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紫光の魔導書  作者: しぇりー
――第二章―― 奴隷の刻印と女神の隠し事
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第二十四話


 フレーヴェルを発ち、早三日。今回は自力でなく大型の馬車を使って移動しているので、ある意味新鮮な旅路だ。


 目的地である鉱山。正しくはウェスク魔石鉱は、品質の良い魔鉱石や貴金属。武器や防具にも高い魔力浸透率を誇るミスリルや、稀にダマスカス鉱、それ以上の物などと、かなりの品種が採掘出来る穴場らしい。


 当然商人たちからの人気も高く、時期が来るとたまに冒険者へ依頼が回るが、大抵は傭兵などを雇い、護衛を付けた上で仕入れに向かうそうだ。


 さらに、魔石鉱には相当数の奴隷が強制労働をしており、商人はその場で購入することもあるようだ。


 その際、商人たちが自力で行けるのであれば一番儲けが大きいのだが、いくつかの危険区域を挟んだ先にある地域のため不可能らしい。


 仕入れに行くのであれば、相応の実力を有している護衛を何名も雇わなくては生きて帰ってくる保証すら危うい旅路。


 制限があるものの、限度一杯まで仕入れた大手の仲買業者から買い取ることとなるため、護衛を雇うことが出来ない商人は実入りが少なくなってしまう。


 従って、直接護衛を雇ってウェスク魔石鉱へ行ける者は、大手の商人、もしくは商会とも言える。


 しかし今回は『史上最強のSランクパーティ』であるヴァン、クレアが『奴隷』の護衛として雇われた。万に一つも死ぬことはないとの判断され、タイミングが良いことにウェスク魔石鉱へ行く商人がいたため、急遽同行している。


 これもルーナリアが手引きしていたそうで、王都フレーヴェルでも一、二を争う大手。ジネット商会の商人を護衛する羽目となったのだ。




 旅路は既に三日目。ウェスク魔石鉱は目と鼻の先であるが、ヴァンとクレアは三日間、朝昼晩と昼夜を問わずに魔物はもちろん盗賊団など、相当な数の戦闘をこなしており、ぐったりとしていた。

 ただの一度も傷は負っておらず、商人にも指一本触れさせてはいないが、初めての護衛ということもあり精神面が疲労困憊だ。


 大商会の護衛に加え、帰りは異例の奴隷も護衛するので報酬は馬鹿げた金額だが正直しんどい。


「いやはや、本当にすまないのう。儂まで護衛の対象になっちまって……」

「良いんですよ。まさか商会の元締め自らが行くとは思ってなかったですけど」

「まだまだ現役じゃて」


 長い白髪を一本に束ね、これまた白く長い髭を撫でながら、ダグラスが申し訳なさそうに言った。


 ジネット商会元締め、ダグラス・ジネット。聞いたところ齢七十を超えているそうだが体は大柄で筋肉質。一代で大商会へと築きあげ、未だに最前線で商品の仕入れを行う老人。


 危険な旅路だと知っているにも関わらず、ウェスク魔石鉱へはお供を連れずに一人で行こうとする猛者である。


 自分が気に入った相手に対しては破格で商品を販売したりと羽振りが良いことでも有名らしい。


 現に、旅の最中に以前討伐したエンシェントドラゴンの素材を、武器や防具に加工出来る者がフレーヴェルに存在せず困っていると話をした所、世界一と噂される職人と親友だから、と紹介してくれるそうだ。

 しかも仲介料金を取られるどころか、明らかに儲けがない値段で要望に沿って加工、鍛冶までしてくれるらしい。


「む、見えてきたぞ」


 御者台で馬を操るクレアが言った。


 何故クレアが御者台にいるかというと、それは旅をすること一日目のことだ。馬を見て目を爛々と輝かせながら、「やってみたい」と言ったのが始まりである。

 元々は慣れているダグラスが往来する際は操作する予定だったのだが、何度危険だと言っても諦めないクレアを見兼ね、教えた所メキメキと上達し、敵が出てこない時はずっと御者台にいる。


