第十一話
あの後、ルーナリアは興奮が若干収まり、ベヒモス事件について真摯に謝罪をしてくれた。ヴァンとクレアの両名からすれば、怪我一つしていないので不問で良かったのだが、謝罪の意を込めて、と新しいギルドカード個人金庫へ金貨二百枚分ずつチャージしてくれたそうだ。
貰えるものをいつまでも拒否するのも失礼ですー、とリリン嬢のお言葉によってその場は解散となった。
「さあ、ヴァン。これから勉強の時間だぞ」
「俺、勉強、嫌い、大嫌い!」
異世界より出現したことを明かしているのは当然クレアのみであるため、地理や金銭の相場、冒険者の平均的な力、各種族について、と結局のところ頼らざるを得なかった。
「そんな子供みたいなことを言うな。覚えるまで今日は徹夜だぞ」
「クレア先生スパルタだなあ……」
ギルドから出てすぐに食事を済ませ、前回と同じ宿で二部屋。期間は二ヶ月で手配した。前回と違うのは、ヴァンが自分で支払いをしたことのみである。強いて言えば宿屋の女将さんが二人を見てニヤニヤしながら「本当に二部屋で良いのかい?」と言ってきたのは当然スルーした。クレアが真っ赤だったのもスルーした。
そして現在、クレアがヴァンの部屋へ来てくれて、即テーブルを陣取ると勉強会の開始を高らかに宣言したのである。因みに我らがクリムは魔力を差し上げた後、自らベッドへ潜り込み、きちんと布団を被ってご就寝である。
「まずは地理についてだな。エンシェントドラゴン討伐までの準備期間は一ヶ月。それまでに出来ることは全部やろう」
「うっす! 確認なんだけど勉強が終わったら今度は俺がクレアに戦闘について教えるんだよな?」
「ああ、お願いしたい。よし、始めようか」
地理に関しては大まかに覚えれば良いということなので、記憶するのはさほど難しくはない。
まずは現在地、最大の大陸ハルビオンサを基準に教えてもらう。ただいまの拠点、王都フレーヴェルは大陸中央に位置する最大のフレイヴァニラ王国にあるそうだ。
此処から西へ移動すると標高の高い山脈が聳えている。因みにエンシェントドラゴンはこのアーズド山脈の頂上に君臨しているらしい。
さて、王都フレーヴェルより東へ向かうと港町があり、もちろん漁業が盛ん。他国へ輸出もしているし船旅も出来るらしい。
北上すると、大陸を縦断するように大きな運河が有り、向こう岸は他国の領土へ繋がっている。岸から岸へはこれまた大きな橋が架かっており、関所を通過することで通れるようになっている。その先はロナット共和国と言う。王国とは友好的な状態とのことだ。
最後に、南下すると此方も海へと繋がり、さらに南下するとオルステル帝国に辿り着くそうだ。他にも、うんと遠い神聖国家などもあるそうだが、まずは身近な所だけにしておく。
もちろん東西南北に進んだ簡単な地理らしいので、実際は町があったり村があったりと、大陸は広大だそうだ。
「あれ、クレアって王都にはいつからいるの?」
「む、大体二ヶ月くらいだな。出会った時にも言ったが、基本は旅をしていた身だ」
「俺もいつか旅とかしてみたいな……」
地理についてはとりあえず終了とのことなので、一旦休憩を挟むことにした。クレアも喋り通しで喉が疲れたのだろう、ゴクゴクと水を口にしている。
「じゃあ次は金銭についてだ」
「お願いしまっす!」
金銭もまずは王国だけで良いだろう、とクレアの意見を採用し、これは生きていく上でかなり重要なので集中する。
複雑なわけではないが、以前の世界とは違うようだ。大陸の名前は似ているのに厄介である。変わらないのは硬貨のみ使うところだろうか。
価値の高い硬貨から、金貨、銀貨、銅貨、銭貨。銭貨十枚で銅貨一枚と、十枚ずつで単位が繰り上がる。
因みに宿泊している宿が一晩で銅貨二枚。
