メイドカフェへの道
タケルのクラスで『メイドカフェ』をすると決まってから1週間が過ぎた。
3チームに分けたそれぞれもそれなりに進捗している。
そして、帰りのHRでリーダーが進捗発表をすることになっているので、リーダーは嘘でも進捗具合をアピールする。
何もないと結局発表することがないので、ちょっと精神に来る。
しかも、それぞれのチームのリーダーが男女1組になっているので、男子が特に女子にアピールするために自分のチームにしっかりと目と気を配っていた。
この日の司会は『総監督』であるタケル。
前に出て教卓の前で仕切り始めた。
「えー、では、『衣装チーム』から、リーダーは前に出て発表をお願いします」
タケルが脇に移動した。
タケルの仕切りタイムは終了した。
長友と希星が教壇に上がった。
「衣装はクレアっちのところで借りれるってことなんで、お願いするとして、3着だけやっぱりレンタルすることにしましたー」
希星が、少しバツが悪そうに発表した。
折角、メイド服をタダで借りれることになったのに、話を蒸し返している状態なので、バツが悪いのだろう。
長島が援護し始めた。
「あ、経費を余計に使うって意味じゃないんだ。お客さんも、『メイドカフェ』って聞いたら、いわゆる『メイド』を見に来ると思うんだ。だから、元々メイド服を着てもいいって言ってた3人だけは、いわゆる『メイド服』を着てもらおうと思って」
みんな『あー、確かに』と思ったか、『ナガシマ、キララのメイド服が見たかったな』と思ったかのどちらかだった。
「予算は、1泊2日で2000円で、良いのがあった」
A4の紙に印刷したものを各列の前に1枚ずつ配っていた。
『チョーかわいいのを探したし』
希星は緊張しているのか、バッチリ作りこまれたネイルを触りながら言った。
費用は2000円×3人分で6000円。
予算は3万円割り振りされていたので、妥当というか、むしろ安いだろう。
「では、決を採りたいと思います。賛成の人」
やっとタケルの仕事だ。
特に反対の人もおらず、ほぼ全員手が上がった。
「メイド服は3着レンタルとして、残りはクレアさんから借りたものとします」
(パチパチパチ)
割と事務的に話は進んだ。
それでも、リーダーである長友と希星は緊張していたようだった。
みんなに認めてもらって笑顔が漏れている。
「じゃあ、次、料理担当お願いします」
今度は、渡辺と心愛が教壇に上がる。
「うちらは料理を考えたっていうかー、パンケーキは超おいしいけど、もっとかわいくするためにトッピングを考えた的な?」
解凍済みのパンケーキとジップロックに入った、細かくカットされたフルーツとチョコソース、生クリーム、ブルーベリーソースなどを取り出した。
渡辺と心愛が紙皿に盛られたパンケーキにそれぞれのソースをかけて、3タイプのパンケーキを準備した。
「チョーかわいくない?この方が売れるっショ?」
心愛は自慢気だ。
タケルは、スイーツなどの概念がない。
タザー・エリアのお店もスイーツが手薄だとユウナギに指摘されていた。
やっぱり女子は違うと感心してみていた。
「あと、家がいちご作ってるから、学園祭の頃には持ってこれると思う。親に聞いたら何パックかくらいならタダで持って行っていいって言ってた」
渡辺も持てる人脈をフルに使ったみたいだ。
タダの食材。
普通のお店ではありえない好条件だ。
ここで生徒の一人が手を挙げた。
「あ、田中くん」渡辺が指名した。
「ソースはいくらですか?」
「えー、今回はスーパーでフルーツを買ってきたんだけどー、499円で10食か15食分―?ソースと生クリームは市販品なんで、ソースが1本500円で、生クリームは1キロで1000円くらいだったー」
「・・・」
みんな「で?」と思って、話が止まった。
タケルが電卓をはじきながら、補足した。
「フルーツは1食33円~50円くらい?ソースと生クリームはそれぞれ1本買ったら1日持つ量かな。ちなみに、この間のパンケーキは、10枚で483円だから、1枚50円弱かな」
「・・・」
まだ誰もピンと来ていないようだった。
タケルは、マティアスでタザーに特訓されて、原価管理と売価設定はみっちりやっていた。
「あ、食べ物屋さんの場合、材料の原価は販売価格の30%から35%くらいにしないといけないから、1食にパンケーキ2枚とソースとしたら、1食当たりの原価は150円位になりそうかな」
みんなタケルの方を見ている。
タケルは分かりやすいように黒板に棒グラフを書いて、下の方1/3くらいのところに線を引いて『材料代』と書いた。
「そして、人件費・・・お店の人の給料とか、バイトのバイト代が30%くらい。ここには、お店の電気代とか、家賃も入ってます」
さっきの棒グラフの真ん中に『人件費など』と追加した。
「最後に利益が30%から35%・・・これが儲けの分」
棒グラフの上の方に『儲け』と書き足した。
「ただ、今回は学園祭だし、土地代も人件費もかからないし、最悪儲からなくてもいいわけで、250円位に設定したらいいかなって思います」
「えマジ!?このパンケーキ250円!?マジ売れんジャネ!?」
心愛が真っ先に反応した。
「もっと儲けようぜ!クラス全員で打ち上げできるくらいに!店だったら800円はするじゃん!」
渡辺が心愛の意見に乗っかった。
「じゃあ、次までに価格は考えておいてください。決まった価格で売れるかどうか外部の意見も聞いてみたいと思います」
タケルがまとめに入った。
「ちなみに、『ガイブ』って誰?」心愛が訊いた。
「あ、僕はボッチなので、友達いないのでユウナギに聞くと思う」
「ちょ、ま!ユウナギちゃんに800円で買わせるのはひどくね!?」
