お茶会は修羅場の香り
王宮から度々手紙が来る
宛先は
『かわいい ゴンちゃんへ』
である
「ゴンちゃんって誰なんだよ?」
ウィルが手紙を見ながら呟く
……ななしのごんべえと遠回しに名乗りたくないと伝えたのに
伝わらなかったどころか……逆手にとってくるとはフィル様恐ろしい子!
書いてあることは何気ないことが多い
今日は庭の花が綺麗だったとか
おかしが美味しかったとか
大抵、どうでもいい話だ
で、文末にはいつもまた会いたい、王宮に来てねで終わる
王家の第3王子からの手紙を無視する訳にもいかないので
毎回、返事を書いてアインに持たせていたら
とうとう招待状が届いた
今度は側室様からである
え?なんで?フィル様の誘いを
毎回、腹痛とか頭痛とか仮病つかいまくってたのがバレたのか!?
「どうしようアイン!?」
「どうしようもなにも自業自得だろう」
にべもない
「側室は父上の幼馴染だったと聞く
父上の幼馴染ならロミオとも顔見知りだろ?
そんなに厳しいことは言わないと思うぞ」
「いやいや、不思議ちゃんだったらどうしよう?
だって、あのフィル様のお母上な訳じゃん!」
「……俺も会ったことは数える程しかないが
そういう感じでもなかった気がするけどな
今回は俺もアルも行かなくてすむからな
精々頑張ってこい」
「いやだぁ!」
側室様からのお茶会の誘いとあって張り切ったのはマイヤーさんだ
いつものお行儀の授業が倍の時間に増やされ
言葉遣いから歩き方、食べ方とそりゃもう辛かった
母とアンはドレスを選べて楽しそうだったが
着せ替えに付き合った私はくたくただった
ドレスは動きにくいから好きじゃない……
でも、母の手前そんなことは言えないのだ
お茶会の当日
侯爵家の馬車で向かおうとすると
向こうから王家の馬車がやって来た
「ゴンちゃん!」
ドアが開くなり降りて来たのはフィル様である
「ゴンちゃん、きょうは げんき?」
「ええ、元気です」
「よかった」
フィル様が笑うと背景に花が咲く勢いだ
「ゴンちゃん、あたま かわいい」
「ニャ?」
そういえば馬車の中ならいいかとテイルを乗っけたままだった
「触りますか?」
えー、めんどいとばかりのテイルをフィル様に渡す
「いいの?ふわふわだぁ!」
喜び方はアインと一緒だな
こういうとき兄弟っぽいよね
ただ、フィル様はテイルの尻尾が気になるらしく時折掴んではテイルから悲鳴が上がっていた
今日は護衛にアンとセバスチャンが一緒だった
ウィルはまだ王宮には出せないということでお留守番である
「ゴンちゃん……ゴンちゃん」
「……なんですか?フィル様」
というか、いつまで私はゴンちゃんなんですか?
「だーいすき」
あざとい!
「それはどうも……」
「きょうはね ははうえも あねうえも いっしょ なんだよ」
……姉上!?ってお姫様も
おお、アルを騙してでも道連れにしとけばよかった
「みんな いっしょ うれしい えへへ」
「そーですね」
私は気が重いよ
胃が痛い……今からでも……はい、無理ですよね
王宮に着くと今日は離宮の庭園の方に通された
アイン情報によると側室様とフィル様と姫様は離宮で暮らしているらしい
「ゴンちゃん、こっちだよ!」
フィル様が私の手を引いて走る
はっはっは、今はは走るとマズイんだよ色々と
優雅に淑女らしく競歩で歩いた
「すごぉい ゴンちゃん はやいね」
「特訓してきましたから!」
「とっくん?かっこいい!」
アンとセバスチャンの目が冷たい気がしたが気にしない!
テーブルには既に美味しそうなお菓子とともに優しそうな女の人が座っていた
「ははうえ! ゴンちゃんをつれてきました!」
やっぱり、この方が側室様か
「いらっしゃい○△□嬢」
「お初にお目にかかります
○△□・フォンタナーと申します」
何度も何度も練習したお辞儀をする
「ええ? ちがうよ 母上
ゴンちゃんはゴンちゃんだよ
ななしの」
「この度はお招きいただきありがとうございます」
フィル様の言葉を遮る
これはルール違反だけど
ななしのごんべえって名乗ったことを側室様に知られるのはマズい
「ふふふ、ゴンちゃんね
この子、前のお茶会で貴方と遊んだのがとっても楽しかったみたいで
ずっとゴンちゃんゴンちゃん言っていたのよ」
「恐縮です」
でも、本当の話
なんで気に入られたか分からないんだよな
アンと間違えて飛びかかったのがそもそもの出会いだし
「ふふふ、硬くならないで
今日は息子のお友達に会いたかっただけなのだから
もっと気楽にして頂戴
イザークからあなたはもっと楽しい子だと聞いているわ
そうそう!わたがしをイザークがいつだったかしら、持って帰ってくれたの
あれもあなたが発案したのでしょう?
