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バケモノ女子s  作者: 一乗寺らびり
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第16話:破壊者セリナ

「ふぅ、面白い本だったなぁ」

 読んでいた本をテーブルに置き、俺は感嘆の声を漏らした。数日かけて、ようやく一冊の本を読み終えたのだ。達成感も強くある。

 家事にも慣れ、午後に余裕ができてきた頃から、家の辺りを散歩したり、家に置いてある本を読んだりしていた。ただ、読書に関してはミラルの所持している本が中々に難しい内容で、理解しつつ読み終えるのに時間がかかってしまったのだ。

 俺が数日かけて読んでいた本は『アポロン戦記』というもので、実在した英雄アポロンの一生を、脚色を交えて追体験する、という内容であった。難しい内容ではあったが、とても読み応えがあり、楽しんで読むことができた。

 同時に、この世界の歴史についてもある程度理解できた。脚色はあれど、史実を題材にした内容だ。勉強にもなるし、暇つぶしとしてはかなり充実したものであっただろう。

「さて、次は何を読もうかなぁ」

 『アポロン戦記』を本棚に戻しつつ、他の本のタイトルを眺める。が、他の本はタイトルの時点で難しそうなものばかりで、読むのを躊躇してしまう。

「うーん、とりあえず、次に読むのを選ぶのはまた今度かなぁ。明日は散歩にしようかな」

 そんなことを呟きつつ、エプロンを身につける。そろそろ夕飯の支度を始めなければいけない時間だ。今日は何を作ろうかなと、レシピ本へ手を伸ばす。

「ショウタ、いるー!?」

 突如、玄関の方からノック音とともに大声が聞こえてきた。この声は、セリナのものだ。遠征に行ってたはずだが、帰ってきたのだろうか。

「はーい!いるよー!」

 エプロンを脱ぎ捨て、玄関の方へと向かう。扉を開けると、この前と同じように、大荷物を背負ったセリナが立っていた。

「おー、いたいた!元気そうで良かったー!」

 セリナはホッとしたように胸を撫で下ろす。セリナに会うのは、魔法薬事件以来だ。どうやら心配してくれていたらしい。

「数日ぶりだよね、セリナ。身体の方はなんともないよ。遠征の帰り?」

「そうなの、今日帰ってきたのよ。色々収穫もあったし、有意義な任務だったわ」

 そう言いながら、セリナは慣れた足取りで家に上がり込んできた。今回も居座る気なのだろう。俺は玄関の扉を閉め、セリナに続いてリビングへと向かう。

「確か、初めて会った時も遠征帰りだったよね。セリナって遠征多いの?」

「うん、どこのギルドでも学術調査を手伝える人は少ないから、自然と私か師匠に任務が集中しちゃうのよね。今回も、師匠と一緒だったし」

 セリナの師匠とは、確かニトロとかいう人だったか。学術調査ということは、二人とも頭が良いのだろう。

 セリナは荷物から一つの袋を取り出すと、テーブルの上においた。

「まず、これお土産。ティレニアのクッキーよ」

「わあ、ありがとう。そういえば、この国以外の食べ物って見るのも初めてだなぁ」

 ティレニアとは、アポロニアの東の方にある国の名前だ。『アポロン戦記』に出てきたから知っている。

「私も食べたかったから買ってきたのよね。というわけで、お茶お願い」

「はいはい」

 投げ捨てていたエプロンを拾い上げて着直すと、キッチンの方へと向かう。その間にセリナは、更になにか荷物を漁っている。

「それと、もう一つ。あなた、ミラルの任務に同行するんだって?」

「うん、たまにだけどね」

 かまどに火を着け、ポットを置きながら応える。

「本当に大丈夫なの?あなた、力も強そうに見えないし、魔法も使えないし」

「むしろだからこそ、ミラルの護衛練習になるってものだよ」

 今後、身体能力が低かったり、体が弱かったりする人を護衛することになるかもしれない。いずれ来るその時に備えて、俺が練習台になっているのだ。

「つまりそれ、自分は戦闘での役立たずだって言っているようなものだけど、悲しくならないの?」

「セリナ、さすがの俺も怒るよ」

「ご、ごめん!つい!」

 セリナは放っておいて、かまどの火加減に集中することにした。ついでに夕飯のことも考えておくか。

「あ、あったあった!見て見て、ショウタ!」

「何?役立たずにも見せたいものでもあるの?」

「だからごめんて!」

 セリナをからかいつつ、テーブルの方に目を向けると、何やら木の箱が置かれていた。その中には、赤い宝石のようなものがいくつか入っている。

「これ、私からのプレゼント!ショウタにあげるわ!」

「なにこれ?宝石?」

 一つ取り上げて、眺めてみる。鮮やかな赤色で、僅かに透き通っている。

「これは魔封石って言ってね、魔法のイメージを封じ込めることができる石なの。これを使えば魔法が苦手な人でも、封じられた魔法を使えることができるのよ」

「へぇ、そんなものもあるんだ」

 元いた世界では絶対に見かけないようなそれを、まじまじと眺める。

