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紫光の魔導書  作者: しぇりー
――第二章―― 奴隷の刻印と女神の隠し事
31/34

第三十一話

投稿時間が定まりません……。

すみません言い訳です(白目


「ハアッ!」


 裂帛の気合と共に、レティが目にも留まらぬ速さで全力の拳打を連撃する。

 常人であれば何が起こっているかすら認識不可能な速度で、まさに拳の弾幕が迫っている。

 しかしヴァンは軽々と見切り、左腕の篭手のみでいなす。

 腕一本でいなし、余裕を見せ付けている訳ではない。レティの猛攻に対処するのがギリギリで、不敗乃光剣を繰り出す間合いを創り出せないのだ。

 超硬度の手甲と篭手がぶつかり合い、辺りには火花が飛び散っている。

 傍から見ると満身創痍なレティであるが、実際は真逆。傷を負えば負う程、危機になればなる程に身体能力が向上し、キレも増している。


 苛烈を極める応酬の最中、最も驚いたのはレティが手甲に魔力を流し続け、破損する度に修復するという神技。感知出来る範囲でも、流す量はエンシェントドラゴンの最大出力と比べて何十倍もあるだろう。底の見えぬ魔力量と精度だ。

 いくら手応えのある一撃で手甲を破壊しても、刹那の合間に修復されているのだ。


「なん、だよ……その姿は……!」


 ギリギリの攻防を果てしなく続けていたが、一瞬の隙を突いて距離を置いた。そしてヴァンが苦しげに問う。


 『悪魔神乃両腕(アザトース)』は堅牢な防具にして最強の武具。如何なる攻撃をまともに受け切ったとしても、傷は愚か攻撃してきた相手の武器が壊れる程に凄まじい武装。此処までは『悪魔王乃左腕(ディアボロス)』とたいして変わりない。

 しかしヴァンは『悪魔神乃両腕(アザトース)』を只の武装としてではなく、『魔力増幅器(ブースター)』として利用出来ないかと考案したモノだ。

 右手に携える『不敗乃光剣(クラウソラス)』に通う魔力を余す所無く循環させ、切れ味はもちろんのこと、細胞強化の循環率を変えないまま大幅に振るう速度を極めた。

 謂わば『不敗乃光剣(クラウソラス)そのもの(・・・・)に細胞強化を纏っている』状態なのだ。


 細胞強化は読んで字の如く『細胞』を『強化』する。従って剣や篭手、その他武器や防具には発動が出来なかった。


 それを擬似的にでも可能としているのが『悪魔神乃両腕(アザトース)』だ。そして無理矢理にでも発現が可能となってからと言うもの、ヴァンが圧倒的優勢で攻めていたのだが、そこから一転。


 より人間に近しい姿(・・・・・・・・・)から変化し、大小二対で漆黒の翼(・・・・・・・・・)

 今までは無かった額を守るティアラ。中央には大きな紅い水晶が嵌められており、そこから禍々しい魔力を感じる。

 体を覆っていた鎧も変貌を遂げており、大きな胸部を迫り上げ、ヘソが見える程に露出過多ながらも硬度の凄まじいモノへ。

 手甲は美しい流線型で、ヴァンと同様に肩口までを覆っている。足甲も膝上までを守る形に変貌しているのだ。

 すらっと伸びる両足、正確には腰の部分から垂れ下がっている前掛けは、秘部を隠そうとぴったりくっつき、さらには空中を漂うマントのような羽衣。レティがどれだけ激しく動こうと、羽衣や前掛けは身体の一部かのように付き従い、時には魔導書から発現した魔法を弾いてしまう素晴らしき防御力を誇っている。


 キリッとした双眸はまるで戦女神を彷彿とさせる姿だ。


「ふふ。驚いた? これが『解放状態』のあたし。元飛天族で今は堕天使族(フォールン)。種族はダークヴァルキリーって所かしらね。ちょっとお仕事サボってたら堕とされちゃったの。 ま、正真正銘の本気ってやつかしら。これでも種族の中では上位だったからヴァンも楽しめるでしょ?」


 レティは艶かしい笑みを見せ、碧眼の双眸を煌かせる。


「話し方はお淑やかになったのに性格はそのままかよ……」


 出し惜しみは厳禁と判断したヴァンは、『細胞強化』を限界まで循環させる。呼応するかのように不敗乃光剣(クラウソラス)が一際強く輝きを放ち、『悪魔神乃両腕(アザトース)』に走る幾重もの線が弾けるかのように脈動している。


 対するレティは、暗黒色が全身から漏れ出て視認可能なまでの量を循環させている。


 互いに一瞬、睨み合うも、先に動いたのはレティ。


 疾い、と表現するのも憚られる馬鹿げた速度で音もなく飛来し、しっかりと腰を据えた右腕の一撃を放つ。

 背中に存在する二対の黒翼がさらに膂力を生み出し、振るわれた豪腕は風斬り音を響かせながらヴァンへと迫る。


「ぐっ……!」


 まさに紙一重。正確に顔面を狙った一撃を完璧に回避したつもりだったが、薄皮一枚を切り裂き血が吹き出す。少し無理な体勢で避けたので苦悶の声が漏れてしまうが不敗乃光剣を両腕で持ち、そのまま前へと体重をしっかりと移動して振り抜く。


「――チッ」


 間違いなく斬った、と確信したのだが手応えが薄い。今の不敗乃光剣は『絶対切断』に近しい能力を秘めているので『当たれば』終わりだ、と思っていたのだが認識が甘かった。


 まさか拳を振り抜いたレティがその体勢のまま躱せるとまでは想定出来ていなかった。レティの反撃に備えるが、


「やっ!」

「な……ッ!?」


 此処に来て初めて炸裂した回し蹴り。今までに見せなかったのはわざとなのか、と疑う程に美しく鋭い蹴りを視界の端で捉え、走る悪寒を頼りに左の篭手でガードしたが、勢いまでは殺せなかった。地面を滑るように吹き飛ぶ。


「――『神槍(グングニル)』!」


 吹き飛びながらも顕現させる魔法は『槍』だ。破壊の権化と化した巨大な槍を即座に創造し、槍に雷を纏わせる。その数は五本。レティを包囲するかのように空中を漂う。


 さらにレティの四肢、腹に紫光迸る魔法陣を発現。


「解除出来ない……!?」


 艶美な表情が崩れ、驚愕に染める。ヴァンは思考が一瞬外れた隙を捉え、すぐさま体勢を整えた。


「うし、形勢逆転だな」


 左腕の篭手は少しとは言え罅が出来ている。おまけに腕が痺れ、しばらくは動かせそうにない。吹き飛ばされた衝撃で服もボロボロだ。骨折していなかったのは僥倖だろう。


 今度からは篭手や剣だけでなく、鎧も創造しようかと本気で考えた。


「むーっ、負けたあ……!」


 途端にレティは悔しげに呻くが、破顔しているのは何故だろうか。全力で暴れてスッキリしたかのような印象を受ける。


 考えてみれば激しい応酬を数時間と続け、お互いに装備や体はボロボロになりながらも目立った傷は無く、魔力枯渇すら起こしていないと言うのは素晴らしい結果だ、とヴァンは心から思った。


 魔王との初対決は、ヴァンの勝利を以て終を告げた。


 レティがまだまだヤりたそうに見えるのは見えないことにしておく。





毎回思うのだが、一話一話の切り方が雑な気がする……。

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