女子会
「女子会」は、クレアの意向で談話室ではなく、クレアの部屋で行われることになった。
これだけの屋敷になると、「話し合いをするための部屋」もある。
多分、商業ギルド長のタザーなどが招かれたら通される部屋だろう。
こういう部屋での「談話」とは交渉事が多く、ある程度のプレッシャーを与えることで侯爵家にとって有利になるように話を進める。
そのため、高級な調度品が置かれていたり、陛下からの表彰状が置かれていたりする。
無言のプレッシャーだ。
そんな部屋で庶民であるユウナギが話をしたら絶対委縮して後に禍根を残すことになると懸念しての意向だ。
女子会にはメイドも同室しないこととなった。
予め、お茶とお菓子は多めに準備され、そこで「挨拶」のやり直しからスタートするとのこと。
タケルはそこに参加することを申し出たが、クレアとユウナギの両方から却下され、おとなしく自室で待つことになった。
参加しないんだったら、学校に行っても良かったのでは?と疑問に思うところはあったが、「自室で待っていること」もまた仕事だったのだ。
「女子会」は午前10時ごろから始まった。
途中、昼食が運ばれていったこともタケルに報告が来た。
特別担当と言うわけではないが、ローレットがタケルの部屋の掃除をすることが多く、タケルとも何度か顔を合わせているので担当になっていた。
ローレットも人が良いのか、タケルのことを気に入ったのか、自発的に色々動いてくれていた。
落ち着かなく部屋で待っているときなど、話し相手になってくれるほどだった。
午前中はタケルがずっと部屋の中をうろうろして過ごした。
ローレットは、お茶を準備して、席に着かないといけなくした。
「タケル様、差し出がましいようですが、クレアお嬢様は年齢以上に優れた主人です。おまかせしていて、大丈夫と存じます」
ローレットはメイドなので、タケルと同じテーブルについたり、タケルの前で座ったりしない。
プロのメイドだ。
プロだけど、人情味のある最高のメイドだった。
タケルが本当の意味で落ち着けるように最大限の努力をしてくれていた。
食事係が食事を作っていたことなどは、タケルへの報告義務はなかったが、タケルが少しでも落ち着けるようにと独自の判断で知らせたことだった。
ついでにメニューの内容まで報告が行った。
通常ならば、来客があれば、屋敷の料理人が料理を作る。
ただ、この日は少し状況が違った。
市場から取り寄せた料理が持ち込まれたらしい。
「女子会」では何が起こっているのか、どんな話がされているのか、それはクレアとユウナギしか知ることが出来ないものだった。
女子会は夕方4時まで続いた。
食事時間を含めても6時間の長期会談だ。
どんな話がされたのか、何が決まって、どんな結果になったのか。
タケルはそわそわしていた。
ローレットが部屋に来て、クレアの部屋に行っていい許可が出た旨知らせてきた。
タケルは、ローレットに連れられてクレアの部屋に行った。
そこでは、クレアとユウナギが談笑していた。
タケルはイメージ的に違う結果で少し戸惑っていた。
ローレットは何も言わず、部屋を出た。
この辺りプロだ。
クレアとユウナギが同じテーブルに着き、お茶を飲みながら何かを食べている。
タケルはその部屋に通されたが、座る場所が分からない。
立ったままのタケルが言葉を発した。
「あの・・・」
明らかに何から言っていいのか分からない状態。
最初にタケルに話しかけたのは、幼馴染ユウナギだった。
「あ、タケル。来たの?座ったら?」
「タケルさん、お待たせしました。どうぞお座りください」
クレアも続けた。
タケルは色々考えて、ユウナギ側でもない、クレア側でもないお誕生席側に座った。
「・・・」タケルは座ったはいいが、続けて言葉は出なかった。
切り出したのは、最年少クレアだった。
「ユウナギさんと話しましたが、両方タケルさんの婚約者となり、将来的にはわたくしが正室、ユウナギさんが側室となることに落ち着きましたわ」
さすがクレア。
当初クレアが話していた通りになっているあたり、交渉力は半端ない。
続けてユウナギが話した。
「タケルは最低でも高校卒業までは日本で過ごして良くて、希望すれば大学も行くことが出来るわ。経済的に不安がある場合は侯爵家から援助が出るわ」
まじか。
タケルが心配していた経済的なバックボーンをまず抑えてきた。
さすが幼馴染、タケルの弱点のカバーから来た。
「高校卒業か、大学卒業の後は、日本で就職してもマティアスで仕事を続けても良いことになっているわ。日本で就職する場合は、クレアちゃんを日本に呼び寄せることと、私との婚姻、クレアちゃんとはマティアスで婚姻、そして、それぞれを書面で明確にすること、最低でも月に1度はクレアちゃんをマティアスに連れて行くことが条件として決まったわ」
タケルは将来どうするかはまだ決めていなかったので、どちらでもいいのなら選択肢は広くて助かると思った。
出された条件も制限的なものではなくて、それぞれに配慮されたものなので、何も困ることはなさそうだった。
そして、次の条件は、クレア、ユウナギ両方が声を合わせて行ってきた条件だった。
「「タケルは、将来クレア、ユウナギの両方と結婚すること!」」
それも想定の範囲内だったので、制限的な条件ではなかった。
「もちろん!光栄です」
クレアが続けた。
「わたくしを一生妻としてかわいがること!」
「はい」
ユウナギが続けた。
「私を高校時代は彼女として、卒業したら妻として一生かわいがること!」
「はい」
何やら、「条件設定」にかこつけた「告白」合戦みたいになっていて、タケルはどうにも居心地が悪かった。
いつの間にか、30分以上にわたって発表され続けた「条件」が明文化されていて、それにサインをしていくとになっていた。
同時に、クレアとタケルの婚約は初めて明文化され、双方のサインが入れられている。
ユウナギとしては、日本においてタケルと恋人関係と言うことがマティアスの公式文書により証明され、将来は第一側室としての地位が確立し、生活の保証がなされていた。
クレア、ユウナギ双方の希望が盛り込まれていて、満足する結果になっている。
一部、領主アルフレットの承認が必要な部分もあるが、3人で問題を解決していく旨契約書には書かれている。
書類にそれぞれがサインをしたら、書類は別の部屋に持っていかれ、正式な書類として登録されるようだった。
そしたら、タケルの席に左右からクレアとユウナギが寄ってきた。
両方から腕に抱き着かれ、それぞれに言われた。
「今後ともよろしくお願いしますわね。旦那様♪」
「今日から私は『幼馴染』兼『彼女』兼『婚約者』だから。よろしくね、彼氏くん♪」
タケルには何があっても勝てない人間が世の中には2人いて、その2人ともが目の前にいることを実感した。
ただ、ひいき目なしに見ても金髪ロングでおしとやか、それでいて芯が強くて、頭も良い年下彼女兼婚約者と、学園でも『奇跡』と呼ばれている成績も部活も優秀な幼馴染兼彼女兼婚約者に両方から腕を組まれ、懐かれている様は悪くない気分だった。
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