翌朝、魔の森を抜けられるのか!?
一夜明けて翌日。
みんな割と早めに起きた。
タケルとクレア、その護衛はマティアスを目指すことになった。
「おはようございます。タケル様」
「おはようございます。クレアさん。タケル様はやめてください」
「でも、命の恩人ですし」
「とんでもないです」
「では、『タケルさん』で」
「分かりました。僕も『クレアさん』でお願いします」
タケルとクレアはここで本当に打ち解けたと言ってよかった。
その後、タケルは全員分の朝食を準備した。
トーストとカリカリベーコン、そして目玉焼きだった。
異世界人は外国人と似ているかもしれないので、目玉焼きは目玉を少し固めに作った。
一番に騒いだのが騎士長ゴーストンだった。
「おおー!すごいなぁ!」
「騎士長!森の中でこんな食事が食べられるなんて、信じられないですね!」
「まったくだ!」
「タケル君!この四角いのはパンなのかい!?パンなのかい!?」
タケルのことをタケル君と呼ぶ彼は、護衛の一人ローロルだった。
ローロルは28歳で、明らかに年下の平民であるタケルのことを明らかに格下に見ていた。
ただ、昨日の魔物を一瞬で数匹狩る能力と次々出てくるうまい料理に「仲間意識」を持っていた。
本来、彼らの価値観では騎士団と平民とで同率と考えることはまずなかった。
確実に騎士団の方が立場が上で、平民をそれと同じに見ることはなかったのだ。
ローロルの価値観でいえば、最上の対応と言えるのだ。
「タケルさん、ありがとうございます」
「クレアさん、とんでもないです。僕にできることはこれくらいですから」
「なーに言ってるんだ!タケル!お前がいてくれてすげえ助かってるぜ」
「僕なんかが役に立てるなら嬉しいです」
食パンは1斤の物が業務スーパーで特売だったので、たまたま買い置きがあったのでそれを人数分に切って出すことが出来た。
タケルは本来あまりたくさんの買い置きをしない。
あまりたくさん買ってしまうと、腐らせてしまうからだ。
しかし、新しく手に入れたスキルである「ストレージ」が日本においても使えることを知り、どれくらい日持ちさせることが出来るのか、実験のためにいくつか買った食材のうちの一つだったのだ。
ちなみに、実験のために買った食材とは、アイスクリーム(ヨーロピアン・シュガーコーン6個入)、天然酵母食パン1斤、イギリス食パン1斤、ベルギー産冷凍芽キャベツ1袋500gだった。
食後、護衛たちが装備を準備している間、タケルはクレアに声をかけた。
「あ、クレアさん、良かったら畑を見てみませんか?」
「あ、そうです!よろしかったら」
「欲しい薬草があったらいいのですが・・・」
「はい!」
満面の笑顔にタケルは小さな危機感を抱いた。
クレアが欲しい薬草がある確率は低い。
がっかりして、この笑顔が曇ることを心配したのだ。
しかし、見てもらわないと、万が一ここに薬草があったら喜んでもらえるので案内しないわけにはいかなかったのだ。
タケルは自慢の(?)畑にクレアを案内した。
元々は祖父から受け継いだ畑なのだが、この1か月手入れをしてきたのはタケルだった。
日本の野菜は種をホームセンターからいくらでも仕入れることが出来る。
1か月手入れをして分かったことは、この畑で育てたら季節を問わないし、成長がものすごく早いことが分かった。
白菜は通常種を植えてから収穫まで早くて60日、晩生種で120日程度かかる。
ところが、この畑では、20日ほどで収穫できた。
しかも、大きさはスーパーで売られているものの約2倍もあったのだ。
ただ、異世界の野菜と薬草はいくつかしか分からないでいた。
多くの物は「鑑定」で分かるのだが、かなりのレア薬草もあるみたいで、鑑定しても「不明」と出てしまうのだった。
その「不明」の中に、クレアの探している薬草がないかと、わずかな希望を抱いているのだった。
「探している薬草は、見たら分かるのですか?」
「はい、実際に見たことはないのですが、本で葉の形や花の形は調べてきました。ただ・・・」
「ただ?」
「あ、いえ、拝見しますね!」
「はい」
クレアが言いかけたことが気にはなったけれど、突っ込んで聞くのは憚られたのだ。
タケルとクレアは、畑を端から見ていく。
半分くらいが日本の野菜になってしまっているので、クレアとしては珍しい野菜がたくさん植えられた畑と言うことになる。
「これは何ていう野菜ですか?」
「これは、キャベツです。葉を炒めたり、焼いたりしても食べられますし、生でも食べられます」
