タケルの1日(夕方~夜編)
王女との打ち合わせがない日で、市場も回る必要がない日は『ユウナギの学校』の打ち合わせをすることがある。
■マティアスの学校・打ち合わせ
建物は専門の職人が建ててくれているので、全く問題ない。
タケルとユウナギはレイアウト図を描いただけだ。
それも、昼間学校の教室を見てそれを書き写すだけなので、あまり難しいことはない。
日本の学校の教室は既に考えて今のレイアウトや広さになっているので、それをそのまま真似するだけで一定以上の完成度になる。
目下の問題は、『教師がいない問題』だ。
ユウナギはあと2年間高校に通うため、昼間は学校に常駐できない。
そのため、企画や教育内容の構成を作ることに集中し、実際の現場作業は別に教師を立てる必要がある。
一時期ユウナギは「私が学校を辞めて先生になる!」と言っていたが、タケルが全力で止めた。
大学についてはユウナギの判断だが、高校も卒業していない人間が誰かを教育するというのはやはり違うと思ったのだ。
ユウナギは「好き/嫌い」や「必要/不要」の判断がすごく合理的だ。
好きな物や興味があるものがあったら、それ以外は必要ないという極端な判断をする傾向にある。
タケルはそれを知っていたので、一時の感情に流されず長い目で見るように言ったのだ。
タケルの意見はユウナギにとって無条件に受け入れられるもので、タケルが悪い人間だったら、ユウナギがどこまでも堕ちる危ない思考だった。
タケルの人柄、ユウナギの性格など色々が微妙なバランスで何とか良い方に成り立っている関係なのだ。
■孤児院・塾
タケルにとって重要なことの一つが孤児院周りだ。
今やタケルが面倒を見ている・・・というか、店を任せているのは6つの孤児院になっていて、それぞれ違う料理を担当している。
その中で最も親しみを持っているのが最初に知り合ったシロが運営している孤児院だ。
最初から現在でも牛丼パンともいえる牛肉サンドのような『バインミー』を販売する屋台と担当している孤児院だ。
子供たちはタケルにやたら懐いていて、『リア(女)』、『ジュウ(男)』『バク(男)』『ハツ(女)』などが中心だ。
ちなみに、孤児院長は『シロ(女)』。
最近はリアがユウナギの塾講師の手伝いをしていて、学校プロジェクトにも参加しようとしていた。
考えてみたら、タケルのやっているところは、1つ1つの『点』ではなく、色々な人間関係が絡まっている『線』とか『面』とかになっている。
色々な人がタケルの周囲に集まってきていることの表れでもあり、やはりタケルは無意識のうちに『魅了』などの特殊スキルか魔法を使っているのかもしれない。
「どこかから、突然先生ができる人材がやってこないかなぁ」
今日は孤児院の塾の日でユウナギも『先生』をしている日だ。
みんなが問題を解いている間、少し暇な時間もある。
タケルと小さな打ち合わせ・・・というにはチープすぎる要するに駄弁りの時間が少しはある。
「そんな都合のいい人材がいたら怖いよ。ユウナギとの信頼関係も分からないし・・・」
「そうね。確かに信用できる人じゃないと任せたくないかも」
「そういう意味では、知識もさることながら、信用が重要じゃないかな?」
「確かに・・・私が信用できる人と言ったら・・・タケル?」
「僕はダメだよ!?第一ユウナギと同じ学校に通ってるし!」
「そうだよね・・・あ!タケル!知識と言えばさ、私のマティアス共用語の知識ってタケルの『インストール』じゃない」
「ああ、そうだね」
「私の知識を誰かに『インストール』できないかな?」
「ああ!それは・・・技術的にはできると思うけど・・・」
「なに?嫌だっていうの!?」
「そうじゃなくて、知識や経験を探るってことは、少なからず考えとか気持ちとかも見てしまうけど・・・大丈夫かな?」
「だめだめだめだめだめだめだめ!そんなのダメに決まってるじゃない!」
「でも、僕の知識だと『先生になりたい』ってのがある訳じゃないから、ユウナギに勝っていると思えないし・・・」
「それでもだめだめだめだめだめー!」
「まあ、別の方法を考える?」
「・・・見たいの?私の気持ち・・・」
「そりゃ・・・気にならないと言ったら噓になるけど・・・」
「やっぱりダメダメダメー!考えてることがタケルに筒抜けになったら私恥ずかしくて生きていけない!」
顔を真っ赤にして手で隠してしまった。
「せんせー!2人でイチャイチャしてないでここ教えてー」
問題を解き終わったジュウが囃し立てた。
「「ユウナギせんせー、顔真っ赤!」」
「もう!やめてよぉ!」
とことんアットホームな塾だった。
■クレアの屋敷・食事
ここまで終わってタケルの1日が終わる。
夕食はまたクレアの屋敷に戻って夕食を食べさせてもらう。
「タケルさん、お疲れではないですか?」
「ああ・・・まあ・・・このところ少し忙しくて・・・」
「なんだか、お顔が土気色していて・・・」