 操作している馬は通常の馬ではなく、ヘルヴィネックという馬のような魔物。体は濃い紫色で半透明。オレンジ色に染まる炎の鬣はゆらゆらと揺れているが、仲間と判断すると不思議にも熱を感じない。何と言っても賢く、足が速い上に大型の馬車をも一体で引くことが出来る強靭さ。魔法も扱うことが可能で、ランクとしてはCに位置する。最高級の馬車だ。


 ただ、非常に気難しい性格であり、心を許した者でなくては言うことを聞かないらしいのだが、すんなりとクレアの言うことを聞いているため、これにはダグラスも苦笑いを漏らすしかなかった。

 驚くことにクリムはヘルヴィネックの鞍に乗っている。




 出入り口付近に立っている警備兵に通行証を見せ、そのままウェスク魔石鉱へ入る。やはり盛んな鉱山だけあってか、宿泊施設はもちろん酒場や雑貨店、武器、防具屋まで完備している。ある意味一つの町だろう。


 着いた時刻が夕方だからだろうか、ずっと奥に見える魔石鉱の出入り口付近に、作業服を着ている屈強な男たちが集まっていた。おそらく本日の作業は終了したのだろう。


「やっと到着じゃなあ。さて、お主らの取引は明日じゃろ?」

「ええ、俺たちは明日ですね」

「ならば宿は儂が取っておいてやるからいろいろ見てくるとええ。……お嬢さんは待ちきれんようじゃしのう」


 ダグラスが苦笑いをしつつ視線をクレアに移す。ウェスク魔石鉱は初めて来たと言っていたからだろうか、その様子はそわそわとしている。クリムも同様、クレアの頭上で伸び縮みしているので楽しみなのだろう。


「お手数お掛けします」

「なんもじゃよ。お主らにこそ迷惑かけてるわけじゃしな」


 ガハハ、と豪快に笑いつつ、そそくさと宿へ向かってしまった。失礼だが、腰が真っ直ぐなのは素直に感心してしまう。


「クレア、クリム。どこ行きたいんだ?」


 クルッと踵を返し、二人に向き直る。夕刻ではあるがどこもまだ店仕舞いしそうにない雰囲気のため、急ぐ必要もないだろう。


「防具屋!」


 年頃の綺麗な女性が防具とはものすごく違和感があるが、きらきらとした緋色の瞳は明らかに興奮を隠しきれていなかった。さらには頭上のクリム。最近は非常に触手の扱いが上達しており、触手を防具屋に向けている。


「クリムに合う防具なんてあんのかな……」


 ヴァンがそういうと、あからさまにクリムはしょんぼりしている。証拠に触手が少し萎えていた。


「大丈夫だぞクリム。最終手段としてはオーダーメイドだ! 幸い、様々な魔物の素材を私たちはストックしてるからな!」


 些か興奮度が漏れているが、さすがにスライムの防具はオーダーメイドでも無理じゃないだろうか、とヴァンは思考する。しかし、折角持ち直して喜んでいるクリムを見てしまっては何も言えなかった。


「最悪俺が作ってやらあ」


 ヴァンの魔導書(グリモア)称号(タイトル)神技者(オールマイティ)。自分で想像出来てさえしまえば何でも出来る。


 誰がどうしても加工出来ないような素材でも。むしろ素材自体であっても。ヴァンの魔導書には一切関係ない。


 本人としてはあまり狡いことをしたくはないのだが、この際関係ないと割り切ることにした。


「そういえばさ、奴隷ってどんな人なんだろな」

「む、ルゥちゃんからは性別と名前しか聞いてないからな……」


 防具屋へと歩きながら疑問を口にする。


 依頼者本人であるルーナリアは、クレアが言ったように女性だということ。後は『エリス・クロード・ヘルニヴル』という名前しか聞けていない。


 本人曰く、ウェスク魔石鉱にいる者は誰でも知っている有名人だそうだ。奴隷が有名人というのもおかしな話だが。


 エリスを引き受けるのは翌日。今日は存分に買い物や探索をしても問題ないということだ。三名は思い切り羽を伸ばすことにした。





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