王都マティアス
一行は大きな門をくぐって王都マディアスに入った。
クレアとタケルは馬車に乗せられ、クレアの家に向かうとのことだった。
なお、ゴーストンも同乗している。
護衛は数人別の馬車に乗ったようだが、基本的に歩いてあとから来るらしかった。
タケルにとって馬車は初めてだったが、お尻が少し痛い。
割と振動は来るものみたいだ。
「タケルさん、本当にありがとうございました。一時はどうなるかと思いました」
クレアが馬車の中で改めてお礼を言った。
「いえ、お役に立てたら僕も嬉しかったです。(学校でも基本ボッチなので)普段あんまり人としゃべらないから、お話しできたのも嬉しかったですし」
「いえいえ、(普段森の中に住まれていたら人と会わないでしょうから)わたくしたちもラッキーでした。それに、貴重な薬草も分けていただきましたし」
「そうですね!帰って効いたらいいですね!」
「はい、帰ったらすぐに薬師に渡します」
タケルは町には「薬師」と言う職業の人もいるのだと思った。
「薬剤師」的な職業だと思っていた。
その考えが間違えていることに気づき始めるのは、クレアの家に着いた時だった。
馬車が止まった。
一行は馬車を降りた。
そこにあった光景は、タケルにとって非現実的な光景だった。
馬車を降りると、学校かと思うような大きな建物の前で、いかにもメイドと言うような姿の人が4人いて、それとは別にいいいで立ちの男性がクレアを出迎えたのだ。
男性は、クレアを見るや否や抱き着いて叫びだした。
「クレア!おかえりー!!行方不明になったと聞いて心配したぞー!!」
「すいません、お父様、魔の森に迷い込んでしまって・・・でも、こちらのタケルさんが助けてくださいました」
「なに!?魔の森だと!?救助隊が見つけられないわけだ!」
一通り、クレアの無事を確認した「お父様」はタケルとゴーストンを見た。
ゴーストンはさっきから言い訳一切せず跪いている。
タケルはどうしたらいいのか分からず、居心地の悪さを感じて棒立ちでいた。
「お前がタケルか・・・?」
「はい、タケルと言います・・・」
次の瞬間、「お父様」はタケルの両手をつかんでブンブン上下に振りながら言った。
「よくぞクレアを助けてくれた!感謝するぞ!」
「あ、いえ、何事もなくてよかったです」
「お父様、タケルさんは魔の森に住まれているのです。今日は泊って行っていただこうと思います」
「なに!?魔の森に!?それはすごいな!クレアの恩人だ!何日でも泊って行ってくれ!褒美も別に準備するぞ!」
タケルは建物の大きさに圧倒されていた。
そういえば、クレアはさっき言っていた。
「屋敷」に泊って行ってください、と。
周囲の家とは大きさが全く違う屋敷が目の前に見えていた。
あれよ、あれよ、とタケルは屋敷に通されて、湯あみを準備されて、着替えを準備されて、食堂に通されていた。
テーブルには先ほどのクレアのお父さん、クレア、がいて、5mほどの長いテーブルの反対側にタケルの席が準備されていた。
いかにもごちそうと言う豪華な食事が準備されていて、室内では数人のメイドが次々料理を運び込んだり、飲み物の準備をしたり、甲斐甲斐しくタケルの世話をしてくれていた。
一般人であるタケルにとって非現実的な光景だった。
料理は見たことがない様な豪華なお皿、豪華な料理、だった。
タケルはいかん、いかんと、首を振って自我を取り戻す。
目の前にはスプーンの様な道具はある。
偶然なのか、日本で見るスプーンとほぼ同じ形だ。
異世界でも共通する道具はあるものと思っていいのか。
人が考えるものだから、結局同じようなものになってしまうのか。
とにかく、スプーンの様な道具はあった。
フォークはなかったが、ナイフはあった。
あったと言っても、どちらもステンレス製ではなく、スプーンは木製、ナイフは狩りに使うようなごついナイフだった。
タケルは文化の違いを感じて、ここが異世界だと改めて思わされていた。
「あの・・・僕は世間知らずで申し訳ないのですが・・・」
「どうした、なんでも言ってみなさい。お前はクレアを救ってくれた恩人だ。気軽に話してくれ」
クレアの父親は気さくに話していた。
「あの・・・このお屋敷、ただならぬご身分の方とお見受けします」
「ははは、ただならぬは良かったな。私は、アルフレット=フィリップ=オーギュスト・ド・ヴィリエ・ド・リラダン=マティアス、まあ、侯爵だな。」
「鑑定、侯爵は王族に続く第2位の爵位の貴族です。アルフレット=フィリップ=オーギュスト・ド・ヴィリエ・ド・リラダン=マティアスは、現国王の弟にあたり、王族直系の血縁関係にあります。」