とっても甘くて美味しかったわ」
情報源は王様か!?
そういえば祭りではっちゃけてたけど!!
「わたがしって あのふわふわした しろいのでしょう?
とっても おいしかったよ ゴンちゃん
あねうえも おいしいって たべてた」
「そうね、リリアナも喜んでいたわね」
そういえばお姫様の姿は見えないな……いや、いる
じー……
視線を感じる
今度は柱の陰からだ
「ふふふ、リリアナ出ていらっしゃい
ゴンちゃんが来てくれたわよ」
「あねうえ ゴンちゃんです」
「……リリアナですの」
リリアナ姫は柱の陰からだに隠れたまま
顔だけちょこんと出して挨拶された
「初めまして○」
「ゴンちゃんでしょう!私、知っていますの!
お茶会で駆けっこしていましたの!知ってますの!」
あれ?お茶会のことバレてる?
「私も駆けっこしたかったけどドレスだったから出来なかったですの!
フィルナルドばっかりズルいですの」
「あねうえ むこうで いっしょに おちゃを のみましょう」
「うう……でも、恥ずかしいですのぉ」
……あれだな
この兄妹とアインを足して3で割ったら多分物凄く良い感じになるんだろうな
アインは目立ちたがり屋だ
「イアンお兄様とも決闘したことも見てましたの!
すごくカッコイイと思いましたの!
でも、私なんかじゃお友達になってもらえないと思って!」
「リリアナ、ゴンちゃんも困っているわよ
こっちに座ってお話ししたら?」
「だって、母上!」
柱を挟んでの会話は確かに面倒だ
「リリアナ様!」
回り込んでリリアナ様の隣に行こうとするが
そうすると、リリアナ様は柱の裏側へ身を隠す
回り込む、身を隠す、回り込む、身を隠す
「あねうえばっかり ゴンちゃんと あそんで ずるいです」
目が回り始めた頃、リリアナ様が先に目を回した
「ぐるぐるしますの〜」
「ほら、リリアナ、椅子に座りなさい
ごめんなさいね、ゴンちゃん
この子ちょっと変わっているものだから」
「い、いえ」
「ゴンちゃんがたくさんいますの〜」
いえ、私は1人です
「はい、ゴンちゃん おかし
あーん」
「フィル様1人で食べられます」
ここでもあーんする気なのか!?
「だめ はい あーん」
いや、無理無理!
「たべて?」
涙目になっても無理なものは無理です
「あーん」
「…………」
「あーん」
「……あーん」
フィル様の涙目に負けた!
ちなみに涙は一滴も流れていない……
「どう?」
「美味しいです」
この間も思ったけれど王宮のお菓子はどれも美味しい
「つぎは これ あーん」
いや、本当に勘弁してくださいフィル様
「うふふ、フィルはゴンちゃんが大好きなのね」
「はい!ははうえ!」
「ゴンちゃんがフィルナンドと結婚したらずっと一緒に居られるわよ」
側室様!?一体何を!?
「ずっと いっしょ?
ぼく ゴンちゃんと」
「フィル様、このお菓子美味しいですよ
はい、あーん!」
フィル様の口にお菓子を突っ込む
はっはっは、王族と結婚とか絶対嫌だ!
「もぐもぐ、おいしい」
「あらあら、振られちゃったわね」
この側室様、油断できない
王妃様とは別の意味で怖い……
「わ、私もあーんしますの!」
「はい、リリアナ様、あーん」
「あーんですの!って違いますの!
私がゴンちゃんにあーんしますの!」
させません!
そんな時だ
お付きの方が側室様の耳打ちしたのは
耳打ちされた後、側室様の顔が変わった
「ごめんなさい、少し用事ができたので離れるわね
ゴンちゃん、ゆっくりしていってね」
「それには及びませんわ」
この声は……!!
「王妃様!」
「貧乏人どもが呑気にお茶を飲んでいると聞いて覗きに来たの
ああ、私にもお茶ね」
こ、これが世にいう女の修羅場というやつか……!?




