学園祭の伝説
レジなんてないので、札を数えていたタケル。
ユウナギもいつの間にかメイド服を着て一緒に数えている。
「結果を発表します。」
クラス中は固唾をのんだ。
「41万2000円!大黒字です!」
「「おおー!!」」
「まじかー!?」
「やったー!!」
「エッモ!エッモ!」
肩を叩きあったり、ハイタッチしたり、それぞれの成功を喜ぶクラスメイト。
41万円は学園祭ではまずあり得ない売り上げだ。
確かに、客単価1人1000円と考えれば400人以上来客対応したことになるのだが、売り上げの一部はクラスメイトが考えた『男気メニュー』だ。
要するにデカ盛りメニューで、最大パンケーキが10枚2000円と言う物があった。
メイドたちにいいところを見せようと頑張ったメンズたちがいたらしい。
ついでに客からの要望で始まったチェキサービス。
一緒に並んで写真を撮るサービスが1枚500円。
あまりたくさん頼まれたら厄介だと強気の価格設定にしたのに、大好評で売り上げを伸ばした。
ちなみに、人気第1位はユウナギで、2位はフォレスタ、3位は山田仁心瑠だった。
ユウナギはクラス違うし。
フォレスタ部外者だし。
しかし、この反則2人に続いて、仁心瑠が3位なので、その可愛さと人懐っこい笑顔、そしてギャルと言う特性が意外にも広く受け入れられたのだろう。
「野郎ども!メイドども!今日は大いにさわごーぜー!!」
テンションが高いのは陽キャ代表川島だ。
メイドカフェをやると決まった当初はもめていた川島、長友、渡辺が肩を組んでぐるぐる回っている。
なぜ回っているかは不明だ。
若さゆえか。
ギャル3人組では、心愛が涙ぐんでる。
「あれ?あれ?なんだこれ?なんだよ!見んなし!ちょっぱずじゃん」
メニューを考えたり、試作したり、彼女としては人生で初めて心血注いだ事象だったのかもしれない。
「ココアなに泣いてんの!鬼エモじゃん!」
仁心瑠ももらい泣きしている。
「うち頑張ったのが結果につながるのって初めてかも」
希星も感極まっている。
結局ギャル3人組はひな鳥のように肩を寄せ合って成功を喜んでいた。
そして、誰かが言った。
「総監督タケルを胴上げしようぜ!」
「いいな!胴上げしよう!」
クラスメイト(主に男子)がタケルを囲むと胴上げが始まった。
なぜ胴上げなのか不明だ。
若さゆえか。
2回、3回とタケルが宙に舞う。
「うわ!ちょ!ま!」
何とか降りられた。
「次はリーダー川島!」
わーっと、今度は川島に人が集まり、長友、渡辺と胴上げが続いた。
そのうち、「担任胴上げしようぜ!」「それな!」と集団は職員室に移動していった。
タケルは大事な収益をストレージに入れた。
盗まれないように、無くならないように。
周囲には封筒に入れて保管しているから、と告げていた。
学園祭が終わるとちょっとした『後夜祭』がある。
夜にイベントらしいイベントをすると現代の学校的にはアレなので、公式のイベントではない。
学園祭の片づけは例年翌日以降なので、当日は放課後ほとんどの生徒が食堂に集まって、大告白大会となるのだった。
ノリとして、『この日だけは告白しやすくて、断るのも断りやすい日』と言う雰囲気があるので、1年から3年まで男女ほとんどが食堂に集まる。
もっともどこも何かの会場になっているので、手付かずでみんな集まれるのが食堂くらいしかないというのが食堂に集まる理由みたいだ。
一応ルールがあって、そこにいる相手にしか告白ができない。
そして、告白の時は、普段食券を渡して料理を注文する場所で『〇〇さん!』と大きな声で叫び、呼び出したのちに行われるのだ。
ユウナギは毎年参加必須で、男子の死体の山を築いていくのが好例だ。
今年は、なぜかフォレスタも連れていかれた。
タケルは毎年不参加だし、今年も教室の窓から中庭を挟んで見える1階の食堂を見ていた。
教室のベランダの手すりに肘をついて、食堂の中を見る。
ちょうど10回目ユウナギが呼び出され、また死体を積み上げたところだった。
周囲には笑い声が響いている。
「よかったんですか?タケルさんは参加しなくて?」
気付けば、横にクレアが立っていた。
「あ、ごめんね。なんかのけ者みたいになって」
給仕として働かせるわけにもいかなかったので、クレアは見学になっていたのだ。
仮にメイドとして働いていたら人気は出ただろうが、シャルとローレットが同じ仕事は出来なくなるし、クレア(主人)の様子が気になって気が気じゃなくなるはずだった。
「いいんです。少しでもシャルとローレットがお役に立てて。わたくしも少しはお役に立てましたか?」
「すごく助かりました。クレアさんにはいつも助けてもらってばかりで・・・今度お礼をしますね」
「あら、意中の男性からの御礼なんて期待してしまいますわよ?」
「ははは、そんなにハードル上げないでください」
「その、きっ、きっ、きっ・・・(ふー)期待してしまいますわよ」
