タザーとリア
タケルとユウナギは孤児院に来ていた。
これからのプロジェクトが絶対に失敗してはいけないという、使命感と責任感から実際に授業を受ける子供たちに魅力的な提案が出来ているかヒアリングに来たのだ。
タケルは子供たちに好かれているし、信頼もあるので、生の声が聞きやすいのだ。
ユウナギはタケルに同行して、子供たちのニーズを拾い上げようとしていた。
そんな折、久々に孤児院に来た時に孤児院長のシロに変な頼まれごとをした。
商業ギルドにリアを迎えに行ってほしいというものだった。
タケルとしては特に苦にならないことだし、リアにもしばらく会っていなかったので、喜んで引き受けた。
これまでシロに頼まれたことは、深刻なことばかりだったので、今回のような『お遣い』的なものは初めてだった。
タケルとしては深刻な悩みが無くなったので、簡単なお願いが来たのかなと好意的にとらえていたのだ。
孤児院の見守りも兼ねてユウナギも同行していた。
「アレで行くの?」
「ん、行きはアレで、帰りはリアもいるから歩いて帰ってこようかと」
ここで言う『アレ』とは、『ドアツードア』か『テレポート』のことである。
あちこちに瞬間移動できるにもかかわらず、タケルは『早く家に帰る』などというどうしようもないことにしか能力を使っていなかった。
異世界のヒーローたちのことをもっと見習った方がいいタケルだった。
商業ギルドに一瞬で着いたタケルは、1階の裏でタザーと話すリアに気づいた。
ただ、深刻な話かもしれないので、話が終わるまで待つことにしたのだ。
「リアちゃんいたの?」
「ああ、でもタザーさんと話しているみたいだから」
「珍しい取り合わせね」
タザーと言えば、ギルドイチの強面だ。
リアはまだ10歳程度の少女。
この2人が話というのは、何だか訳ありそうだった。
「いいの?大事な子供よ?」
「タザーさんだっていい人だよ」
タケルとタザーは、色々なメニューを共に作ってきた仲間でもあった。
ユウナギは、部屋の外で聞き耳を立てていた。
そして、手で(ちょいちょい)とジェスチャーをしてタケルを呼び寄せた。
タケルも気にならない訳ではないので、呼ばれドアの前で聞き耳を立てる。
『何でお前はそんなに金を稼ぎたいんだよ!?』
タザーの声らしい。
『それは・・・どうしてもお金がいるの!』
こちらはリアの声らしい。
『お前なぁ、金を稼ぐのは悪いとは言わないが、あまり前のめりすぎっと、騙されて売り飛ばされてしまうぞ!?』
『・・・タケル』
『は?』
『タケルより稼ぎたいの!タケルを養うの!』
急にタケルの名前が出てきて、ユウナギがタケルを指さす。
タケルは、『身に覚えがない』というジェスチャーで掌を左右に振る。
『はぁ!?お前、タケルがどんなヤツか知ってるのか!?』
『あいつはとんでもないヤツだぞ!?』
ユウナギが『ニシシ』と笑みを浮かべながら人差し指を右左と交互に前に出し、タケルをからかう。
タケルは両手でバッテンを作って、『絶対違う!』と抗議した。
『あいつは、次々新しいメニューを考え付く料理の神様に愛された男だ。それだけでこの市場の誰よりも稼いでる』
『そんなの知ってる。だから、タケルより稼いで養いたいの!』
『あいつは、領主様の一人娘と婚約してるんじゃなかったか?』
『そんなの現実的じゃない。庶民と貴族が結婚できるわけないし!私となら庶民同士だし!』
『そうは言っても、あいつついこの間『騎士』になったぞ?既に『準貴族』じゃねえか』
『むぅ・・・だから、もっともっとお金持ちにならないといけないの!』
『それに、言ったら可哀そうだけど、領主様のお嬢様はタケルにぞっこんって感じだったぞ?』
『会ったの!?お嬢様に会ったの?』
『まあ、非公式だったけどなぁ』
