている。なんというのだろう、恍惚というものなのだろうか。

 その表情が、怖い。

「私、好きなのよ」

「え……な、何が?」

「強く結束した人間たちの関係が、簡単に消え去って崩壊していく様を見るのが」

 アヤメさんはそう言うと、残っているコーヒーを一気に飲み干し、席を立った。

「会計は私が済ませておくから、あなたはゆっくりと飲んでていいわよ。そして最後に」

 これまでとは一転して、アヤメさんが急に真顔になった。

「あまり目立った行動はしないことね、皆月翔太」

 そのまま、カウンターにお金を置くと、喫茶店から出ていった。

「……は、はぁ……」

 恐怖からようやく開放され、全身から力が抜ける。とても、ジュースの残りに口をつける気分もなくなっていた。

「俺、目を付けられているのかな……」

 アヤメさんの、去り際の一言が気になった。目立った行動をするなとは、何に対して言っていたのか。考えようにも、そのたびにアヤメさんのあの笑顔が脳裏に浮かび、とても考察する気にはなれなかった。

 嬉々として話すアヤメさんの姿は、人間ではないミラルよりも、不死身のランよりも、そして強大な力を持つセリナよりも、誰よりもバケモノに見えた。

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