クレアへお見舞い
タケルはクレアの部屋に向かっていた。
足取りは重い。
クレアの専属侍女であるシャルにクレアをもっと大事にるようにと抗議されたからだ。
別に雑に扱っているつもりはないのだけれど・・・
自分に否定的な人に会いに行くのは精神エネルギーをすごく消費する。
ぶつぶつと言い訳の練習をするタケル。
ただ、今回の場合悪いのは自分。
謝りに行くのは当然だろう。
(トントン)控えめにドアをたたく。
(ガチャ)比較的すぐドアが開き、そこにはシャルが立っていた。
「あ、シャルさん、先程は・・・」
そこまで言ったところで、シャルが「しー」のジェスチャーを取った。
タケルは何のことかわからずに、とりあえず静かにする。
シャルにそのまま部屋に通された。
しかし、その間も「しー」のポーズは崩していない。
部屋ではクレアがベッドにうつ伏せで寝そべっていた。
「お嬢様、お顔が背中越しにも分かるくらい残念な感じになっていますよ」
「はっ」
慌てて自分の頬をたたくクレア。
背中越しでもその表情は見て取れるようでタケルとシャルはにやにやが止まらなかった。
「どうせタケル様のことをお考えだったのでしょう?」
クレアは軽く鼻歌を歌いながらベッドの上で、両手で頬杖をついて寝そべり、膝を交互に右左立てたり倒したりしている。
「シャル、どうして分かったの?あなた魔法でも使えるようになったのかしら?」
クレアが寝そべって向こうを向いたまま答えた。
「お嬢様の様子を拝見していたら、魔法が使えなくてもすぐにわかります」
「・・・」
「・・・」
「はい、お嬢様、その大好きなタケル様がいらっしゃっています。もうお通ししました」
「きゃー!!!」
クレアは悲鳴を上げてベッドの上に急に立ち上がった。
そして、ギギギと音がしそうな滑らかでない動きで後ろを見るとタケルと目が合った。
「・・・タケルさん?」
「はい、あの・・・お見舞いと謝罪に・・・きました」
「はい?」
「タケル様どうですか?自室にいるお嬢様はいつも以上にポンコツ度が増していて3倍増しでかわいいでしょう?」
「正直、まだ上があったかと自分の経験の浅さを知らされました」
「タケル様もなかなかのものですから今後も精進してください」
シャルがなぜかドヤ顔でマウントをとってきた。
まあ、見た目には無表情だが。
「今後も極めるように尽力します。先輩!」
クレアが侍女たちに好かれているな、とタケルとしてもほほえましい気持ちになった。
「もう、シャル、主人を差し置いてわたくしの婚約者様と仲良くしないでいただける?」
クレアがベッドから降りてシャルの前に出た。
ここでタケルは気が付いた。
クレアはロリータ服のようなゆるふわなドレスに身を包んでいる。
「あの・・・クレアさん、突然なんですが、今日のドレスすごくかわいいですね。クレアさんにすごく似合っています」
「・・・」
クレアが無言のまま後ろを向いてしまった。
タケルは何かまずいことを言ったかな、と思いシャルの方を見る。
「タケル様、タケル様はお嬢様がどんな自慢のドレスを着て行っても、一切気に留めない朴念仁でいらっしゃいます。それが、今このタイミングでドレスをお褒めになられたので、主人が真っ赤になっております」
タケルはクレアの方を見ると、両手で顔を隠して悶えていた。
そのかわいい姿をよく見ていると、クレアは髪も光沢があり、キラキラしている。
サラサラのストレート。
かわいいと言われて真っ赤になって恥じらっている姿がタケルの心臓をギューッと握りつぶす。
タケルには、髪も、服も、恥じらった姿もクレアの全てが愛おしく感じられていた。
「かわいい・・・」
「タケル様、それ以上はオーバーキルかと。お嬢様の感情の大事などこかかが焼き切れてしまいます」
「ぶ、物騒なことを言わないでちょうだい、シャル!」
「でも・・・お嬢様は、先ほどまでタケル様の調教に耐えかねて、悩んでおられたじゃないですか」
「ちょ、調教って!僕は・・・」
「主人が簡単に篭絡されて侍女としては、少々面白くない思いをしていました。ここは意趣返しのタイミングだと!」
シャルが無表情で力強く右手のこぶしを突き上げていた。
「シャル!それ以上は不敬罪ですよっ!」
「・・・出過ぎたことを申しました。タケル様、お嬢様、深くお詫び申し上げます」
シャルがタケルとクレアに深々と頭を下げた。
「まあまあ、クレアさん、僕は全然大丈夫だから!」
「あら?タケルさんはシャルには寛大でいらっしゃるんですか?」
そうだった。
この人には絶対勝てない人だった、とタケルは思い出した。
「クレアさん・・・ごめん。僕は・・・今まであんまり色々興味なかったみたいで・・・」
「どうされたんですか?急に?」
「クレアさんのことは元々かわいいとは思っていたんだけど・・・自分の世界とは交わらない雲の上の存在だと思っていました」
「そんな・・・」
「クレアさんはいつも完璧で・・・僕なんかが取り入る隙なんか無いと思っていて・・・」
「・・・」
「でも、ここ数日、クレアさんと接して、色んなクレアさんを見たらポンコツなところもあって・・・僕と似ているところもあって、本当の意味で『好き』になりました」
「まあ!」
クレアが両掌を口に当て驚いて・・・そのあと涙が次々とぽろぽろととめどなくこぼれ始めた。
「あ、あ、あれ!?僕何か悪いこと言ってしまいました!?」
「タケル様、私の負けでございます。お嬢様を好きに調教なさってタケル様の色に染め上げてください。お邪魔でしたら私はすぐに退室しますが?」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!僕はそんなひどいことをしているわけじゃなくて!」
「お嬢様は成人していますが、まだまだ初心なねんねでございます。段階を踏んで徐々にグレードアップしていけば、タケル様の曲がった欲望も上手に受け止められるようになると存じます」
シャルがかわいらしくスカートの裾をつまんでカーテシーをしてみた。
「もう!主人を変態みたいに言わないで!」
「でも、タケル様と・・・」と言いながら逃げる様に退室した。
「・・・」
一瞬室内が沈黙になった。
「タケルさん、お茶にしませんか?シャルには負けるけど、おいしく淹れる自信はありますのよ?」
「それはぜひいただきます」
また書くのに3日もかかった話です。
しかも、最初に思ったのと全然違う感じに・・・
明日も更新も朝6時です。
よろしくお願いします。