「さっきまで割と元気な顔してたし、クレアちゃんに心配してもらうための演技でしょう~」
ユウナギも屋敷で一緒に食事ができるようになった。
「恐ろしいことを言うなよ、誰かが信じたらどうするんだよ!?」
タケルが慌てて否定した。
「あら、わたくしは構いませんよ?看病までは必要なくても、あとでマッサージをよこしましょうか?」
おしい!クレアは生まれた時からの貴族。
『自分でマッサージする』という発想がそもそもなかった。
「ありがとう。大丈夫だよ」
「働きすぎは良くないからな。ほどほどにするんだよ」アルフレットもタケルの働きすぎは少し心配していた。
「ありがとうございます。中々捌けなくて・・・」
「それだけの量を働いている人間はマティアスにもそういないよ」
マティアスは割とおおらかで、あまり根を詰めて仕事をしている人はいない。
これは国民性もあるだろう。
日本とマティアスを単純比較するのはおかしい話だ。
そもそも時空すらつながっていない2つの国。
日本の常識がマティアスで通じるはずもない。
タケルがへとへとになって食事をしている間中、侍女たちは配膳や給仕など忙しく働いている。
ただ、食べている最中に周囲が慌ただしいと食べる方も食べにくいので、あくまで優雅に。
その点、クレアの専属侍女シャルは優秀だ。
いつも無表情で冷静沈着だ。
目はいつも眠そうなのだが。
誰か一人が忙しいわけではないし、誰かが働いているときは、誰かが休んでいるものなのだ。
それを忘れないようにしよう・・・
■クレアの屋敷・就寝
食事の後は風呂・・・はマティアスにはない。
湯船に浸かる習慣がない。
そもそも『湯舟』もない。
湯船とは日本でも元々船を改造して銭湯を運営していたことが語源なのだとか。
お湯を入れる容器のことを湯船と呼ぶのはかなり特殊な過去があったから。
マティアスでそれが当然の様に通じる訳はなかった。
マティアスの常識では、身体を濡れたタオルで拭いてきれいにすると言う物。
残念ながらシャワーもないので、タケルは自分の部屋にシャワーを設置していた。
それでも湯船(もしくは浴槽)に浸かってリラックスしたいとタケルは考えていた。
タケルは疲れていた・・・
社会に出て20年は経過したおじさんのように疲れていた。
身体が鉛になったようだった。
しかし、寝れば元気になる。
それが若さというもの。
すぐに寝たいところだが、ベッドに入ると『監視者』がいる。
「タケル様、今日はベッドに入る時間が少し早いのではないか?」
タケルがベッドに入ってうつ伏せで枕を抱きしめたころ、すぐ横にメイド服をまとった銀髪幼女が隣に現れた。
フォレスタだ。
最近は絵本からだいぶステップアップして『児童書』になっていた。
絵本は絵本でたくさんの種類があるが、無限というわけではない。
しかも、フォレスタの好みの本をチョイスしていると、段々読んであげたい本が無くなってきた。
そこで、もう少し程度を上げて児童書にしたら、急に選択肢が広がる。
「今日は昨日の続きか?」
「そのつもりだ。どうだ?気に入ってる?」
「うむ、魔法使いが掃除機を持ってくるのはあまり驚かなかったが、子供の口に掃除機の先を突っ込んで言葉を吸い取っていく話は中々斬新だ」
今読んでいるのはどこかの街から魔法使いがやってきて人々の言葉を奪っていく話の本だ。
言葉を奪われた人間は「馬鹿」しか言えなくなるので、周囲とのコミュニケーションが取れなくなり、トラブルを起こすというストーリーだ。
「なぜ言葉を全て失わせず、『馬鹿』だけ残したのか興味深い」
「確かにね。その答えが本の続きがあればいいけどな」
「ないこともあるのか?」
「そうだな。この本は僕も読んだことがないんだ。どんな結末になるのかは僕も楽しみにしているところだよ」
「そうか、では、続きを聞くとしよう」
フォレスタは普通の子供の様に両手で頬杖をついてニコニコしてお話を楽しみにしている。
どんな存在なのかタケルにも分からない彼女にとって、お金も命もそれほどの価値はないのだそうだ。
彼女は何千年も生きているので、心が鈍くなっているらしい。
そのため彼女にとって最も価値があるのは『物語』となっていた。
事実だろうと、虚構だろうと、物語は彼女の楽しみになり、エネルギーになるらしい。
どういう訳か、現在ではタケルと契約していてタケルの使いの者となっている。
彼女が『魔物』の類ならば『使い魔』だろうが、その正体はまだ分からないでいる。
タケルはフォレスタに日々『物語』を提供している。
今日は15分ほど読んだところフォレスタはうつらうつら舟をこぎ始めた。
そのまま寝落ちすることもあるので、今日は意識があるうちに本をストレージに仕舞った。
そこで部屋のドアが控えめにノックされた。
たまには「まとめ」みたいな回をつくってみました。
明日の更新も朝6時です。
よろしくお願いします。




