クレアのいたずら
『優しい世界』とタケルが心から感じて一日を締めくくろうとしている頃、部屋のドアがノックされた。
「はーい」
夜には基本的に侍女たちは部屋に来ないようになっているので、誰だろうとタケルはドアを開けた。
そこには寝巻に着替えたクレアが立っていた。
「入ってもよろしいですか?」
「はい、もちろん」
クレアを招き入れ、手で誘導した。
何か用事かな、とタケルはテーブルの椅子に腰かけた。
クレアはタケルを通り過ぎて、ベッドに腰かけた。
「タケルさん、テーブルだと事務的な感じがします。こっちにいらしてください」
そう言って、自分の横をパンパンと叩いてここに座るように促した。
タケルはちょっと前、クレアが『お話をしましょう』と言われたのを思い出した。
(ギギギ・・・)と右手と右足が同時に出るくらいにはぎこちない動きでベッドに座る。
クレアがちらりとタケルの顔を見た。
少しギクッとした反応を示したタケル。
「もうっ、そんな反応だと傷つきます!」
「あ、いや、ごめん・・・」
何がどうなっているのか分からないタケル。
クレアが一瞬の隙をついて、タケルの座っている真ん前に押し割って座った。
何が起きているのか、わたわたとしているタケル。
クレアは静かにタケルの右手、左手と手に取り、自分の身体へと持ってきて、目の前に座っているクレアに後ろからタケルが抱き着いた格好にした。
「最近、タケルさんはあまり相手をしてくれないので少し寂しい思いをしていました」
「あ、ごめんなさい・・・」
「大丈夫です。忙しいのは知っていましたから」
クレアは怒っているわけではないらしい。
少しだけ安心した。
クレアが横を向いて後ろにいるタケルに視線を送りつつ言った。
「だから、今日は可愛がってもらおうと思って参りました」
タケルの心臓がクレアにまで聞こえてしまうかと思うほど『どきっ』とした。
その後も『どきどきどきどき』と心臓がうるさい。
クレアはクレアで控えめに言っても美少女だ。
マティアスではイチニを争うお嬢様であることは間違いなく、金髪ロングの髪はシャンプーのCMを思い出すほど美しく、そして流れもいい。
身長は恐らく150cmないだろう。
シルエットは細身でしなやかな感じ。
顔も整っていて、笑顔がかわいい。
その上、知性を感じさせるあたり、こうなろうと思ってもなれるものではない。
素質、環境、全てが最高でないとこの域には到達しない。
クレアはマティアスでは成人になる12歳だが、日本人のタケルにとっては子供に思えてしまいそうだ。
ところが、教育の賜物なのか、そもそもの素質なのか、タケルはクレアには一生勝てないだろうと思わせるほどだった。
「その・・・迷惑だった・・・でしょうか?」
その上、甘え上手とか世界はどこかぶっ壊れてるだろとタケルは心の中で何かにツッコんだ。
「もちろん、そんなことは無くて・・・うれしい・・・です」
少し不安そうにタケルの答えを待つクレアの表情がかわいくて、少し涙が浮かんでいるかのように潤んでいる瞳から目が離せなくて心ここにあらずで答えていた。
タケルは改めてクレアを後ろから抱きしめた。
普段なら照れくさくてこんなことはできないだろう。
だけど、吸い込まれるように抱きしめていたのだ。
「タケルさんから・・・キスはしてくださらないのですか?」
そう言えば、いつも押されてばかりだったような気がする。
クレアのいじらしいアピールは鈍感なタケルでも心の底からぐっとくる一言だった。
タケルはクレアの頬に手を当てて、少しだけこちらを向かせ、自分は身体ごと前のめりでクレアに優しく口づけした。
どれくらいの時間が経ったのか、1秒か、1分か、10分か、短いようで、長いようで、その時間が経過したのち、タケルが口を外してもクレアは目をぎゅっとつぶったままでおとなしくしている。
手は胸のあたりで祈っているかのようなポーズでぎゅっと握られている。
こんなかわいい生き物が他のどこにいるだろう、いやいない(反実仮想)。
気付いたら頭を撫でていた。
クレアは少し力が抜け、目がとろんとして、顔は少し赤みがさしていた。
クレアの金髪の長いまつげを見ていると、コスプレの偽金髪ではなく、本物の金髪なのだとどうでもいいことを考えつつ、その美しさに見とれていた。
気付けば目の前には小さいクレアの耳がある。
こちらも真っ赤だ。
タケルは少しいたずら心が沸いて、軽くクレアの耳を甘噛みした。
