アルフレット(クレアパパ)
「なるほど。わかった」
アルフレットさんはタケルとユウナギの話を聞いて、開口一番肯定の言葉を発した。
「それじゃあ・・・」
「だが・・・」
現実はそれほど甘くなかったみたいだった。
全てを手放しに喜んでいられる状況ではなかったらしい。
「まあ、タケルの話は良い方向だ。貴族の家を数件訪問して、1件でも支援が得られたらサポートしてやろう」
タケルとユウナギの表情が明るくなる。
「まあ、『知恵の女神』として有力貴族のところに嫁ぐのは我が領としても有益だ」
タケルとユウナギにとっては、喜ばしくない事柄だ。
「その時、我がアルフレットの家から嫁ぐのならば、より良いと言える」
「・・・はい」
メリット、デメリットだけを言うならば、領内の庶民が他領の貴族に嫁ぐのと、領主の娘が他領の貴族に嫁ぐのでは全く位置が違う。
ただ、アルフレットの家にはクレアしかいない。
「それだと・・・クレアさんが・・・」
「そうじゃない。ユウナギ、お前がうちの養子になるのだ」
「「ええ!?」」
「我が家から娘として他の貴族の支援を獲得し、学校を軌道に乗せることが出来れば、その後タケルと結婚すればよい。もちろん、クレアは先に婚姻を結んでもらうがな」
「ええ!?」
「そして、学校を軌道に乗せられない場合は、求婚している貴族のどこかに嫁ぐ。もちろん、その時はタケルとのことは諦めてもらうことになるな」
「そんな!」
「きみにとっては、学校事業を軌道に乗せられれば、侯爵家の娘になれて誰も文句を言わない貴族になれる。一方、軌道に乗せられない時は、どこかの貴族の家に嫁ぐことになる。どちらにしても貴族になれる可能性は高い」
品定めするような視線でアルフレットはクレアを見た。
「街の娘ならば諸手を挙げて挑戦するけど、きみは違うのかな?」
「そ、それは・・・」
ここで断ると、ユウナギがこの世界にとっての『異世界の人間』だとバラしてしまうことになりかねない。
「・・・やるわ!やらせていただきます!やってやろうじゃないの!」
タケルはユウナギの変なスイッチが入った音が聞こえた気がした。
そして、やる気になったユウナギがしくじったことなど過去に1度もないのだ。
これは、『本気だ』。
そして、今以上に色々頼まれるのだろうと予想した。
「では、早速、その書状の貴族たちに会うための返事の手紙でも準備しなさい。あ、貴族への手紙の書き方は少し特殊だから、クレアに習うといい」
「はい!ありがとうございます」
御礼を言うと、2人は談話室からでて早速部屋で作戦会議をすることになった。
*
その後、談話室の別のドアから入室した人間がいた。
「お父様・・・どういうおつもりですか?あんな嗾ける様な事をおっしゃって・・・」
「クレア・・・盗み聞きとはあまり褒められたものではないな・・・」
「勝手に娘を増やすようなお話を、わたしく無しで進められていたのにですか?」
「私は、自分の領地の利益だけを考えているのだよ」
「お父様、タケルさんとユウナギ様がこの世界の人間ではないことをご存じですね?」
「なんと!そうなのか!それは驚いた」
アルフレットが両手を肩の高さまで上げて驚いたポーズをして見せた。
(はー)クレアがわざとらしくため息をついてみせた。
「お父様、いつからご存じだったのですか?」
「さあなぁ・・・」
「あんな賭けみたいなことをおっしゃって・・・ユウナギ様を本当にわたくしのお姉さまになさるおつもりですか?」
「彼女のカリスマ性と容姿、能力はとても好ましいものだよ。我が領に良い影響を与えてくれそうだ」
「それだけですか?器量のいい方ならば、領内にたくさんいらっしゃると思いますけど?」
「ふふふ・・・やっぱり、タケルのことは外せないだろうな」
「やっと、本音が出て来たようですわね」
「タケルは何があってもお前と結婚するだろう。それはお前が望んでいるから、きっとそうなる。その時に、彼女も必要なのだろう?ユウナギが」
「そうですわね・・・ユウナギ様を押しのけて婚姻を結んだ場合、長い目で見たらタケルさんはダメになってしまいます。悔しいけれど・・・」
「お前がそんなに弱気とはめずらしいな」
「でも、タケルさんとユウナギ様だけでもうまくいかないでしょう・・・。どういう訳か、3人でないとバランスが取れないようです」
「それも、お前の『カン』かな?」
「はい・・・具体的には分からないのですが、それは強く感じるので・・・」
「確かに、ユウナギ一人を見ても、何とも言えないカリスマ性と魅力を感じるよ。彼女が娘だとしたら、誇らしいじゃないか」
「それは、実の娘としては嫉妬してしまいますわ。わたくしでは力不足だったでしょうか?」
クレアがアルフレットを流し目でにらむ。
「彼女の身分を何とかしないと、結局3人の関係がおかしくなっていくんだろう?」
「お父様どこまで・・・」
クレアが少し黙って考えた。
「そう言えば、手紙の書き方をわたくしに習う様にもおっしゃいましたね」
「そりゃあ、実の娘が蚊帳の外で全てがうまく行ったら悔しいじゃないか」
「経済復興、教育、そして、軍事力強化・・・すべてをうまくいかせるおつもりですね」
「そりゃあね。領主だからね」
クレアは聡明で周囲と調和を取りながら、自分の思った通りにことを進めることが出来るとんでもないコミュ力を持っていた。
そのため、狙ったことは必ず思い通りにしてきた。
しかも、周囲との摩擦をほとんど起こさずに。
そんなクレアだったが、父親の方が一枚上手なところもあったようだ。
もしかしたら、普段はわざと娘に手柄を譲っていい気分にさせていたのかもしれない。
相当な実力、心の余裕と包容力がないとできないことだ。
「お父様。わたくしは部屋に戻りますわ。そろそろタケルさんとユウナギ様が相談に来られる頃だと思いますので」
「クレア・・・」
ふいに呼び止めたアルフレット。
特に声はかけない。
クレアも父親の目を見て何も聞かない。
2人だからこそそれで分かったようだった。
クレアはドアの外に控えていたシャルと共に急ぎ自室に戻ったのだった。
明日の更新も朝6時です。
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