「これは投げつけて発動するタイプなんだけど、ミラルのお供をするあなたにあげるわ。いざというときに使ってみて!」

「うん、ありがとう。ちなみにだけど、どんな魔法が封じ込められてるの?」

 赤い色をしているし、きっと炎かなにかだろう。

「『ハイエクス』っていう、上級爆破魔法よ!」

「へー、爆破……」

 全身がフリーズした。つまりこれ、簡単に言ってしまえば爆弾なのでは。石を持つ右手に全神経が集中する。

「……ちなみに、威力はどれくらい?」

「このアパートなら、跡形もなく吹っ飛ばせるくらいよ!」

 自慢げに胸を張るセリナをよそに、俺は爆弾を静かに、刺激を与えないように箱に戻した。

「あ、ありがたいけど、気持ちだけもらっておくね。俺が戦闘力持っちゃうと、ミラルの練習にならないだろうし」

 そんな危険物を持ち歩くのも恐ろしい。そっと爆弾が詰まった箱を、セリナの方へと寄せた。

「えー、いらないの?せっかく遠征先で作ったのになぁ」

 セリナはガッカリしたようにうなだれた。


※※※


「おー、このお茶おいしい!あなた、いい腕してるねぇ!」

「そうかな?こっちのせか……ミラルの家に来てから淹れるようになったんだけど、上達してるようで良かったよ」

 爆弾の一件があったあと、ポットのお湯が湧いたのでお茶を淹れ、セリナの持ってきたクッキーを二人でつまんでいた。

 これまでの人生の中で、お茶なんてティーパックの紅茶くらいしか淹れたことがなかった。それが、こっちの世界に来てからはそんなものもないため、ちゃんとした道具でお茶を淹れなければならない。それを使いこなすための毎日の練習が、こうやって功を成すと、嬉しいものである。

「セリナの持ってきたクッキーも美味しいよ。気をつけないと、ミラルの分も食べちゃいそうなくらい」

「いっそのこと、ミラルには内緒で二人で全部食べちゃおっか?」

 セリナがいたずらに笑った。その笑顔はなんてことない、どこにでもいるような女の子の顔だ。とても、ミサイル魔法をぶっぱなしたり、爆弾を人に押し付けてきたりしたのと、同一人物とは思えないくらいだ。

「ねえ、セリナはなんで、賞金稼ぎっていう仕事をしているの?」

 つい気になり、聞いてしまう。セリナはどう見ても、普通の同い年くらいの女の子にしか見えなかったからだ。

「私?私はね、小さい頃に住んでた村が山賊の集団に襲われたことがあってね、その時に師匠に助けられたのがきっかけなのよ」

「師匠って、ニトロさんっていう人でしょ?ランから聞いたよ」

「そう!世間では『取り扱い注意のニトロ』だなんて呼ばれて怖がられてるけど、私から見たあの姿は、まさにかっこいい英雄そのものだったなぁ」

 セリナははぁっと、恍惚のため息をついた。

「それから、師匠に師事するために自力で魔法を勉強して、ある程度使えるようになったら師匠の下で更に勉強して、今に至るってところかな。まあ、まだまだ勉強足りてないけどね」

「セリナはお師匠さんのこと、大好きなんだね」

「そりゃ、命の恩人だし、憧れの大先生だもの。いつか、師匠の隣に並べるように、これからも頑張らなくちゃ」

 セリナの瞳はキラキラと、希望に満ち溢れている。

 その姿を見て、全く様子が正反対だというのに、俺はランの姿を思い出していた。

「ねえショウタ、あなたは憧れてる人とかはいたりするの?」

「俺?いや、俺は特にいないなぁ」

「そうなんだ。もし、この先目標にしたい人ができたとしたら」

 セリナはニッコリと、太陽のような笑顔を浮かべた。

「私と一緒に、追いつけるまで頑張ろうね!」


※※※


「……ということがあってさ」

「へー、セリナらしいじゃないの。危険物押し付けたりするところとか」

 ミラルはクスクスと笑いながら、スープを口に運んだ。ミラルの帰宅後、食事を取りながら今日あったことを話していたのだ。

「しっかし、セリナは本当にニトロさんのことが好きねぇ。まあ、だからこそ暴走しちゃうところもあるんだけど」

「似たようなこと、ランも言ってた気がする。事を急ぐ場合が多いって」

 この前の魔法薬事件も、セリナが考え抜いた末の近道だったのかもしれない。そう考えると、やはり悪い人ではないと思える。

「そこがセリナの良いところでもあるんだけどね。ごちそうさま、おいしかったわよ」

 一足先に食事を終えたミラルが、椅子から立ち上がり食器を片付け始める。

「ミラルはさ、憧れてる人とか、尊敬してる人とかいるの?」

 セリナとランからそういった話を聞いていたので、ミラルにもいるのか気になってしまった。

「私?何人もいるわよ。ダグラスさんに、レンさんに、それと兄貴」

「へえ、いっぱいいるんだ」

「まあ、あの二人に比べたら、執着心は薄いけどね」

 ミラルは笑いながら言った。その笑いには、少しだけ寂しそうな雰囲気も感じてしまった。

「ところでショウタ、話は変わるんだけどさ」

 食器をキッチンに置いたミラルが、こちらを振り返って言う。

「うん、なに?」

「私の分のクッキーは?」

「あっ」

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