「ひゃんっ」
かわいい悲鳴が聞こえた。
「もう!タケルさんたら!」
「ごめん、なんか、かわいくて・・・」
「そう思ってくださるならば、どこかに行かないようにしっかり捕まえておいてくださいね」
「うん、絶対に離さないよ・・・」
それは、タケルが言いたい言葉なのか、クレアが聞きたい言葉なのか、それは分からないけれど、二人の心が近くなっているのだけは確実だった。
「僕・・・ドキドキしてるよ」
「わたくしも・・・こんなにドキドキしたことはありません・・・」
タケルがクレアの髪をなでる。
クレアの表情は笑顔のような、恥ずかしいような、上気した赤みのさしたもので、すごく大人びて見えた。
「タケルさんの世界では成人は20歳なんですよね?」
「うん?そうだよ」
「タケルさんから見たらわたくしは『子供』でしょうか?」
こんなにかわいくて色気がある女を前に誰が子供だと思うだろうか。
訴えるような瞳はタケルの心をざわざわとざわつかせていた。
色々な意味で自分を留めるのに必死だった。
そんな折、クレアが再びタケルの手の甲に自分の掌を添えるようにして、左右の手をとった。
「タケルさんが留守の間にわたくしも少し成長したんですよ?」
そういうと、タケルの両掌を自分の胸に導いた。
一瞬何が起きたか分からなかったタケル。
気付けば、目の前でクレアがプルプル小刻みに震えながら、タケルの手をクレアの胸に当てている。
膨らみかけのそれは、以前を知らないので、成長したかどうかは分からないけれど、服の上からのシルエットで見る印象よりも柔らかく、そして布1枚向こうはすぐ素肌で、とても貴重な体験をしていることに気づく。
心臓は口から飛び出してしまうのではないかと思うほど(ドッドッドッドッ)となり続けている。
布1枚隔てていると言ってもこの感触。
タケルは少し指を動かしてみたくなった。
「ああんっ!」
とたん、声を上げるクレア。
その顔は真っ赤に熟れた果実のようだ。
「ごめんなさい、変な声が・・・」
タケルも顔が熱い。
きっとクレアの様に真っ赤になっていることだろう。
手は震え、肘や手首は油が切れたロボットのように動きが悪い。
布越しに伝わる掌の感触から突起を感じた。
タケルは自分の手を少しだけずらして親指の付け根と人差し指の付け根の部分でそれを軽く挟んでみた。
「・・・」
反応がなくて少し残念に感じた。
ただ、クレアは(はっはっはっはっ)と過呼吸ではないかと心配になるくらい呼吸が早い。
親指の腹でその形をなぞってみた。
「ああっ!」
クレアは恥ずかしさからか顔を両手で隠してしまった。
掌の隙間から見える目には少し涙が浮かんでいた。
「どうして変な声が出てしまうのか・・・(ぐずっ)」
なんだかいじめてしまったような気になってしまい、申し訳ない気持ちになってしまうタケル。
急に邪な気持ち100%だった自分が恥ずかしくなり、改めてクレアの髪を撫でて落ち着かせてあげるタケル。
「・・・うにゅう、ダメな子で失望しましたか?」
「いやいや、最高潮にかわいいと思ったよ」
「もうー、絶!対!タケルさんを夢中にさせて見せますからね!」
100%以上は絶対にない時に、これ以上を狙うとは、タケルは自分がどうにかなってしまうのではないかとすら思った。
「シャルと一緒に作戦を立ててきます。また・・・かわいがってくれますか?」
作戦なんていらなくて直球で勝てないのだから、それ以上は・・・これがタケルの本音。
「いつでも来てください。大歓迎です」
タケルはベッドの前に立ち、クレアに手を差し伸べる。
「立てますか?」
「はい・・・」
そう返事をしたものの、クレアはいっこうに立ち上がらない。
タケルがどうしたのかと見守っていると・・・
「ごめんなさい。腰に力が入らなくって・・・立ち上がれません。シャルを呼んでいただけますか?」
「あらら・・・じゃあ、僕が部屋まで連れていきますよ。シャルさんにはドアを開けてもらおうかな」
お姫様をお姫様抱っこするタケル。
シャルの案内で、クレアを部屋まで連れていく。
幸い廊下はどこも広いので、歩きにくいということはなかった。
シャルは誘導しながらも人差し指の第一関節の部分をあごに当てながら何かを真剣に考えている。
お願いだから『作戦』は立てないで、と思いながらついていくタケルだった。
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