『どんな人だった!?』
『えーと、歳の頃ならお前より1つか2つ上だったか、かわいい感じで、お忍びだったのか平民服を着ていたけど、オーラが違ったぜ。一発でタダモノじゃないと思ったね』
『きれいだった?私より!?』
『リアもかわいい方だとは思うけど、あっちは侯爵家の一人娘だ。言っちゃあ何だが、気品があったな。俺なんか会った瞬間跪いてしまったぜ』
『うう・・・そこまでなんだ・・・』
『金の話をするならな、最近あいつは開墾とかにも手を貸してるし、店もたくさんオープンしてる。王女様の監督する店も手掛けてるらしいぞ』
『・・・』
『あいつは、もしかしたらこの街の商人の中でも5本の指に入る稼ぎのやつかもしれん』
『(ぐず・・・)』
『正直、一人であれだけの仕事ができる理由が俺にも分からねえ。見たこともない食材も定期的にどこからか仕入れてくるし、しかも、こいつが、品質がいい』
『(うう・・・)』
『あと、婚約者はもう一人いるって言ってたな、ほら話題のなんとかの女神』
『!!』
扉の向こう側なので、音からは分からないが、リアがひどく動揺している様子が何となく伝わってきた。
『それってユウナギ様!?』
扉の前でユウナギが、『私!?』というジェスチャーで自分を指さしている。
タケルも『何かすまん』と言わんばかりに目を伏せた。
(バタン!)ドアが勢いよく開けられた。
リアがドアの前に人がいたことに驚き、振り返るとそこにはタケルとユウナギがいた。
しかも、ユウナギはタケルの腕に抱き着いていた。
「(うわーーーん!)」大きな声を上げながらリアは走って行ってしまった。
部屋の中からはタザーが『あちゃー、言い過ぎたか』とバツが悪そうに出てきた。
「追いかけなくていいの?」
ユウナギがタケルを見て言った。
「僕は追いかけるべきじゃないよ・・・追いかけても何もしてあげられないし・・・」
「クレアちゃんとリアちゃんって歳も近いんでしょ?どっちも結婚しちゃえばいいじゃない」
「そんな簡単なもんじゃないよ。僕なんて本来1人で十分なのに、2人も婚約者がいるんだよ?これ以上はキャパオーバーだよ」
「タケル変わったわね」
「悪い意味で!?」
「うーん、強くなった?かな?だからこそ、優しい・・・みたいな」
なんだか褒められたみたいで照れるタケル。
「何言わせんのよ!?」(バシっ)とユウナギがタケルの背中を叩く。
「痛いよ~」
「なによ?女の敵」
「彼女を追いかける資格があるのは僕じゃないんだよ・・・ほら」
「え?」
ギルドに一人の男の子が駆け込んできた。
孤児院のジュウだ。
「あっちに走っていった。心配だから追いかけてくれるか?」
タケルはジュウにリアが走っていった方を指さして言った。
「ったく、しょうがないなあいつ・・・」
ジュウはリアが走っていった方に追いかけるように走っていった。
「タケル知ってたの?」ユウナギが覗き込むようにして訊ねた。
「偶然だよ、偶然」
そもそも最初から変だった。
普段、厄介ごとをできるだけ持ち込まないシロがタケルにお遣いのような事を頼んだのだ。
もしかしたら、一番後ろで糸を引いていたのはシロかもしれないとタケルはぼんやり考えていた。
明日の更新も朝6時です。
よろしくお願いします。
『天使』の方が2倍/日くらいアクセスいただいていてビビっています。
https://ncode.syosetu.com/n1733hh/
ちなみに、総アクセスは2万PVくらいになりました!
ひょんなことから異世界への扉を発見して色々得たスキルで無双する話の予定
https://ncode.syosetu.com/n6361hd/
の方は、総アクセス2.9万PVを超えました!
ありがとうございます!




