領主様との夕食
「タケル、その、最近どうなのかね?」
夕食時にクレアの父であるマティアスが、息子とどう会話していいのかわらないお父さんのようなことを言ってきた。
「どう、と言うと何についてですか?」
タケルは食事をしながらにこやかに答えた。
食卓には、クレアママのマリア、もちろん、クレア本人もいる。
食堂と言ってもいい広さの部屋でテーブルは1つだけ。
このテーブルが10mはあろうかと言う長さだ。
最上座にはマティアス。
横にはマリア、マリアの向かいにタケル。
そしてタケルの隣にクレアが座っている。
部屋にはタケルたちとは別に5人の侍女たちが食事の配膳をしている。
ただ、ここにはユウナギはいない。
ユウナギは、タケルの婚約者として認められてはいるが、別にマティアスの家に入るわけではないのだ。
クレアの家の食事には参加できないのだった。
「その、なんだ、市場では飲み物の販売が始まったとか」
「ああ、ジュースですね。食べるからには飲み物も欲しくなりますからね」
「いや、飲み物を売るという発想がなかったよ。しかも、飲み物専門の店なんて発想が斜め上すぎるな」
タケルにとってはコンビニで普通に飲み物が売られているので、『普通』のこと。
しかし、日本でも1981年に初めて缶入りのお茶が販売された時は『お茶なんて誰が買うんだ』とか『お茶を買うなんて恥だ』とかさんざん言われていた。
マティアスでも当然飲み物はあったが、家庭内で準備するものだった。
タケルはそんなことは知らずに飲み物屋を開店させたので、話題になったのだ。
「実はまだ店に出していない種類のジュースがあって・・・」
「ほほお、興味深いな」
「これなんですが・・・」
タケルは炭酸ジュースを出した。
侍女が近づいてきた。
ふたの開け方を説明して、シャルにペットボトルを渡した。
シャルはコップに取り分け、クレアパパに出した。
「なんだね、この透明な器は」
「それはガラスのコップです」
「ガラスでコップを作るとは・・・」
見てもらいたいのはそこじゃないんだけど・・・と、少し苦笑いのタケル。
「コップはちょっといいのを準備して献上いたします。今は、中の飲み物を飲んでみてください」
「なるほど、分かった」
クレアパパだけではなく、クレアママ、クレアも飲んだ。
クレアにとっては日本で何度か飲んだ炭酸なので、もう慣れていた。
「うっぁあ、なんだねこれは!?しかし、甘い・・・」
クレアママもちょっと苦手みたいだ。
新しい飲み物とはいつの時代もファンキーなものだ。
これでもものの数か月で市場では『当たり前の飲み物』となっていくはずだ。
「飲み物はともかく、この透明な器は今度パーティーで出してもいいな」
「そうですわね。話題になると思います」
マティアス夫妻は器の方に興味が行ってしまった。
「若者はこの飲み物がすごく好きになりますわよ」
「そんなものかね」
クレアが援護射撃してくれた。
「まあ、市場をここまで盛り立ててくれたタケルだ。これからも活躍を楽しみにしているよ」
「ありがとうございます」
「ところで、その市場なんだが、じわじわと売り上げが伸びてないかい?税金が増えて喜ばしいことなのだが、また陛下に目を付けられないか心配だよ・・・」
「実は今度、クレアさんの発想で王都中央広場の方で焼肉屋をオープンします。きっと話題になると思うので、ご心配なく」
「それだと、今度はこちらの方が手薄になったりしないかね?」
「実は、タザーさんの方ではスイーツを出そうと思っています」
「それはどんなものだね」
「そうですね・・・食後の甘いもの、みたいなものですかね。今日の食後に出してもらいます」
タケルは、シャルに視線を送った。
シャルは「任せとけ」と言う視線を返した。
「スイーツと言うのは楽しみだが、実は隣の国の動きが盛んになりつつある」
クレアママとクレアの表情が少し暗くなった。
「近くに国なんてありましたっけ?」
「タケルは知らないんだったな。魔の森を挟んでクルーガクと言う国がある」
タケルはクレアの方に視線を送って、助けを求めた。
「クルーガクは以前マティアスの属国だったのですが、歴史の中で独立して現在では1つの国となっているのです」
クレアが説明してくれた。
「なるほど、接していないからあまり気になったことがなかったのか」
「一方的にマティアスを敵対(敵視)している感じで、ことあるごとに争いごとになるのです」
どうして、どこの国も隣国とは仲良くできないのか。
近くにあって、仲がいい場合は、1つの国になってしまうだろうから、隣国とは仲が悪くものなのかもしれない。
「そんなに仲が悪い国が近くにあっても、マティアスはこんなに平和なんですね」
「マティアスの帝国軍が強いというのもあるのですが、クルーガクは魔の森を超えてマティアスに攻めてこようとしますので、ある程度そこで戦力を失います」
「なんだそのポンコツ戦略」
「すごく士気は高いのですが、技術力が比較的低くて、武器などに欠陥が多く、戦になれば全線(全戦?/常に/毎回)マティアスが勝っています」
「はぁ、そんな国が攻めてきてもまた帝国軍が蹴散らすのでは?」
「わざわざ注意を促すということは何かあるということでしょう?お父様」
「その通りだ。魔法部隊を増強したとか・・・」
「それで魔の森を抜けてこれるんでしょうか?」
そう言えば、魔の森はいくらかタケルが整地してしまった。
歩きやすくなるということは、攻めやすくなるということ。
余計なことをしてしまったかもしれないとタケルは変な汗が出てきた。
「あのー、僕も防御に参加させてもらうことってできないでしょうか?」
「そうか、タケルはあの魔の森を自由に行き来できるんだったね。今度陛下にお目通りしてもらって、帝国軍と接触してもらおう。入れるかどうかは分からないけれど、有事の際は魔の森の案内人としては活躍できるだろう」
「役に立てればいいのですが・・・」
「タケルには陛下に会ってもらおうと思って一度セッティングしたんだが、クルーガクのこともあって、延び延びになっていたんだ」
そう言えば、そんな話もあったとタケルは思い出した。
「・・・その、タケルとの話は楽しいな」
「ありがとうございます」
「これからは、その・・・なんだ」
クレアパパの歯切れが悪い。
タケルは再びクレアに視線を送って、助けを求めた。
「タケルさんともっと一緒に食事をする機会を増やしたいとお父様はおっしゃっているのですわ」
「その・・・なんだ」
クレアパパはタケルを気に入ったようだった。
「ありがとうございます。そういうことなら・・・その・・・」
「うむ、ユウナギくんといったか、彼女のことだろう?」
「はい、僕にとっては元々家族同然なので・・・」
「その点についてはすまないな。我々は貴族で、あの子は庶民だ。屋敷に泊めることはできても、食事を共にするにはそれなりの理由が必要なのだよ」
日本にはない『身分の差』を思い知る。
「それは・・・大丈夫かもしれません。彼女は特別です。いつでも輝いてますから。きっとマティアスでも輝くと思います」
「うむ、期待しているよ」
「はい・・・」
「じゃあ、食後はスイーツと言うのを出してもらおうかな」
「はい、じゃあ、お願いします」
タケルの合図で、侍女たちによりパンケーキがクレアパパとママに出されるのだった。
いつの間にか50話超えました!
22万文字・・・
まだまだ話は続くのですが、ここ数回は静かな話です。
明日も更新は朝6時です。
よろしくお願いします。




