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紫光の魔導書  作者: しぇりー
――第一章―― 初召喚と初戦闘と訓練と白龍
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第十七話


 『細胞強化』の訓練開始から早一週間が経過した。クレアは未だに細胞強化までは発動できていない。しかし、一切の諦めを見せず、投げやりにもなっていなかった。


 実際に細胞強化を意識し始めてからと言うもの、魔力練度や総量、精度に関しては成果が抜きん出ており、常時薄くではあるが身体強化を発動して生活をしている。


 これもヴァンから指摘された訓練内容であり、一日全力で身体強化が出来た今、一ヶ月後の訓練終了までは薄く身体強化を発動し続けろ、というもの。終わった後に効果がわかるらしく、楽しみにしていてとのことだ。


 ヴァンの見立てでは以前の魔人ベヒモス程度であれば、多少苦労するだろうが個人討伐も可能なレベルにまで成長している。クレアには伝えていないが。


「むう、此処まで魔法の習得に難儀したのは初めてだ」

「他に教えた人がいないから何とも言えないけどめちゃくちゃ飲み込み早いと思うよ?」


 細胞強化はもちろん魔法であるが、あくまで個人の『鮮明な意識』によって発動が可能となるため、辛いことにコツが無い。

 それでも身体強化でクレアの全身から滲み出る魔力の奔流は、細胞強化に移行する際、少しずつ抑えられているため、成果は出てきいる証拠だ。


 身体、部分強化は、体の外側に魔力を纏わせることによって発動するので、ある程度魔力を感知できる者であれば気配や強さがわかってしまう。

 しかし、細胞強化は体の内側に纏うため、微弱な魔力しか感知できない性質がある。そのため、感知力が優れている魔物や魔人などにも悟られないというメリットまで兼ね備えている優れものだ。


「この二週間、訓練らしき訓練はしていない気がするんだがずっとこんな感じなのか?」

「んー? 技術とかよりは底力を付けなきゃって俺は思ってるけど、明日からは実戦漬けにするつもり」

「む、この辺の魔物で事足りるのか?」

「ふふふ、此処で魔導書(グリモア)の出番になるのさ。あ、ついでに今も魔導書発現中でーす」

「……は?」

「ほら、クレアが全力で訓練中だから規模的にまずい濃度の魔力が出てるわけだよ。それ、バレたくないじゃん? だからこの部屋に認識阻害の結界張っといた」


 何でもないかのように言うヴァンであるが、本来結界などは魔道具(マジックアイテム)を媒体にし、何人もの魔法使いが魔力を込めて展開するもの。それを魔道具なしに一人でやって除ける彼がおかしい。


「それに……」

「それに?」

「何か一週間前くらいから張り込みされてるんだよね、ちょっとお灸据えてくるからクレアは訓練続けておいて」


 くるっと踵を返し、ひらひらと手を振りながら部屋から出ていく彼を、クレアは呆然と眺めているだけだったが、言われた通りに訓練を続けることにした。








 時刻は昼過ぎ。凄まじい闘気を放ちながら、ヴァンは冒険者ギルド、書類に溢れるマスター室へと足を運ぶ。聞く話によれば、彼を目にした冒険者たちは素早い動きと連帯感で道を開けたそうだ。


 まさに鬼の形相で腕を組みながら仁王立ちする彼の横には受付嬢リリン。前にはちょこんとソファに腰掛けるルーナリア。リリンは心なしか目が笑っていない。現に断りもなく破壊する勢いで扉を蹴り開けていた。

