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紫光の魔導書  作者: しぇりー
――第二章―― 奴隷の刻印と女神の隠し事
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第二十七話

遅くなりました!


 ウェスク魔石鉱から帰還し、およそ二時間。

 戻ってくるや否や、安堵した表情で駆け寄ってきたのは日に焼けた肌の男性だ。

 四十代くらいだろうか、がっしりとした肉体はまさに鉱夫といった体つき。鉱夫として最前線での重労働がその体を作ったのだろうということが一目瞭然だった。白髪は多く、髪の半分ぐらいが白く染まっている。


 驚くことに鉱山最高責任者であり、まさかの奴隷商でもあるランス・ゲイズルンに魔石鉱内部で起こった崩壊具合や『魔法障壁システム』の復旧内容、さらに救助者四名の引渡しや戦死者の報告など、出来うる限り正確に説明した。


 『魔力酔い』によってふらついていた男性も、待機していた回復魔法使いの手によって症状が緩和され、今は医務室で休んでいるそうだ。

 他の救助者三名は、ランスへの報告が完了した後、ヴァンへと感謝を述べてから各々疲弊した表情で医務室へ入っていった。






「エリス。もう奴隷堕ちなんてすんじゃねえぞ」

「ん、わかった。でも、魔鉱石が……」

「んなもんまた取りに行きゃあ良いんだ」

「うん……」


 そして救助した中にいた獣人の女性。彼女こそがエリス・クロード・ヘルニヴル。オーバーロードに威嚇していた時とは纏う雰囲気が異なり、ほんわかした表情だ。

 さすがに疲労もあったのか、医務室で一通り体に異常がないか確かめた後にランスの元へ戻ってきた。


 本日を以て奴隷より解放される身分であり、『刻印』の『解呪』をランスから受けている最中だ。

 なんでも奴隷の『刻印』と『解呪』は奴隷商にしか携帯を許可されていない特別な魔道具(マジックアイテム)で行うようだ。


 先程ランスが何かを呟くと、エリスの胸元が淡く光り、直ぐに収まっていた。それだけで解呪完了なのだろう。


「待たせたな。それと魔石鉱での救助、さらには特別製の魔法障壁、ホントに感謝してるぜ。今まで採掘した魔鉱石でも最高級のモンを受け取ってくれ。せめてもの感謝だ」

「む、こんな高価なもの良いのか?」

「ああ。人命に比べりゃ安いもんだ」

「……それなら受け取ろう」


 ランスの手には両手で抱える程の革袋があり、それをクレアの足元へ降ろす。革袋の大きさからしてかなりの量を詰めてくれているようだ。王都でも名を馳せるウェスク魔石鉱の最高級品となれば相場価格は計り知れない。


「ヴァンの分もクレアに渡した袋ん中に入れたから二人で使ってくれ。きっと最高の武装になってくれるはずだ。んで、コイツがご存知の通りエリスだ」

「うん、よろしく、ね」


 ニカッと白い歯を見せながら笑うランス。隣にちょこんと立っているエリスは短い一言であったが、その声色は落ち着いた響き。

 澄んでいて穏やかな青い瞳をヴァンとクレアに向け、お辞儀した。

 お辞儀したことによって赤色の長髪がふわっと揺れる。着ている服は先程の作業着などではなく、ドレスのような白い薄手の生地。広めの胸元からは女性的で豊満な双丘が此処ぞとばかりに主張しており、ちらりと複雑な模様――奴隷の刻印が垣間見えている。

 すらりと伸びる脚線は美しい。少しだけ褐色の肌は健康的なものであり、獣人特有の両耳とちらつく尻尾はふさふさの赤毛に覆われている。耳は幅が広いが先が尖っており、尻尾は先端部分だけが白い毛になっている。

 因みに隣のクレアが「む、負けたかもしれん」と眉根を寄せて言ったいたのは何のことかわからない。


「よろしくな。俺はヴァン・ラグナコースト。十八歳だ」

「私はクレア・セラフ・ローデウス。二十歳だ、よろしく頼む」


 二人はエリスに自己紹介を終えた後、握手を交わす。その手は鉱山で長い間に渡り、酷似されたゴツゴツとした感触――では無く、女性特有の柔らかさを保った小振りな手であったことに少し驚く。


 噂に聞く話で間違いがなければ、奴隷として鉱山で労働を始めたのが三十年前からということだった。最深部を最前線で開拓、採取していた手の感触とは思えない。


「む、エリス……さん」

「エリス、で良い」

「承知した。エリス、聞く所によれば三十年も鉱山で働いていたそうだが、年齢を聞いても良いだろうか?」


 少し戸惑いながらクレアが問う。借金奴隷として長い間に渡り労働をしていたエリス。見た目から推測するにクレアと同年代程度と感じるが、それほど莫大な借金をしてしまう程、愚かな感じはしなかった。

