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紫光の魔導書  作者: しぇりー
――第一章―― 初召喚と初戦闘と訓練と白龍
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第十五話


 度肝を抜かれるほどクリムやクレアが強かったため、クエストである「エンペラーウォーグ」の討伐はまさに秒殺と言っても過言ではなかった。


 人間族並みの知能を持つと言われる邪狼であったが、クリムが使う転移を始め、多種多様な魔法にて逃げ場が陽動され、クレアの閃光とも言える一太刀にてあっさりと切り伏せられてしまった。登場から十秒足らずで退場してしまったため逆に可哀想でもある。


 さて、拍子抜けするほどの結果にヴァンは納得出来なかったが、一ヶ月間で訓練する内容は決まったので不満はない。


 密林地帯で張り込んだとしてもたいして訓練にならないと判断した一行は、フレーヴェルへと足早に戻った。







 連泊している宿へと戻り、ヴァンの部屋へと集まる。


「まずはクレアの訓練からなんだけど、魔力練度を上げるところから始めようと思う」

「魔力練度?」


 通常、手や武器などに魔力を集めて、そこで練り上げたり変化させたり、と『魔法』を使う。

 そもそも魔法は、心臓付近にある魔臓(まぞう)と呼ばれる器官から血管を通して放出するもの。


 例として手を媒体にして魔法を使う場合、練り上げるのも変化させるのも放出するのも、全てにおいて無駄なく魔力を使えている人はほぼいない。

 何故なら血管から手のひらへと魔力を運ぶ際に分散されてしまい、本来必要な魔力量を余分に消費させてしまうためだ。


 従って必要な魔力が一に対し、二や三も使ってしまうのが現実となっている。初心者であれば十も使っていることがあるだろう。


 しかし、魔力を『余分』に消費させないことができたのであれば、効率が大幅に改善され、魔力を使う『練度』も凄まじいものとなる。


「む、それはどうしたら良いんだ?」

「まずは身体強化なんだけど、全身に回してみてほしい。出来るだけ本気で強化してね」


 クレアは頷くとその場へ立ち上がり、身体全体へ魔力を回した。


「ん、それじゃあこのまま一日過ごしてね。もちろんご飯も寝る時も全部。魔力枯渇の症状が出そうになったら辞めて良いから」

「なっ! こんなの一日も持たないぞ!?」

「まずは自分の限界を知る必要があるからできるところまでで良いよ」


 表情を驚愕に染めるクレアへ、何でもないかのように告げるヴァン。『身体強化』とは、四肢はもちろん頭から爪先まで余るところなく全身に魔力を流し、身体能力を向上させる基本中の基本だ。

 いざという時に魔力不足になっては困るため、戦闘以外では重いものを運ぶ時以外に使用することはない。


「むう、ヴァンが言うならそのようにするが、練度の向上はそこまで重要なのか?」

「練度が上がれば消費魔力が少なくなる。そうすれば魔法の使用回数も増える。それに無駄が無くなれば発動も早くなる。そして、魔力は使えば使うほど総量が増える。最後のは個人差があるけど……」

「なるほどな」


 何度も関心したように頷くクレア。


「そして、次の段階は練度が上手にならないと出来ないし、今やると間違いなく怪我するからね。これは基盤作りみたいなものだよ」


 次の段階と聞いて目を輝かせるクレアだが、怪我の部分で少し青ざめる。さらに、二、三日で身体強化は慣れるからそこからまた四六時中実戦ね、と追い打ちをかけた。


「ヴァンもスパルタなんだな……」


 か細い声で呟き、項垂れてしまった。


「あ、あとズルいかもしれないけど『魔導書(グリモア)』の能力も使っちゃうから予め言っておくね。正直ここら辺の魔物じゃ訓練にならないし」

「――強くなれるならなんだってするさ」


 クレアの双眸から一瞬、激しい憎悪が垣間見える。


 そのことには触れず、いずれ本人の意思で打ち明けてくれることを信じて、今回の訓練がクレア自身のためになるのならヴァンは一切妥協せずに付き合うつもりだ。


「因みにクレアは魔力感知って得意?」

「む、苦手ではないはずだが……」

「じゃあクリムが使ってた転移の魔力量なら何回発動できる?」

「枯渇覚悟で五回くらいだな」


 顎に手を当てて考え、結論を出す。

 上級魔法である『転移』。二回も使えれば持て囃されるほどの魔法を五回も使用できるのであれば、異常なほどに魔力総量が多いことを現す。しかしヴァンの経験上、魔力総量=強さではなく、魔力練度こそが強さに繋がると考えていた。しかも、練度が上がれば総量も確実に増える。


「ん、そかそか。練度が上がれば少なくても十倍にはなると思うよ?」

「……は?」


 きょとん、と目を点にするクレア。

 ヴァンの言ってることに偽りがないのであれば、全世界に存在する生物はあまりにも練度が低いことを示している。嘘を付いているとは微塵にも思わないが、些か信じ難いのも事実だ。


「なあ、ヴァン。君ならどれくらい転移を使えるだろうか?」

「――ザッと百は軽いと思う」


 ヴァンは此方の世界へと訪れてから、魔法をあまり見ていない。そのため判断ができなかったのだが、クリムが使用した『転移』。これが上級に当たるのであれば、ベヒモスの使用した『黒災炎(フレイムディザスター)』は魔力量からして最上級だと予想している。


 ヴァンが『魔法を放出』できるのであれば、百回は連続して使っても枯渇状態どころか疲れさえしないだろう。

 神級ですら何回か使えるだろうと予想している。


「師匠が偉大で誇らしいよ」

「ならその苦笑い辞めてほしいんだけど」


 もはや何度目かすらわからない苦笑いに加え、頬まで引き攣らせていた。


「じゃあまずは身体強化を纏う。魔力切れ前で辞めて回復を待つ。回復したらまた強化するって感じで、丸々一週間続けて貰おうかな」


 第一段階、練度の向上は幕を開けた。




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