普通の高校生活
普通の高校生生活において、「事件」って意外と起こらない。
せいぜい誰と誰が付き合ったとか、別れたとかそういうレベルだ。
その時話題になっても、いいとこ1週間もしたら良くも悪くも忘れられていく。
ヒエラルキーの底辺タケルとヒエラルキーの頂点であり、『烏尾高校の奇跡』の2つ名を持ったユウナギが付き合うことになった噂はたちまち学校中に広がった。
しかも、あろうことか、告白は『烏尾高校の奇跡』の方からで、婚約までしていると言う噂が学校内に飛びかった。
噂によれば、『親公認』とか、聞いたこともがない外国の『公認婚約証明書』まで見せてもらったと言う噂まで校内を駆け回った。
放課後の教室では、タケルとユウナギがいる。
当然、数人のクラスメイトも残っているし、他のクラスのユウナギがいることが珍しくてわざわざ残っている生徒もいた。
「・・・だってよ?私達噂になってるみたいね!」
ユウナギがニコニコしながらタケルに話しかけた。
「いやいやいや、噂っていうか、この位置おかしいでしょ」
タケルが教室の席に座った状態で、膝の上にユウナギが座っている。
「『親公認』とか『婚約証明書』とか具体的すぎるよ。情報ソースはどこだよ」
「あ、それはねぇ、うちのクラスのリリカちゃんだと思う」
タケルにとっては『リリカちゃん』とは全く面識がないし、聞いたこともない人物だった。
「誰だっけ?リリカちゃんは何でそんな具体的なこと知っているの?」
「あ、それはねぇ、私が言ったから」
「はぁ?情報源は本人!?」
「『婚約証明書』も見せちゃった」
「誰も読めないでしょ。しかも、この世界には存在しない国だし」
「良いじゃない。サインは私達だし。学校じゃ指輪もできないし、最大限にアピールしていても」
「まさか、噂の元が本人だとは・・・」
「『付き合いだした』ってのは問題ないと思うけど、『婚約した』って言うのは職員会議になっているらしいよ?」
「ちょっと待って、それ初耳なんだけど!?」
「明日の昼休み、呼び出されてるらしいよ?」
「誰が!?」
「私と、タケル」
「それも初耳なんだけど・・」
「今言ったよ?私は帰りがけに先生から言われたもの」
「なんて言われたの?」
「『浅名さん、婚約したんですか?』って聞かれたんで、『はい!婚約しました!幸せになります!』って答えといた」
「なぜそんな問題になりそうなことを・・・」
タケルは頭に手を当てて「頭痛のポーズ」をした。
「だって、考えてみてよ?何で大学行くの?それ以前に高校に通う理由は?」
ユウナギが人差し指をタケルの鼻をちょんちょんしながら聞く。
「将来のため?」
「そう!将来のため!私たちは、良い高校に行って、良い大学に行く、そして、良い会社に就職するために勉強してるわ」
「まあ、そういうことになるな」
「ネットで調べてみた。年収1000万円以上の人って日本には4%弱しかいないってこと」
「へー、そうなんだ」
「つまり、このクラスが40人だとしたら、1人か2人しかその域にはいかないってこと」
「ああ、そうなるね」
「タケルは高校生だけど、既にそのレベルを超えている」
「いやいや、そんなことないよ」
「でも、年収1000万円って、月にしたら、84万円位だよ?」
確かにタケルの月収レベルでは十分それを超えていた。
「しかも、聞いたわよ?森で狩りをしたら1か月で500万円くらい稼げるんでしょ?」
「(本当はその倍くらいは楽に行けるけど黙っておくか)まあ、そうだね」
「頑張って日本でせこせこ働くよりも、マティアスで貴族として暮らした方が楽に良い暮らしができるんじゃないかしら?」
「そうか、考えたこともなかった。どこか、高校は当たり前に行くもんだと思っていたし、お金の問題が解決するなら大学にもいくもんだと思っていたよ」
「勉強は大事だけど、それは『将来のため』なんだから、マティアスの方が良いんじゃないの?」
「そうか・・・」
「あんたがあっちに行かなくなったら、孤児院も市場も困るんでしょ?」
クレアと話してユウナギは十分すぎる程情報を得ていた。
「貴族とか分かんないし、私は貴族にはならないけど、あんなお屋敷で暮らすことが出来るなら何の文句もないわよ?」
確かに、十分すぎる待遇だった。
「私は庶民だから、市場で働くわよ?自分の食い扶持くらいは自分で稼ぎたいし」
意外に堅実でしっかりしているユウナギだった。
「でも、それとロロコちゃんにちゃんに言うことは・・・」
「リリカちゃんね。世の中からドロップアウトするのならば、望むところよ。お母さんもいつでも帰ってこれるならば外国で暮らしてもいいって言ってたもの」
「おばさん、合理的だな・・・」
「もちろん、旦那様はタケルって言っといたわっっ」
「それて、『親公認』ってやつでは・・・」
「そう、嬉しかったから、リリカちゃんに言っちゃった♪」
『言っちゃった♪』って軽い!
