野営と人生相談
魔の森1日目は何事もなく進んだ。
夜は野営だ。
まだ1日目なので、タケルもキャンプ気分でちょっと楽しい気分でいた。
夕飯はゴーストンの希望で『幻のスープ』ことクリームシチューとなった。
同行した斥候たちにもどよめきが起きていた。
その他、キャンプと言えば、肉だろうとタケルストックの肉をステーキ的に焼いて食べることにした。
「タケル、すごい料理だな。野営とは思えないぞ。下手したら、うちの普通の夕飯より豪華かもしれん」
「それは良かったです。焚き火ってなんかずっと見ていられるし、たまには野営もいいですよねぇ」
「ただな、忘れがちなんだが、ここは『魔の森』なんだよ。普通は言ったら生きては出られないもんだ。こんなに肉焼いて食ってて大丈夫なのか・・・ほら、他のやつらも疲れ切ってる・・・」
「まあ、大丈夫ですよ、きっと・・・」
魔の森の主が目の前にいるのだ。
それ以上の危機があるわけがない。
日中も半径1km以内の魔物は狩っているので、初日は魔物の姿を見ることもなかった。
冒険ものにありそうな鬼気迫る戦いも何もあったもんじゃない。
そもそもタケルは戦闘の素人だった。
修行も何もしていないので姿が現れる前に狩ってしまうというズルで狩りをしてきた。
簡単に狩りができる方法を思いついた後で、わざわざ命をかけるような戦闘をする人がいるだろうか。
「ああ、僕は戦闘には向いていないんだなぁ」
焚き火の日を見ながらタケルがつぶやいた。
「そうなのか?まあ、訓練はしてないみたいだからな。訓練してやろうか?色んな魔法やスキルがあるみたいだから併用したらすごく強くなるだろう」
「ちなみに、訓練ってどれくらいかかりますか?」
「まあ、5年から10年したら一人前になれるんじゃないか」
「5年・・・」
現代っ子タケルが5年も訓練できるのだろうか。
恐らく無理だろうとタケルは考えていた。
いつかクレアやユウナギと話したみたいに、将来のことを考えていた。
冒険者もかっこいいと思っていたが、あまりわくわくすることがなかった。
チートで勝っても、ある日能力が無くなってしまったら立場も危うくなり、仕事も失い、全てを失うのだ。
やはり、努力して身に着けた能力は安心感がある。
考えてみれば、商人としての仕事もそうだった。
出来たからやっているにすぎないとタケルは考えていた。
「どうした、タケル」
「あ、すいません。ボーとしてしまって・・・最近色々あって・・・あと、将来のこととか」
「お前くらいの年齢で将来を決めてしまうってのは難しいだろう。生まれで職業が決まった昔じゃないんだ。色々失敗しながら決めたらいいんだ」
「そう・・・ですね。失敗してもいいんですね」
「ああ、失敗は若いうちにしろ。歳を取ってからはどうしても失敗を恐れるようになる」
「失敗・・・僕が生まれたところは失敗が許されないところでした・・・」
「いいんだよ。失敗しても。その時は責任を取るのが大人の仕事だ」
「ゴーストンさんはいい上司ですね」
「ふ。騎士団に入りたくなったらいつでも来な」
「僕に向いている職業を考えて、騎士だったら・・・お願いします」
「まあ、タケルはクレア様と結婚して貴族になるんだったな」
「貴族ってどんな仕事をしてるんでしょうね。正直想像できなくて・・・」
「まあ、領内のすべてがうまくいくようにするのが仕事だろうな。領主様がいるから俺たちは安心して生きていられるってもんだ」
「領内のすべて・・・ってことは全ての仕事をしても問題ない・・・」
「またとんでもないことを考えてないかぁ?」
「ははは」
タケルはゴーストンと斥候たちのために酒を準備していた。
ただ、どんな種類がいいのか分からないので、テレビでCMをやっていたウイスキーを買ってきていた。
ゴーストンも斥候たちも驚き、喜んでいたが寝酒程度にしか飲んでいなかった。
気が抜けないのか、仕事熱心なのか・・・
タケルとしては全員に眠ってほしいと思っていたのだ。
そう、全員が寝ているすきに森の反対側まで全員をテレポートさせればいいのだ。
能力のことも秘密にしたままで、移動を早めることができる。
そのために・・・
「ちょっとそこらへん場所開けてください」
「どうした、どうした、タケル」
「よいしょ、と」
タケルは昼間にストレージに収納したタケルの家を取り出した。
基礎ごと引っこ抜いてストレージに収納したので、取り出してもそのまま住める状態だ。
「おいおい、非常識だな。昼間家をひっこめた時も思ったけど、とんでもないことできるんだなぁ」
「野宿って慣れてなくて・・・多分、寝られないので」
「いきなり野営の常識を覆したな」
「まあ・・・」
「じゃあ、食事の前に家を出したらよかったんじゃないのか?」
「焚き火は男のロマンだから・・・」
「まあ、分からんでもないが・・・」
本当は1日でも・・・もっというと一瞬で行くこともできるが、移動している本人たちに気づかせないようにして行くにはちょっとした工夫が必要だった。
そのためには、交代で見張り番をして、誰かがずっと起きている状況は避けたかった。
タケルが番をかって出るなどして他の人間が全員寝ているタイミングがベストだ。
そこで、タケルが考えた作戦・・・それはつまみを出した上に、酒をお酌する作戦だ。
つまみ、酒、つまみ、酒、と色々出して、それぞれの眠りを誘った。
そして、タケルの家で寝てくれれば、家ごとずっと先に瞬間移動すればいい。
1週間かかるところをタケルは3日で着いてしまおうと思っている。
どうせ地図などないのだ。
周囲の景色も概ね木、木、木なのだ。
そんなに代わり映えしない。
大幅に進んでも誰も気づかないという寸法だ。
明日の更新も朝6時です
よろしくお願いします




