アイン
それから俺は部屋に篭るようになった
どうすればいいかわからないのだ
今まで何をしても母上はイアンは素晴らしいと褒めてくれた
俺もそうなのだと思っていた。
でも、母上のいない俺に価値などあるのだろうか……?
そんな考えが頭の中をぐるぐる回る
そんな時だ
「アインちゃんいる?」
「……」
「うふふ、みーつけた」
○△□といいマリアンヌといい無視という言葉を知らないのだろうか?
「……何の用だ?」
「うん、おばさんだけアインちゃんとご挨拶できてなかったでしょ?
だから、ご挨拶に来たの
私はマリアンヌ、よろしくねアインちゃん」
「…………」
「今日はそれだけ。また明日来るね」
「……来なくていい」
「うふふ、またね」
それから毎日マリアンヌは俺の部屋にやってきた
他愛ない話しをして帰っていく
時間にしたら5分もないかもしれない
「アインちゃん、おはよう
今日はね、お庭の……」
「……もうくんな」
「アインちゃん?」
「もう来んな!邪魔なんだよ!」
メイドが言っていた奥様は今日も具合がよくないと
ベットから起き上がるのもやっとだと
でも、マリアンヌは毎日やって来ていた
顔色がどんどん悪くなってることも俺は気づけてなかった
「そっか……おばさん気づけずにごめんね」
「…………」
胸の奥がズキズキする
でも、こうするのが1番いいんだ
マリアンヌがよろめいた
俺は自然とマリアンヌを支えようとしていた
この忌々しい体では支えきれず転んだが
その様子を見てマリアンヌが微笑んだ
「おばさんのこと心配してくれたの?」
「……違う」
俺はただ……毎日話しかけてくれるのが嬉しかったとか
体調が良くないのに俺を気にかけてくれただとか
そういうんじゃなくて……なんて言っていいのか分からない
「アインちゃんは優しい子ね」
マリアンヌが俺の頭を撫でる
なんだか小さい頃、今ぐらいの体の時に父上に撫でられたのを思い出した
それから本当に時々だけど俺はマリアンヌの部屋に行った
○△□とアルフォンスがいない時間を見計らってだ
マリアンヌはベットの中で体を起こすとまた他愛ない話しをした
そんな時、また○△□に部屋から引っ張り出され
……あいつは手加減というものを知らない
部屋のドアもノックなんかしないし
「アイン、いるー?」
「…………」
無視を決め込んでも
「あ!いるじゃん!母の部屋で裁縫しよー!」
ズカズカと入って来て、俺を抱えるとさっさと出ていく
俺の意見なんて聞きやしない
マリアンヌの部屋に行くとアルフォンスもいた
マリアンヌの顔色が今日は元気そうだ
ゼリオンとかいう胡散臭い産婆がついたと……ほんのちょっとだけ
……心配していたから……
それから刺繍をすることになったけれど
男のましてや王族が刺繍などしたことない
針に糸を通す作業は簡単だった
隣で唸っている○△□を見るのは気分が良かった
でも、俺の描きたいものって……?
アルフォンスは青い花を刺繍してマリアンヌに渡した
○△□はなんだかよくわからない怪物?本人はライオンだと主張しているものを縫っていた
俺は布に針を通すこともできず、時間だけが過ぎて行った
マリアンヌは俺に言った
「それならアインちゃん、次におばさんに会うときまでに完成させてきてくれる?」
「……俺にはできない」
何が描きたいかも分からない俺では出来ると思えない
「そんなことないわ
おばさんも頑張って完成させるから一緒に完成させましょう」
マリアンヌが俺の手をとって微笑む
その日から、マリアンヌの部屋に行くと他愛ない話しの他に刺繍をするようになった
マリアンヌが刺繍しているのはフォンタナー家の紋章である獅子だ
同じ獅子でも○△□のライオンとは天と地ほどの差がある
俺のはといえば赤い百合を縫っているスカシユリというらしい
マリアンヌが図鑑で見せてくれた赤い百合というのがカッコいいと思った
俺はスカシユリのつもりだが赤い花にしか見えない
でも、マリアンヌは
「まあ、素敵な百合ね」
と言ってくれた
今の俺の名前はアイン・フォンタナー
もう少し、このままでもいいか……と……思わないでもない




