理想のタケルと現実のタケル
久々にタケルが孤児院に行くと、また子供たちが集まってきた。
「タケル!ひさしぶりだな!何で来ないんだよ!」
「ごめん、ごめん、何か色々忙しくて・・・気にはなってたんだ」
「まあ、いいや。また改良したから見てよ!店に出していい!?」
「分かった、分かった。今日は1日いるから試食を作ってよ。一緒に食べて決めよう」
「分かった!飛びきりおいしく作るから待ってろよ!」
「待て待て、普通で作らないと商品にならないだろう。普通においしく作ってくれ」
「普通なのにおいしくって、難しいことを言う。さすがだな騎士様は!」
「お前も知ってるのか!頼む、普通に話してくれ」
「貴族様に生意気なことを言ったら怒られるけど、タケルはどっちかっていうとこっち側だと思うなぁ」
それは、悪口でもなんでもなくて、タケルのことを仲間として認めている言葉でタケルとしては『誉め言葉』として受け取っていた。
「おべっか使っても、味の評価は下げないからな!」
「ちぇっ、バレたか」
いたずら小僧がしてやったりの顔をしていた。
「あ、ジュウ、そう言えば、リアを知らないか?」
ちょっと前、なんだか気まずい感じになってそのあと顔を合わせていないことに気づいた。
「リアはもっと稼ぎの良いところに出稼ぎに行ってるよ?」
「え?他の街ってこと?」
「いや、貴族様の手伝いをしているらしい」
「へー」
「食べ物を売るより稼ぎがいいらしいぜ」
「マジか。いつなら会えそう?」
「とりあえず、毎日帰ってきているから夜には会えるよ」
「遅くまで働いてるんだなぁ」
「あ、でも、タケルから言われたように、1日の働く時間は守ってるみたいだよ」
「そうなのか!偉い!」
「ただ、仕事じゃないけど、弟とか妹とかの面倒も見てるし、暇な時間はほとんどないと思う」
「は、働き者だ」
「でも、ちゃんと勉強もしてるんだよ!」
「すげぇ。僕じゃとても真似できないよ・・・」
「なんか、タケルのことがすごく好きみたいだよ。あ、これ俺が言ったって言わないでくれよ!」
「ああ、分かった。ああ、なんか、好かれていて嬉しいけど・・・なぁ」
「リアはタケルに見てもらおうと一生懸命だから、とりあえず見てあげてよ」
「ああ、もちろん。邪険にはしないよ」
その後、孤児院のシロさんにも会った。
「お久しぶりです。タケルさん、いえ、タケル卿」
「あ、まだ、そのくだり必要ですか?今まで通りでお願いします。僕に騎士は似合いません」
「そうですね、失礼ですが、『騎士様』というよりももっと身近な存在ですね・・・」
「なんか、そっちの方が嬉しいです」
「騎士様と普通に話ができるなんて、私も偉くなったような気がしてウキウキします」
面白い考えの人だ。
時に子供のようだけど、孤児院を運営するなどしっかりしているところもあり、タケルとしては尊敬するだけの十分な理由のある人だった。
「最近の孤児院は何か変化はないですか?」
「そうですね。タケルさんがやってくれている『勉強』が少しずつ実を結んできていますね」
「え?もうですか?」
「そうですね、やっぱり一番はリアですね。読み書きと計算を覚えて、今では貴族様のお屋敷で働くようになっています」
「ほんとですか!最初は勉強嫌がっているみたいだったのに・・・」
「タケルさんが言ってくださったからです」
「いや、僕は本当になにも・・・」
「いえいえ、タケルさんが言ってくださった次の日からですよ、リアの目の色が変わったのは。何か目標ができたのかしらね」
シロさんがちらりとタケルの方を見た。
特に何かを聞いたというわけではないのだろうが、何か察しているのかもしれない。
タケルはリアに何かすごいことを言い逃げ去れたような気がしていたが、色々忙しい時だったので、ちょっと忘れてしまっていた。
そういう意味でも、もう一度リアに会って何を話したのか思い出したいところだった。
他の子供たちにも話しかけてみることにした。
「勉強してるか?」
「うん!ほら!書いたよ!」
孤児院の子供が紙に『タケルすき』と書いて持ってきてくれた。
顔も書いてあるので、きっとこれは自分の顔なのだろうとタケルは思った。
「ありがとう!嬉しいよ!」
「私も将来タケルのお嫁さんになる!」
「そうか、そうか。大きくなるのを待ってるよ」
高校生らしくない社交辞令を子供に対して返してしまったが、『私も』の『も』の部分が少し引っかかったが、わざわざ言うほどでもないので、スルーした。
個人での授業風景を見ても、それぞれ大画面の動画を見ながら授業を受けていたり、ノートに書きものをしていたり色々だ。
字が読めるだけでも色々騙されないようになるし、自分で書けるようになると将来の可能性も広がってくる。
そういう意味では、少し勉強するだけで成果につながりやすいと言える。
ふと見ると、計算問題をしている子供が鼻歌を歌いながら問題を解いている。
「何歌ってるの?」
「九九の歌だよ」
確かに、口ずさんでいるのは九九だが、曲はどこか聞いたことがある曲だった。
「この歌を歌うと掛け算が解けるんだ」
「そんな歌が!」
「広場で女神様に教えてもらったんだ」
でた!女神!
「『女神』様はいつでも広場にいるの!?」
ちょっと前のめりになるタケル。
「夕方くらいかなぁ、昼は忙しいんだって」
女神が忙しいとは!?
タケルはその女神に会ってみたくなって、孤児院を出て広場を目指した。
途中、商売ギルドのギルド長タザーに会った。
目が合うと、ちょっと強面のタザーがすごい勢いで近づいてきて、タケルがちょとのけぞっていると、肩をガシッと組んできて言った。
「タケル卿よ。おめぇほんとにすげえな。マジで領主様になっちゃうんじゃないのか!?」
「あ、それまだ続くんだ・・・いつも通り『タケル』でお願いします。僕には過ぎた感じだし・・・」
「まぁ、どっちかっていうとお前は商売人だよな。騎士って・・・」
タザーの言い方も「お前はこっち側だろう」と言いう意味合いでタケルはむずむずと嬉しさがこみあげてきていた。
「そうだ!お前!また王都中央公園の方で新しい店出すんだろ!こっちにも新しいメニューを考えやがれ!」
「ああ・・・成り行きで・・・こっちのメニューは無限に考えられるので、また試食を持ってきます」
「頼むぞ!こっちは生活が懸かってるからな!」
「僕も稼がせてもらってますので」
「お前はもっともっと稼げ!そして、領主様になって俺に何か優遇してくれ!」
「そんな直接的な・・・」と苦笑いのタケル。
「お前試食持って来いよ!待ってるからな!」と指をさしながら後ろ向きで歩いていくタザー。
こんなに頼りにされていいのだろうかと、小さなプレッシャーも感じていた。
みんなが思い描く『タケル』に追いつくのに精いっぱいだった。
理想の『タケル』が1歩、2歩先を進んでいるような気がして、それを追いかけ続けるような不安感にも似た何かの感情を持つタケルだった。
昨日総PV1万3千行きました!
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