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バケモノ女子s  作者: 一乗寺らびり
19/34

第19話:マジカルリリィ

「ただいまー」

「あ、おかえりー!」

 玄関の方から、ミラルの声がした。ギルドから帰ってきたのだろう。ちょうど、晩御飯の支度が終わったところだ。ナイスタイミングである。

 ザルに入れた麺を皿に移し、その上からソースをかけていく。今日の晩御飯はミートスパゲティだ。

「ショウタ、久しぶりに仕事よ」

 ミラルはリビングに入って早々、開口一番にそう言った。

「仕事?もしかして、ギルドから俺に招集来たの?」

 思わず、キッチンからテーブルに食事を運ぶ手が止まる。ミラルは武器置き場で武器を整理している。

「その通り。それも、護衛任務よ。まあ、護衛対象はセリナなんだけどね」

「セリナの護衛?それって必要なの?」

 セリナは強く、魔法で小さな砦一つを木っ端微塵にできるほどだ。とても護衛が必要だとは思えない。

「あの娘、確かに魔法は強いんだけど、運動能力はあまり高くないのよね。それこそ、あんたよりも少し高い程度だと思う」

「そっか、魔法使いってそういうものかぁ」

 ゲームや漫画で出てくる魔法使いは、確かに体力や物理的な攻撃力が低いイメージがある。セリナはまさにそのタイプなのだろう。

「そんなもんで、セリナはフィールドワークのときにはいつも、誰かしら近距離戦の強い人間を護衛につけてるんだけど、今回は私が選ばれてね。で、ついでにあんたも連れていきたいって言ったら、OKが出たってわけよ」

「なるほどなぁ。そういえば、兎狩り以来だよね、俺が同行するの」

 前のギガントラビット討伐の時から、結構な日数が経っていた。このままミラルに同行することがなくなるのではとも考えたが、どうやら忘れられていなかったらしい。

「そういえばそうねえ。それであんた、今回は特にはしゃいだりしないのね?」

「いやぁ、さすがにもう、ね?」

 ミラルの仕事が危険であり、気楽に参加していいものではないということは、十分理解できてきていた。

「それならば良し。さて、晩御飯食べたら明日の準備しないと。明日は朝早いから、あんたは早めに寝なさいね。」

「うん、わかったよ。ちなみに泊まり?」

「いや、目的の物手に入れたらすぐに撤退するって言ってたわ。一応お昼用にパンは二人分いるかな」

「了解、荷物に入れておくね。ところでさ、フィールドワークって何するの?」

 ミラルはこちらを向き、ニヤッと笑った。

「魔法薬の材料になる、肉食植物の採取よ」


※※※


「着いた着いた!ほら、あれ!」

「うわ、思った以上にでっか……しかもたくさん」

 セリナが指差す方を見ると、大人の背以上もあるような巨大なユリの花がいくつも生えている。

 俺達は今、王都から南西に体感一時間ほど歩いたところにある、林の近くにいる。この林には魔法薬の材料になる植物がたくさん自生しているようで、セリナはちょくちょく採取しに来るというのだ。

「あれは『マジカルリリィ』っていうモンスターで、捕食した生物の生命力を魔力に変換して貯め込む習性があるの。だから、魔力回復薬の材料として打って付けなのよね」

 セリナは早口で解説した。早口すぎてあまり良く聞き取れなかったが、とにかくあれが目的の採集物とのことだ。

「でも、あれならセリナ一人でもいいんじゃない?だって、その場に生えてるだけでしょ」

 その場に生えているだけの植物なら、セリナ一人でも十分対処できそうである。近づかなければよいのだから。

「残念ながら、あいつらは自走できる植物よ。足は遅いけど、油断したらあっという間に近づかれて食べられるわ」

 ミラルが剣を構えつつ言った。今日はつるはしではなく、鉈のような巨大な剣を持ってきている。戦う相手に合わせて武器を変えているのだろう。

「自走する植物って、恐ろしいものもいたもんだなぁ」

「それだけじゃないわ。マジカルリリィは溶解液を飛ばしたりもしてくるから、離れていたとしても油断はできないの。未熟な奴らがそれで命を落とすなんてこと、日常茶飯事よ」

