買い出しの前の準備
クレアが靴を履くと3人で庭に出た。
庭と言ってもそれほど広いわけではない。
自動車1台分もなく、畳みでいうなら2枚分程度の狭い庭だ。
ただ、ユウナギにも見慣れないものが庭に置いてあった。
「なにこれ?」
「これは『プレハブ冷蔵庫』と言って、業務用の冷凍冷蔵庫だよ」
「はあ?この家に対して、この冷蔵庫って大きすぎない!?」ユウナギがいかにも「おかしいでしょ!?」と言わんばかりに質問してきた。
「そうだね。実はこれどうしても必要なんで作ってもらったんだ。用途とかは後で教えるよ」
「こんな大きな冷蔵庫使うことないわよぉ」
「まあまあ」
とりあえず、簡単に家の案内をしたところでクレアが止まってしまっていた。
塀の向こう側の日本を見たからだ。
タケルの住む町は、大都会というわけではないが、ど田舎というわけでもなく、一応政令指定都市なのでビル群もあれば、住宅地もある街だ。
タケルは住宅地に住んでいたので近所には10階建てとか15階建てのマンションがある。
5階以上の建物をほぼ見る機会がないマティアスの人にとって、『高層建築物』は珍しかったのだろう。
「タケルさん、あの建物には神々が住まれているのですか?」
「あ、いえ、普通の人が住んでいますよ?日本では割と一般的な建物で『マンション』と呼んでいます」
「へー・・・」
呆気に取られているクレア。
口こそ開いていないが最初から度肝を抜かれたらしい。
「普通なら『ドアツードア』で行きたいところなのですが、最初なので3人でお店まで歩いていきましょう。ちょっと遠いけど、散歩がてら」
「そうね。クレアちゃんに日本を見てもらって慣れてもらわないとね」
「・・・はい、よろしくお願いします・・・」
クレアは心ここにあらず。
見るもの全てが珍しいようだ。
そこからは大変だった。
「これは何ですか?」
「自販機です。ジュースを自動で販売しています」
「魔道具ですか?」
「電気です」
「へー」
「これは何ですか?」
「アスファルトと言って・・・よくわからないけれど、土に油を塗って固めたものです」
「土に油を・・・ぬるぬるしないんですね」
「普通の温度では固まるような油なんです」
「へー」
「あれは何ですか?」
「あれは自動車ですね。馬がいない馬車みたいなものでしょうか」
「馬車なのに、馬がいないんですか・・・」
「そうなりますね」
「へー」
「あれは・・・」
言葉を覚えたての子供が母親に質問し続けるのと似たような光景が目の前で繰り返されていた。
ユウナギはニコニコしながら見守っていた。
クレアは真剣そのもの。
そのすべてを記憶しようとしているかのようだった。
15分も歩いたところで、ちょっとしたショッピングモールに着いた。
「先にここで買い物をしていきましょう」タケルがいうと、ユウナギも「そうね」と察したようだった。
ここに来るまでにすれ違う人に2度見、3度見されていた。
それは、クレアが金髪美少女であることも関係しているが、まず言葉が違う。
そして、服装が違う。
しかも騒ぎながら歩いていたので悪目立ちしていたのだ。
ショッピングモールを前にして、少し脇の方に移動し、タケルはアレをすることにした。
「ここからはちょっと言葉を変える必要があるので、クレアさん、少しだけ目をつぶってもらえますか?」
「はい」
クレアは言われた通りに目をつぶった。
手は胸のところで重ねていたので、まるで祈っているようなポーズになった。
タケルが気持ちを込めてクレアの額に手をかざして念を送った。
クレアの身体が一瞬ビクンと仰け反った様になったが、倒れる程ではなかった。
「クレアさん、僕の話している言葉は分かりますか?」
「・・・はい・・・分かります。マティアスの共通語ではないのに理解できる・・・変な感覚です」
「僕の日本語の・・・こちらの言葉の知識と普段話しておられる言葉遣いをクレアさんの頭の中に直接入れました」
「そんなことが出来るのですか?」
「なんでもできるかまでは分かりませんが、以前マティアスの言葉をユウナギにもインストールしてます」
「なるほど・・・これがタケルさんたちの言葉なのですね」
「はい、そうです」
「ちょっと!タケル!じゃあ、タケルが覚えたことは何でも私にインストールできるの?」
「多分ね」
「じゃあ、これからはテスト範囲は早めに勉強して、それを私にインストールして頂戴!」
どや顔でいうユウナギ。
「そんなの・・・一応考えておくよ・・・」
『ダメ』と言おうとしたタケルだったが、自分も何かの力を受け継いで劇的に記憶力が良くなっているので、後ろめたさからやめた。
「それじゃあ、行きましょうか。クレアさん」
「はい、エスコートお願いします」
「はい」
「ところで、こちらはどなたのお屋敷でしょうか?」
「あ、そうか。ここは屋敷ではなく、お店です。お店がたくさん集まっている建物なのです」
「まあ!こんなに大きい!?」
「そういうことになります。たくさんの人が来て、たくさんの物が買えるようになっているのです」
「予想をいきなり超えてきましたわね・・・よろしくお願いします」
クレア、ユウナギ、タケルの3人はショッピングモールに入った。
