アルテーシアサイド
この日は朝から天気が良かった。
クレア様にどうしても聞かなければならないことがあった。
「大丈夫よ、アルテーシア。私はうまくやれるわ」
つぶやくように自分に言った。
周囲で着替えを手伝っている侍女たちにも聞こえない程度の小さな声。
失礼とは思ったけれど、クレア様にお願いをしようというのにお茶会と称して呼びつけてしまった。
出来れば短い時間で決めてしまいたいけれど、難しい問題だから最初は世間話から入って、最終目的を達成させたいところ。
私の『弱点』を悟られることなく、『お願い』は通す。
難しい交渉事だわ。
国政や交渉事は実に簡単だわ。
昔から、私には目の前の人が嘘を言っているか、真実を言っているか分かる能力があるようだった。
言うならば、その人の考えていることが分かる。
時には声が聞こえるし、時にはその人の考えている言葉が文字となって目の前に浮かぶこともある。
塩や穀物を買うような交渉ごとの場合、相手は必ず「最上の結果」、「最低の結果」、「落としどころ」などを準備している。
「最低の結果」まで追い詰めたら、相手は商売としてやっていくことはできない。
「最上の結果」まで譲歩してしまったら国の資金はどれだけあっても足りない。
相手の「落としどころ」前後でこちらの希望を提案すれば話し方次第ですぐに話は通る。
だから、どんな難しい話し合いも10分もあれば話がつく。
私は予想外のことにはすごく弱い。
ほとんどの場合事前に見えているので、予想外はない。
それで何とか、かろうじて王女としての立場を保っている。
それが、今日は「本物のお嬢様」であるクレア様がいらっしゃる。
昔からキラキラしている私の従妹。
馬車が王城に入ったのも見えた。
本物のお嬢様というのは馬車の佇まいもかっこいい。
「アルテーシア様、クレア様が到着されました。談話室でお待ちです。」
侍女の一人が知らせに来てくれた。
「分かりました。すぐに参りましょう。その前に一旦全員退室して頂戴」
「かしこまりました」
3人ほどいた侍女は一旦退室した。
(ポコポコポコポコ)「クレア様がいらしたわー!クレア様!クレア様!クレア様!」
アルテーシアが部屋の壁を両手でポコポコと叩いて興奮を隠しきれないでいた。
「・・・」
(ガチャ)「参りましょう」
ドアを開けアルテーシアがりりしい顔で出てきた。
*
談話室に入ると、クレア様!
あのクレア様が座っておられる!
きゃー!クレア様ぁ!
顔ちっさぁ!
目おっきぃ!
髪さらさらー!
ああ、抱き着きたいっっ!!
かわいいーー!
「ごきげんよう、クレア様」
アルテーシアは、できるだけ冷静に挨拶をした。
「ごきげんよう、アルテーシア様、本日はお招きありがとうございます」
立ち上がった所作が素敵ーー!
かわいいー!
そして、ごめんなさいー!
今日はこちらの勝手な都合で呼びつけてしまってー!
心が痛い!
座ったけれど、既に掌が汗でびっちょり。
緊張するー。
目の前の人がどんなことを考えているか分かる私でも、クレア様が考えていることは分からないことが多い。
血がつながっている分、自分に近いからか・・・
*
しばらくして限界が来た。
この緊張と、『クレア様愛』を叫ばずにはいられない。
アルテーシアは目で侍女に合図をした。
「アルテーシア様」
「はい、クレア様、少し失礼いたします」
アルテーシアは一旦退室した。
自分の部屋に戻ると、人払いをした。
「きゃー!クレア様かわいーっ!!」
「目がおっきいー!そして、きれーっ!」
アルテーシアはベッドに倒れこみ、両足をバタバタさせながら誰にも聞こえないように枕に顔をうずめて叫んでいた。
「かわいい!かわいい!かわいい!」
ベッドの上をごろごろと転げまわった。
次の瞬間、キリっと表情を切り替え、すっくと立った。
(ガチャ)扉を開けて、自室を出た。
「戻りましょう」
「かしこまりました」
侍女の後についていき、談話室に戻った。
そう、お気づきだろうか。
アルテーシアは、どうしようもなくポンコツだった。
いや、クレアが『ポンコツ』ならば、アルテーシアは『ドポンコツ』だった。
クレアのポンコツぶりはシャルがよく知っていて、問題が起こりそうな場合は事前に何とかするのもシャルの仕事だ。
一方、アルテーシアは身近な侍女たちにもその本性を隠していた。
隠しきれているかは疑問だが、少なくとも本人は隠していると考えていた。
そして、アルテーシアのこの日の最大の『目的』は、クレアに会うことではなかった。
この日の目的は、『タケルとの結婚を譲ってもらうこと』だった。
アルテーシアとタケルが初めて会ったのは、父親である国王の導きで挨拶をする程度のものと思っていた時。
目の前に見たこともないおいしそうなスイーツがテーブルいっぱいに広がっていた。
甘く、すごくいい匂い。
なにこれー!?
食べてみたいー!
でも、王女の私がふらふらつまみ食いは出来ない。
すっっっごく食べたかったけれど、侍女に下げられてしまった(涙)
あれ、あの丸く色鮮やかなお菓子を食べてみたかった・・・
その後ももう一度チャンスはあった。
この時は一口食べることができた。
でも、ダメだ。
おいしすぎる。
こんなにおいしいものを、素を出さずに食べるなんて私には出来ない。
血の涙を流す思いで次の一口をあきらめた。
あまりの悔しさに歯を食いしばっていた。
タケル様、純粋に周囲を幸せにしようとしているあの考えに気を惹かれた。
腕を見たら、細いのにしなやかに筋肉がついている
本人は気づいているのだろうか、魔法も全属性使える。
こんな男性見たことがない。
さらに、この世のものとは思えない程の知識。
魅力の塊だった。
将来性の塊だった。
クレア様がいやいや婚約しているのならば、代わってもらおうと思っている。
そんなことが成り立つのかどうかは分からないけれど、とにかくそう思ったのだった。
でも、本当にそんな人間離れした人間がいるのだろうか。
念のためにそれとなく聞いてみた。
「突如、あの魔の森から現れた人間が、孤児院を救い、街の経済を救い、クルーガクとの戦争を回避させた、と。そんな神様みたいな人間は存在しないのではないかと。お父様かアルフレットおじさまの策略で作られた伝説では、と」
「タケルさんは作られた存在ではありませんよ?お父様も驚いてばかりです。しかも、最初のうちは婚約に何となく反対していました。最近は認めてくれているようですが」
やっぱりそうですよねー!
結局、それ以上何も言えなかった・・・
本当は30分程度のお茶会で話を聞きだし、結婚を譲ってもらうという非常識なお願いをしようと思っていた。
だけど、クレア様は考えていることが聞こえないし、見えない。
だらだらと話が長引いてしまい、結局夜までかかって、何も言えなかった・・・
たった一つ分かったことは、クレア様はタケル様のことがお好きということ。
さて、どうしたものかと考えをめぐらすアルテーシアだった。
相変わらずストックはありません(汗)
毎日書いてます。
何かコメントにキーワードが書いてあれば、翌日分にその文字を忍ばせます。
いや、そんなことできるのか!?
明日も朝6時に更新です。
よろしくお願いします。




