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バケモノ女子s  作者: 一乗寺らびり
17/34

第17話:初めてのおつかい

「うーん、困ったなぁ」

「どうしたのよ、食品箱なんか覗き込んで」

 キッチンでかがみ込む俺に向かって、ミラルが背後から話しかけてきた。

「そろそろ塩が尽きそうなんだけど、補充分がなくって」

「あら、そういえば、前に補充してから結構経ってたっけ」

 毎日三食の料理をしている俺なのだが、塩は毎回使う重要な調味料だ。それの残量が少なく、あと数回使えばなくなってしまうほどになっていた。

「明日一日分は多分持つけど、明後日までとなるとちょっとわからないかも」

「そっか、明日帰りに買ってこないとなぁ……いや待てよ?」

 急にミラルが顎に手を当て、何かを考え始めたようだ。

 毎日食べる食材のうち、日持ちのしないものは基本的にミラルが帰りに買ってくる。また、ミラルの仕事が休みの日には、二人で市場まで行き、芋や玉ねぎ、干し肉といった日持ちのする食材を買ってくるのだ。

「そうだ。いい機会だし、あんたに一人で買い物に行ってもらうかな」

 ミラルが閃いたように言った。

「え?俺一人で?」

「そろそろ、お金の使い方も覚えないといけないだろうしね。あんた、多分だけどお金の管理下手でしょ?」

「う、うん……」

 図星である。元いた世界では、親からお小遣いは貰っていたものの、すぐに使いすぎてしまい、月末にはピンチになっていたのだ。

「せっかくなんだし、この機会に勉強しておきなさい。じゃないと、そのうち困ることになるわよ」

「うーん、それはそうだけど……」

 別に買い物自体が嫌なわけではない。俺はそこまで子供ではない。ただ、市場のような普段一人で行かない場所、それも人通りが多い場所に一人で行くのは、少しの不安から抵抗感があった。

「もしかして、一人で市場に行くのが怖い、とか思ってない?」

「うっ……ミラル、心でも読めるの?」

「読めないけど、表情からわかるわよ。ついでに少しばかり、度胸もつけておきなさい。いつまでも、私がついていられるわけではないのよ?」

 ミラルの言うとおりである。今後、ミラルが遠征に行き、その間俺が留守を預かるなどといったことが起きる可能性もある。できれば着いていきたいが、そうわがままも言ってられない。

「わかったよ、こういうときに挑戦しなきゃね」

「よしっ!それでこそよ!」

 ミラルはバンっと、俺の背中を叩いた。そして、リビングの扉の方へ向き直る。

「今お金持ってくるから、ちょっと待ってなさいね。食材買って余った分は、あんたのお小遣いにしてもいいから」

 そう言うと、リビングから出ていった。

「まさか、この年で初めてのお使いをすることになるとはなぁ」

 俺の胸の中で、不安と、謎の期待感が渦巻いていた。


※※※


「おお、相変わらず人が多いところだなぁ」

 アポロニア王都の市場は、ミラルの家から数十分間ほど歩いたところにある。日本の商店街のような作りで、道沿いに小さな店舗が所狭しと並んでいるのだ。沢山の人で賑わっており、油断して歩くと何度も人にぶつかってしまいそうである。

「買い物メモは持ってるし、お金もちゃんと持ってる。よし、行くぞ!」

 気合を入れ、人混みの中へと足を踏み入れていく。

「えーと、まずは一番の目標から行くかな」

 買い物メモと前方を交互に見つつ、足を進める。最初の目的地は、塩を取り扱っている店だ。アポロニアにはスーパーのような総合商店はなく、八百屋や肉屋みたいに、商品のジャンルごとに店が分かれている。塩みたいな調味料も、専門の店があったりするのだ。

「安いよ安いよ!今日はキャベツがたったの50トリアだよ!」

「新鮮なギガントラビットの肉あるよ!これが一塊なんと200トリア!」

 『トリア』は、この国の通貨である。日本円に換算したらどれくらいの価値なのかはわからないが、同じようなものと考えても多分大丈夫だろう。

 呼び込みの声を聞き流しつつ、目的地へと足を進めていく。買い物メモに、いつもミラルが使っている店の目印と大体の場所が書いてある。八百屋や肉屋、魚屋などは一緒に行ったことがあるが、塩屋に関しては行ったことがなかった。

「えーと、市場の入り口から10店舗目左手、赤い看板の果物屋と、白い看板の包丁屋の間……あった!」

 メモの通りの場所に、その店はあった。小さな店舗に出店のようなカウンターがついており、ヒゲをはやしたおじさんが顔を出している。その上の看板に、大きく『レガリア山の塩』と書いてある。岩塩なのだろうか。