半自動で鑑定スキルが発動した。
「王様の弟ってこと!?」
タケルは驚きのあまり声が漏れた。
「ははははは、その通りだ。王様の弟はよかったな」
「あ、失礼しました!」
「よい、よい!気軽に食べてくれ。お礼なのだし」
「あれ?クレアさんも侯爵令嬢ってこと!?失礼はなかったかな・・・」
タケルが急に青くなる。
「タケルさんはすごく助けてくださいましたよ、薬草もくださいましたし」
「あ!そう!お母さんですっけ?調子はいかがですか?」
「それが・・・思ったほど効果がなくて・・・」
ここでタケルは思った。
「鑑定」スキルで病人を見たら発熱と疲労の原因が分かるのではないか。
治療は出来ないけれど、鑑定すれば何か手掛かりを見つけることが出来るのかもしれない、と。
「あの、不躾なのですが、僕は『鑑定』が使えるみたいです。もしかしたらお役に立てるかもしれないです。お母さんに会わせていただくわけにはいかないでしょうか?」
「『鑑定』かね。それは珍しい。頼むよ、正直藁にもすがる思いなのだ。
食事もそこそこにタケルはクレアの母、マリアの部屋に通された。
通常ならば、あり得ないことだろうが、アルフレットもタケルに何か感じたのかもしれない。
「お客様ですか・・・」
ベッドに横になった女性が身体を起こそうとする。
「あ、そのままで」
苦痛に顔をゆがめながらも起き上がろうとしたクレアの母を制して、寝たままにさせる。
「鑑定」
タケルが心の中でそう唱えるだけで、いつものあのタケルにしか聞こえない声が聞こえてきた。
「鑑定、吐き気、食欲不振、腹部痛、発熱であることから、マリア=フィリップ=オーギュスト・ド・ヴィリエ・ド・リラダン=マティアスは虫垂炎を患っています。虫垂の入り口は結石で塞がれていて、虫垂が炎症を起こしています。腹膜炎も併発し始めています」
「盲腸か・・・そりゃあ痛いだろうなぁ」
「原因が分かったのか!?」アルフレットは慌てた様子で聞いた。
「はい、虫垂炎です。腹膜炎も起こしかけているようです」
「ちゅうすい・・・それは呪いなのか!?どの祈祷師を呼べばいい!?」
「呪いではありませんので、祈祷師は必要ありません」
タケルはここにきて「祈祷師」が出てくるあたり、この世界の医療技術のレベルを悟った。
虫垂炎も通じなかったし、「開腹手術が必要」などと言ったら大変なことになると予想した。
日本でも開腹手術が一般的になったのは明治時代と言うことだった。
それ以前はまじないとかも医療だったと言うことをタケルは何かの本で読んだことがあったのだ。
そこで、タケルは虫垂周辺の正常な組織を鑑定し、一部をストレージに収納、成分を解析の上、虫垂入り口にコピーしたものを張り付けた。
それと同時に、炎症を起こした部分を丸ごと切り離しストレージに収納した。
傍から見たら、手をかざしているようにしか見えないしぐさだったが、苦痛に歪んでいたクレアア(マリア?)の表情が緩やかになり、ベッドの上で力が抜けたように見えた。
腹膜炎は抗生剤が必要だろう。
タケルは家の薬箱に入っていた抗生剤を出していった。
「原因は取り除きましたが、身体が疲れているでしょうから、まずは寝かせて、起きたら薬を飲ませてください」
炎症を起こしている場合は、菌を殺そうと身体が抵抗している時でもある。
無理に熱を下げてしまったら菌を殺せないこともあるのだ。
「あと、元気になる栄養剤も」
特訓して疲れた時様に買った「リポD」も合わせて出した。
マリアは、スースーと寝息をさせて寝てしまっている。
世話係の侍女を残し全員部屋から出た。
「タケル殿!ありがとう!妻は良くなったのか!?」
またアルフレットはタケルの両手を握ってブンブンと上下に振った。
「たまたま何とかできました。確かにこのままでは危なくなっていたかもしれません。もう大丈夫です」
「そうか、そうか!褒美を増やさないといけないな!」
「そんな、もう素晴らしい食事をいただきましたし!」
「ははは、きみは欲がないな!」
アルフレットの後ろからクレアが熱いまなざしでタケルを見つめていたのだが、タケルにそれに気づく心の余裕はなかった。
落ち着いて、お茶を飲みながら部屋で話しているときに改めて聞かれた。
「君は何者だね?最初は森の中で一人で暮らしていると言うことだったから、王都にも住めない名もない子供かと思ったが、その出で立ちはしっかりとした仕立ての服だった。」
「あ、ども」
タケルが着ていたのはトレーニング用に着ていた作業ズボンに長袖と言う普通の服だったが、街を歩いている人たちの服を見ると、洗練されていたようだった。