 ヴァンも疑問に感じてはいただろうが相手は女性。さすがに年齢まで聞くような無礼は出来ない様子だ。


「わたしは……二百歳、くらい?」


 小首を傾げながら年齢を言うエリス。心なしか疑問符が頭に浮かんでいる様子だ。


「わはは、エリスは獣人とダークエルフのハーフだからな、人間より遥かに長生きだ。しかもコイツは『元』皇女さんなんだ」


 そこへ隣にいたランスが元とはいえ、皇女だったことを明かす。もはや年齢のみならず、経歴や獣人のハーフという衝撃的すぎる内容に、ヴァンとクレアは口を開いたまま固まっている。


「しかもよお、コイツが居た国は『死都』だ」

「む。魔王の怒りを浴びたというお伽噺のか?」

「ああ、そうだ。あれはお伽噺なんかじゃねえ。れっきとした正しい歴史なんだぜ。ちぃと話が変わってるがな」


 真っ白な歯を見せるランス。対照的にエリスは、わずかに視線を伏せた。


 死都オンブレイユ。北に領土を持つ、古き国家の一つ『だった』国だ。

 その歴史は古く、およそ千年前には既に帝国の基礎として国家を運営していた、と言われている。


 当時は数多存在する小国の一つに過ぎなかったオンブレイユだが、大国の中でもバルシュテイン魔法王国という、世界随一の魔法使い達を保有する国までも、手中に収めたことが大きな一歩とも言われている。


 かの帝国は建国当時から『実力主義国家』という恐ろしい国であった。実力があればどんな者であっても皇帝や貴族、臣下となることが出来る。

 戦闘狂集団とも言える帝国が破滅しなかったのは、あくまでも他の領地を侵略したいという野望の持ち主のみが集まっていたためだ。


 そして問題となったのが皇帝グロム・エンサ・オンブレイユ。彼は血気盛んな獣人でありながら智将と言われ、幾多の戦争を指揮し、勝利を齎す軍神として称えられていた。

 彼は皇帝となった後、長い年月を掛けて様々な国家を吸収し、絶対的な支配者による完全なる統治国家が完成となったのだ。


 圧倒的な軍事戦力を従え、豊かで広大な領土を保有する国家が滅んだ原因は、『力を求めすぎたため』である。


 国家誕生から暫くして、皇帝グロムは一人のダークエルフと関係を持った。愛したダークエルフは、やがて子供を身籠る。それが今奴隷としての責務を終えたエリス・クロード・ヘルニヴルだ。

 各国は絶え間なくエリスに愛を注ぐグロムを見て、見境なく起こる凄まじい版図は収まるかと思ったのだが、それはほんの五十年程の期間でしかなかった。


 人間族同様、獣人族の寿命は短い。当時で人間族の命はおよそ八十年。対する獣人族も、精々が百年と言われていた。

 しかしグロムと一緒になったのはエルフ族。彼らは寿命が長く、精美された容姿に透き通るような白い肌。さらには精霊に愛されており、魔法に精通している。

 中でも褐色の肌を持つダークエルフは、魔法を探求しすぎた余り魔族に魅入られ、堕ちた者とされていて、隠れ里から追い出されてしまう。

 その噂通り、蓄えられた膨大な知識は皇帝グロムへの『不老』を齎したのだ。


 そして、子供が大きくなり落ち着いた頃、他の各国は戦力が均衡し、和平交渉が開始されようとしていた。


 しかし、皇帝の名において再び侵攻作戦が発令されたのだった。


 侵攻が開始されたのは今から百五十年程昔。最も軍事力が大きく恐れられていたのが『武装帝国オンブレイユ』という大国。侵攻開始からわずか一年。それだけの期間でほぼ勝利は間違いない、と誰もが思う程の猛威を振るっていたのだ。


 そして事態は急変し、ふらっと現れた魔王が一夜にして領地もろとも灰燼へと帰した、と伝承に残っている。


 こうして皇帝グロムの不敗神話は幕を閉じ、各国は和平交渉を結び、戦争が終わった。


 今では北の広大な領地に申し訳程度ではあるが都市の残骸が残されている。そこには地下に隠された秘宝がある、だとか、秘術が保管されているという噂が飛び交うも、尋常ではない密度の『魔霧(ルギス)』と強力な魔物が漂っており、近付くことすら出来ない有様だと言われている。





「――わたしが、滅ぼした。あんな国、無くなって良かった」





 武装帝国オンブレイユを一夜にして滅ぼした『魔王』は奴隷から開放された女性、エリス・クロード・ヘルニヴルだった。






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