 人の流れを避けつつ、店舗の前へと辿り着く。

「らっしゃい!うちの塩がご入用かい?」

「は、はい!えーと、塩を一袋お願いします!」

 ニッコリと元気よく話しかけてくるおじさんに圧倒されつつも、負けじと頑張って答えた。

「はいよ!350トリアだよ!今用意するからちょい待っとれよ!」

 おじさんがカウンターの裏へと引っ込む。今のうちにお金を用意しようと、ミラルから預かったサイフを取り出して口を開けた。中には紙幣が二枚、計2000トリア入っている。

 日本円で考えたら、塩だけで350円は少し高い気がする。が、ミラル指定の店な上、そもそも元の世界での塩の値段もあまり記憶がないため、気にしないことにした。

「はいよ!うち自慢の塩一袋!」

 どさっと、おじさんがカウンターに袋を置く。量的に、1キロくらいの重さだろうか。

「ありがとうございます。はい、これで」

 財布から紙幣を一枚取り出し、おじさんへと手渡す。

「はい1000トリアお預かり!お釣りだよ!」

 紙幣を受け取ったおじさんは手早く、数枚の小銭を取り出してくる。昨晩ミラルに教えてもらったのだが、硬貨は1トリア、10トリア、100トリアの三種類、紙幣は1000トリアと10000トリアのニ種類とのことだ。

 おじさんから硬貨を受け取り、間違いがないか数える。が、何か多い。改めて数え直すも、やはり100トリア硬貨が一枚多い。

「おじさん、お釣りが多いみたいですけど……」

 恐る恐る、言ってみた。これまでコンビニなどでもお釣りを多く受け取ったり、逆に少なく受け取ったりしたことがなかったため、そのことを店員に伝えるのにかなり抵抗があったのだ。

「ああ、それはおまけだよ!ボウズ、ミラルちゃんの連れだろ?」

「え?」

 突然のことに少し硬直してしまった。

「おじさん、ミラルのこと知ってるの?俺のことも?」

「知ってるも何も、ミラルちゃんは何年もうちを贔屓にしてくれててね!そんで最近、お前さんを連れて歩いてるのを何度も見かけてるから、そういうことなんだなぁってな!」

 確かに、この店の前を何度か二人で通り過ぎてた記憶はある。

「ミラル、常連だったんだ。だからこの店指定してきたんだなぁ」

 おじさんはおじさんは満面の笑顔で塩が入った袋を持ち上げ、こちらに渡してきた。

「ミラルちゃんによろしくな!今後もご贔屓に!」


※※※


「よし、メモにあるものは全部買えたぞ」

 俺は両手に荷物を抱え、市場の真ん中を歩いていた。塩屋のおじさんの暖かさに触れ、他の店に一人で入る勇気をもらえたので、その後はスムーズに買い物を終えることができた。

 あとは帰るだけ、なのだが、財布にお金が少し余っている。ミラルに、残った分はお小遣いにしてもいいと言われている。

「せっかくだし、なにか見ていくかなぁ」

 そう思い立ち、あたりを見回してみる。今いる場所は食品系の店が多く集まっているエリアのため、買うならお菓子かその類いかな、と店を見比べていく。

 すると、食品系の店が並ぶ中、一軒の花屋が目に入った。

「そうだ、花なんてあるといいかも」

 ミラルの家には、これといった飾りものがない。一輪でも花を飾れば、少しは華やかになるだろうか。

「塩屋のおじさんがおまけしてくれた分もあるし、ちょっと覗いてみようかな」

 ミラルに似合う花はあるかな、そんなことを考えつつ、花屋の方へと足を進めた。


※※※


「あら、おかえり。遅かったわね」

「……ただいま、ってミラル?もう帰ってたの?」

 家に着くと、まだ夕方にもなっていないというのに、ミラルが家にいた。

「今日は特に何もなかったし、早めに帰ってきちゃった。で、買い物は無事にできた?」

「買い物……うん、できたよ」

 ボーッと、市場での出来事を振り返る。そして、顔が熱くなってしまった。

「ショウタ?どうかしたの?」

「な、なんでもない!」

「あら、花なんか買っちゃって。あんたも可愛いところあるじゃないの」

「あ、こ、これは……」

 花屋に寄って、一輪のはずが、ついつい三輪も買ってしまっていた。

「か、買ったものしまっておいて!俺、しばらく部屋にいるから!」

「ショウタ?どうしたのよあんた」

「なんでもない!」

 慌てて、部屋の方へと逃げた。ドアを閉め、深呼吸をする。だが、心臓の脈打つ音は速く、顔も真っ赤になっているだろう。

「……まさか、こんなところで……」

 きっとミラルは、こんな様子の俺に困惑してるだろう。だが、突然のこと過ぎて、俺が一番困惑しているのだ。

 俺、皆月翔太は、異世界の花屋の女の子に、一目惚れをしてしまっていた。

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