入口の自動ドアにクレアがすごく感動して、何度も通ったり、戻ったりしていたのだが、それはまた別の機会にお知らせしたい。
とりあえず、最初に入った店は服屋さんだ。
「ごめん、ユウナギ、服選びは任せてもいいかな?」
タケルがいきなり白旗を上げた。
「いいけど、クレアちゃんの服、普通に年齢でチョイスしたら小学生用になるよ?」
「大人っぽいヤツでお願いします」
「了解っっ」
「よくわからないけれど、タケルさんがちゃんとわたくしを一人の大人として見てくれているのが分かります」
「タケル!クレアちゃんの服の予算は?」
「特に上限はないけど、2~3着必要で、普通に着て街を歩けるもので」
「分かったわ。ユウナギちゃんの服は?」ユウナギが、いたずらっぽい顔でタケルを見る。
「必要経費だ、好きなのを2~3着買ってください」負けました、の表情でタケルは答えた。
「「やったーっっ♪」」
何だか、ユウナギとクレアが喜んでいる。
タケルはプレゼントできて嬉しいし、まあいいかと思っていた。
そこから約1時間はユウナギとクレアのターンで、タケルは何もできないとばかりに一人移動して、ひたすら本屋のラノベを読んで過ごした。
約1時間したところで、ユウナギからLINEが着たので服売り場に行くタケル。
試着室から出てくるクレアは完ぺきだった。
年齢は12歳なのだが、「小学生のおしゃれ」ではなく、ちゃんとかわいい服で、タケルは見ほれる程だった。
タケルの心をジャックナイフでザックリ行くくらいかわいかった。
「いや、良いよ・・・この服買おう!」
タケルはこの時ばかりはと金額に糸目をつけないと心に誓った。
ほんの数分違いで隣の試着室からユウナギが出てきた。
これがまたすごくかわいい。
ファッション雑誌から飛び出してきたかの様な着こなし。
さすが、「烏尾高校の奇跡」と感じさせる着こなしだった。
「か、かわいい・・・この服も買おう!」
単なるATMと化したタケル。
この場合は、タケルも満足しているので、よしとしよう。
援交JKに服をねだられて次々買うおっさんのようなタケル。
その後も、下着、靴などとにかく身に着ける物は全部買った。
買わないと日本では悪目立ちするくらい2人はかわいいのだ。
特にクレアは金髪という一瞬にして目を引く見た目なので、遠くからでも人々の視線を集めまくっていた。
「楽しかった~♪」
「珍しい品物ばかりでした!」
「疲れたーーー」
三者三様、とにかく身に着ける物は買ったし、すぐに使うもの以外はタケルのストレージに収納して身軽な状態で準備万端となった。
「じゃあ、改めて買い出しに・・・」
「ちょっと待って!服と下着と靴を買ったのだから、休憩がてら『食事』が良いんじゃないの!?」
「あ、まあ、そうかなぁ」
「神々の世界の食事ができるんですか!?」
「出来るのよぉ、クレアちゃん、ぜひ食べてもらいたい食べ物が山ほどあるのっっ!」
ユウナギはノリノリだ。
クレアも前向きだ。
タケルも別に抵抗勢力ではない。
結局フードコートで食事をすることになった。
もちろん、会計は全てタケル持ちだ。
フードコートでは、ユウナギはステーキを食べていた。
クレアはさんざん悩んだ挙句ハンバーガーを食べていた。
タケルは無難にラーメンをすすっていた。
「このステーキのおいしさ♪ご飯とスープが食べ放題というのがまたいい!」
『烏尾高校の奇跡』とは思えない俗物ぶりだったが、タケルの知っているユウナギはいつもこんな感じだ。
自然態というか、嘘がないというか、タケルにとってとても馴染みがる女の子だ。
身近な存在で、変に気を使わなくていい、一緒にいて心地いいというか、どこまでも自分が「普通」でいられる女の子、それがユウナギだ。
そして、クレアの方を見ると、クレアは何やらぶつぶつ言いながらハンバーガーを分析しながら食べていた。
「手に持って食べるということは、庶民の方の食べ物ということで・・・それにしては、味付けがすごくはっきりしていて、社交界でも十分通用するクオリティ・・・そして、パンとレタスの緑・・・レタスは葉物野菜なのね、とスライスされた赤いトマト・・・トマトも野菜みたいね、とお肉のコントラスト・・・芸術!それぞれの食材を手引きして1つにまとめ上げるソース!これはまさに神の食べ物!」
「だ、大丈夫かな?クレアさん・・・(汗)」
タケルは苦笑いしながら真剣なクレアの表情を見守る。
普段のタケルの行動と違う点としては、ユウナギとクレアがあまりに目立つのですごく視線を感じることだろう。
視線を感じるというか、既に人だかりが出来ている。
別に芸能人とかでなくてもこれだけ人を集めることが出来るのだから下手な芸能人よりも人の目を引き、集客力があるんじゃないかとタケルは冷静に分析した。
いや、そんなところに目を向けないと冷静に食事が出来ないくらいすごく周囲から見られていたのだ。
『かわいい』はすごいな・・・タケルの感想だった。
楽しい物語が好きです。
あなたの好きなシチュエーションはどんなのですか?
コメントもらえたら積極的に取り込みます=3
明日の更新も朝6時です。
よろしくお願いします。