食費は贅沢しなければ一日で銅貨一枚くらいだそうだ。そこらの路上で販売している串焼きが銭貨一枚から高くても銭貨三枚なので、思ってたより食には困らないだろう。
そう考えると、ルーナリアから貰った金貨二百枚やベヒモス討伐報酬が五百枚と言うのは尋常じゃない金額だ。新ギルドカードの金庫はこれから猛烈に使われることが予測できる。
今回のお礼も込めて、ベヒモス報酬の内、金貨三百枚はクレアに差し上げた。本当は全部あげるつもりだったが怒られたので断念。
「そういえばさ、クレアはなんで異世界云々の話信じてくれたの?」
「む、最初は疑ったぞ? だが、今は信頼している」
微笑みながらそう言い切るクレアに内心感謝しつつ、空いたグラスへ水を注ぐ。それを手渡した。
「ありがとう。さて、平均的な強さについてだな」
「うっしゃ!」
「まず、君は次元がおかしい」
「すみません……」
『強さの平均』というのは難しい。クレアも正確な判断は出来ないが、と前置きした。
まず、強さの平均で言えば、ギルドランクがわかりやすいだろう。なんて言っても白、青、赤、紫、銀、金、黒と色分けされた七つの内、逸脱した実力者揃いのSランクは除外し、真ん中のDランクが平均だ。しかし、誰しも得て不得手はある為、ギルドランクでの判断は厳しい。
補足として大多数の冒険者に出てくる壁はCランクと言われている。
それでは魔法だろうか。
下級、中級、上級、最上級、禁忌級、神級と六つの魔法に分かれる。
下級については少し齧れば誰でも使える程度だ。火球や水球など。
中級は才能があれば十歳程度でも使えることが有り、様々な形状へ変化できたりと応用が出来る魔法レベルとなる。平凡な者でも十代半ばで七割は習得できるらしい。
問題は上級からだ。まず使用できる者は十人に一人居れば御の字。使えても本気で一、二発で魔力に限界が起き、枯渇してしまう。ただし、使えるということ自体が大きなアドバンテージとなるため、ギルドランクにするとCの壁を乗り越えられる。
上級でこのような現状であれば、最上級はと言うと、大陸に十人いれば戦争が勝ち確定だろうとのことだ。最上級魔法については地形を変えてしまうレベルと言われており、凄まじい威力なのだろうが燃費が悪すぎる。ヘタをすれば魔力枯渇でお陀仏だろう。
此処まで教えてもらい、ヴァンが疑問を浮かべた。
「禁忌級と神級はもう使える生物いないの?」
「禁忌級ならばいる。噂ではあるが先程のギルドマスターは禁忌級を使える。さらに二発までなら枯渇しないらしい。……因みに誰にも言ってないが私も使える」
「マジか」
しかし神級はいないらしい。
忘れてはいけないのが、魔法の段階に加え、属性もあるということだ。
火、水、風、土、雷、基本属性五つ。光、闇、無属性の合わせて八つ。この内どれだけの属性が一人に使えるのか。大体は一つ。三つが最大。それ以上は歴史上、存在が確認できていないそうだ。複数の属性が使用できる希な者でも基本属性五つの中から最大三つが基本。それ以外の闇、光、無を特殊属性と呼ぶらしいがこの三つは何故か使える人がなかなかおらず、希少なんだそうだ。原因は不明。
「まさかクレア、属性四つ使えるとか……?」
「ふふ、どうだろうな」
「マジか」
眠たげで妖艶な笑みにドキリとするが、言ってることが恐ろしい。禁忌級だけに留まらず、反応からして歴史上、一人目の三属性以上の持ち主な可能性が濃厚だ。
結局、平均的な強さは難しいが、Cランク程度が結構強い、と結論付けることにした。
ずっと話していたせいもあり、クレアがウトウトしてきたため、種族については明日へ持ち越し、解散となった。
金銭については金貨:十万円、銀貨:一万円、銅貨:千円、銭貨:百円くらいだと認識して頂ければと思います。