「そうなんですね・・・あ、ああ!あああー!」
「ど、どうしました!?」
「こ、これって!フェニックス・リーフでは!?」
「たしか、そんな名前だったと思います・・・けど」
「幻の薬草と言われていて、葉が1枚で1万Gとも言われている・・・」
「そうなんですか?おじいちゃんは、刻んで焼きそばの青のりの代わりにしているみたいだったんだけど・・・」
「あー!これは!」
「今度はどうしたんですか!?」
「これは!ネコネコ草では!?収穫の時に『ニャー』となくと言う・・・」
「そうなんですか?摘んでみてもいいですよ?」
「と、とんでもない!最後に見つかったのが、確か20年以上前だからちょっとした伝説になっている薬草です!」
「クレアさん、薬草に詳しいですね」
「あ、あ、いえ・・・好きなので」
「そうですか」
「あ!ああー!」
またこのパターンかと思ったときに、クレアはある薬草に首ったけだった。
「それは?」
「こ、これです!これが『ジャージン・ニクニン』です!本当は崖の上の岩肌にしか生えていないのに・・・」
「あ、そうなんだ。よかったね!好きなだけ摘んでいってください」
「え?いいんですか?これもかなりレア薬草ですよ!?」
「僕はまだ使い方が分からないので、役に立つならそっちに使ってもらった方が嬉しいです」
「ありがとうございます!では、遠慮しません!」
クレアは目的の薬草を見つけてすごく喜んでいた。
その後、クレアはゴーストンに嬉しそうに報告に言った。
タケルはなぜか恥ずかしくなって一緒に報告に行くのを避けたのだった。
「さて、準備もできたし、早めに出かけるか」
護衛の人たちの準備ができたらしい。
なんだかんだで10分前後しか時間はかかっていない。
この辺りは、さすがと言うべきか、旅慣れているのだろう。
訓練もしているのかもしれない。
マティアスまでの方針は簡単だった。
約3kmは整地した道があるので、その道を進む。
足場は良いので、かなり順調に進めるだろう。
その後は、凹凸のある道となるし、手が入っていない森の中を進むことになる。
そこで、幅1mほどの植物、石、岩、などをストレージに入れつつ歩くのだ。
生きている植物はストレージに入らないので、剣を持ち伐採して収納と言う算段だ。
幅を狭めていくことで整地スピードを上げて、隊が進むスピードを上げる作戦だった。
それには一つタケルが心配していることがあった。
それは、タケルがリーダーとして先頭に立つ必要があるのだ。
ゴーストンがリーダーであろうけれど、それを差し置いて、先頭を歩いていいのかと思ったのだ。
タケルの心配は杞憂に終わる。
それは、スタート前にゴーストンがタケルに「一番前を任せていいか」と相談してきたのだ。
ゴーストンは隊の中央を歩くクレアを護衛することに徹しようと言う算段なのだ。
これ幸いとタケルは一番前で意気揚々と歩くのだった。
基本は、「ストレージへ収納」→「進む」でOK。
魔物が出た場合、「急所に剣」→「ストレージへ収納」→「進む」でOK。
収納する幅は1m。
本当はその半分でも大丈夫そうだが、クレアさんが歩くことを考えたら少しがんばり目で広めに整地した方が良いだろう。
ただ、今後マティアスに行くために道は作った方が良いだろうから、帰りがけに道を広げるようにすればいいだけだ。
行きは急ぎ、帰りは拡大、そんな感じでいいかな。
方向は10分おきにスマホのジャイロで調べているので、大きく外れることはない。
30kmの直線距離は、その真っまっすぐで30kmで行けそうだ。
人が歩く速度は時速4km程度。
30km÷4kmで7.5時間。
途中2時間ごとに30分程度の休憩を入れたとして、1日がかりの移動となる。
魔物は1時間に10匹から20匹くらい出てくる。
隊が逃げて余計な体力と時間を使わせないために、視界に入る前に仕留めて収納していた。
ストレージの有効範囲は約10m。
隊の人たちは魔物の声は聞こえても、姿は見えないのだ。
午前中は何も問題なく終わった。
食事は少し開けた場所で摂ることになった。
「それにしても、ここまで魔物らしい魔物が出てこないってのはラッキーだったな」
「そうですね」
ゴーストンがのんきに言った。
確かに周囲から見たら、魔物は全く出ていないようにも見えた。
タケルはタケルで「目立たないことは良いことだ」と思っている程だった。
昼食はタケルがストレージから色々出した。
