お嬢様の表と裏、魔法と料理
その後もタケルとクレアと街を歩いて見てまわった。
「クレアさん、慣れてますね」
「そうですね、街にはたまに来ますし、いつもはシャルが色々教えてくれるんですけどね」
「シャル?」
「あ、わたしくの侍女です。小さいころから面倒を見てくれているのですが、年が近いので友達のように接してくれています」
「侍女さんが・・・さすが貴族ですね」
「からかわないでください。わたくしの場合、特別な能力などはありませんので、生まれた家がよかったです」
「生まれた家ですか・・・」
その家に着いたが、改めてみたらすごい家だった。
まず、門が大きかった。
昨日は馬車に乗っていたので、タケルは見ていなかった。
門には門番がいて、チェックの上、門が開けられるようになっている。
馬車が4台は横並びで通れそうな大きな門だった。
クレアの説明によると、ここで門番にチップを渡して口止めしてから通るのがコツとのことだった。
通常は、護衛も連れて馬車で移動するのが常で、服装を偽ってお忍びで市場に行くなんて家としてはNGなのだと言う。
日本には王様がいないので、タケルにはイメージがつかないけれど、クレアは王様の姪に当たる。
普通だったら誘拐や暗殺もあり得るだろうから、何とか言っても一人で出歩ける分、王都は治安が良い街なのだろう。
家に帰ると、クレアに案内されて庭に出た。
庭と言っても、タケルの家の庭とは全く違う庭だった。
なにしろ、敷地の堺が見えないのだ。
タケルの感覚では「公園」と言ってもいいくらいのものが、この屋敷では「庭」だった。
そこの広場(と言っても、テニスコート1面分はあるだろう)でクレアとその両親がいた。
「どうしたんですか?」
「タケルさん、魔法適性を知りたいとおっしゃってましたよね」
「あ、はい!知りたいです」
「これを持ってきたんです」
クレアは少し上等な袋から宝石をいくつか取り出した。
「これは?」
「魔石です」
「魔石?」
「はい、持って魔力を流すと適性のある魔石が光るんです」
「はっはっは、だから婿殿の魔法適性を見ようとみんなで出てきたのだよ」
タケルは思った。「(アルフレットさん、婿殿って・・・)」
「それは、それは・・・でも、僕は魔法なんて使ったことはないので適性自体ないかもしれませんよ?」
「そんなことを言って、マリアを治してしまったし、森での活躍も聞いたぞ」
「ははは・・・あればいいのですが・・・」
「早速試してみましょう!」
クレアが嬉しそうに宝石を1つ手渡してくれた。
タケルはそれを受け取って聞いた。
「これは?」
「それは、水の魔石です。魔力を込めると青く光ります」
「魔力を・・・こめる?ちょっとイメージが出来ないな・・・お手本を頼めるかな?」
「はい、かしこまりました」
クレアが火の魔石を取り出すと、魔石を両掌の上に大事そうに乗せた。
目を閉じ、「火の魔石よ」と唱えると、魔石が赤く光り始めた。
「おお!」
驚いたのは、タケルだけだった。
一般的なことなのだろう。
そういえば、クレアは火属性の魔法が使えると言っていた。
「ささ、タケルさんやってみてください。『水の魔石よ』と唱えて魔石に集中するだけです」
「あ、はい、やってみます」
タケルはクレアがやったように、両掌で水の魔石を持った。
「水の魔石よ・・・」
タケルが意識を集中すると、魔石が激しい光を放って光りだした。
「こ、これは!」
「う、うわ!」
意識をそらした瞬間、魔石の光は収まった。
あまりの光に、屋敷から何人か人が集まってきた。
「あ、いや、何でもないんだ。仕事に戻ってくれ」
アルフレットさんが声をかけたら、使用人の人たちは屋敷に戻っていった。
「期待はしていたんだが、これほどの光を放つとは・・・魔法師としての適性があるかもしれないな」
「魔法師・・・」
「魔法師とは、強い魔法を使える者のことです」
「あれほどの光ならば、訓練次第で宮廷魔法師にもなれるかもしれないな」
「タケルさん!すごいです!」
クレアが興奮して言った。
「他もあるんでしょ?」
「あ、はい」
クレアが持っていた火の魔石を手渡した。
「火の魔石よ」とタケルが唱えるとともに、クレアの時とは違い、激しい赤い光が周囲を照らした。
「こ、これは!?」
「ど、どういうことですの!?」
「え?なにが?」
不安になって、タケルが聞いた。
「普通、適性は1人に1つだけです。2つの属性に適性がある人なんてかなり稀で、この王都でも10人はいないと思います」
AB型のRHマイナスみたいなものかと、全然違う感じだがタケルはそんな感じで理解して飲み込んだ。
「他に魔石はどんなものがあるんですか?」
「土属性と風属性、闇属性と光属性です」
「念のため貸してみてください」
クレアが火属性の魔石を引き取ると、土属性の魔石を手渡した。
「呪文は・・・」
「『土の魔石よ』です」
ピカー!