 対照的にルーナリアはびくびくと挙動不審になっている。頭上で待機するクリムも臨戦態勢よろしく右の触手を鉤爪に変化させていた。


「んで、ルゥちゃんよ、あれは何?」

「ボクは悪くないんだ!」


 勢い良く立ち上がり、冷や汗を流しながら言い訳をする冒険者ギルド最高責任者の姿。両手は可愛らしく胸の前でギュッと握られている。


「ルゥちゃん? わたくしも何が何だかわからないんですが?」


 小首を傾げ、リリンも冷めた目をルーナリアへぶつける。恐怖に慄いた彼女は力なくソファへと座り込み、頭を抱えだした。


「うぅ、どうせ気付かれるから辞めろってボクは必死に止めようとしたんだ……。それを無視して他国のギルドが調査するとか言いやがった」


 ルーナリアが白状した。


 Sランク上位に位置するエンシェントドラゴン。ルーナリアはこの依頼を完遂することによって、審査なしでSランク昇格とギルドランクの見直しを図るつもりであった。

 それはもちろん偽りではないが、情報をキャッチした他国のギルド員幹部は審査なしの無条件昇格を良しとせず、調査員の派遣を申し出た。

 先程の言い訳は本当に他国ギルドへ伝えた事実なのだが、無視を決め込んだ調査団が勝手に張り込んだ、という内容だった。


「さて、どうしたもんかな」

「わたくしがヤってきましょうかあ?」


 室内の気温が下がったかと錯覚するほどの殺気。ヴァンが悩んでいると、間髪入れずに言い放ったリリンの笑顔が怖い。


「それは死者が出るから絶対ダメ!」


 必死に身振り手振りでルーナリアが拒否する。慌てぶりから予想するに、リリンは本気らしい。


 その時だ。


「Sランクでありながら受付嬢を熟す、『暴君』のリリン様は気性が荒いですな」


 決して煌びやかではないが旅装のローブは品が漂い、腰に差す剣は装飾が施されている明らかに高価な一品だ。

 金髪を撫で付けながらギルド室へと入ってきたのはおそらく貴族。格好から察するに冒険者なのだろう。フレーヴェルのギルドでは見かけていないことから、この人物が『他国ギルド』の幹部だと推測する。後ろには三名ほど取り巻きが後を着いて来ているようだ。


「ああ、失礼。君が噂に聞くヴァンとやらだね。私はオルステル帝国、帝都オルスターに居を構える冒険者ギルド、副ギルドマスターの地位を賜っているドルンだ。自慢じゃないがこれでもオンドラン子爵家の長男なんだが……聞いたことはないかね?」


 見下したような口調で。同じく見下したような視線でヴァンを見る。


「ないです」


 主人がそうなら取り巻きも同じなのだろうか、後ろの取り巻きたちが同じように見下したようなニヤついた笑みを見せる。


「そうかそうか。やはり王都の冒険者諸君は野蛮な者が多いと言うのは事実なんだね。今後、知らない方が恥ずかしくなるから気をつけたまえ」

「どうでも良いがドルン、何しに来た?」


 見てられなかったのだろうか、ドルンには聞こえないくらいの舌打ちをし、ルーナリアが尋ねた。


「おお、ルーナリア様。先日もお伝えした通り、ヴァンとやらの『審査』をこのSランク保持者の私が、自ら志願させて頂いたのですがなかなか良いご返答が頂けないようでしたので赴いたまでですよ」

「やはりお前が来たか……」


 はあ、と大きく溜め息を吐くと、ヴァンへ小声で「あんなのがいるからランクの見直しがしたいんだ」と愚痴を零した。


「良いかい、ヴァンとやら。最近めっきりとSランクに昇格する冒険者が減っているんだ。そんな中で君のような将来に希望溢れる若者を、審査なしでSランクに昇格させてしまったら命が危ない。たまたまSランク相当の魔物を倒して自信過剰になってはいけないよ? だから私は君の為を思って、エンシェントドラゴンヘ挑んで身を滅ぼしたりする前に現実を教えてあげようと来てあげたんだ」


 胸を張ってそう告げる貴族。口調や話している内容から察するに、Sランクになれないよう、実力のある自分が叩き潰してあげると言った感じだろうか。達者なのは口だけでは無い様子で、立ち振舞いにそれほど隙は無い。


 チラッと目線をルーナリアに移す。腕を組み、こめかみ辺りには青筋が浮かんでいた。目が合うと顎をしゃくって、視線で「構わん、ヤれ」と言っている気がする。

 次にリリンへと視線を変えてみると、はっきりと伝わってくる。「絶対に逃がすな、殺せ」と言っているに違いない。


 ヴァンは心の中で盛大に溜め息を吐きながら、申し出を承諾する。






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