簡単に食べられる様にサンドイッチがメインだった。
炭水化物はエネルギーになる上に、疲労回復のために適度に野菜と豚肉も入れていた。
「騎士長!これすごいです!」
「何だこの食事は!うまいし!食べやすいな!」
「パン!?パンなのか!?朝食べたあのパンを使ったのか!」
タケルは好評のサンドイッチに満足していた。
しかも、ストレージ内では「分解」「構築」が可能なので、パンと肉類とサラダを「構築」してサンドイッチにしたのだった。
8人分のサンドイッチを作ろうとしたら、1時間では時間が足りない。
ストレージはタケルの生活にとってかなり有益なスキルだった。
「それにしても、飯もうまいし、道も歩きやすい。うまくやれば今日中にマティアスに戻れるかもな!」
「それ言っちゃダメー!」とタケルは心の中で叫んだ。
問題は食事が終わって午後に起きた。
起きてしまった。
お約束通りだ。
午後3時を過ぎたころに魔物が徒党を組んで攻めてきたのだ。
数にして100匹近かった。
10m以上前からその存在は把握できたが、何しろ数が多い。
護衛もすぐにクレアの護衛体制に陣形を変えた。
かなりの量は、タケルが倒しているのだが、それでも数に押されて魔物が近づいていた。
護衛たちはあくまでクレアの周囲を守り、ひるむことはない。
優秀な騎士なのだろう。
タケルが魔物の群れを間引いていることもあって、生命の危機を感じるほどの体制崩れは起きなかった。
目の前には魔物の死体が20匹あまり。
「魔物の死骸を持って帰れたらちょっとした金持ちになれるのにな!」
魔物盗伐が終わった後、人休憩入れているときに護衛の一人がいった。
「え?魔物の死骸って売れるんですか?」
「そりゃあ、そうさ、バラして素材として取引されるんだよ」
「でも、肉は食べられないんですよね?」
「まあ、普通は食べないな。昨日は食べたけど。でも、皮とか骨とかは加工して使ってるな」
「やっぱり肉は食べられないんですね」
「いや、時間と手間はかかるが干し肉にしたら食べられるんだ」
「あ、そうなんですね!」
「しかも、タケルが言うみたいに、倒してすぐに魔石を取り出せれば肉が食べられるって言うんだったらマディアスの食料事情も変わってくるぜ」
「そうなんですね!魔石を取り出せるいい方法を考えてみます」
「そうしてくれ、そうしてくれ」
タケルはこのときマディアスと言う町に自分の存在意義を見出し始めていた。
休憩も終わり再び隊はマディアスに向かった。
とりあえず、お約束は回収したので、その後は順調に進んだ。
18時ごろ日が落ちてきたので、野営するか、このまま進むかの判断を迫らせる場面があった。
なんだかんだ言ってクレアは小学生高学年くらい。
1日に歩ける距離はとっくに超えているとタケルは考え炊いて。
しかし、現在位置はなぜかスマホでチェックでき、マディアスまでの距離が正確に分かったことからそのまま進むことになった。
クレアは子供だと言ってもこの世界の子供。
1日30kmも歩くことは普通と言うことみたいだった。
マディアスが見えてきたのは19時30分ごろ。
タケルの予想に反して町の外には外壁がめぐらせてあり、その広さは外壁の終わりが見えないほどだった。
「あれが・・・マディアスですか?」
「そうさ!王都マディアスへようこそ!」
「王都!?なんかでかそうですね」
「そりゃ、そうさ!マディアス領で一番の街だからな!」
タケルはマディアスを小さな村とか町のようなイメージを持っていた。
言うならば、人口50人みたいな。
ところが、実際は巨大な都市らしく、壁だけで高さは10mを超えていると思われた。
ただ、外壁を超える建物が見えないことから、高層ビルなどは無いようだった。
壁の中は見えないけれど、ここに建物があって、人が住んでいるとしたら数万人規模だとタケルは直感的に感じた。
「今日は、私の屋敷に泊ってくださいね」
クレアがニコニコしながら申し出た。
ゴーストンさんも護衛の人たちも、マディアスの外壁の門に着いたところで肩を組んできたり、サムズアップだったりと、無事戻れたことを喜んでいた。
そして、その騒ぎでタケルは聞き逃していた。
クレアが言った気になる1単語を。
調子に乗って11万5000文字分書いてしまいました。
今回は第4話、そのうち2万文字までの部分となります。
まだまだ続きますよ!
更新は毎朝6時です。
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