正面対決の前
勢いよく出てきたものの、時間は午後11時。
家庭によっては深夜かもしれない。
一般家庭を訪れるには非常識な時間となっている。
試しに、ユウナギにLINEを送ってみても既読がつかない。
電話をしても出てくれない。
普通の男子高校生ならば、ここで「打つ手なし」となるところだ。
ところが、タケルには「スキル」がある。
家族に全く会わずにユウナギの部屋の中に入ることもできるのだ。
ただ、いきなり部屋に行って、騒がれると面倒なことになる。
この辺り犯罪者と同じである。
部屋に入ったと同時にスリープで眠らせる作戦や家族の方を先に眠らせる作戦など10パターン程考えた後、全てが犯罪者と同じ思考パターンだと気づき、躊躇するタケル。
いざとなったら、謝れば良いと腹をくくって、ユウナギの部屋に直接行くことにしたタケル。
ドアはないので、普通に「テレポート」した。
ユウナギの部屋に入ると、ユウナギは制服のままベッドに丸まって眠っていた。
よく見ると、顔には涙の跡が付いている。
ここで起こして騒がれるのは良くないと思い、ユウナギごとテレポートして、クレアの屋敷のタケルの部屋に移動した。
ユウナギはタケルのベッドの上に寝かせてある。
部屋が明るいことと、わずかな違和感からユウナギは目を覚ました。
「タケル・・・?」
目が覚めたユウナギはすぐ目の前にいたタケルに抱き着いた。
「夢だった・・・夢見てた・・・タケルがいなくなる夢だった」
予定外にベッドの上で抱き着かれて身動きできなくなってしまったが、ユウナギに答えた。
「僕はいなくならないよ」
そっとユウナギの頭をなでる。
ユウナギはそのまま寝息を立てて寝てしまった。
タケルはベッドでユウナギに抱き着かれて動けなくなると言うアクシデントに見舞われた。
もちろん、「テレポート」で別の場所に移動することはできる。
でも、違和感があるとまたユウナギが目を覚ましてしまう。
結局、身動きは出来ないのだ。
一応朝になってユウナギがいないと家族が騒ぎにならないように、事前にメモをドアの前に貼ってきた。
この日はそれ以上進展もなく、夜が更けていった。
男女が1つのベッドの上に寝ていると言うのに、少しも色っぽい感じではなく、プロレスとか決め技的な様相を呈している状態のまま、タケルも眠りに落ちて行ったのだった。
***
翌朝、タケルが目を覚ますとベッドの上にはユウナギの姿がなかった。
その代わり、洗面所の方で顔を洗っている人がいる。
ユウナギだ。
マティアスに水道はないので、毎朝メイドの人が顔を洗うための水を持ってきてくれる。
それで目が覚めたのかもしれない。
タケルも起き上がった。
カーテンは既に開けられていて、いかにもさわやかな朝と言う感じだった。
昨日のごたごたが嘘のようにユウナギの顔は晴れていた。
「おはよう」タケルがまだ少し眠そうに言うと、ユウナギも「おはよう」と返してくれた。
「この部屋・・・夢じゃないんだね」
「うん、ここは異世界、マティアスと言う街だよ」
「タケルはお姫様と婚約・・・しちゃったんだね」
「お姫様は別にいるから、お姫様のいとこかな」
「私とは・・・住む世界が違っちゃったってこと・・・まだ受け入れられないけど・・・タケルの幸せは喜びたい・・・」
「ありがとう・・・その輪の中にユウナギも入ってくれないかな?」
「?どういうこと?」
「昨日、クレアさんとも話したんだけど、ユウナギさえよければ、将来僕のお嫁さんになってほしいんだ・・・」
「え?どういうこと!?クレア・・・さんと結婚の約束をしたんでしょ!?」
「ここは日本じゃないから・・・一夫多妻制なんだ。僕たちの常識では問題は解決できなかったけど、異世界では、何の問題もないんだよ」
「え・・・でもそんなのクレアさんが許すはずないじゃない!」