「次!」
「はい!風です!」
ピカー!
「次!」
「はい!闇です!」
ピカー!
「次!」
「はい!光です!」
ピカー!
呆気に取られているアルフレットとマリア。
目がキラキラしているクレア。
「全属性、適性がある方なんて初めて見ました!」
「そうなんですか」
タケルは何となくすごいことだと理解した。
屋敷からは数人武器を持って集まってきていた。
「旦那様!だ、大丈夫なのですか!?」
「だだ、大丈夫だ!ただちょっと才能がありすぎただけだ!」
使用人たちは合点がいかない様子だったが、アルフレットに言われてそれぞれの持ち場に戻った。
「魔石はこれで終わりですか?」
「はい、魔石はそれだけです。ただ、魔法は『創作魔法』と言うのがあって、自分だけのオリジナル魔法が使える方がおられます」
「なるほど、オリジナル魔法・・・どんなのがあるんですか?」
「そうですね、例えば、けが人を治す『ヒール』とか、イメージした場所に行く『テレポーテーション』、箱の中身を見る『クリヤボヤンス』などがあります」
「けが人はいないし、テレポーテーションは行きたいところがない。じゃあ・・・」
そう言うと、タケルは人差し指を1本立てた状態で唱えた。
「クリヤボヤンス!」
特に対象を考えていなかったが、みるみるクレアの服が透けていく。
「わわ!わわわ!」
「え!?え!?ええ!?もしかして!」
タケルは大事なところが見える寸前で、視線をそらした。
「あ、いや、何にも見えてないから!見えてないから!」
「タケルさん!お顔が真っ赤です!それで見えていないなんて絶対嘘です!」
クレアは服の上から胸を隠して、身体をくねくねして恥ずかしがっている。
「本当に、見えていないよ!ちょっとだけしか!」
「ちょっとは見ているじゃないですか!」
クレアはタケルの方にかけてきていた。
「テレポーテーション」タケルはそう唱えると、次に瞬間には屋敷の屋根の上に移動していた。
クレアは急にいなくなったタケルをきょろきょろしながら探していた。
タケルはなんだか楽しくなって、屋根の上から声をかけた。
「おーい!ここだよ!」手を振りながら大声でクレアに呼び掛けた。
「え!?まさか!一瞬で!」
「まさか!」アルフレットも驚いている。
「テレポーテーション」再び唱えると、タケルは先ほどの庭の広場に移動していた。
「できたみたいです」
「すごいです!全属性魔法が使えて、創作魔法まで使えるなんて!」
「すごいな、他にはどんなことが出来るんだい!?」
「あ、いえ、今初めてできたことなので、どんなことが出来るのか僕にも見当がつかなくて・・・」
「とにかく、タケル!君は面白いな!」
「確か、創作魔法は王立図書館に資料があったはずでは・・・」
クレアが思い出すように言った。
「そうなんだ。チャンスがあれば見てみたいな」
「王立図書館は限られた人しか入れません。ただ、タケルさんは私の婚約者になりましたから、陛下にご挨拶に行くときにお願いすることは出来ると思います」
「ほ、本当ですか!それはぜひ!」
益々深みにはまっていくタケルだった。
翌日、タケルはアルフレットに頼みごとをしていた。
「頼みとは何だね?」
アルフレットも仕事的には忙しいみたいで、部屋で書類の束に囲まれた状態で仕事をしているようだった。
それでも、タケルのお願い事には、少し休憩時間を設けてきちんと向き合って話を聞いていた。
「屋敷のキッチンを使わせていただけないでしょうか」