意外なところで、問題が浮き彫りになったことにタケルは気づいた。
ユウナギは「要る物」と「要らない物」がはっきりしている。
そして、「要る物」の方に入っているもの以外は全て「要らない物」の中に入れる二者択一が出来るさっぱりした子だ。
そして、「要る物」の中にタケルしか入っていないことに気づいたのだ。
「友達」も「学校」も「日本」も、どうかしたら「親」だって「要らない物」の方に入っているかもしれない。
少なくとも優先順位がはっきりしているところがあるみたいだ。
少なくとも、タケルは高校を卒業しようと思っていた。
確かに、1年の内容は教科書を全部理解したので、既に分かる。
知識だけではなく、経験も大事だと実感したことがあるので、知識を得るスピードに合わせて体験も増やしていこうと思っていた。
しかし、改めて言われると『欲しい物』はあまりない。
ユウナギがいて、クレアがいてくれるならば既に過ぎたもので、それ以上を望むのは分不相応とまで思うほどだった。
「あれ?呼び出しは明日?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、今日は何でまだ教室にいるの?」
「リリカちゃんがタケルを紹介してって言ってたから」
「え!?来るの!?」
「うん、もう来ると思うんだけど・・・」
タケルは女子の群れが苦手だった。
具体的に何かをされたことはないけれど、裏で値踏みをされていると言うか、笑われていそうだと思うと言うか・・・
(ガラガラガラ・・・)「お邪魔しまーす」
見たことがない明らかに他のクラスの女子が5人ほど入ってきた。
教室に残っていた男女10人ほどが「ざわっ」とした。
ユウナギがタケルの膝から降りて、迎えに行った。
「いらっしゃーい」
あたかもユウナギはこのクラスの一員であるかのように「リリカちゃん」一行を迎え入れた。
タケルは危機感を感じた。
「コレカラナニガハジマルンダ・・・」
10分後、教室は訳の分からないことになっていた。
周囲の机6個をつなげて「大きなテーブル」が作られ、そこ廻りにタケル、ユウナギを含む10人ほどの集まりになっていた。
「大きなテーブル」の上には色々なお菓子が開けられていた。
タケルにとっては、取り留めのない話が続き、時折質問が投げかけられた。
それをタケルかユウナギが答える形だが、タケルにとって質問の意図が分からない物ばかりだった。
「プリはどっちが落書きするか」
「デートはどこに行くか」
「崖から落ちそうなとき、100万円とユウナギのどちらを取るか」
「花をもらうとしたらどれくらいもらうか」
「好きな歌は」
などなど
あとでタケルが考えたところ、『禊』と言うか、『お披露目会』的な要素があったのかもしれないと後になって思った。
何だか分からないけれど、ぐったり疲れて、その日は帰った。
あまりに疲れすぎてマティアスの市場には行けないほどだったが、ご飯は食べに屋敷には行った。
ちなみに、翌日の「呼び出し」は意外に大事になっていて、ユウナギの母親が呼ばれていた。
昼休みに『婚約の話が本当か』と言う話と『許可されたのか』が確認された。
ユウナギの母親は先生の質問に対してきっぱりと『本当です。本人達に任せています』と言い切った。
先生も、そこまで言い切るならと簡単に引っ込んだ。
ユウナギのお母さんが帰るとき、校門まで見送りに言ったら「タケルくん、ユウナギをよろしくね♪」と一言だけ言われてしまった。
その一言で大体すべてはタケルに伝わった。
「困ったときは全力サポートするけど、ユウナギが生きるも死ぬも任せる」と言うような重たい意図があったと思われる。
タケルはとにかく頭を下げて心からのお礼を示した。
お母さんはスキップしながら帰っていった。
若い。
そして、かわいいい。
本当は今回くらいで終了の予定でしたが、まだまだ終わりませんでした。
次回から新展開です。
思いついたら筆・・・ではなく、キーボードが走って3万文字ほど書いてしまいました。
更新は朝6時です。
よろしくお願いします。




