ユウナギの夢と進路
「あの・・・ユウナギ、なんか落ち着かないんだけど・・・」
「え?なんで?」
「いや、ほら、視線を感じるというか・・・」
「どういうこと?」
「僕一人ならいつも空気と同化して普通に落ち着いてご飯は食べられるんだけど、ユウナギとクレアさんが一緒だと、周囲の視線がすごく集まっていて・・・」
「え?そう?こんなの普通じゃない?タケルも私の旦那様になるんだから、これくらいは諦めて」
「わたくしも生まれた時から侯爵家だったので、ある程度いつも人の視線は意識してまいりました。神々の世界でも、というのは少し意外でしたが、光栄に思っています」
「ユウナギもクレアさんもかわいいから、普段から注目され慣れているのかもしれないけれど、僕にとってはストレスだから!」
「段々慣れてくると快感になるかよ~っっ?」
「いや、ならないから!食事の味もしないし!」
「で、この後はどうするの?タケル」
「ああ、服も買ったし、靴も買ったから、やっと本来の『買い出し』に行くよ」
「えー、つまんなーい!もっとお買い物して行こうよーっっ!お金持ちなんでしょう?タケルー!」
「タケルさんは神々の世界でもお金持ちなんですね!?」
「いやー、何ていうか・・・こっちの世界はクレアさんも初めてなので、色々見せたいところなんですが・・・あのお金は使い道が決まっているというか・・・」
「あ!タケル!なんか浪費ね!大金が転がり込んだから趣味とか、身にならないようんものに使う気でしょっっ!?」
「うーん、身になるかどうかは分らないけど、マティアスで働いてくれている子供たちに学校的な物を準備したいと思っていて・・・」
「はぁ!?学校!?」
「うん、まずは食べることが大事だから、働いてお金を作って、食べられる様になったんだけど、簡単な計算もできない子も多いから、学校というか、孤児院ごとの『塾』みたいなものを作って、勉強できるようにしたいんだ」
「学校でも建てる気なの!?」
「いやいや、そんなにお金持ちじゃないよ!テレビとレコーダーくらい持ち込んで、授業の動画を流すところから始めたいんだけど、子供たちは働かなくちゃいけないから、労働時間の中で授業を受けられるように出来ないかな、と思って・・・」
「バイト時間の一部が授業ってこと!?」
「バイトじゃないけどね、彼らにとっては。まあ、言っていることはそうだね」
「誰が先生するの?」
「そこなんだよ、一度授業みたいなのをやれば、それを動画にして、流すことが出来るんだけど、最初の授業をする人がいなくて・・・」
「どんな人が条件なの?」
「そうだなぁ、マティアスの言葉が分かって、日本語が分かって、小学生くらいまでの読み書きと計算が教えられる人・・・かな」
「はい!はい!はーい!私それやりたい!」
「え!?ユウナギが!?」
「そう!私、将来小学校の先生になろうと思って、教育学部志望だし!」
「あ、確かに!マティアスの言葉は分るし、適任かも」
「ほんとタケル!?ほんとに!?やったー!」
「よく分からない言葉もあったのですが、マティアスの子供たちの教育を考えてくださっているのですか?」
「はあ、まあ、貴族の方が、ちゃんと教育が受けられるんだと思うんですけど、孤児院の子供たちは、食べていくのがやっとだったみたいだから・・・ある程度の知識はないと大きくなってもちゃんとした収入が得られないと、そこ子供たちがまた同じ生活をすることになってしまうし・・・」
「さすがタケル様!将来の領主ですわ!その話をしたら、きっとお父様も援助してくださいますわ!」
「ほんとですか!?じゃあ、まずは目鼻立ちを付けないと、援助する方も何に援助していいか分からないと助けにくいですよね?」
「え?タケルはそのためにお金を使うの?」
「うん、だって、僕のお金のほとんどはマティアスで稼がせてもらってるし、僕には多すぎるから、還元しないと・・・」
「まったくもう、お人よしなんだから・・・もらっときゃ良いのよ!そんなの!・・・まあ、そんなところも好きなんだけど・・・」
フードコートで腕組みをしているユウナギが、片目でタケルのことをちらりと見た。
「ははは、ありがとう・・・単に、あんまり大金持つのが怖いだけなんだけどね」
「子供たちはこれからもっとっと稼いで、裕福になっていくと思います。単にお金で繋がった関係の場合、景気が悪くなったらすぐに離れてしまいますが、恩で繋がった関係だと、そんなときほどタケルさんの周りに人が集まると思いますわ」
「いや、そんな誉められるような理由でやろうと思ってないから・・・」
タケルとしては、自分が大学に行けないかもという不安が衝撃的だった。
祖父が元気な間は、全く将来のことなど考えていなかった。
急な祖父の死で、大学進学どころか、明日食べていくのも不安を感じた日々は、マティアスに行くことで解消されたのだ。
同じような危機感を持っている子供は多いだろう。
そんな子供たちの助けになることで、将来困ったときに助け合える関係になればと思っていたのだ。
「じゃあ、今度、私とクレアちゃんでお勉強の動画撮るね」
「あ、クレアさんも・・・それはいいな」
「日本語は教えないの?」
「マティアスにとっては外国になるし、よその国の言葉は・・・違う意味になってくるかもしれないから、もう少し様子を見よう。残念だけど」
「わたくしがシャルから教わった時の本も残っていますわ、それから始めてみてはいかがでしょう?」
「え!?そんなの使わせてもらえるんですか!?いきなり思っていた以上のものになりそうだな」
なんだかんだで話はまとまりつつあった。
今後の進捗にも期待したいところだ。
「もう少し遊びたーい!クレアちゃんにも日本を見せたーい!」
「そうだね、まあ、今日のメインは買い出しだから・・・今度、別の日に街を見せたり、動物園とか、水族館と連れて行こうかな」
「え!?クレアちゃんだけ!?私は!?」
「も、もちろん、ユウナギもだよ」
「ほんとに!?ほんとに連れて行く気だった!?」
「も、も、もちろんだよ」
「よろしくお願いします」
街を案内してもらえると聞いて、クレアが礼儀正しくお礼をいう。
「あ、や、そんなに畏まらないで・・・」
そうこういっているうちに、時間は15時を過ぎていた。
ここに来てやっと本来の目的を達成すべく、タケルの家から一番近い業務用スーパーに行くことになった。
ユウナギもクレアも普通の服装。
かわいくて注目を集めてしまうこと以外は普通だ。
そういう意味では、服や靴を買う意味があったのか少々疑問だが、こういうのは気分の問題もあるので良しとしよう。
タケルは高校生なので、当然自動車の運転などできないし、小市民であることからタクシーも使わない。
3人でバスに乗って業務用スーパーに買い出しに行った。
明日の更新も朝6時です。
よろしくお願いします。




