クルーガクの災難
タケルハウスの扉が勢いよく開けられた。
そこには、斥候たちが全員戻ってきていた。
「どうした!?失敗か!?」
さっき前大量の料理を前にゆるんだ顔をしていたゴーストンが一転、キリっとした表情で斥候たちに質した。
「『仕事』は完了です。頂と周辺を仕留めました」
恐らく隠語でトップと側近の暗殺に成功したということだろう。
「じゃあ、どうした。とりあえず、中には入れ」
「はい」
*
リビングで斥候たちは立ったままだ。
ゴーストンは座っている。
地位的にはゴーストンの方が上らしい。
タケルが立って飲み物を準備しようとしたらゴーストンが制止した。
「タケル様、そのままお座りください」
「はい」
誰が上か知らしめるのもゴーストンの仕事らしい。
タケルは言われるまま、ゴーストンと同じく座っている。
「報告しろ」
ゴーストンが鋭い目で斥候たちに命令した。
「ははっ!クルーガクはまだ出兵していませんでした。頂と周辺は仕留めましたが、疫病が蔓延していました!」
「疫病だと!?どの程度だ!?」
「森だとこの先で鳥やねずみなど野生動物が死んでいます。クルーガクでは都で人間にも病気が流行っていて、一部は死んでいました」
「タケル様、これはまずいです!」
「ちょっとそこに並んでください」
「おい!急いで我々も避難しないと!」
「落ち着いてください。僕はヒールが使えます。万が一、病気にかかっているとしても治すことができます。もう一度言います。そこに並んでください」
「「了解しました!!」」
タケルはヒールを使えるようになった訳ではないが、過去に病気やけがを治したことから『なんとかも方便』と判断した。
斥候たちはリビングに横一列でならんだ。
タケルは小さい声で『鑑定』を唱えた。
『ウイルス感染者ゼロ。負傷者1名。脇腹に切り傷あり。治しますか?YES/NO』
「(YES)」
「大丈夫です。彼らは病気にはかかっていません。一人だけ脇腹をケガしていましたね。治っていると思いますけど、どうですか?」
「おお!痛くない!治っている!」
「ほんとか!?」
斥候たちは口々に怪我が治っていることに驚いていた。
狙ってはいなかったが、ケガが治っていることで、ヒールが使えるということと、『病気にかかった者はいない』と言うタケルの発言に信ぴょう性がでていた。
「フォレスタ」
タケルがフォレスタの名前を呼ぶと、タケルの陰からフォレスタが表れた。
「どうしたのじゃタケル様」
「うわ!びっくりした!いつからそこにいた!」
ゴーストンが驚いた。
ゴーストンの問いかけは華麗にスルーしてタケルはフォレスタに質問した。
「森に病原菌は来ているか?」
「確かにこの先に病はあるな。ただ、ここは魔の森じゃ。あのくらいの病はなんでもない。他の場所にはもっと強い病もある。森としては通常運転じゃ」
「それは良いことなのか・・・」
フォレスタは斜め上に視線をそらせた。
まあ、深刻なことではないらしい。
「クルーガクのことは分かるか?」
「あそこは森の外じゃ。わらわには分からん。じゃが、相当数の人間が集まっておるな」
「相当数ってどれくらい?」
「1520人くらいじゃな」
「『くらい』の割に具体的だな」
「クルーガクはいつも大目に言うから2000人とか3000人出兵と言うんだろうな」
「ちょっと待ってください。クルーガクって国では謎の伝染病が蔓延していて、人も死んでいるってことでしょ!?」
「『デンセンビョウ』ってなんだ!?」
ゴーストンが聞き返した。
「ああ、流行り病のことを僕の生まれ育った場所では伝染病って呼んでます」
「へぇ」
「王様か大統領か分からないけど、仕留めたのに兵隊が出兵しようとしているってことでしょ!?」
「報復ってところかな。圧倒的な力を見せつけたことにはならなかったみたいだな」
「ゴーストンさん、クルーガク軍が攻めてくるってことですか!?」
「そうなるな。早く戻ってこちらも軍を配備しないと!何としても止めないとな!」
「止めないとどうなるんですか?」
「当然、帝都マティアスが凌辱されるだろうな。しかも、病を持ち込まれたら・・・」
「大変じゃないですか!」
「それだけじゃない。クルーガク軍も第2陣、第3陣がある可能性もある」
「ここで僕がクルーガク軍を全滅させたら第2陣、第3陣を止めることができますかね?」
「そうだな。圧倒的な力でクルーガクの人民の魂魄に刻み付けるほどの恐怖を与えることができれば、あるいは・・・な」
「・・・フォレスタ。手伝ってくれるか?」
「ご主人様の思いのままに。多少は『養分』をとってもいいのじゃろう?」
フォレスタはにやりとして答えた。
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