「でも、スイーツの値段だと僕よりユウナギの方が詳しいっていうか・・・」
心愛も含め、ギャル3人はユウナギのファンだった。
800円では『高い』と思ったようだった。
このまま『ユウナギでも納得する価格』にすることで適正価格が決まりそうだ。
タケルは任せることにした。
「次、教育チーム願いします」
川島と仁心瑠が代わりに教卓に上がった。
「うちらはー、メイドがどんな仕事をするかとー、店を何人でやるかを考えましたー」
仁心瑠も語尾をのばしている。
ギャルは語尾を伸ばすものなのだろうか。
「女子わー15人いるけど、10人でよくね?残りはジュンバンで休憩で」
仁心瑠はそれだけ言って終わった。
「あー、補足すると・・・」川島が続けた。
「学園祭の店のオープンは10時で16時には終わるじゃん。6時間だけだけど、途中で昼休憩があるよね。1人4時間接客で交代するってことで」
川島はへらへらしていてイマイチ締まらない。
それでも続けた。
「女子は主に接客で、男子は調理と片付け。前半と後半に分ければ良いと思って・・・」
「・・・」
また場が静まった。
誰もが何か足りないと思っているのかもしれない。
タケルが今回の締めを言うことにした。
「えっと、とりあえず、現状の進捗はこんな感じです。各リーダー、お疲れさまでした。みんなも。えー、来週末には、実際に料理などを準備して『練習』をしてみましょうか」
タケルは店を開くまでほんとに準備期間がなかったし、次の店、次の店とタザーに仕込まれたためいつも鬼畜モードなのだ。
クラスのみんなは手放しに『練習』を楽しみにしているようだった。
ざわついてきたところでこの日の進捗報告会は終わった。
「おつかれー」「おつかれー」と声を掛け合って、帰る者、今後のことを話し合う者などバラバラだ。
ただ、色々な準備などもあってほとんどの人間が残っている。
タケルは帰ろうと引き出しのものをカバンに詰め込んでいた。
教室の打ち合わせが終わったのを見計らって、後ろの扉からこそこそとユウナギが入ってきた。
「タケルー、終わった?」
座っているタケルの後ろからユウナギが首に手を回した。
「わ!びっくりした!・・・今終わったとこ」
「見てたぞ、『総監督』さん♪ちゃんと仕切ってたじゃない!」
「いやー、ああいうのは苦手だよ。それぞれのチームでリーダーになってくれて助かってるよ・・・」
「あ!ユウナギちゃんだー!いらっしゃーい!」
「おつー、ユウナギちゃん!」
「おつー」
ギャル3人達はほんとにユウナギのファンみたいだ。
「おつかれさまー。メイドカフェどう?進んでるー?」
「ヤバみ。ユウナギちゃん、マジ喜ぶよ?」
「ええ?私が?」
「そーそー、安くしとくからね!期待しといて!」
「なに?私お金払うの?何に?」
打ち合わせの内容までは聞いていないユウナギには何のことか分からない。
恐らく、価格設定のことを言っているのだろう。
自分たちが『売る側』になると希望的観測込みの強気価格に設定してしまいがちだ。
『ユウナギが客』という、具体的なターゲットを絞って価格設定することは悪いことじゃない。
期待せずいい方向に向かっているようであった。
「カワシマには負けられないからな。俺がバッチリ仕切るぜ!頑張ろうなキララちゃん!」
「キモっ!『ちゃん』とか寒すぎるんですけ!?」
希星はそれほど長友と親しくはなっていないようだ。
「ワタナベくんちっていちご農家?」
「うん、そうだよ!今後来る?」
「まじ!?いちご食べ放題!?」
「うん!食べ放題!」
「マジ行く!」
ワタナベと心愛はまあまあ打ち解けているようだ。
「希星と仁心瑠もイコーよ!」
「タダ!?マジ神じゃね!?」
「いつ?」
ワイワイとタケルの席の周りが騒がしい。
タケルとしては『僕はボッチなので、リア充エリアから離れて・・・』と思っていたが。
「タケルっちも行くっしょ?もちろん、ユウナギちゃんも!」
仁心瑠がにこにこして誘った。
「え?僕も!?」
「いちご食べ放題デートよさげじゃね?ユウナギちゃん喜ぶよ?」
タケルがユウナギの方に視線を送る。
「うんー、私いちご大好き♪」
「じゃあ、今度・・・」
「やたー!」
「決まりー!」
「まじか、渡辺!俺は俺は!?」
「まあ、いいんじゃね?」
「マジか!お前神だったのか!」
わいわいしすぎていて、タケルにとっては少し居心地がよくない。
でも、悪い気はしていなかった。
なんだか不思議な気分。
僕はここにいていいんだろうかと、少し落ち着かないタケルだった。
タケルはふと壁際の席が気になった。
キムラが席に着いたまま何をするでもなくいるのだ。
キムラはクラスのヒエラルキーでは割と上位の方だったが、目立つやつがいるとちょっかいをかけてつぶしにかかるタイプの厄介なやつだ。
ずっといじってきた・・・やや、いじめのゾーンに入っていたといってもいい対象のタケルが、いつの間にかヒエラルキートップの集団の輪の中にいる。
もしかしたら、いつの間にか中心にいると言ってもいいかもしれない。
一方で、キムラはひとり。
媚びを売っていた連中には、思った程効果はなかったようで、いまや相手にもされていない。
タケルは思うところがあったが、なにができるだろう。
この『感覚』にも似た何かは他の人に見えるのだろうか。
タケルの中には確実に『アル』のだが、ギャル3人には『ミエナイ』かもしれない。
もしかしたら、ユウナギにも『ミエナイ』かもしれない。
この日はずっと、もやもやしたまま過ごしたタケルだった。
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