「既に、ユウナギを受け入れたいって言って、女子会を予定しているらしい。大事なことだから今日は学校休みになっちゃうけど、このあとクレアさんと会って、一緒に話してもらえるかな?」
「そしたら、私とタケルはまた一緒ってこと?」
「うん、そうなるね。クレアさんとは婚約しているから、ユウナギにも婚約者になってもらわないとおかしなことになってしまうし、クレアさんが正室でユウナギが側室ってことにならないと戦争が起きてしまうんだけど・・・」
「正室?側室?そんなのどれでもいい!タケルはまだ学校行くのよね?」
「もちろん、卒業するよ?その後どうするかはまた考えるけど、ここでの仕事だけでも食べていくには十分すぎるし、街のみんながもっと元気なるために仕事ができるんだったら、それもいいかなって思ってる。」
「え?バイトじゃなくて?ここで働いてんの!?」
「今んとこ毎月これくらいの稼ぎにはなってる」
タケルが、スマホの銀行残高を見せた。
「はあ!?あんた何者!?うちのお父さんの10倍は稼いでない!?」
「うーん、なんか色々忙しくて・・・」
「それで学校も行って、働いて!?いつ寝てんの!?」
「それであんまり休みも・・・寝る暇もなくて・・・」
ふふんとユウナギが腕組みをした。
「このユウナギちゃんがタケルのことをちゃんと見てあげてないと倒れて病気になっちゃうって訳ね?」
「あ、倒れることはあんまり考えてなかったけど・・・」
「あんた馬鹿ね!?誰も予定して倒れないわよ!」
「あ、そうか」
「日本で働くにしても、こっちで働くにしても、生活は何とかなるみたいね」
「うん、まあ」
「12歳の金髪ロリの婚約者を手に入れてもなお、このユウナギちゃんを手放せなかった、と」
「う、うん・・・そうなるね」
「しょうがないわね!私が面倒見てあげないとどうしようもないんだからっっ!」
いつもの調子を取り戻しつつあるユウナギ。
あとはクレアとの相性だけだった。
「コンコン」部屋がノックされた。
「はい」いつものようにタケルが返事をすると、メイドがカートで食事を持ってきてくれた。
恐らく、クレアの指示だろう。
タケルはいつも大食堂でアルフレットとマリア、クレアとともに朝食を摂っていた。
だが、色々微妙な今、それは難しい。
とりあえず、落ち着くまで部屋で食事が摂れるようにしてくれたみたいだ。
「あ、すいません、あと、彼女の着替えを何か準備してもらえないですか?」
「かしこまりました」
メイドは必要最低限のことだけを済ますと部屋を出て行った。
高級ホテルの暮らしってもしかしたらこんな感じかもしれない。
「すごいわねー、ルームサービスってやつやない?屋敷っていうか、もう、高級ホテルよね!?こんなの経験する日が来るなんてね・・・」
ユウナギがタケルと全く同じ感想だった。
庶民レベルはタケルもユウナギも同じだから当然の反応かもしれない。
クレアが準備してくれた朝食を一緒に摂りながら、ユウナギが言った。
「要するに、このあとクレアちゃんと話してカタを付けたらいいってことでしょ!?」
「カタをつけるって・・・そんな物騒な話じゃなくて、なんでも思い通りになるわけじゃないから、条件を聞いて、妥協できるかどうか確認するのと、クレアさんともある程度仲良くしなきゃいけないから、話してみて仲良くできるか・・・」
「良いわよ!?相手はたった12歳じゃないっっ!小6相手に高校生様が負けるわけないわよ!タケルとの付き合いもこっちは年齢とイコールよっっ!」
「まあ、そうなんだけど、そんなけんか腰な話じゃなくて・・・」
タケルの心配をよそに、ユウナギは変にやる気になっていた。
どこか吹っ切れたのか、ぶっ壊れたのか、とにかく変なテンションになっているのは間違いなかった。
明日の更新は朝6時です。
よろしくお願いします。