「2回も言った!まいったなぁ、何にしようかなぁ」
「ふふふふふ」
クレアが何か言おうとして誤魔化したようだった。
「告白大会は今から参加しても遅くないのでは?」
「僕はいいですよ。こんなかわいい婚約者がいて、あそこ(食堂)で大人気の婚約者がいて、これ以上恵まれたら僕はどうにかなってしまいますよ」
「幸せは訪れても人はどうにかなったりしませんよ?」
「それでも。僕にはこれ以上の幸せは過剰すぎますよ。目の前の幸せを全力で守るだけです」
「そういったところは、タケルさんのいいところだと思います」
「そうですか?ありがとうございます」
「それにしても、いいんですか?あなたの婚約者様がたくさんの殿方に求愛されていますよ?」
「うーん、ほんとは気が気じゃないんですが、ずっと好きだったことを聞かされて・・・不思議とそうだったんだ、って受け入れてしまいましたから」
「あ、その信頼は、わたくしとしては嫉妬の対象ですわ!わたくしだって、初めて会った時からタケルさんのことを好きになりましたし、今はもっと好きになっていますわ!」
クレアはタケルに向き合いキラキラした目で見つめてくる。
身長差から自然と上目遣いになっていて、これ以上ないくらいに童貞を殺しにかかる。
「そう言ってもらえて嬉しいです。でも、クレアさんみたいないいところのお嬢様で、かわいい人からそんなのことを言ってもらえるのは、未だに夢みたいで・・・」
クレアは両手でタケルの両頬を挟んで自分の方に顔を向けさせた。
「夢と思われたら困ります。わたくしの『初恋』であり、初めて人を愛した『初愛』なのですから、夢ではなく、現実として受け入れてください」
クレアはちょっとすねたみたいに口をへの字に曲げて見せた。
タケルにとってはそれもまたクレアのかわいい表情を見つけたに過ぎない状態で、愛されている自分の幸せを噛みしめるばかりだった。
「初愛・・・か」新しい言葉を作り出すまでに日本語はクレアに浸透しているみたいだ。
タケルはそんなことをしみじみ思っていた。
クレアはタケルに寄り添うように横に立って、一緒に食堂の乱痴気騒ぎを見守った。
「タケルさん、今日はお疲れさまでした。ゆっくりされてください。また屋敷の方も忙しくなりそうなので、遅くなりすぎないようにしてくださいね」
「ありがとうございます」
タケルは『また忙しくなる』と言う言葉に少し引っかかったが、疲れもあって、スルーした。
クレアを『ドアツードア』で屋敷に帰してタケルは、残った茶葉で紅茶を入れようと思った時だった。
(バターン!)
教室のドアが勢いよく開かれた。
そこにはテンションマックスのユウナギがいた。
「な、な・・・」
言葉にならないタケル。
「タケル!来て!大変なのよ!」
そういうと、ユウナギはタケルの手を握ったままどこかに連れて行くのだった。
その勢いに負けてされるがままについていくタケル。
着いた先は食堂。
タケルは嫌な予感がした。
ここで、告白をさせられるのでは・・・
そんな不安をよそに、ユウナギはタケルの手を引いて、食券渡し場所まで歩いて行った。
「ぼ、僕は、こういうの苦手だから!」
何とか逃げようとするタケルをユウナギは一切許さなかった。
どういう力加減なのか、ユウナギから逃れられることはできなく、『ステージ』まで来てしまった。
「タケルー!!」
ユウナギの優しいけれど、よく届く声でタケルが呼ばれた。
ざわざわしていた周囲は静かになった。
1000人近い生徒がタケルとユウナギに注目している。
ユウナギがわざとらしく両手を上げて、「Y」のポーズをとった。
「これからも彼女の私を可愛がって、卒業したらお嫁さんにしてね!」
(ざわっ!)
周囲が急に騒がしくなった。
ユウナギは『烏尾高校の奇跡』という少し恥ずかしい二つ名を持っているほど有名なので、注目度も高い。
1000人、2000個以上の目に見守られていたら、タケルも変な受け答えはできない。
そして、多少は場の雰囲気に酔っていたのかもしれない。
肩の高さくらいまでには両手を上げて言った。
「もちろん!一生大切にするよ!」
その言葉を聞くと、ユウナギはタケルの首に全身でまとわりついた。
タケルはユウナギをお姫様抱っこするような格好になった。
(わーーー!!)
食堂内はいきなり大興奮の渦に包まれた。
意外にも祝福ムードだった。
これが大告白大会の効果か。
そして、この後の告白率と成約率が格段に上がったという。
ユウナギ-タケルの姿がほほえましかったのか、ユウナギに行かなくなった猛者たちが第2候補に行ったのか、それはだれにも分からない。
しかし、これはこれで食堂が盛り上がっていたのは間違いない。
タケルはユウナギをそのままお姫様抱っこの状態で連れ去った。
この『事件』はのちに伝説となったのだった。
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