夏・欺くのも商売
「あぁ……やばいわよこれ」
「やばいっすね」
「まずいですね……」
お店が開いてから一時間。お客さんは入ってくるが花冠は一向に売れない。当たり前の時期だ。一番プロポーズの少ない時期が夏だからだ。花はいつも美しいが、夏だと直ぐに枯れてしまう。人の手作業で作っているため少し劣化が早いのだ。
「どうにかして貴族に売らないとよ……これは」
「……?どうしてお貴族様に?」
「簡単よ。貴族の方が金を持ってるから」
「なるほど」
フィラはポンッと手を叩く。マスターはレジの横で蹲り声を押し殺している。シルクは花冠を持って外で売ろうとしている。
フィラは一人で頭を悩ませていた。
(うーん。一番早いのはお貴族様の流行にしちゃう事だよね……そういえばマリアンネさんって人が今日は街に行くって言ってた……これだ!)
フィラは裏に行き、学園の制服に着替える。マスターは疑問に思いフィラに声をかけているがフィラは気づいていない。
そして、箱を持ち外に出た。
「フィラちゃん?」
「シルクさん、これ持っててください」
「え、あーいいよ」
シルクはフィラから花冠の箱を受け取り持っている。フィラはキョロキョロと辺りを見渡す。すると、向こうから丁度マリアンネとその取り巻き達が歩いているのを見ることができた。
「よしっ!いけるかも!」
「フィラちゃーん。どうしたん?」
フィラはシルクの前に立ち困っている振りをする。両手には花冠を持ち、悩んでいる素振りをする。
「あら、平民じゃない。こんな所で何してるのかしら?」
「あ、やっほー。マリアンネご令嬢さん」
「ふっ、馴れ馴れしくしないでちょうだいゴミカス」
マリアンネはいつもこんな感じだ。最近は、想い人が出来たのかキャーキャー騒いでいる。
「で、ゴミは何をしているのかしら?」
「え、これを見てるんだ」
フィラは貴族の令嬢達に花冠を見せた。あまり興味無さそうにしている。
「これね、今ね、平民の間で大流行しているんだ」
「大流行」
「うんっ。お貴族様なら知ってるよね」
フィラの作戦とはこうだ。貴族は平民の上に立ちたがり、流行に敏感だ。仮に平民が流行を知って貴族が知らないとなるとこれは、貴族達のプライドをズタズタにする。
フィラが学園に行って感じたことを使ったのだ。
「ふんっ、ねぇ貴方」
「ん、なに」
シルクは店員としてあるまじき話し方をしている。どこか不機嫌だ。
「それ、全部頂けるかしら?」
「マリアンネ様本気!?」
「当たり前でしょ」
マリアンネはふとこらから銀貨二枚を取り出し、シルクに渡す。
「爺や!これ屋敷に運んでちょうだい!」
マリアンネが叫ぶとどこからともなく初老の人が現れた。そして、マリアンネから箱を受け取りどこかに行く。きっと、馬車の方だろう。
マリアンネの背が見えなくなるとフィラはシルクに興奮した様子で話しかける。
「やった!出来ました!売れましたね!」
いえーい、とフィラは喜んでいる。だが、シルクはスンっとした様子でお店に入っていく。
(……?ご機嫌損ねちゃった。お菓子あげたら喜んでくれるかな)
フィラはシルクの後を追い、マスターに報告した。
言わすとも、マスターはフィラをとても褒めてくれた。ご褒美として、氷の入ったココアをくれた。
マスターとフィラがお店の裏にいるので今接客をしているのはシルクだけだ。
「シルクさん一人で大丈夫ですか?」
「あー、大丈夫よ。休憩の時は今まで一人だったし」
マスターもアイスココアを飲んでいる。フィラは先程のシルクの様子が気になっているようだ。お店のお客さん相手には笑顔で対応している。
「シルクさんって、なんか、不機嫌になったりしますか?」
「あー、シルク?そうね、あー、ないかも」
「ない?」
「うん。大体いっつもあんな感じだし。能天気で軽いし」
マスターはあまり気にしていないようだ。フィラはむっ、と頭を悩ませている。
「にしても、貴族ってよく分からないわね」
「本当にです…」
「よくあんな奴らとフィラちゃん毎日いられるね」
「たまに泣きたくなります……」
「おー可哀想によしよし」
マスターはフィラを揶揄っているようだ。抱きしめて右手で頭をワシワシされる。
「……何してんすか」
「シルク。店は?」
「客いないんで」
「出ろ」
「ねぇフィラちゃん聞きたいんだけど」
「話聞け!!」
マスターはシルクにツッコミを入れ、大慌てでお店の表に出で行った。
フィラはそれを眺めた後、シルクの方を向く。
「フィラちゃんさ、あんな貴族と一緒にいていいの?」
「?はい。だって、同級生ですもん」
「でもさ…あんまり良くない言葉で呼ばれてんじゃん。ね、あんな学園やめた方が…」
「いやです!」
フィラは思わず立ち上がる。シルクはわーお、とよく分からない声を出した。
「だって、学費高いんです!すぐに辞めるなんてできません!それに…」
「それに?」
「それに、あの学園から推薦もらえたんです」
「推薦?」
「だから、やめるなんてできません」
フィラの顔は誠実、真面目、心の奥からそう感じている顔だった。
「そういうなら、まぁいいか…なんかあったらアタシかマスターに言ってね」
「はい!」




