アルテーシアとクレアだけのお茶会
シャルが自分の屋敷に戻ったのは、もう夜の帳が下りたころだった。
アルテーシアのお茶会は過去にも開かれたことはあったが、このような長時間に及ぶものは過去に例がない。
この噂が広まればマティアスの全領内の話題になること必至の大ニュースだ。
元々、アルテーシアは全てに対して完璧でありカリスマ性が高すぎるため、謁見の時間はかなり制限されていた。
もちろん、国政にもかかわっていたので、そのための各方面との面会、その他に縁談なども含めると長くて10分程度が常だった。
毎日のスケジュールは分単位、まさに激務を極めていたのだ。
シャルは帰りの馬車でまさに夢見心地。
フワフワした気分で帰ってきていた。
少し魂が出かかっているかもしれない。
隣に座っているシャルは少し疑問に思っていることがあった。
少し頭をひねっていたが、話し相手になりそうな主人は相変わらずポンコツで一人浮かれている。
シャルが疑問に思ったことについて話し合うことができない。
一人はふわふわのにこにこ。
一人は無言でずっと首を傾げている。
シュールな光景が馬車の中で繰り広げられているのだが、馬車は静かに屋敷に戻っていくのだった。
*
話は今朝に遡る。
この日王宮には珍しくアルフレット(クレアパパ)の家の馬車が乗り入れた。
中にはクレアと侍女のシャルが乗っていた。
「クレアお嬢様、相手はお嬢様にとって従妹ではありますが、王女です。いつものポンコツ具合を披露しない様にご注意ください」
「そそそそそんなこと、わかっていますわ。わたくしは政治とかお付き合いとか苦手なのです」
「だからこそ、ずっとアルテーシア様を見習って参りましたしね」
「確かに、憧れです。このところ貴族の娘としての仕事はおろそかだったので少し不安があります」
「確かに、最近はタケルさん、タケルさんと・・・おひとりの時のお顔はとてもタケル様にお見せできるものではありませんからね」
「そんなにひどくありません!」
はあ、とため息をつくシャル。
タケルに見せられないと言ったけれど、そんな主人の様子はたまらなく可愛く思え、愛おしく思っていた。
シャルは主人としてだけではなく、人としてもクレアのことが本当に好きだった。
そんなやり取りをしていると、馬車は王城に着いた。
すぐに談話室に通された。
通常の談話室だと、端から端まで20人は座れるような長テーブルが準備される。
ところが、この日は全部で4人程度しか座れない小さめのテーブルが準備され、椅子は2つ。
アルテーシアとクレアだけのお茶会なのだ。
シャルは入口付近の壁近くで待機していて、横にはアルテーシアの侍女も同じく立って待機していた。
少し時間をあけて別の侍女がドアを開け、アルテーシアが入ってきた。
「ごきげんよう、クレア様」
「ごきげんよう、アルテーシア様、本日はお招きありがとうございます」
クレアも立って挨拶をした。
「クレア様、これは公式な会見ではありませんし、私たちは従妹同士です。今日は気軽にお話ししてください」
「ありがとうございます」
2人が椅子に座り『お茶会』はスタートした。
アルテーシア側の侍女がお茶の準備をし、カップがそれぞれに提供されたところで先に話題を振ったのはアルテーシアだった。
「そう言えば、最近ご婚約なさったそうですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます。たまたまご縁があり、婚約の運びとなりました」
「どのような方なのですか?」
「元々マティアスの住人ですらなかったのですが、一目見てその将来性に惹かれました」
「まあ、クレア様がそうお思いになられるくらいならば、有望な方なのでしょうね?でも、侯爵家の令嬢であられるクレア様が婚約せずともお雇いになられたらよかったのでは?」
「そこは直感でした。その後も接するたびに人柄にも惹かれてしまって・・・」
「まあまあ、惚気られてしまいました」
「そ、そんなつもりはっ」
その後もたわいもない会話が続き、昼食を共にとり、午後からも女子会は続いた。
最初のうちはお互い敬語で話していたのだが、午後にもなると段々と打ち解けて昔の様に普段の言葉で話していた。
女子会は順調だった。
全てが順調なのだが、シャルは一つ疑問に思っていることがあった。
アルテーシアがちょくちょく退室するのだ。
部屋にいるのは長くても1時間程度。
早い時は30分程度で退室し、5分程度したら戻ってくるのだ。
最初は花摘み(トイレ)と思っていた。
2度、3度と抜け出しても詮索しては失礼と思い、何も考えていなかった。
しかし、朝から始まった『お茶会』はランチを過ぎ、昼過ぎになっても続き、アルテーシアは何度も抜け出した。
「そろそろ、お開きですかね」
「そうですね。気づけば遅くなっていました。時間を忘れてしまいました」
「クレア様、実はタケル様とは政略結婚ではないのでしょうか?」
「まあ、どうしてそう思われるのですか?」
「突如、あの魔の森から現れた人間が、孤児院を救い、街の経済を救い、クルーガクとの戦争を回避させた、と。そんな神様みたいな人間は存在しないのではないかと。お父様かアルフレットおじさまの策略で作られた伝説では、と」
「タケルさんは作られた存在ではありませんよ?お父様も驚いてばかりです。しかも、最初のうちは婚約に何となく反対していました。最近は認めてくれているようですが」
「まあ、そうでしたか。噂は伝え聞こえていましたが、本当のこととは信じきれないでいました」
「ご安心ください」
「望まぬ政略結婚ならば、私が代わって差し上げようかと思っていたほどでした」
「アルテーシア様が身を挺して?それは恐れ入ります」
国の王女が侯爵家の娘ごときのために身代わりになどなるはずがない。
クレアはこの音場をリップサービスだと思った。
しかし、後にこれが本気の言葉だと分かる時が来るのだ。
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