タケルの休日
タケルは休みの日に珍しくクレアの屋敷内で時間を過ごしていた。
庭に出て、庭を見ながら考え事していた。
専門の人間がいるのだろう、手入れがよく行き届いていて、緑も青々としている。
普通ならば休みの日などなく、働きずくめだが、孤児院の子供たちに『週休2日の徹底』と言ってしまった手前、自分も週に1日くらいは休まないといけないと思ったのだ。
それをしない人にそれをする人の気持ちは分からない。
タケルが休みを取らないと、休みたくない人の気持ちも、休みたい人の気持ちも分からないのだ。
タケルはバイトと今の仕事の違いについて考えていた。
バイトはすることが決まっていた。
それ以上のことをする必要はなかった。
簡単でいい半面、バイト仲間は口々に不満を言っていた。
一方で、今の仕事はタケルが忙しすぎることもあって、正直手が回っていない。
細かなところは子供たちと孤児院長、職員で何とかしているところもある。
自分で考えて自分で動くと人は不満を持たない。
バイトと違って、タケルの店で不満を言う子供は皆無なのだ。
その分、会えば『これはどう?』とか『味付けを替えた』とか『切り方はこれでいい?』とか質問攻めにあうことも多い。
給料を払っているのだから、人を使っているという言い方もできるが、タケルはいつも『助けてもらっている』という言い方をしている。
実際、タケル一人では手が回らないところを誰かに何とかしてもらっているので、助けてもらっているのだろう。
そういう意識が子供たちの意欲を高めているのかもしれない。
タケルは図らずともいい経営者なのかもしれない。
「お、タケルさま!珍しいですね!」
タケルに話しかけてきた男はゴーストン。
クレアと森で出会ったときに護衛として同行していた騎士長だ。
「ゴーストンさんおはようございます。それと『タケルさま』はやめてくださいよぉ」
「何をおっしゃるんで。魔の森でお嬢様を守ってくれて、仲間を助けてくれたんです。今やお嬢様の婚約者様であられる。『タケルさん』なんて呼んだら不敬罪でしょっ引かれます」
「またまたぁ~」
照れるタケル。
謙遜したいが、言っていることは事実なので、言葉が続かない。
「ゴーストンさんは見回り・・・って感じじゃないですね」
ゴーストンは全身鎧に身を固めていた。
「はい、王都の軍が訓練をするんで、俺達も合流ですよ」
「もしかして、クルーガク関係ですか?」
「さすが耳が早いですね。その通り。やつら何かっていうとマティアスを目の敵にしてますからね」
「そうなんですか」
「ところで、タケルさんに森で食べさせてもらった白いスープが団員の中でも話題で・・・」
白いスープとはクリームシチューのことだろう。
食料が底をついていたということだったので、タケルがありもので作って出したのだ。
「訓練が厳しいでしょうから、お戻りの際は白いスープが食べられるように手配しておきますよ」
「本当ですかい!何しろ団員の一部しか食べたことがなくて、ちょっとした伝説になっているんです」
「そこまでですか(苦笑)」
「よーし、やる気になったぞ!タケルさん行ってきます!」
「お気をつけて!」
国同士の戦いと言えば、やはり戦争なのだろう。
文字通り命を懸けているのだ。
日本で生まれ育ったタケルとしては、戦いのための準備などしたことがない。
どこか『他人事』、他山の火事のように思っていた。
ただ、知り合いであるゴーストンや他の騎士団も訓練に行くと聞くと段々と『自分事』として感じてくるものだ。
とりあえず、タケルはクレアやシャルたちに言って夕飯のメニュー変更を申し出て、ルーや野菜を提供することにした。
*
どうせならマティアスの野菜でシチューを作ろうとタケルは市場に野菜を買いに向かった。
市場はタケルがよくいく食べ物屋と別に食材を扱っている場所もある。
「あ、タケルー!おつかれー!」
「あ、ザインさんおつかれさまです」
ザインは飲食ゾーンでもよく顔を合わせる人だ。
「タケルがこっちって珍しいな。今度は食材も扱い始めるのか!?」
「いえいえ、期待してもらって悪いですが、食材はここのがいいと思ってるので」
「そうか、まあいいや、あとでうちの店も見て行ってくれよ?」
「はい、わかりました」
タケルは市場ではヒットメーカーだ。
考えたメニューに材料が採用されれば売れ行きは格段に上がる。
なに使われないかと思っていたのかもしれない。
店々を見ていると、日本とはいくつか違うことがあることに気づく。
保存技術があまりないマティアスでは季節の旬のものが店に並ぶ。
そろそろ根菜類が店に並び始めていた。
これまでとは食材が変わってくるので、作れるメニューも多少変わってくる。
シチューにもジャガイモやニンジンなど根菜類は必須だ。
「お!タケルか!どうした今日はこっちか!」
今度はギルド長のタザーだ。
