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紫光の魔導書  作者: しぇりー
――第一章―― 初召喚と初戦闘と訓練と白龍
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第十四話


 白銀の鎧を身に纏い、長い銀髪が時折吹く風に嬲られている。

 乱れる髪には目もくれず、闘争心溢れる緋色の瞳が眼前を見据えていた。敵は蛇に睨まれた蛙のようにピクリとも動かない。


 ――地面が(ひび)割れる程の力強い踏み込み。

 右手に構える黄金の剣を横薙ぎに振るうと、それは一筋の光となり、敵の胴体を上下に断ち切った。


「……うん、思ってた以上なんだけど」


 密林地帯へ赴いて初めての戦闘は、まさにあっという間だった。

 クルッと踵を返し、剣を鞘へと戻しながらヴァンの元へ歩いてくるクレアの表情は、先程の闘争心を感じさせない穏やかなものであった。


「体術は身体強化を使ってあの程度だな」

「充分だと思うんだけど……」

「む、強化してあの程度の動きではヴァンに到底及ぶまい」


 眉間に皺を寄せ、唇をツン、と尖らせながら拗ねたように抗議する。


「基準は俺だったのか」

「おそらくはエンシェントドラゴンも赤ん坊同然に片付けてしまうだろうと私は予想しているからな」

「いやー、どうだろな」


 ははは、と乾いた笑いでしか返事ができなかった。エンシェントドラゴンはSランク上位の扱いだ。今までの歴史上、単騎でSランク上位のクエストをクリアした者はいない。それ程までに危険な依頼だ。

 あの場にいたヴァン、クレア、ルーナリア、リリンは誰一人として倒せないとは思っていないが、それを「ちょっとおつかい頼まれて」くらいのレベルで頼んでくるルーナリアがおかしい。


「ま、改善の余地はありそうだ」

「ご教授お願いする」


 律儀にもお辞儀してくるクレアに苦笑いしながら、先へ進むか、と促した。


 密林地帯へは当然、クエストを受けての訪問だ。訓練にもなってお金も稼げる。まさに一石二鳥。

 

 今回受けた依頼の内容は「エンペラーウォーグの討伐」というもの。

 エンペラーウォーグとは、三メートル程の狼だ。人間族並の知識を持つ邪狼と言われ、高い身体能力と戦略を持ち合わせた非常に厄介な魔物。

 ランクはAの最上位クラスで、残念なことにSランクの依頼がなかったため一番厄介そうなこの依頼を選んだ。


 密林地帯自体がAランクの巣窟。さらにエンペラーウォーグは奥深くに縄張りを張っているらしく、辿り着くまでに遭遇する魔物も曲者揃いだろう。


「――じゃあ新手の登場らしいからクリムにも補助してもらおっかな」


 ヴァンは密林の奥へと視線を移し、睨めつける。魔物の姿は見えないが、先程裁断した際に飛び散った血の匂いを嗅ぎつけすぐに現れるだろう。


「む、私にはわからないぞ?」

「結構遠くにいるからね。さ、クリム出番だぞ?」


 ムスっとした雰囲気のクレアはスルーし、頭上のクリムを地面に置く。


「大丈夫そう?」


 ヴァンがクリムに尋ねると、元気よく身体をプルプルと震わせる。



 ――その時だ。ヴァンもクレアも目を見張ることとなる。



 伸縮自在な真紅のボディから、ニョロっと二本の短い触手らしきものを伸ばすと、それはみるみる形状を変化させ、発光する。

 光が収まるとそこには、色こそ変わらないが猛禽類が持つものと酷似した一対の翼へ変化している。因みにサイズは小さめだ。


 感触を確かめるように一度羽ばたき、問題なかったのだろうか、そのまま小さな身体を浮遊させた。可愛らしくパタパタと小刻みに羽ばたいている。


 さらに。またも短い触手を右側へと一本伸ばし発光すると、触手は先端部分が三又へ分かれ、下向きの鉤形に湾曲した鉤爪までも生成し始めた。

 何故か爪の部分は金に輝き、篭手のような部分は漆黒になっている。これも感触を確かめるように一度振るい、満足そうに空中で身体をプルプルしている。一見すると玩具のようだがその威力はどれほどなのだろうか。


「スライムってみんなこんな感じ?」

「そんなわけないだろう……」


 見計らったかのように木々の隙間から魔物の姿が見え始めた。まだ距離は百メートル程離れているだろうか。

 現れた魔物の数は三体。強靭な肉体に緑色の皮膚を持ち、双眸は血のような赤。非常に獰猛な顔つきをしている二足歩行型の魔物であり、Aランク中位の力を持つカトブレパスだ。

 手には巨大な斧を装備していて、血脂がこびりついているため切れ味は皆無だろうが、強靭な肉体の膂力で振り下ろされれば一溜りもないことは想像に容易い。


 そしてクリムが先頭に出た。


「自分に任せろと?」


 クレアが伺うと前を向いたまま、身体をプルプルと震わせる。

 返答を待たずしてクリムは弓矢の如く速度も以て、カトブレパスへと肉薄した。

 獲物が自ら近づいたことに三体のカトブレパスは下卑た顔を見せる。小さなスライムが、巨大な魔物に襲いかかる光景は誰が見ても勝敗が明らかだが、クリムは『普通の』スライムではない。


 愚直なほどに真っ直ぐ突き進むクリム目掛けて一体のカトブレパスは斧を振り上げ、風を切り裂いて振り下ろす。



 ――クリムが文字通り、消えた。



 消えたクリムはすぐに現れる。

 斧を振り下ろし、隙だらけとなっているカトブレパスの『背後』に。

 眼前に居た獲物が突然姿を消し、虚を突かれたカトブレパスは幹のように太い首を鉤爪でいとも容易く切断され、クリムは再度消える。


 二十メートル程の距離を開け、クリムは姿を現した。残る二体のカトブレパスは得体の知れないクリムに狼狽え、ジリジリと後退する。


「なんだありゃあ」

「……無属性上級魔法の『転移』だ」

「マジか」


 特殊属性である無属性。扱えるだけで一目置かれる属性の上級。

 『転移』は自身で認識できる場所へ移動することが出来る魔法だが、膨大な魔力を必要とするため、使われることは皆無。距離が伸びれば伸びるほど消費魔力も増えるらしい。


 恐怖に怯える二体のカトブレパスも『転移』を駆使したクリムに成す術なく、瞬く間に排除された。


 戦闘を終えるとゆっくりと飛んで戻り、ヴァンの頭上へと鎮座した。


「クリム、お前本当にスライムなの?」


 ヴァンは尋ねるが、クリムは身体をプルプル震わせるだけであった。





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