つまり、縫製技術はそれほど進化していないようだった。
「あとは、食事のマナー、初めてのマティアスの食事だったようだが様になっていた」
フォークはなかったので、スプーンで押さえてナイフで切る、刺して食べるようなものはフォークで刺すかスプーンですくうか迷ったが、危なくないようにスプーンですくって食べていたのだ。
「そして、その手だ」
「手ですか?」
「ああ、森に住んでいる労働者ならば、子供でももっと厚い手をしている。その手は、狩りや畑仕事をしていない者の手だ」
確かに、タケルが畑仕事を始めたのは1か月前程度だし、狩りの多くは刃物類を急所の位置に出現させて一撃でとどめを刺していることからケガもほとんどない。
「その上、私の騎士団でも死を覚悟する死の森に住み、私の娘たちを全員無傷で連れ帰ってきた」
「はあ」
「それどころか、どの薬師も祈祷師も治せなかった妻を見てすぐに治してしまった」
「それは、意外と危なかったから・・・」
「さらに、あの薬と滋養・・・容器も含めてこの王都でも見たことがない。それを森の中でどうやって・・・」
タケルはやりすぎたことを気づいた。
説明がつかないと「不審な者」となってしまう。
正しく答えたら、信じてもらえず「不審な者」となってしまう。
やばい・・・詰んだ・・・
タケルがそう思うや否や、先に口を開いたのはアルフレットだった。
「まあ、なんでもいい。娘は無事に帰り、妻は元気になっていっている。それだけで十分だ」
「・・・ありがとうございます」
「君には王都の市民権といくらか金貨を渡そうと思っていたが、娘も妻も助けられたとあってはそれだけでは利かないだろうな」
「あ、いえ、もう食事だけで十分だと思っていたほどで・・・」
「陛下に進言して名誉騎士の称号と、私からこの屋敷の近くに屋敷を準備しよう」
「いえいえいえいえ!屋敷なんていただいても維持できませんし!」
「そうは言っても、私も侯爵だ。妻と娘の命の恩人をそのまま手ぶらで帰したとあっては周囲に面子が立たない」
タケルとしては、この世界で欲しいものなどなかったのだ。
祖父から受け継いだ家もあるし、畑もある。
肉も魔物を狩る術を手に入れて衣・食・住の食と住が手に入り、この先一人でも生きていけるのではと思い始めたところだったからだ。
「お父様、それでは僭越ながら提案があります」
ここで助け舟を出そうとしている雰囲気を醸し出しているのはクレアだった。
「なんだね、クレア、言ってみなさい」
「タケルさんには、このお屋敷に住んでいただくとして、私がタケルさんのお嫁さんになると言うことで」
「なるほど、そうすれば、タケルくんとしては屋敷に住めるけれど、受け取っていないし維持もできる。さらに娘をやったとなれば、それ相応の褒美と・・・って駄目ーーー!」
アルフレットの見事なノリツッコミが光った。
タケルも面食らっていた。
彼女いない歴=年齢のタケルに彼女を飛び越して婚約者が出来てしまいそうになっているのだ。
「いやいやいやいや!そんな恐れ多い!」
「なにかね!?うちの娘では不満かね!?」
「と、とんでもないです!」
「わたくしではだめでしょうか?」
「いやいやいやいや!僕にはもったいないくらいのお話で!」
「クレア、タケルくんのことが気に入ったのかね?」
「はい、タケルさんはこれまでわたくしの周囲にいた方とは全く違います。おごらないですし、そのくせ実があります。そして、魔の森でも生き抜く強さと人を救う優しさがあります。おそらく今後わたくしの人生でこのような方に巡り合うことはないと思います」
「だから今のうちに唾を付けておこう、と。なかなかしたたかな娘だな。クレアももう12歳だ。そろそろ婚約者がいてもいい年齢だ。ただし、まだ婚約だけだぞ!」
「はい!お父様!大好き!」
クレアが子供らしく父アルフレットの首に抱きついて喜びを最大限に表現した。
話がまとまったみたいで良かったなぁとぼんやりタケルは思っていたが、自分が婚約することになっていることに気づいた。
「え?あれー?」
「マリアが目を覚ましたら改めてお祝いしよう」
「はい!お父様!」
「タケルくんもいいね!」
「あ、はい!」
アルフレットの勢いに反射的に返事をしてしまったタケル。
今日は色々あった・・・そう思いながらその日準備された部屋で眠りにつくタケルだった。
第5話めいかがでしたか?
第1部が約20話くらいになる予定です。
そこまでは既に書き上げましたので、必ず続きます。
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