20歳・婚約パーティ
「じゃ、二人の婚約にカンパーイ」
サクリの声に合わせて、四つのグラスの音が響く。入っているのはワインだ。机の上にはクラッカーにチーズ、クロワッサンとフィラお手製の料理が並んでいる。
「いやーお前遅い。フィラちゃん待たせてどうすんだよ」
「申し訳ないとは思ってますよ」
「やーい。おっそいぞー」
サクリとレオはマリノに茶々を入れている。返す言葉が無いのかマリノはだんまりだ。フィラは微笑みながら、ウィスキーとグラスを持ってくる。レオが持ってきたものだ。
「どーぞ。氷ってどのくらい入れる?」
「お、入れてくれんの?やっさし」
レオは完全に調子に乗っている。フィラはレオにお酌する。
「さっすが、アルバイトをしているだけある!!いやーこの上手さは長ーくやったんだろうなぁ?」
「私への当てつけですか」
マリノは少し不服そうだ。
サクリは、呑気にクラッカーを食べている。チーズと合わせてオリジナルな料理を生み出している。
「あ、そうそうフィラ。指輪みたい」
「これ?」
フィラは、指輪を外してサクリに渡す。外しちゃうんだ…と言うレオの声が聞こえたがあまり気にしていない。サクリは指輪を受け取ると、夕暮れの光にかざす。
「高価なやつ…原産は多分…」
「おい、癖が出てるぞ」
サクリの家は宝石を扱うことも多いらしい。職業病と言う奴だろうか。
「へいへいすみませーん…てか、フィラ。これの値段知ってる?」
「へ?知らない」
「…まぁ、世の中知らない方がいいことあるからね…はい、どーも」
サクリはフィラに指輪を返した。フィラは薬指に指輪を戻す。フィラもソファに座る。
「フィラちゃん。台所借りていい?」
「へ?いいんじゃないかな?」
すると、レオはマリノを台所へ引っ張っていった。フィラとサクリは不思議そうに二人を見ていたが、サクリと話すことにした。
しばらく、どうでも良い話をしていると、バフっという爆発のようなクッションを殴ったような音がした。フィラとサクリが向かってみると、謎の物が爆発していた。
「な、何してるの?」
「ほんとに…いや、お前ら何してるん…?」
レオは慌てているが、マリノはいまいち理解していないようだ。
「いや…ちょっと色々やったら、まぁ、こうなった」
「何したの…?」
レオは気まずそうだ。キッチンには鍋と卵がある。多分、ゆでてたのだろう。
「いや、ほんとに何した?」
サクリも不思議そうだ。今のところ何も理解していないのはマリノくらいだ。当事者のはずなのだが。
「おい、マリノなにした」
「…?鍋を見ていろと言われたので見ていました」
「で?」
「見ていたら、爆発しましたね」
「しましたね。じゃないだろ!!」
サクリが何故か怒っている。レオも頭を抱えている。鍋を見ていろと言うのは沸騰したら火を止めろということだがそれが全く伝わらなかったのだろう。
フィラはアワアワしていたが、爆発させた本人は魔術で残骸を集めている。変なところでポンコツだ。
「フィラ…こいつ台所に立ち入るの禁止させたら?」
「へ?わたしにそんな権限はないよ…?」
「婚約者でしょ!?マジでこいつなら爆発させる」
えぇ、とフィラはレオとマリノの方を見る。レオに何か怒られている様だ。きっと、こちらも台所に立ち入るなと言われているのだろう。
「フィラ。マジでこのままだと死人出る」
「そ、そんなに…?」
フィラはサクリに背中を押されうぐうぐしている。レオとマリノは疑問符が浮かんでいる。二人とも魔術で掃除中だ。だが、感情を乱さずにフィラの相手をしている。これは凄いことだ。
「そ、その…だ、台所の立ち入り、き、禁止にしても、いいです、かね?」
「分かりました」
「…へ?」
マリノがあまりにもあっさりとしすぎてフィラは拍子抜ける。嫌だと言われたらサクリに頼るつもりだったため困る。
「ま、まぁ。いいや。アタシとフィラあっち行ってるから」
サクリはフィラを連れて逃げて行った。
♧♧♧
「はぁ、飲みすぎた…」
「何本開けたの?」
「三本…と半分くらいですね」
「わぁ」
フィラは瓶を並べて遊ぶ。フィラの方もだいぶ回ってきている様だ。ふわふわ口調になってきている。マリノはソファに背もたれを預けている。中々見ない光景だ。
サクリとレオは、客室にいる。どちらも飲み潰れ寝てしまった。
「ねーねー」
「はい」
「ふふ、ねーねーねー」
「なんですか」
フィラはつんつんとマリノの体を突く。お酒に呑まれたのかふわふわになっている。真面目に相手をしてるとフィラはのほほんと膝に乗っかる。
フィラの方が少し視線が高くなった。互いに見つめ合うような状態になる。
「…寝ますか?」
「女の子、嫌いなのぉ?」
「……は?」
マリノは思考が一気に止まる。一体何を言っているんだこの子状態だ。
フィラはただ純粋な疑問をぶつけただけだ。だいぶ前にサクリかレオからマリノは女嫌いと聞いていたのを思い出したからだ。もし、これが本当ならフィラはどうすればよいのか分からない、とずっと思っていたが中々言い出せずにいた。
だが、お酒がいい感じに回ってほわほわしている状態になってしまったフィラは普通にただの疑問として投げかけたのだ。
「いえ……その、嫌いとかでは無いのですが…」
「嫌いじゃないの?」
「………あー、言い寄られるのは苦手と言うだけで…」
「むっ、じゃあ可愛い子好きなんだ」
「ちがっ……いえその……なんと言ったらいいのでしょう」
マリノはまたもや珍しく言葉を詰まらせ考えている。
そんなことを知らないフィラはまたグラスに手を伸ばしている。さすがにこれ以上は飲ませられないと判断したのかマリノはフィラの手を止める。
むすっとした反応に一瞬息が止まった。
「違うの?」
フィラは痺れを切らしたのか足をパタパタしだした。どこか幼くて貴族らしくない、自由に生きているという感じがする。
「ねーねー、ちがうの?」
「……たまたま、恋に落ちた相手がとても、可愛らしい人です……それだけですよ」
「はえー、そっかぁ」
フィラは身体を傾けてワインの方に手を伸ばす。その手を止めるよりワインを取り上げる方が早いと判断したマリノはフィラの腰に手を回しあっという間にワインを手元に持ってくる。
「やっ、飲むのっ!」
「ダメです」
そのまま、ワインの銘柄を見てみる。フィラが気に入っているなら買ってあげようと思ったからだ。
「ポートワイン…」
マリノはふいとフィラの方を見る。度数が高く、甘い酒。フィラがどのくらい酒体制があるのかは不明だが、今の状態を見る限り酔っている。
「…フィラ、お酒は控えましょうね」
「へ?」




