異世界クッキング始まる
「んー、葉物の野菜でもよさそうだし、黒コショウとかあってもアクセントになっておいしいかもな。このままなら甘めで子供にも好かれる味か・・・」
「なんちゃってバインミー」の味のタケルの感想だ。
一人納得していると、クレアと料理長クラックと他料理人2人が興味津々で見ていた。
下ごしらえから始めても15分くらいで作ってしまった早さと、見たこともない料理に興味津々なのだ。
「よし、食べても安全だ。よかったらクレアも食べてみてくれないか?あ、よかったら料理長さんたちも」
「もちろんです!いただきます!」
『ありがとうございます!』
さすがに上下関係がしっかりしているみたいで、先に食べたのはクレアだった。
その後、「どうぞ」を促すと料理人たちが試食を始めた。
「これはなんですのー!?今まで食べたことがない味です!でも、おいしい!」
「これは、パンですか!?パンなんですか!?このやわらかいの!」
概ね好評だったみたいだ。
ここでタケルは種明かしを始めた。
「この料理は手づかみだし、この屋敷で食べるには適していないかもしれません」
たしかに、屋敷では毎日ではないだろうが、初日は歓迎の意味もあって豪華な食事が並んでいた。
「でも、見ての通り、調理は簡単だし、早い。そして、肉はワイルドボアの肉です」
「はぁ!?」
料理人たちの顔色が変わった。
そこで、タケルは慌てて続けた。
「ちゃんと適正に処理して、毒はない肉です。僕が先に毒見をしたみたいに」
「なんだ・・・そうなんですかい」
「そうなんです。わたくしもタケルさんの家でいただいたのですが、おいしかったです」
「お嬢様・・・」
料理人はクレアのお転婆ぶりに少し呆れたようだった。
「原材料はただみたいに安い。肉は僕が狩りに行くので原価ゼロです」
「それがそうされたのですか?」
「料理方法も僕が伝えれば、子供でも簡単にできます。多少火を使うので大人の助けは必要ですが」
「そうですわね」
「この『バインミー』の作り方をマスターしてもらって、孤児院の子供たちで市場に店が出せないかな、と思って」
「なる・・・ほど。営業許可は領主であるお父様が出せばいいですし、商業ギルドの許可さえとれば場所も確保できますわ」
「料理はどうかな?市場を見た感じ、どこかに座って食べるものじゃなくて、手に持って食べられるものがほとんどだったからこれにしてみたんだけど」
「たしかに、目新しいし、おいしいし、人気は出そうですわね」
「あとは、微調整を料理人の方にお願いできないでしょうか?市場で食べやすくて、人気が出そうな感じに」
「もちろんやらせていただきます。パンはもう少し薄い方が食べやすいかもしれません」
「なるほど、サンドイッチ用のパンじゃないから厚すぎたかも」
「あと、市場の話とは別なのですが、できればこのふかふかのパンの作り方を教えていただけると嬉しいのですが・・・」
「もちろんいいですよ、あとでレシピを紙に書いてお渡しします」
「いいですか!?このパンは革命ですよ!そんなに簡単に教えてしまっていいんですかい!?」
「この屋敷の料理がおいしくなったら、クレアもアルフレットさんも喜ぶでしょうし、減るもんじゃありません。細かくお知らせしますよ」
「ありがとうございます!」
この日は、1日誰も本物を知らない「バインミー」づくりと試食で過ごしてしまった。
子供でも作れるように調理方法を簡単にしたり、調理器具(魔道具と言う)の選定なども行われたが、タケルとクレアは満腹で夕ご飯は食べられなかった・・・
翌日はちゃっかり、アルフレットから営業許可をもらったタケルは、クレアとともにギルドに場所を融通してもらうように頼みに行くことにした。
クレアの話では、通常は商業ギルドから推薦があって領主が承認して営業許可は出るものらしい。
今回は逆に流れになってしまっていて、許可は取れているけれど、場所がまだ決まっていない状態となっているとのことだった。
タケルの何となくのイメージだったが、社長がOKをしているのに課長あたりの担当に話が通っていない状態みたいで、なんだかトラブルの予感がしたのだった。
しかも、前回の貴族用のギルドではなく、商業ギルドは平民用しかないとのこと。
たしかに、市場で屋台をする貴族なんていないだろうからそれはそうなのだろう。
クレアがいてくれるとなんでも話が通ってしまうので、反感を買わないためにもこの日タケルは一人で商業ギルドに出向いた。
木とレンガでできた2階建ての建物が商業ギルドとのこと。
入り口に看板は出ているが、タケルには読めなかった。
入り口はウエスタンドアになっていた。
ウエスタンドアとは、西部劇の酒場の入り口によく出てくる両開きのドアのことだ。
中は少し見える。
誰でも入って来いと言う意味だろうか。
「ギイ」と音をさせて、商業ギルドの中に入った。
建物の中では、まさに「酒場」と言う雰囲気。
実際に酒(と思われるもの)を飲んでいる人間もいる。
1階にいるのは大体10人くらい。
店はそんなに広くない。
100m2くらいだろうか。
学校の教室の1.5倍くらいに感じられた。
いくつかテーブルが置かれていて、1人ないし2人ずつ座っているようだ。
16歳のタケルにとって、中々ハードルの高い場所だった。
誰に話しかけていいのかも分からない。
少し受付嬢を期待したが、そもそも受付らしき場所がない。
受付自体がないとは思わなかった。
人生とは常に予想しないことが起きるものだ。
どれだけ予想しても、予想を外す結末になるのだ。
タケルはそんなことを考えつつも気を取り直して、周囲の視線を感じつつも奥に進んだ。
1階の奥にはカウンターがあったので、そこが受付になっていると言うわずかな期待をしたのだ。
カウンターには誰もいないのだが。
ところが、店の中央くらいに来たところで、知らない男に話しかけられた。
「にいちゃん、ここがどこだか知って入ってきてんのか?」
男は年の頃なら40歳くらい。
いかにもとっつきにくい感じの男だ。
服もくたびれているし、清潔とは言い難い。
男のテーブルの上には、酒らしきものが置いてあり、既に出来上がっているようだ。
「あ、はい。商業ギルド・・・ですよね?」
「質問に質問で帰すんじゃねえ。知らねえじゃねえか」
なるほど、この男の言うことも一理ある。
「すいません。で、ここ商業ギルドで間違いありませんよね?」
「ここが商業ギルド以外に見えるってのか!?」
いや、酒場に見えるんだが・・・
「お前見ない顔だな。よそ者か?」
「そうですね。マティアスの外から来ました」
「いい街だろ?せいぜい色々食べて、色々買って帰ってくれ」
「いや、僕は屋台を出したくて・・・」
「はっ、よそ者に融通する場所はねえよ」
「そんな!ぜひ、ギルド長さんにお願いしたいと思って来たんです」
「お前のなりを見たらすぐに分かる。お前は職人でも農民でもハンターでもねえ。なんだそのきれいな服は!?」
「あ、この服は借り物で・・・」
「それに、お前のその手!何もしたことがないヤツの手だ」
確かに!
この街の人たちは、子供であっても働いている。
それから比べたら、僕なんて何にもしていないのと同じかもしれない。
「なんだその包みは!?」
「あ、これは、試作品でギルド長さんに食べてもらおうと思って作ってきたんです」
「1個くれよ、ちょうどつまみがなくなったところだったんだ」
タケルが料理人になっていきました。
やりたいことって「料理」なのか!?
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次回もご期待ください。




