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紫光の魔導書  作者: しぇりー
――第二章―― 奴隷の刻印と女神の隠し事
33/34

第三十三話

更新開けちゃいまして

本当に申し訳ないです……。


 ――もう一度だけ言わせて欲しい。どうしてこうなった?


 ルゥちゃんことルーナリアの悪巧みは結果的にエリスと知り合わせてくれ、レティと模擬戦をすると言うストレス発散にもなったので不満はない。魔王と言う世界屈指の実力者との実戦、これは滅多にないチャンスだ。彼女も本気ではなかったようだが、それでもだ。


 レティとの模擬戦が終了したのは、時間にすると四時間後。まさかそんなに長く経過しているとは思っていなかったものの、外は真っ暗だ。此処ぞとばかりに宴会だと騒いだルゥちゃんがギルドの酒場を独占したのも苦笑いだけでなんとか流すことが出来たのは僥倖だろう。


 まあ、何と言っても約三十年振りにエリスと再開したのだ、これくらいは目を瞑ろう。リリンも『お話』していない様子なので許容範囲なのだろうし、エリスも心無しか嬉しそうだった。普段感情を顔に出さないエリスが頬を綻ばせていたのだ、あんなダメエルフでも肉親なんだろう。


 リリンにびくびくしていたルーナリアだが、お許しが出たことによってそこからの行動は迅速だった。もしかするとあの時の動きは、実戦中のレティやヴァンを超越していたかもしれない。


 やけに神妙な面持ちで飲んだくれている冒険者や食事中の冒険者、果てはギルド従業員までもを解散させ、渋る者には権力の力でお引き取り願っていたのは見ないフリに徹しようと思う。


 しかし此処で疑問が浮上した。酒場や食事処の従業員まで解散させたので、料理を作る者や酒類を運ぶ者がいない。ヴァンとレティ。観客席に居たクレア、エリス、アルバリオにリリン。我らが使い魔のクリムと首謀者ルーナリアの合計八名が参加している。宴会を行うのは賛成だが、食事も飲み物も全てセルフサービスと言うのは些か宜しくないだろう。


 ――そう思っていた時だった。


 冒険者ギルドの重厚な扉が壊れそうな程に撓みながら開く。激しい音に驚愕したルーナリア以外はすぐさま扉へと振り向き、各々警戒した。


「はぁい」


 語尾にハートマークが付きそうな程に甘ったるい挨拶。しかしその声は酒焼けのようなハスキーボイス。

 物理的な破壊力のあるウインクを飛ばし、はち切れんばかりの肉体を支えるシャツは今にも弾け飛びそうだ。現にボタンが幾つか悲鳴を上げている。

 そして初見であれば気絶すること間違いなしの強面スキンヘッドが圧倒的な存在感を醸し出す人物――否、剛鬼(オーガ)が仁王立ちしていた。


 え、前は(オーガ)だった? バカやろうそんなレベルじゃないんだ。前よりも遥かにパワーアップしている。ヴァンの危機感知能力が総力を上げて避難することを推奨している程に危険な相手だ。


 さらに以前と変わらずクマさんのイラストが描かれた可愛らしいエプロンは、赤い何かが点々と付着している。仕込みの過程で付着したとは言え、拭き取らないのはわざとなんだろうか。


 今回は背中に人が五人は詰めることが出来る程の袋を背負っている。一般人に見付かれば間違いなく警備員を呼ばれるのは確定だ。なんて言っても袋にまで血痕が付着している。

 恐らくはカイザーバード等、食材を運んでくれているのだろうが傍から見ると怪しい。紛う事無き犯罪者だ。


「待ってたぞミートよ」

「んもう、ルーったら人使い荒いのよお。急にギルドへ来いだなんて命令されたらアタシ……」

「ええい! クネクネするなっ!」


 偉そうに踏ん反り帰りながら言うルーナリア。対照的に頬を赤らめ、腰をくねくねし始めるミート。スキンヘッドを平手で叩いていたが「あ……んっ」とか聞こえた気がする。あくまでも気がするだけだ。聞こえた訳ではない。


