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紫光の魔導書  作者: しぇりー
――第一章―― 初召喚と初戦闘と訓練と白龍
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第十六話


 身体強化を四六時中纏うこと一週間。やはり一日目は半日程度しか継続できず、クレアは魔力回復のため、深い眠りへ入る。

 二日目、三日目と毎日続けることによって纏う時間が着実に伸びていき、最終的には丸一日纏っていても魔力枯渇が起きないほどまでに成長していた。


「むう、疑っていたわけではないが、こんなにも変わるとは……」

「俺が実際にやってた方法だからね。まさか本当に一週間で出来たのは驚いたけど」


 ヴァンは椅子に腰掛けながら答えた。


 最初は身体強化状態でグラスを持つと壊してしまったり、上手く力加減ができなかった状態だったが、今では食事も問題なく行えるようにまでなっていた。

 強化した状態での力加減というのは、手や足などの一部分だけ流す魔力量を薄くしたりと、繊細な操作が必要になる。それが可能になれば、全身に流れる魔力を分散させることなく腕一本に集約することも可能となり、強化自体がより一層高度な身体強化となる。


 実際にヴァンが独自で試した内容であり、継続することによって世界最強の称号を手にしたと言っても過言ではない。

 今後続く第二段階への基盤作りではあるが、たかだか一週間で出来てしまったクレアの魔力練度は驚異的な成長である。


「そういえば実戦って言ってたのは……?」

「それはごめん、嘘。実戦中に魔力枯渇なんて起こしたら死んじゃうし」

「む、間違い無いな」


 身体強化を常に纏っている状態での戦闘。それ自体は冒険者が当たり前に行っている戦闘方法ではあるが、毎日毎日、魔力をすり減らした状態での戦闘は命取りになる可能性がある。


 事実、丸一日は強化出来るまでに成長したクレアは、自身の魔力総量や練度、さらには魔力の操作さえ一週間前とは比較にならないことが実感できている。


「とりあえず第二段階に入ろうと思うんだけど……」


 ヴァンが言い淀む。


「これはちょっと危険なんだけど、やる?」

「――無論だ」


 苦虫を潰したようなヴァンの表情に、クレアは唾を飲み込む。少し間を置いた後、凛々しく返答した。


「……わかった。じゃあ第二段階なんだけど、まず見ててくれ」


 そういうと椅子から立ち上がり、懐から果物ナイフを取り出す。そして左腕を突き出し宛てがうと、



 ――スッと切り付けた。



「な、何をしている!」


 クレアが驚き立ち上がる。ガタン、と椅子は倒れるがヴァンは手で制した。


「これが身体強化状態。結構切ったんだけどこんなもん」


 切り付けた左腕をクレアへ向ける。そこには血がほんの少しだけ流れているが、ほとんど無傷に近い状態であった。


「次の段階なんだけど……ちょっと剣貸して」

「む、心臓に悪いからあんまり無茶はしないでくれよ」


 またも頬を引き攣らせつつ、腰に差している黄金の剣をヴァンに手渡した。


 間を空けてしまうとクレアに止められる可能性があったため、受け取ると距離を開け、すぐに振りかぶって左腕に剣を振り下ろす。

 クレアは止めようと手を伸ばすが、ヴァンの素早い太刀筋に間に合わず、見開いた瞳が今まさに切り付けられる左腕を凝視していた。


「まあ、こんなもんか」


 振りかぶった速度から考えるに、強化状態でも腕の半ばまでは剣が食い込むだろうと予想していたクレアは、唖然として言葉が出なかった。


 ヴァンの左腕には、剣が食い込むどころか傷一つない綺麗なままだった。クレアは想像する。全力で左腕を強化しても、先程の速度で切りつけられたならば自分はどうなるか。


 答えは至極簡単だ、腕が一本無くなる。奇跡的に切断とはならずとも、使い物にはならなくなる。光属性の上級回復魔法くらいでやっと回復する深い傷になることは間違いないだろう。


 それがどうだ、傷が一切見当たらない。切る寸前で力を弱めたとしても、剣の切れ味から予想するに深い切り傷くらいにはなるはずだった。


「これが第二段階。身体強化から昇華させた『細胞強化』ってやつ」


 普通の強化魔法は、全身を強化する『身体強化』と腕や足だけの『部分強化』に分かれる。

 内容としては、魔力を体に纏わせることによって、筋力や反応速度などを底上げするものであり、然程難しい魔法ではない。

 魔法の才能があれば、幼少期からでも使えるようになる、一般的な魔法だ。


 しかし、筋力や反射神経を強化する『だけ』の強化魔法は、単純な腕力などを上げることは出来ても、あくまで体の表面を魔力で加工しているだけだ。

 そこでヴァンは考えた。もしも『強化魔法』を『体の中』から発動できたとしたら。

 一般的に考えて不可能だ。『腕を強化しよう』と思うことはできても『腕を通っている血や血管、筋肉や脂肪を強化しよう』と強化させることはまずない。

 魔法とは認識力と想像力。血の流れに沿って強化魔力を流し、細胞の一つ一つまでも強化する、というイメージが自分の中で明確にできるとすれば、それは身体強化を遥かに凌駕する代物になるのではないだろうか。


 そう考え、実行した。もちろん最初は失敗。次に考えたのは、『魔力』を『栄養素』と捉えてみる実験。上手くいきそうな感覚はあったが、何故かスムーズに行えない。これも失敗。


「で、魔力練度を鍛えてから細胞強化は上手くできたってわけ」

「……よく思いついたなそんな魔法」


 クレアは彼に対する認識を改めることとなった。

 今までは『きっと彼は生まれ持った天才なんだろう』と思っていた。事実、リリンやルーナリアもそれに近い感覚なのではないだろうか。


 だが、こうして師事を受けている今、同じことが言えるだろうか。まるで考えつかないような魔力への認識力。それを可能とする想像力。加えて諦めない心。確かに『天才』であることは間違いない。

 でも、彼は言っていた。『魔力を放出することが出来ない』と。それがもし自分だったらどうしただろうか。ヴァンのように放出を必要としない強化魔法を必死に研究し、誰も試したことのないことを行い、何度も失敗を重ね、それでも諦めずに続け、前人未到の魔法を完成させた。


 驕ることなく、むしろ恥ずかしそうに経緯を語ったヴァン。


「次のステップ『細胞強化』。今までの身体強化継続発動の何倍も難しいし、怪我するかもしれない。挫折することもあるかもしれない。それでもやるか?」


 クレアを射抜く真剣な眼差し。


「私は諦めない。何があってもモノにしてみせる。お願いだ、私に細胞強化を教えて欲しい」


 精一杯の誠意込めて、クレアは深々と頭を下げた。訓練は、第二段階へと進む。





 

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