「ひぇ……」

 恐ろしい植物がいたものである。どうしたらそのような生態に進化するのだろうか、多少興味が湧いた。

「それで、どうするの?ここから魔法でやっちゃうの?」

「いや、それだと溶解液で弾幕張られちゃうから、一気に近づいて切り倒すわ」

「なにより、私の遠距離魔法だと、花の大部分を吹き飛ばしちゃうんだもの。もったいないじゃないの」

 おそらく、こっちが一番の理由だろう。

「それじゃ、行くわよ。私が溶解液を弾きつつ進むから、二人はその後ろについてきて」

「了解!任せたよ、ミラル!」

「よ、よろしく!」

 ミラルが、花の群生に向かってゆっくりと駆けていく。それに続き、俺とセリナも駆け出した。

 近づくこちらに気づいたのか、大量のユリの花がこちらを向いた。その口のようにも見える花弁の先から、溶解液であろう汁が垂れている。

「来るわよ!気をつけて!」

 ミラルの声とほぼ同時に、最も近い花が何かを飛ばしてきた。おそらく、セリナが言っていた溶解液を飛ばす攻撃だろう。

「せい!」

 ミラルが、大剣を刃の横で叩くように振った。刃が飛んできた液体の塊に当たり、液が飛び散る。

「なるほど、そうやってやるんだ!」

「しっかり後ろについて!飛び散ったのに当たるかもだから!」

 ミラルに言われ、はみ出ていた体を少し引っ込める。溶解液がどれほど強力なのかはわからないが、水滴程度でも触れないのが無難だろう。

 一発だけでは仕留められないのを悟ったのだろうか、こちらを向いている花たちが、一斉に溶解液を飛ばしてきた。

「せい!てやぁ!」

 大量に飛んでくる液体の塊たちを、ミラルは華麗に捌いていく。巨大な鉄の塊を振っているというのに、ミラルはまるでうちわを扇いでいるかのように大剣を扱っている。

「ミラルすごい!でも、これじゃキリが!」

「確かに、ちょっとこの量はきついかも!セリナ、もういいわ!」

「了解よ!」

 セリナが握っている短刀を、花たちの方へと向ける。

「もったいないけど、多少は仕方なし!えいや!」

 セリナの短刀の刃先から、赤い光が高速で飛んでいく。光が近い花の根元へ着弾すると、地面が轟音を上げて爆発した。

「ナイスセリナ!一気に行くわよ!」

 爆発した花に気を取られたのか、花たちが一斉に同じ方向を向く。そのスキを狙い、ミラルは一気に距離を詰める。

「おりゃあ!」

 近場の花から順に、ミラルが次々に斬りかかっていく。茎の真ん中から斬られた花たちは、巨大な花びらを地面に落とし、数度ピクピクと動くと、そのまま停止した。

「これで、最後ぉ!」

 最後の花を、ミラルが縦に斬り裂いた。真っ二つに割れた花は左右に倒れ、動かなくなった。

「ふう、やっぱり厳しかったけど、うまく行ったか」

 ミラルは額の汗を拭いながら、大剣を地面に突き刺した。

「すごい……」

 爆発が起きてから、ほぼ数秒の出来事である。ミラルの鮮やかな剣捌きに、俺は感心するのみだった。


※※※


「よし、これでオッケーね!」

 俺達は切り倒したユリの花たちを集めて、紐で縛っていた。結構な量があるが、全部持ち帰るらしい。

「大漁大漁!これで今日の採集はおしまいよ!あとは帰るだけね!」

 セリナは嬉しそうに、束になった花たちを見ている。

「それじゃあ出発前に、私ちょっとトイレしてくるわ。ここで待ってて」

 ミラルはそう言うと、林の木が多い方へと歩いていった。

「しかし、ミラルは相変わらずすごいなぁ。一瞬で全部倒しちゃうんだもの」

 モンスターの花束を見て、改めて強く感心する。

「ねえ、ショウタ。今日のミラルの戦いっぷり、どうだった?」

 急にセリナが耳打ちしてきた。

「え?いつもながらすごいなって。俺たちもだけど、ミラル自身傷一つついてないし」

「実はね、今日の護衛、ミラルから申し出があったのよ。自分とあなたを連れて行ってほしいって」

「え、そうなの?」

 それだと、昨晩のミラルの話と少し食い違う。ミラルはセリナから選ばれたと言っていた。

「ミラルね、前にギガントラビットと戦ったときに、あなたを攻撃に巻き込みそうになったこと、かなり気にしてたみたいなの。だから今回、あえて攻撃を受けつつ守る練習をしたいって言ってね」

「な、なるほど……確かに、ミラルが最初から全力出していれば、一気に全部斬り落とせそうだしなぁ」

「そのとおり。あんな溶解液の弾幕なんて、全部避けられちゃうんだから」

 ミラルは、意外と繊細なようだ。兎狩りの時のことなど、俺は気にしていなかったというのに。

「だから、ミラルが戻ってきたら言ってあげて。今回は百点満点だったって」

「うん、そうだね。誰も怪我しなかったわけだし」

「あんたたち、何の話をしてるの?」

 ミラルが戻ってきた。どうやら用は済んだようだ。

「なんでもないよ。ね、ショウタ?」

「うん、なんでもないよ」

「ふーん、そう。それじゃあ、帰ろっか」

 ミラルは怪訝な顔をしながらも、花を束ねた紐を手に取る。結構な量なため、ミラルが引きずっていくようだ。

「あ、ミラル。出発の前に言いたいことがあるんだけど」

「なに、ショウタ?」

 俺はグッと親指を立て、精一杯の笑顔を浮かべた。

「今日のミラルも、すごいかっこよかったよ!」

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