 漫才のようなやり取りはともかく、料理人がミートと言うのはかなり良い。舌鼓を打つこと間違いなしだろう。想像しただけで唾液が分泌される。


「な……! お前、まだ生きていたのか……!」


 奥の椅子に腰掛けていたアルバリオが反応する。普段からポーカーフェイスな彼が此処まで反応するというのは相当なことだろう。


「あらぁん? アルバリオじゃないのぉ。今まで何処にいたのかしらん?」


 小首を傾げる姿には微塵にも可愛げがないのだが、ミートとアルバリオは知り合いだったらしい。


「ふふん。昔は死にかけの可愛いボクちゃんだったのに今では魔王様とはねえ。ま、言い付け通り人は襲ってないみたいだし、アタシとしては嬉しいわよん?」

「何年前の話をしている!」

「んーっと……百年くらい前かしらん?」


 さらっととんでもない爆弾発言を言い除けてしまうミート。魔王であるアルバリオは、間違いなく魔物から進化した存在であることに間違いないのだが、目の前の筋肉ダルマまでもが人間族じゃないと言うのは些か驚いた。


「ああん、クレアとヴァンちゃんには言ってなかったわねん。アタシは『ドワーフ』なのよん。そのせいで長生きしてるわけなの」

「……ドワーフって小人族じゃないの?」


 手先の器用なドワーフ。主に鍛冶を得意としているのだが、その他にも料理や裁縫と、手先を必要とする作業には天才的な才能を持つと言われている。

 従ってミートが料理を提供していることに違和感はないのだが、ヴァンが言った通り、ドワーフは小人族として有名である。二十歳程度で身体的な成長は止まり、寿命は非常に長い。人間族に友好的ではあるが、職人気質なためか街などで見かけることは少ない存在だ。


「アタシはドワーフ族の中でもおかしな存在でねぇ。ほら、ちょおっと大きいじゃない? そのせいかあんまり集落でも馴染めなくって……こうして街に出てきたのよん」

「む、そうだったのか。私としてはミートの料理には救われているし何も問題ないぞ?」

「ああ、それは俺もだな」

「クレア……ヴァン……ありがとう」


 ミートも若かりし頃は様々な困難があったのだろうか。憂いを含んだ瞳でクレアとヴァンを見る。


「さあ、ちょっと湿った雰囲気になっちゃったけど、精一杯お料理するから楽しみにしててねん! 今日は秘蔵のお酒もいーっぱい持ってきちゃったし大盤振る舞いよおん!」


 パンパンと手を叩き強引に話を戻すミート。先程とは打って変わり、嬉しそうな表情で厨房に入っていった。







 宴会が始まり早二時間。時間は深夜に差し込んでいる。最初はもの凄く楽しい宴会だった。

 以前の世界では強さを求めることに人生を注いだ影響で、友人と呼べる者がいなかったヴァン。この世界に来てからと言うもの、自分を助けてくれる相棒(パートナー)がいて、頼ってくれるギルドマスターや受付嬢がいて、さらには魔王と食事を共にすることが出来、本当に充実していると幸せを噛み締めていた。


 しかし酒が進むに連れ、皆の様子が徐々におかしくなっていることに気付く。


「にゃははっ。ヴァン! 君は強い、あたしが保証するぞぉ。気に入ったぞぉ!」

「はいはい、ありがとさん」

「むうう。レティばかり狡いではないかっ、私も居るぞ!」

「おう、そうだな、俺の相棒(パートナー)だもんな」


 左にレティ、右にクレア。傍から見れば両手に華と言う羨ましい限りの状態ではあるが、ヴァンにとっては只の絡み酒だ。ミートが次々に作り出す料理はサラダから始まり肉料理、魚料理に煮物や揚げ物と、全て絶品だ。全ての皿は綺麗に片付けられている。