「キッチンかね。使用人が忙しくない時間なら構わないが、料理でもするのかね?」
「そうです。ちょっと試してみたい料理があって・・・」
「別に構わんよ。材料も周囲の物に言えば大体の物は自由に使って構わないよ」
「ありがとうございます」
「あ、そうだ、タケル」
「はい?」
「例の王立図書館の件と、陛下への謁見の件は、今日書簡を遣わした。おそらく3週間後には謁見になるだろうから」
「はい、ありがとうございます」
さすが、仕事が早い。
おそらくアルフレットは切れ者なのだろう。
アルフレットの部屋から出てきたところで、クレアが待ち伏せしていたかのように顔を出した。
「今度はお料理ですか?タケルさん」
「タイミングがいいなぁ。少し手伝ってもらえるかな?」
「はい、もちろんです」
2人してキッチンに行くと、そこには数人の料理人がいた。
「クレアお嬢様、タケル様、いかかがなさいました?」
キッチンには3人いたが、一番リーダーらしい人間がクレアに挨拶をした。
料理長のクラックさんだとクレアから紹介された。
「少しキッチンをお借りしたいのですが・・・」
「もちろん、かまいません。どのようなものをお作りしましょうか?」
クレアなど貴族が直接料理をすることなどないのだろう。
「キッチンを借りたい」と言ったら「特別に何か作ってもらいたい」と言う意味だと捉えたようだった。
「あ、そうではなくて、料理をしてみたいのです」
「え、料理・・・ですか?それは構いませんが・・・」
クラックはクレアに目で助けを求めているようだった。
「わたくしは、タケルさんの料理を既にいただきましたが、一流の腕でしたわ」
「左様ですか・・・それではご自由にどうぞ・・・必要なものがありましたらおっしゃってください」
あまり乗り気でないのは言葉から感じ取れた。
タケルとしても、特別な料理をしたいわけではない。
ただ、昨日市場に行ったので、試してみたい料理があったのだ。
この世界の料理の基本はまるで分らない。
しかも、どんな食材があるかも分からない。
そこで、タケルがストレージにストックしているものを中心に料理をすることにしたのだ。
・魔物の肉(イノシシっぽいヤツの肉)
・キッチンでもらったニンジンっぽい野菜と大根っぽい野菜とたまねぎっぽい野菜
・食パン
たまねぎ(仮名)は2つに切って、そのあと薄くスライス。
肉は出来る限り薄切り。
それを甘いたれで煮込んでいく。
要するに「牛丼の具」だ。
大根(仮名)とニンジン(仮名)は千切り。
パンには、溶かしたバターを塗って、その上に大根(仮名)とニンジン(仮名)の千切りを少し載せて、牛丼の具を載せパンで挟む。
牛丼のパンバージョンともいえる「バインミー」を作った。
タケルの記憶では、ベトナムのソウルフードだが、タケルも初めて作った。
本当は牛丼を作りたかったが、お米が流通しているか分からないし、市場では見なかったのでパンにアレンジしたのだった。
パン切包丁を出して、一口サイズの食べやすい大きさにカットしてみた。
「鑑定、タケルが作ったなんちゃってバインミー。甘辛いタレと薄切りにされたワイルドボアの肉がマッチしている。パンにはさんでサンドイッチ状になっていて食べやすい点も評価が高い。野菜も摂れるので栄養価的にもバランスが良い」
「ふむ。イノシシの魔物はワイルドボアと言うのか」
タケルは一人納得して、なんちゃって「バインミー」を一口食べた。
まだまだ第8話。
20話くらいを予定しています。
次回更新をお待ちください。
更新は朝6時です。