「そう言えば、さっき店の方でクレアさま・・・さんを見かけたぞ?」
「ほんとですか?後で行ってみます」
「あ、そうだ、店のエリアが拡大してな!店が増える。また新しいメニューが必要だ。今月中にあと2つは作れるか!?」
「あ、それらな、市場を見ていてちょうど2つ思いついたところです」
「ほんとか!?今言ってもう!?それで、どんなやつだ!?」
「一つは『餃子』で小さい肉団子を薄皮で包んで焼いた食べ物で、もう一つは『きんぴらごぼうホットサンド』で根の物を甘辛く炊いた料理をパンで挟んで焼きます」
「焼いたパンをまた焼くのか!?相変わらずぶっ飛んでるな!よし、来週から試作にギルドまで来れるか?」
「はい、とりあえず思っているものを作って持っていきます」
「さすがだな!助かるぜ!じゃあな、ちょっと取り込んでて。悪いな!」
タザーは走って行ってしまった。
忙しい人だ。
タケルは野菜を大量に買い込み、市場の店にも顔を出すことにした。
*
市場に来るとタケルは何となくホーム感を感じていた。
ここで過ごした時間がそれだけ長くなっているということだろうか。
「あ!タケルー!お疲れさまー」
「あ、お疲れ様」
すっかり『お疲れ様』があいさつになっている。
働く者にとって『お疲れ様』は『おはようございます』『こんにちは』『こんばんは』『失礼します』など実に多くの意味を持つ。
「タケル、野菜サンド作ってみた。食べてみて」
「野菜サンドか。おもしろい」
タケルは食べてみて感想を伝える。
野菜サンドを持ってきた子供は目が生き生きしている。
きっといい商売人に育つだろう。
「あ、そうだ、クレアさんが市場にいるって聞いたんだけど見た?」
「んーん。見てない」
「そか、ありがとう」
タケルが市場を歩いていると、見知った顔を見つけた。
シャルだ。
その視線はいつもと違い、獲物を狙う目をしていた。
服装はいつものメイド服ではなく、人ごみの中を縫うようにして、目立たないようにすごい速さで移動している。
これは何かある。
タケルはひそかに後をつけた。
シャルの向かった先は、『ジュース屋』。
店で、飲み物を2つ買った。
飲み物を買ったシャルはまた人ごみを縫うように移動して、裏の茂みに移動した。
『なぜこんなところに』と思いつつ、タケルはそーっと茂みを覗いてみた。
クレアとシャルが座ってジュースを飲んでいた。
「〇_〇」
目が点になったタケル。
「あ」
クレア、シャルと目が合った。
「これはその!何と言いますか!」
「クレア様、もうばっちり見つかりました。何を言っても無駄です」
「あの~」
聞けば、クレアが炭酸ジュースに激ハマりしているらしい。
「クレアさん、仕入れの一人なので、それを飲んでしまえばいいのでは・・・」
「仕入れの分は仕入れの分で・・・」
クレアは意外に生真面目だった。
そして、シャルは主人の言いつけをどこまでも実現する優れた侍女だった。
「屋敷でゆっくりジュースを飲めばいいのでは?」
「現状、ジュースは市場でしか手に入りません」
「なるほど、貴重品でしたね。じゃあ、帰ってジュースとフルーツポンチと焼き菓子でも食べましょうか」
「新しいメニューですね?」
「僕は、スイーツはよくわからないで感想をもらえると嬉しいです」
「侍女一同全力でご協力させていただきます」
シャルの目が切らんと光った。
タケルは、とりあえず人気の甘いものとして、フルーツポンチ、マカロン、チョコレートタワー、チョコバナナ、マドレーヌ、タルトなどを考えていた。
色々を食べてもらって、好きなものの傾向を知ろうとしたのだった。
「あと、夕ご飯はシチューに変更です」
「シチュー・・・もしかして、騎士団の方で『伝説のスープ』のことですか!?」
「し、知っているのですか?」
「騎士団長と何人かだけが食べたという・・・死の森でしか食べられないまさに命を懸けた美食だと・・・」
色々誤解があったのか、とんでもないメニューになっている。
タケルは早くみんなに食べさせて、なんでもないメニューだと知らせる必要があると思った。
「執事たち、騎士団など全力で準備させていただきます」
タケルは『シャルさん面白い人だ』と再認識した。
その眠たそうな目に反して意外に意欲的。
とりあえず、色々の準備のために3人で屋敷に帰るタケルたちだった。
ちなみに、その日の夜は『幻のスープ』が出るということで屋敷全体のテンションが爆上がりだった。
各種スイーツの試食を行った後は、タケルの株が爆上がりしたのだった。
クレアパパ、クレアママにも好評で次回のパーティーでチョコレートタワーとフルーツポンチ、タルト、マカロンが採用になった。
多分、パイなども同系統で人気となるはずだと予想した。
屋台でもチョコバナナなどは売れるだろうと予想できたので、タザーに持っていくことにした。
明日の更新も朝6時です。
よろしくお願いします。