 しかし、一級品の中でも手が止まらない程に素晴らしい魔力を孕むつまみ。コイツが出てきてからと言うもの、酒が進んでしまった。


 もはやギルド内は地獄絵図のような惨状と化しており、一つ一つ説明していこうと思う。


 まずはヴァン。レティやクレア、さらにはルーナリアと三人掛りで水のように酒を注がれ、飲むことを強要されるもほぼ変化なし。強いて言えば頬が少し赤いくらいだ。

 ミートが持参した酒はドワーフが好むだけあり、アルコール度数が非常に高い。それなのに口当たりがよく、飲みやすい代物だ。まさに水と同じような感覚で飲めてしまう恐ろしい酒だった。


 ルーナリアは奥の席でエリスと話に華を咲かせていたが、おそらく弱いのだろう、アルコール濃度の低い酒をガンガン飲み続け、すぐに顔が赤く染まり、今はカウンターに突っ伏して眠っている。


 一緒に飲んでいたエリスは家系だろうか、やはり強くは無い様子。ルーナリアのようにゴクゴク飲んで自爆はしていないのだが、コクコクと船を漕いでいるため、そろそろ堕ちるだろう。


 リリンは凄い。最初から度数の高い酒を飲み続けていたが、全く変わる様子がない。ニコニコとした笑顔のまま、逆に眠たげな瞳が元気になっている。受付嬢としての接客スキルのせいか、最初は皆に料理を運び、酒を運びと忙しなかったのだが、ミートが「座って飲んでなさい」と真顔で説教をしたため、その後はひたすら飲んでいた。


 アルバリオも殆ど変化はないようだ。今はリリンとカウンターに座りながら、しっぽりとした大人の雰囲気を醸し出している。


 クリムは本当にスライムなのだろうか。魔王の連中もクリムを見て驚いていたのだが、コイツは何故か酒を飲む。酒を嗜むスライム。もはや意味がわからないが、酔っているのだろうか、先程から壁に向かって体当たりをしている。クリムにも壁にもダメージはないみたいなので放置だ。


 因みに厨房に篭っていたミートは一段落着いた後、自分の店へと戻っていった。楽しげな雰囲気を壊さない為の配慮だろうか、静かにギルドから出て行ったのだが、ヴァンは見逃さない。

 此処までして貰って。此方が何もしない訳には行かない。ただでさえルーナリアが急遽呼んだとのことだったし、このままでは些か居心地が悪い。

 しかし、面と向かって何かをしようとすれば拒否されるだろうことも明白だ。少し気障ったらしくて嫌ではあったが、何十枚かだけ適当に金貨を魔導書(グリモア)の力で店に転送しておいた。一言だけ「ありがとう」と手紙を一緒に送ったが、名前を書かなかったのでバレないかもしれない。きっとバレるだろうが。


 さて、問題は残る二人。


 左手に酒を持ちながら右腕を絡めて、しな垂れ掛かってくると言う難易度の高い技をしてくるのがレティだ。アルバリオに聞いた所、彼女はめちゃくちゃ酒に弱いらしい。質が悪いことに雰囲気で飲んでしまう傾向があるようで、しかも絡み酒。アルバリオには気に入った奴にしかしないから許してやってくれと苦笑いされたのだが、密着されすぎてヴァンの心臓には良くない状況だった。ただでさえ妖艶な美女が酒に酔って頬を染め、絡みついている。さらに酔った勢いかヴァンを褒め称えているのだ。


 それを見たクレアは目が据わっており、殺気のような危険なモノが孕んでいた。しかし絡むレティはもちろん、絡まれて右往左往のヴァンは気付くはずもなく、ヴァンが必死にレティを引き剥がそうとしている中、クレアは空いている右腕にしがみついたのだ。


 両腕をがっちり掴まれているヴァンは逃亡不可と判断し、投げやりになっている状態だった。


 ――はあ、どうしてこうなった……。


 もう一度だけ胸中で呟く。吐いた溜め息とは対照的に、ヴァンは無意識の中で幸せを感じていたのだった。





え、早く進めろ?

……はい、すみませんでした……。


いつの間にかユニークが五千を超えていて

もの凄くびっくりしています。

完全に趣味で始めたものだったので、誰にも

読んでいただけないと思っていたのですが……。

(アクセス数見れることを知らなかったなんて言えないw)

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